勇者の名産地
カジノ
 日が暮れる頃にルジーナに戻ったカトリは、三姉妹の様子を見にカジノに向かった。
「「「うひゃほーい!」」」
のだが……。
「お、おまえらー!?」
カトリはそこで盛大な酒盛りをしている三姉妹と、やたら豪華な服装のいい歳した男を見つけたのだ。
「よう、カトリー!」
「おかげであたしら!」
「ぼろ儲けだぜー!」
カジノの一角にある非常お高いバーラウンジで、グラスに波々と高級ワインを注いで飲んでいる。テーブルの上には山盛りの果実。そして景品か何かなのか、三人とも頭の上に金の王冠を載せていた。
「勝ったのか……? 勝ったのか!」
たったの200ヤンが、一体どれほどに化けたというのか。カトリはにわかには信じられない思いだった。ともかくお金を増やしてくれたのなら文句はない。
「悪いことをしなかったよな?」
「人聞きが悪いな!」
「あたしらこれでも」
「生粋のギャンブラーだぜ?」
「まあ……普通に勝ったんなら良いんだが……」
そしてカトリは、三姉妹に囲まれて機嫌良さそうにしている男に目を向けた。
「こちらの方は?」
「王様!」
「王様だよ!」
「見ればわかるだろ!」
「え? ええ?」
三姉妹の紹介をうけて、そのオジサンは「フハハ」と笑った。
歳は50がらみといったところか。顎の骨がしっかりしていて威厳のある顔つきだが、目じりがとろんと垂れていて、東国の珍獣を思わせる愛嬌がある。もさもさとした野暮ったい髪はロマンスグレーに染まり、本当にいい歳をしたおっさんと言った様相だ。
赤を貴重とした豪奢な服を着て、確かに王様っぽい格好ではあるが、なんでカジノなんかに来ているのだろう。
彼はしばし、新種のキノコを見るような瞳でカトリを眺めていた。
「おいカトリ!」
「名を名乗らんか!」
「無礼者!」
「えっ! あ! はい!」
言われてその場に膝を付く。
「お、俺! トンガス村のカトリっていいます! 勇者を広める旅をしております!」
慌てて慣れない自己紹介をする。ルジーナの王様であるらしいオジサンは、再び「フハハ」と独特の笑い方をしてから口を開いた。
「君が彼女らのリーダーなのだな。うむ、私は第二十六代ルジーナ王、アルパ・アカルプット・アルカ・アルパカーン・アッパルカーン二世である」
誇らしげにフルネームを名乗ると、ルジーナ王は星の飛ぶようなウィンクをしてきた。
王様ほどの方が、こんな田舎者にフルネームを名乗ってくれるとは。カトリは恐縮してしまう。
「あ、あの王様。俺の旅仲間が何か粗相をしてないでしょうか……」
恐る恐る聞いてみる。
「フハハ、彼女達は実に面白き娘どもだ。余は存分に楽しんでおる」
と言ってルジーナ王は酒杯を煽った。
カトリは三姉妹の側に近寄ると、小声で聞いた。
「お前ら……! 一体何がどうなってこうなってんだよ……!」
「どうもこうもないさー」
「お忍びで来ていた王様と」
「たまたま卓が一緒になったんだ」
「卓? 何をして遊んでいたんだ?」
「「「マージャン!」」」
「カジノでやることじゃねえ!」
「フハハ、彼女らの脱ぎっぷりは中々のものじゃった」
「しかも脱衣ー!?」
カトリは眩暈がした。頭を抱えてふらふらと後ずさる。
この娘どもは、王様相手に脱衣マージャンをうったのだ。そして巧みなコンビネーションと色仕掛けで、いい気分にさせつつカモにしたのだ。
「……恐ろしい奴らだ!」
他に言葉を持たないカトリだった。
* * *
聞くところによれば三姉妹は、始めはカジノの近くにある屋台村で遊んでいたらしい。
実は200ヤンでは、カジノで遊ぶ元手としては少なすぎるのだ。
そこで三人は、子供にまざってスマートボールを楽しんでいた。1玉1ヤンのボールをキューで弾いて、盤面の穴に落とすゲームである。
2倍穴に入れると2玉ゲットでき、連続で入れるとさらに4倍、8倍と増えていく。
これで半日は楽しめるはずだった。しかし三姉妹は見つけてしまったのである。
1玉100ヤンという、大人気ない高レートのスマートボール台を。
カトリに貰ったお金が200ヤンだったので、これでは2玉しかプレイできない。そこで三姉妹はまずこのお金を増やすことにしたのだった。
まずは、近くの古着屋で売っていた踊り子の服を200ヤンで購入し、馬の小便で汚してから離れた場所にある古着屋に売った。するとなぜか600ヤンで売れた。
深く突っ込んではいけない。とにかく売れたのである。
さらに三人は三着の踊り子の服を買い、同じように使用感を出してから別の店に売った。
そうして200ヤンが1800ヤンに化けた。三姉妹はこの調子でどんどん稼ごうとしたのだが、思いのほかルジーナ市民のモラルは高かった。大きな剣の街では、これと同じ方法で豪勢なメシを食えるほどに稼いだのだが……。
三姉妹は舌打ちをしつつも、警備隊に目を付けられる前にさっさと切り上げ、その1800ヤンを全て、1玉100ヤンの高額スマートボールにつぎ込んだ。
すると、一か八かで一がでた。
なんと三人は、2倍穴に10連続で決めることに成功したのだ。
そうして1800ヤンが10万ヤンに化けた。
