勇者の名産地
次女
重苦しい雰囲気の中、何とか朝食を胃の中に押し込んだカトリは、ミーナに別れを告げて牧草畑へと向かった。
「ううーん、相変わらず暑いなあ……」
日が昇ると一気に気温が上がる。神殿を出るなり、乾いた熱風がカトリの肌に襲い掛かってきた。出来れば建物の中でじっとしていたいが、ハナちゃんに食べさせるための干草を作らなければならない。朝のうちに刈り取って一日干すと、その日の夜にはすっかり乾いてしまうのだ。
神殿前の階段の脇に開いた亀裂から、滑車に吊るされたロープが伸びている。地下井戸から汲み上げた水を、直接畑まで運ぶための装置だ。材料探しから設計・組み立てまで、全部次女のミツカがやった。
彼女は本当に色んなことを思いつくのだ。
「ミツカー!」
カトリは牧草畑に向かって声をかける。そこだけ別風景になっている草原の真ん中で、ミツカが仕事をしていた。牧草畑の管理とハナちゃんの世話が、彼女の主な仕事だ。
「おおー、カトリー」
汗を拭いながら立ち上がる。日差しを避けるための布きれを頭から被って、あとは腰と胸に布を巻いただけの、殆ど裸のような格好だ。その格好はどことなく、ジプシーの女ダンサーを思わせなくもなかった。
「見てくれよカトリ! 草伸びるのが早すぎて、仕事が追いつかないや!」
畑の牧草は、長い場所だと腰の高さまで育っていた。本当なら膝丈くらいの時に刈るのが一番良いのだが。
「ミツカの機械のおかげで、水やりが楽になったからな」
「昨日はちょっと水を撒きすぎたんだな」
カトリも手鎌を持って作業を手伝う。畑の近くには、刈り取った草を干すための物干しを立ててある。これもミツカの手によるものだ。
ザクザクと根元から刈り取って、適当な大きさの束にして支柱に吊るす。草はあっという間に乾燥してしまうので、牧草は青さを残したまま干草になる。
そしてこの青い干草を、ハナちゃんはとても喜んで食べるのだった。
* * *
「ふう、こんなもんか」
手を休めて汗をぬぐう。畑の一角が奇麗に刈り取られ、水分の蒸発を防ぐための布が被せられている。カトリ達は神殿の土台にあいた亀裂の中に入り、そこに置いてある水瓶の水で喉を潤した。
「ぷはーっ」
「生き返るぜー」
ひとしきり水を飲んでから日陰に腰を下ろす。ずっと日に当っていたせいか、頭が火照ってぼんやりする。こういう時は、勇者をかじるとたちどころに良くなるのだが。
「なあカトリ、勇者食べたくないか?」
「ああ、食いたいな。でも、どうしてそんなこと聞くんだ?」
「ふふふ、実はだね……」
ミツカは怪しい微笑を浮かべると、胸の谷間から小さな勇者を取り出した。
「おまっ! なんて所に!」
「さっき、実が落ちてるやつを見つけたんだ。これでも食べられるだろう?」
立体栽培にしてあるので、何かの拍子に落果したのだろう。手のひらに収まるほどの大きさの可愛らしいひし形。それを見ていると、カトリの喉の奥から唾液がこみあげてきた。
「ま、まあ、食えるけどさ。未熟なやつは上級者向けだぞ?」
「さらに青くさいんだよな、確か。でもここは一つ、頑張って食べてみようぜ?」
「そうだな……ゴクリ、もったいないもんな。というかお前、食べる気でいるのか?」
「おうよっ」
ミツカは威勢良く返事をすると、その小さな勇者を高々と掲げた。
「こいつは体にいいんだろう? あたしら野菜といえばサボテンくらいしか食ってないし、勇者も食べられるようにしておかないと、先々身が持たないと思うんだ」
「まあ、確かにそうだけど」
カトリとしても、自分達の健康を思って勇者を育てているのだから、ミツカが進んで勇者を食べてくれることは、正直喜ばしいことだった。
「それに……カトリの好きなものなら、あたしらも好きにならなきゃだもんな」
「えっ?」
