勇者の名産地
地下井戸
「おお、すげえ……」
井戸の底には、なんと巨大な空間がひらけていた。
天井に入った亀裂から日差しが零れてきている。神殿に続く大階段に入っていた亀裂だ。空洞の一部が激しく崩落していて、その気になれば亀裂のある所まで昇っていけそうだ。
もとは灯りを焚いていたらしく、土壁には燭台が取り付けられている。しかし今は、天井から差し込んでくる日差しのおかげで、随分と明るかった。
「カトリさん、あっちあっち」
「うおっ?」
アーリヤが指し示した先には、また井戸があった。
「おお!」
井戸の中の井戸だ。恐らくは、最初に掘った井戸が枯れてしまったために、さらに深い井戸を掘ったのだろう。この空間はたぶん、そのついでに作ったものだ。貯蔵庫にでもしていたのだろう。さすが砂漠の都だとカトリは思った。
カトリがその井戸に近づいていくと、にわかに人の声が聞こえてきた。
「ううう……怖いよう……暗いよう……」
井戸の影でミッタが膝を抱えてガタガタ震えていた。
「ミッタじゃないか!」
「!? カトリ!? カトリなのか!」
ミッタはすかさず立ち上がると、うわああーんと大げさに泣きながらカトリの胸に飛び込んできた。
「怖かったよー! 気付いたらここに一人でいて、何がなんだかわからなくて……!」
「お、おおう……」
ひとまずよしよしと頭を撫でる。ミッタは一人だととても臆病な女の子なのだ。
「姉者達は!?」
「みんな無事だ。上でお前のことを探しているよ」
半べそをかいているミッタを慰めつつ、カトリは地下井戸を調べにかかった。
今度はちゃんと水桶が置いてあった。井戸の底に下ろして水を汲み上げてみる。
「うんしょ、うんしょ……」
カトリの手には、しっかりと水の重みが伝わってきていた。
水桶を引き上げると、その中は冷たく澄んだ水で満たされていた。
「……よしっ、これでひとまず生きてはいけるぞ!」
「そういや、あたし喉が渇いていたんだっ」
カトリはミッタと二人で、ごくごくと井戸水を飲んだ。
アーリヤにも勧めてみたが断られた。
「私、湖の精霊ですから……」
「地下水はだめなんですね」
カトリは半分ほど水が入った水桶を、そのまま井戸の脇に置いた。
ミッタが変な顔をしてカトリを見ていた。
「今の何だ?」
「はあ?」
だって今はこの人もいるんだ……と指でアーリヤを指し示してみるが、ミッタは首を傾げたままだった。
「見えないのか?」
「なにが?」
カトリは腕を組んでウームとうなった。アーリヤの姿は自分にしか見えないのか?
一体どういうことなんだ? 答えを求めるようにして、カトリはアーリヤを見つめるが。
「うふふふふっ」
しかし湖の精霊は不敵に笑うと、何も言わずに水筒に戻っていってしまった。
「まあいいか」
水筒の蓋をきっちり閉めてから、カトリは上の井戸から下ろしてある縄はしごへと向かう。ミッタも後からついてくる。
その途中、天井の裂け目から日差しが照りつけてきている場所に差し掛かった時だった。
「はうあ!?」
カトリの足の裏から電撃が駆け上がった。
「この感覚は!」
すかさずその場に膝をつき、手で土をほじくる。地下空間の土は、砂質でさらさらとしていて、とても水はけが良さそうだ。養分こそ乏しいものの、清浄この上ない土だった。
「これは……いい土だ!」
土は軽く湿っていた。おそらく地下水が上がってくるのだろう。この適度な湿り気と、天井の裂け目から差し込んでくる日差しとが、絶妙なハーモニーを奏でることで、この土は良い具合に仕上がっているのだ。
絶望的と思われていた勇者の栽培がここでもできそうだとカトリは思った。勇者さえ作れれば、カトリは一年だって十年だって、この地で生きていく自信があった。
「おい、カトリー、早く姉者達のところに行こうぜー?」
「ちょっとまってくれ、ミッタ! これはテンションが上がる!」
ミッタがぐいぐいと上着を引っ張るが、カトリは全然動こうとしない。
「もうー! この農業バカー!」
ミッタはまたもや半べそをかいていた。
井戸の底には、なんと巨大な空間がひらけていた。
