勇者の名産地
行方不明
カトリ達が失踪してから二ヶ月が経過した。
遅くても三週間ほどで一度戻ってくることになっていたカトリ達が、一月経っても戻ってこない。心配したトンガス村の人々は、行商人などに聞いてまわり、どうやらルジーナで奇妙な事故が起きたらしいことを知った。
早速ルジーナまで馬を飛ばし、事故の現場である城下町はずれの宿屋へと向かった。そして、その宿を取っていた四人組みがカトリ達であることを知ったのだ。
この事件のことは、ルジーナ王の耳にも届いていた。ルジーナ王は三姉妹のことをひどく気にかけており、専属の調査隊まで組織して、カトリ達の行方を追わせていた。
カトリ、ミーナ、ミツカ、ミッタの四名の失踪を知ったトンガスの人々は、みな落胆した。全ての村人が、朝昼晩と寝る前に四人の無事を神に祈った。
そして、カトリの妹コノハもその例外ではなかった。
* * *
「あらコノハ。その雌花は摘まなくても良かったのに」
「ふえええっ、やっちゃった!」
コノハは母親と二人で、カトリの勇者畑の手入れをしていた。
勇者は子蔓に実を生らす植物だが、あまり実を多く生らすと株が弱ってしまう。だから適切に雌花を摘み取り、数を制限するのだ。
具体的には、子蔓の10節目から20節目の間に6~8本の実をつけるようにする。
「……ごめんなさい」
コノハは、余計に摘んでしまった雌花を見つめながら、申し訳なさそうに謝った。
畑中に勇者の濃厚な青臭さが漂っている。もう収穫の末期であり、蔓も葉っぱも茂り放題で、畑には足の踏み場もない。
コノハは土のついた手で目元を拭うと、再び馴れない手付きで勇者の手入れを始めた。
カトリが失踪したと聞いた日から、妹はこうして毎日農作業を手伝っている。
ナスやトマトであればいざしらず、勇者など絶対に触るものかと踏ん張っていた彼女が、こうして進んで勇者の世話をしているあたりに、その心中に巻き起こった衝撃を推し量れるというものだろう。
人前でこそ見せないものの、コノハは寝る前のお祈りの時に、ひっそりと兄を思って涙を流すのだった。
「くんくん……勇者くさい」
雌花を摘み取る時に、どうしても指先に勇者の汁が付いてしまう。この時点ですでに、どうしようもなく青臭いのだ。だからコノハは、自分の手の臭いを嗅ぐたびに、こうして顔をしかめずにはいられない。
農作業を手伝い始めてはや一ヶ月、いくらか馴れてはきているが。
「…………ぐすっ」
手に染み付いた勇者の香りに、思い出されるのは兄の面影である。
物心付いた時から一緒に遊んでもらった記憶が、今になってあふれ出てくる。
勇者汁をぶっかけられたことは、今でも気持ち悪くて仕方がない。
しかし今はその不愉快さより、兄と再会して無事を確かめたいという気持ちの方が、遥かに勝っているのだった。
「なにやってんのよ、バカお兄ちゃん!」
すっかり作業の手が止まってしまった。ついに想いが限界に達したのだ。
コノハは母親が見ている前で、両目を覆ってさめざめと泣き出してしまった。
「コノハ……」
そんな少女を、母は優しく抱きしめる。
「大丈夫よコノハ。カトリも、お姉ちゃん達も、絶対に帰ってくるから」
「うん……」
そんな娘を慰める母の目にも、うっすらと涙が光っていた。
空に輝く強い日差しが、畑を埋めつくす葉の群れを鮮やかに照らし出している。
遅くても三週間ほどで一度戻ってくることになっていたカトリ達が、一月経っても戻ってこない。心配したトンガス村の人々は、行商人などに聞いてまわり、どうやらルジーナで奇妙な事故が起きたらしいことを知った。
早速ルジーナまで馬を飛ばし、事故の現場である城下町はずれの宿屋へと向かった。そして、その宿を取っていた四人組みがカトリ達であることを知ったのだ。
この事件のことは、ルジーナ王の耳にも届いていた。ルジーナ王は三姉妹のことをひどく気にかけており、専属の調査隊まで組織して、カトリ達の行方を追わせていた。
カトリ、ミーナ、ミツカ、ミッタの四名の失踪を知ったトンガスの人々は、みな落胆した。全ての村人が、朝昼晩と寝る前に四人の無事を神に祈った。
そして、カトリの妹コノハもその例外ではなかった。
* * *
「あらコノハ。その雌花は摘まなくても良かったのに」
「ふえええっ、やっちゃった!」
コノハは母親と二人で、カトリの勇者畑の手入れをしていた。
勇者は子蔓に実を生らす植物だが、あまり実を多く生らすと株が弱ってしまう。だから適切に雌花を摘み取り、数を制限するのだ。
具体的には、子蔓の10節目から20節目の間に6~8本の実をつけるようにする。
「……ごめんなさい」
コノハは、余計に摘んでしまった雌花を見つめながら、申し訳なさそうに謝った。
畑中に勇者の濃厚な青臭さが漂っている。もう収穫の末期であり、蔓も葉っぱも茂り放題で、畑には足の踏み場もない。
コノハは土のついた手で目元を拭うと、再び馴れない手付きで勇者の手入れを始めた。
カトリが失踪したと聞いた日から、妹はこうして毎日農作業を手伝っている。
ナスやトマトであればいざしらず、勇者など絶対に触るものかと踏ん張っていた彼女が、こうして進んで勇者の世話をしているあたりに、その心中に巻き起こった衝撃を推し量れるというものだろう。
人前でこそ見せないものの、コノハは寝る前のお祈りの時に、ひっそりと兄を思って涙を流すのだった。
「くんくん……勇者くさい」
雌花を摘み取る時に、どうしても指先に勇者の汁が付いてしまう。この時点ですでに、どうしようもなく青臭いのだ。だからコノハは、自分の手の臭いを嗅ぐたびに、こうして顔をしかめずにはいられない。
農作業を手伝い始めてはや一ヶ月、いくらか馴れてはきているが。
「…………ぐすっ」
手に染み付いた勇者の香りに、思い出されるのは兄の面影である。
物心付いた時から一緒に遊んでもらった記憶が、今になってあふれ出てくる。
勇者汁をぶっかけられたことは、今でも気持ち悪くて仕方がない。
しかし今はその不愉快さより、兄と再会して無事を確かめたいという気持ちの方が、遥かに勝っているのだった。
「なにやってんのよ、バカお兄ちゃん!」
すっかり作業の手が止まってしまった。ついに想いが限界に達したのだ。
コノハは母親が見ている前で、両目を覆ってさめざめと泣き出してしまった。
「コノハ……」
そんな少女を、母は優しく抱きしめる。
「大丈夫よコノハ。カトリも、お姉ちゃん達も、絶対に帰ってくるから」
「うん……」
そんな娘を慰める母の目にも、うっすらと涙が光っていた。
空に輝く強い日差しが、畑を埋めつくす葉の群れを鮮やかに照らし出している。
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