すると突然、ミツカはそう言って頬を赤らめた。
「だってよー、パパとママが食べ物の好みで言い争ってる所とか見せたくないだろう? 子供達にさ」
「まてまてまてっ、一体何の話をしている!」
もちろん察しは付いているが、カトリは問い直さずにはいられない。
「またまたー、わかってるくせにー」
ミツカが肘先でつついてくる、ミツカは三姉妹の中では、求愛行動が控えめな方だ。だが時折こうして、針で刺すような求愛をしてくるので、対処に困ってしまう。
「う、うむむむ……」
「だからこの小さな勇者は、あたしとカトリで半分こにしようぜ?」
そう言うとミツカは、勇者を半分ほど齧って口に含んだ。この時点で、相当な青臭さが周囲に立ち込めている。子供のことはともかくとして、我が子のように育てた勇者を二ヶ月ぶりに食べられることに、カトリは気分を高揚させずにはいられなかった。
「んー」
「ん?」
だがどういうわけかミツカは、勇者を口に含んだままカトリに顔を近づけてきた。
「んっ???」
「んーっ、んふーっ、ゅうひゃくひゃい(勇者くさい)」
意味がわからずカトリが首を傾げていると、ミツカは口に含んだ勇者を2,3度咀嚼してから口を開いた。
「ふあっ! しゅ、しゅごい……。勇者のお汁がお口いっぱい……ひゅっごく青臭い!」
「…………」
ミツカの口の中は、勇者の果肉と彼女の唾液でドロドロになっていた。
さらにハアハアと興奮し、喘ぐように勇者をかみ締める。その瞳は熱で溶けたようにとろんとしていて、日に焼けた頬が強く紅潮していた。
「ハアッ……ハアッ……んっ……ゴクン。はああああー! 食べちゃったよ……カトリ、あたし初めて勇者を食べちゃったよ! こんなに青臭いなんて……もうあたしのなか、カトリの勇者汁で一杯……!」
「ふつーに食えええ!」
一体どんな求愛行動だ! カトリは叫ばずにはいられなかった。
「ううーん、相変わらず暑いなあ……」
日が昇ると一気に気温が上がる。神殿を出るなり、乾いた熱風がカトリの肌に襲い掛かってきた。出来れば建物の中でじっとしていたいが、ハナちゃんに食べさせるための干草を作らなければならない。朝のうちに刈り取って一日干すと、その日の夜にはすっかり乾いてしまうのだ。
神殿前の階段の脇に開いた亀裂から、滑車に吊るされたロープが伸びている。地下井戸から汲み上げた水を、直接畑まで運ぶための装置だ。材料探しから設計・組み立てまで、全部次女のミツカがやった。
彼女は本当に色んなことを思いつくのだ。
「ミツカー!」
カトリは牧草畑に向かって声をかける。そこだけ別風景になっている草原の真ん中で、ミツカが仕事をしていた。牧草畑の管理とハナちゃんの世話が、彼女の主な仕事だ。
「おおー、カトリー」
汗を拭いながら立ち上がる。日差しを避けるための布きれを頭から被って、あとは腰と胸に布を巻いただけの、殆ど裸のような格好だ。その格好はどことなく、ジプシーの女ダンサーを思わせなくもなかった。
「見てくれよカトリ! 草伸びるのが早すぎて、仕事が追いつかないや!」
畑の牧草は、長い場所だと腰の高さまで育っていた。本当なら膝丈くらいの時に刈るのが一番良いのだが。
「ミツカの機械のおかげで、水やりが楽になったからな」
「昨日はちょっと水を撒きすぎたんだな」
カトリも手鎌を持って作業を手伝う。畑の近くには、刈り取った草を干すための物干しを立ててある。これもミツカの手によるものだ。
ザクザクと根元から刈り取って、適当な大きさの束にして支柱に吊るす。草はあっという間に乾燥してしまうので、牧草は青さを残したまま干草になる。
そしてこの青い干草を、ハナちゃんはとても喜んで食べるのだった。
* * *
「ふう、こんなもんか」