天井に入った亀裂から日差しが零れてきている。神殿に続く大階段に入っていた亀裂だ。空洞の一部が激しく崩落していて、その気になれば亀裂のある所まで昇っていけそうだ。
もとは灯りを焚いていたらしく、土壁には燭台が取り付けられている。しかし今は、天井から差し込んでくる日差しのおかげで、随分と明るかった。
「カトリさん、あっちあっち」
「うおっ?」
アーリヤが指し示した先には、また井戸があった。
「おお!」
井戸の中の井戸だ。恐らくは、最初に掘った井戸が枯れてしまったために、さらに深い井戸を掘ったのだろう。この空間はたぶん、そのついでに作ったものだ。貯蔵庫にでもしていたのだろう。さすが砂漠の都だとカトリは思った。
カトリがその井戸に近づいていくと、にわかに人の声が聞こえてきた。
「ううう……怖いよう……暗いよう……」
井戸の影でミッタが膝を抱えてガタガタ震えていた。
「ミッタじゃないか!」
「!? カトリ!? カトリなのか!」
ミッタはすかさず立ち上がると、うわああーんと大げさに泣きながらカトリの胸に飛び込んできた。
「怖かったよー! 気付いたらここに一人でいて、何がなんだかわからなくて……!」
「お、おおう……」
ひとまずよしよしと頭を撫でる。ミッタは一人だととても臆病な女の子なのだ。
「姉者達は!?」
「みんな無事だ。上でお前のことを探しているよ」
半べそをかいているミッタを慰めつつ、カトリは地下井戸を調べにかかった。
今度はちゃんと水桶が置いてあった。井戸の底に下ろして水を汲み上げてみる。
「うんしょ、うんしょ……」
カトリの手には、しっかりと水の重みが伝わってきていた。
水桶を引き上げると、その中は冷たく澄んだ水で満たされていた。
「……よしっ、これでひとまず生きてはいけるぞ!」
「そういや、あたし喉が渇いていたんだっ」
カトリはミッタと二人で、ごくごくと井戸水を飲んだ。
アーリヤにも勧めてみたが断られた。
「私、湖の精霊ですから……」
「地下水はだめなんですね」
カトリは半分ほど水が入った水桶を、そのまま井戸の脇に置いた。
ミッタが変な顔をしてカトリを見ていた。
「今の何だ?」
「はあ?」
だって今はこの人もいるんだ……と指でアーリヤを指し示してみるが、ミッタは首を傾げたままだった。
「見えないのか?」
「なにが?」
カトリは腕を組んでウームとうなった。アーリヤの姿は自分にしか見えないのか?
一体どういうことなんだ? 答えを求めるようにして、カトリはアーリヤを見つめるが。
「うふふふふっ」
しかし湖の精霊は不敵に笑うと、何も言わずに水筒に戻っていってしまった。
「まあいいか」
水筒の蓋をきっちり閉めてから、カトリは上の井戸から下ろしてある縄はしごへと向かう。ミッタも後からついてくる。
その途中、天井の裂け目から日差しが照りつけてきている場所に差し掛かった時だった。
「はうあ!?」
カトリの足の裏から電撃が駆け上がった。
「この感覚は!」
すかさずその場に膝をつき、手で土をほじくる。地下空間の土は、砂質でさらさらとしていて、とても水はけが良さそうだ。養分こそ乏しいものの、清浄この上ない土だった。
「これは……いい土だ!」
土は軽く湿っていた。おそらく地下水が上がってくるのだろう。この適度な湿り気と、天井の裂け目から差し込んでくる日差しとが、絶妙なハーモニーを奏でることで、この土は良い具合に仕上がっているのだ。
絶望的と思われていた勇者の栽培がここでもできそうだとカトリは思った。勇者さえ作れれば、カトリは一年だって十年だって、この地で生きていく自信があった。
「おい、カトリー、早く姉者達のところに行こうぜー?」
「ちょっとまってくれ、ミッタ! これはテンションが上がる!」
ミッタがぐいぐいと上着を引っ張るが、カトリは全然動こうとしない。
「もうー! この農業バカー!」
ミッタはまたもや半べそをかいていた。
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