ガチ百合ハーレム戦記

ナガハシ

-幕間-木こり日記

エヴァー歴895年、青葉の月




第一週の一、光の日
 また今年も青葉の月となった。野山の草が青々と生い茂ることから青葉の月と呼ばれている。
 ニンニクを収穫できる月でもある。楽しみだ。


第一週のニ、炎の日
 日記をつけることは重要なことだ。
 森で暮していると、日付感覚があいまいになる。


第一週の三、水の日
 木を三本切ってきた。


第一週の四、風の日
 雨が降って木が湿気った。憂鬱だ。


第一週の五、土の日
 切り倒した木の枝をはらった。体にうまく力が入らない。
 塩が足りないようだ。


第一週の六、人の日
 塩はとても大事なものだ。塩が不足すると力が出なくなる。
 呼吸が荒くなり、心臓の動きもあやしくなる。
 今日は膝に笑われた。
 お前は塩もろくに舐められないのかと、馬鹿にしてきたのだ。
 平手打ちを食らわせて黙らせようとしたのが、かえってよくなかった。
 膝はいつまでもケタケタと笑い続けていた。


第一週の七、金の日
 金の日はお休みだ。人の身体にとっての一番の報酬は休養だ。
 つまるところ、金にはならない日だ。


第二週の八、光の日
 木を売ってきた。小屋を一軒建てられそうな程のでかい木だ。
 だが30ルコピーにしかならなかった。
 最近は木材の相場が安いとか、木に巣が入っているだとか。
 あの材木屋め、娘の乳ばかり育てよって。
 けしからん、実にけしからん。


第二週の九、炎の日
 買ってきた飴をなめた。


第二週の十 水の日
 買ってきた飴と塩をなめた。


第ニ週の十一 風の日
 また飴なめた。


第ニ週の十二 土の日
 飴なめた以外に書くことがない。


第ニ週の十三 人の日
 いよいよ食べるものが無い。ヤギの乳だけだ。
 ニンニクを一個抜いてみる。今年は生育が遅いようだ。


第二週の十四 金の日
 胃がきりきりする。ニンニクは生で食うものではない。


第三週の十五 光の日
 木を切りに行く。ドリーの調子が悪いので小屋において行く。


第三週の十六 炎の日
 木の枝をはらう。今度は極太のを一本だ。これを売ったら豆を買おう。
 豆はいいものだ。


第三週の十七 水の日
 豆買った、食った、旨かった。


第三週の十八 風の日
 一日遅れで怒りが込み上げてきた。
 あんなにも素晴らしい木が20ルコピー? 飴玉ミックス4袋分……だと?
 あの材木屋は、私が木を売る以外に稼ぎがないことを知ってやっているのだ。
 足元を見ているのだ。ああ、まったく。これだから人間は!
 しかし商人とはそういうものだ。人の足元を見ないお人よしは商人には向かないだろう。
 わかっているが腹が立つ。わかっているからこそ腹が立つ。


第三週の十九 土の日
 なぜ人は飢えねばならぬのだろう。世の中には富める者と貧しい者がいる。
 裕福になりたいとは思わない。
 ただ日々を生きるのに必要な糧を得て、心穏やかに過ごせればそれでいいのだ。
 なぜ人は奪い合う。戦乱の時代はもはや遠い昔。
 ただ分かち合うだけで、みな飢えずに暮せるではないか。


第三週の二十 人の日
 飴なくなった……。


第三週の二十一 金の日
 禁断症状である。イライラが止まらない。
 戦争をしてでも奪い取りたい。
 飴玉のためなら死ねる。
 飴玉最高。飴玉万歳。


第四週の二十二 光の日
 信じられないものを見た。
 夕方、仕事から帰ってきたら、くわを持った魔物が私のニンニク畑を耕していた。
 きっとそうして人間の真似をすれば、人間になれると思ったのだろう。
 だが残念、そこは私のニンニク畑だ!
 私はその魔物を斧で一刀両断し、近くの木の枝に引っ掛けた。


第四週の二十三 炎の日
 今日はとりわけ良く晴れた一日だった。
 魔物はすっかり干からびて、ボロきれのようになっていた。
 これでしばらく魔物は寄り付かないだろう。
 以前より調子の悪かったドリーを肉にした。
 よく乳を出し、子を産む、良いヤギであった。


第四週の二十四 水の日
 今日は何も書く気にならない。寝る。


第四週の二十五 風の日
 朝寝坊をしてしまう。何年ぶりだろう。
 私のベッドに朝寝坊のまじないがかかっていたようだ。
 部屋がひどくコショウ臭い。
 いまいましい。実にいまいましい。
 豆と肉が床に散らかっていたので拾って食べた。
 うまい。何故こんな料理が私の小屋に落ちているのだろう。
 頭に血が昇っていたので、よく覚えていない。


第四週の二十六 土の日
 コショウ臭くて眠れない。かまどの近くにコショウの入った袋が落ちていた。
 明日、村に行くついでに売ろう。斧は買えるだろうか。


第四週の二十七 人の日
 材木屋の娘が私に斧をくれた。
 どういう風の吹き回しか。
 普段はロクに目も合わせてこないのに。
 リーンという娘には心当たりがある。
 この間、私の小屋に現れた魔物がかたった名だ。
 私に娘などいるはずが無い。
 私には妻がいないのだ。


第四週の二十八 金の日
 コショウが随分と高く売れた。
 新品の斧もある。飴玉もある。
 今日気付いたが、小屋の中が随分とこざっぱりしている。
 こんなに広かっただろうか、私の小屋は。
 これではまるで家だ。
 人間の住む家だ。
 十年以上も昔の日記を引っ張り出してみる。
 確かに昔、ゲンリという駆け出しの魔術師に会っていたようだ。
 私はその男に、腹の中の出来物を取ってもらったらしい。
 その魔術師は、私に一枚の術符をくれていた。
 術符にはいつでもその魔術師と連絡が取れる魔法がかけられていた。
 私はその術符をヤギ小屋の奥の棚にしまっていた。
 さっき探したら見つかった。動かぬ証拠だ。
 私は、私の腹の出来物にヤギの乳を飲ませたらしい。
 私は、私の腹の出来物を育てようとしたらしい。
 そして結局あきらめて、村の教会に持っていったらしい。
 本当だとしたら狂っている。
 しかしなにぶん、十年以上前の日記に書かれている話だ。
 もはや御伽噺となんら変わりはない。
 私の腹から出てきたのは出来物であって赤子ではない。
 赤子は女が産むものである。
 ゆえに私に娘はいない。
 大丈夫。間違ってないはずだ。
 もし間違っているとしたら、それは世の中の方が間違っているのだ。
 私はけして間違っていない。
 おそらく材木屋の娘は私をからかったのだ。けしからん。
 胸の大きさだけでなく、頭の形までけしからん娘だ。実にけしからん。
 そのうち村の娘達を引き連れて、私の小屋に来るといっている。
 わけがわからん。
 この世には、理解できないことが多すぎる。
 そしてこの日向の匂いのするベッドは、寝心地が良すぎる。
 どうしてくれる。













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