手を休めて汗をぬぐう。畑の一角が奇麗に刈り取られ、水分の蒸発を防ぐための布が被せられている。カトリ達は神殿の土台にあいた亀裂の中に入り、そこに置いてある水瓶の水で喉を潤した。
「ぷはーっ」
「生き返るぜー」
ひとしきり水を飲んでから日陰に腰を下ろす。ずっと日に当っていたせいか、頭が火照ってぼんやりする。こういう時は、勇者をかじるとたちどころに良くなるのだが。
「なあカトリ、勇者食べたくないか?」
「ああ、食いたいな。でも、どうしてそんなこと聞くんだ?」
「ふふふ、実はだね……」
ミツカは怪しい微笑を浮かべると、胸の谷間から小さな勇者を取り出した。
「おまっ! なんて所に!」
「さっき、実が落ちてるやつを見つけたんだ。これでも食べられるだろう?」
立体栽培にしてあるので、何かの拍子に落果したのだろう。手のひらに収まるほどの大きさの可愛らしいひし形。それを見ていると、カトリの喉の奥から唾液がこみあげてきた。
「ま、まあ、食えるけどさ。未熟なやつは上級者向けだぞ?」
「さらに青くさいんだよな、確か。でもここは一つ、頑張って食べてみようぜ?」
「そうだな……ゴクリ、もったいないもんな。というかお前、食べる気でいるのか?」
「おうよっ」
ミツカは威勢良く返事をすると、その小さな勇者を高々と掲げた。
「こいつは体にいいんだろう? あたしら野菜といえばサボテンくらいしか食ってないし、勇者も食べられるようにしておかないと、先々身が持たないと思うんだ」
「まあ、確かにそうだけど」
カトリとしても、自分達の健康を思って勇者を育てているのだから、ミツカが進んで勇者を食べてくれることは、正直喜ばしいことだった。
「それに……カトリの好きなものなら、あたしらも好きにならなきゃだもんな」
「えっ?」
すると突然、ミツカはそう言って頬を赤らめた。
「だってよー、パパとママが食べ物の好みで言い争ってる所とか見せたくないだろう? 子供達にさ」
「まてまてまてっ、一体何の話をしている!」
もちろん察しは付いているが、カトリは問い直さずにはいられない。
「またまたー、わかってるくせにー」
ミツカが肘先でつついてくる、ミツカは三姉妹の中では、求愛行動が控えめな方だ。だが時折こうして、針で刺すような求愛をしてくるので、対処に困ってしまう。
「う、うむむむ……」
「だからこの小さな勇者は、あたしとカトリで半分こにしようぜ?」
そう言うとミツカは、勇者を半分ほど齧って口に含んだ。この時点で、相当な青臭さが周囲に立ち込めている。子供のことはともかくとして、我が子のように育てた勇者を二ヶ月ぶりに食べられることに、カトリは気分を高揚させずにはいられなかった。
「んー」
「ん?」
だがどういうわけかミツカは、勇者を口に含んだままカトリに顔を近づけてきた。
「んっ???」
「んーっ、んふーっ、ゅうひゃくひゃい(勇者くさい)」
意味がわからずカトリが首を傾げていると、ミツカは口に含んだ勇者を2,3度咀嚼してから口を開いた。
「ふあっ! しゅ、しゅごい……。勇者のお汁がお口いっぱい……ひゅっごく青臭い!」
「…………」
ミツカの口の中は、勇者の果肉と彼女の唾液でドロドロになっていた。
さらにハアハアと興奮し、喘ぐように勇者をかみ締める。その瞳は熱で溶けたようにとろんとしていて、日に焼けた頬が強く紅潮していた。
「ハアッ……ハアッ……んっ……ゴクン。はああああー! 食べちゃったよ……カトリ、あたし初めて勇者を食べちゃったよ! こんなに青臭いなんて……もうあたしのなか、カトリの勇者汁で一杯……!」
「ふつーに食えええ!」
一体どんな求愛行動だ! カトリは叫ばずにはいられなかった。
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