あとはカジノにゴーである。
スロット、ポーカー、ルーレット、闘技場。
ひとしきり賭け事を楽しんでいたら、手持ちの金を5万ヤンにまで減ってしまった。
ここで切り上げても、元手が200ヤンだったことを考えれば大儲けだ。しかし10万が5万に減ったことで、三人はひどく損をした気持ちになっていた。
だから、ここでまた大勝負に出たのである。
VIPルームにて、1000点あたり1万ヤンという超ハイレートの賭けマージャンが行われていることを知った三人は、無謀にもそこに乗り込んでいた。
そうしてたまたま、ルジーナ王と卓を同じくしたのである。
1000点で1万ヤンなので、下手をすると半荘で数十万の損をする。所持金5万ヤンの三人では、普通、参加する資格すらなかった。
そこで三人は、一万点につき一枚脱ぐという条件を提示したのである。
ルジーナ王は相当なやり手であり、三人の服はどんどんひん剥かれてゆき、毛糸のパンツと皮のブーツだけという破廉恥極まる状況にまで追い込まれた。
だがそこは三つ子の姉妹。以心伝心でもって巧みなコンビ打ちを行い、役満を上がるなどして、国王相手に五分に持ち込んだのであった。
「「「うひゃほーい!」」」
のだが……。
「お、おまえらー!?」
カトリはそこで盛大な酒盛りをしている三姉妹と、やたら豪華な服装のいい歳した男を見つけたのだ。
「よう、カトリー!」
「おかげであたしら!」
「ぼろ儲けだぜー!」
カジノの一角にある非常お高いバーラウンジで、グラスに波々と高級ワインを注いで飲んでいる。テーブルの上には山盛りの果実。そして景品か何かなのか、三人とも頭の上に金の王冠を載せていた。
「勝ったのか……? 勝ったのか!」
たったの200ヤンが、一体どれほどに化けたというのか。カトリはにわかには信じられない思いだった。ともかくお金を増やしてくれたのなら文句はない。
「悪いことをしなかったよな?」
「人聞きが悪いな!」
「あたしらこれでも」
「生粋のギャンブラーだぜ?」
「まあ……普通に勝ったんなら良いんだが……」
そしてカトリは、三姉妹に囲まれて機嫌良さそうにしている男に目を向けた。
「こちらの方は?」
「王様!」
「王様だよ!」
「見ればわかるだろ!」
「え? ええ?」
三姉妹の紹介をうけて、そのオジサンは「フハハ」と笑った。
歳は50がらみといったところか。顎の骨がしっかりしていて威厳のある顔つきだが、目じりがとろんと垂れていて、東国の珍獣を思わせる愛嬌がある。もさもさとした野暮ったい髪はロマンスグレーに染まり、本当にいい歳をしたおっさんと言った様相だ。
赤を貴重とした豪奢な服を着て、確かに王様っぽい格好ではあるが、なんでカジノなんかに来ているのだろう。
彼はしばし、新種のキノコを見るような瞳でカトリを眺めていた。
「おいカトリ!」
「名を名乗らんか!」
「無礼者!」
「えっ! あ! はい!」
言われてその場に膝を付く。
「お、俺! トンガス村のカトリっていいます! 勇者を広める旅をしております!」
慌てて慣れない自己紹介をする。ルジーナの王様であるらしいオジサンは、再び「フハハ」と独特の笑い方をしてから口を開いた。
「君が彼女らのリーダーなのだな。うむ、私は第二十六代ルジーナ王、アルパ・アカルプット・アルカ・アルパカーン・アッパルカーン二世である」
誇らしげにフルネームを名乗ると、ルジーナ王は星の飛ぶようなウィンクをしてきた。
王様ほどの方が、こんな田舎者にフルネームを名乗ってくれるとは。カトリは恐縮してしまう。
「あ、あの王様。俺の旅仲間が何か粗相をしてないでしょうか……」
恐る恐る聞いてみる。
「フハハ、彼女達は実に面白き娘どもだ。余は存分に楽しんでおる」
と言ってルジーナ王は酒杯を煽った。
カトリは三姉妹の側に近寄ると、小声で聞いた。
「お前ら……! 一体何がどうなってこうなってんだよ……!」
「どうもこうもないさー」
「お忍びで来ていた王様と」
「たまたま卓が一緒になったんだ」
「卓? 何をして遊んでいたんだ?」
「「「マージャン!」」」
「カジノでやることじゃねえ!」
「フハハ、彼女らの脱ぎっぷりは中々のものじゃった」
「しかも脱衣ー!?」
カトリは眩暈がした。頭を抱えてふらふらと後ずさる。
この娘どもは、王様相手に脱衣マージャンをうったのだ。そして巧みなコンビネーションと色仕掛けで、いい気分にさせつつカモにしたのだ。
「……恐ろしい奴らだ!」
他に言葉を持たないカトリだった。
* * *
聞くところによれば三姉妹は、始めはカジノの近くにある屋台村で遊んでいたらしい。
実は200ヤンでは、カジノで遊ぶ元手としては少なすぎるのだ。
そこで三人は、子供にまざってスマートボールを楽しんでいた。1玉1ヤンのボールをキューで弾いて、盤面の穴に落とすゲームである。
2倍穴に入れると2玉ゲットでき、連続で入れるとさらに4倍、8倍と増えていく。
これで半日は楽しめるはずだった。しかし三姉妹は見つけてしまったのである。
1玉100ヤンという、大人気ない高レートのスマートボール台を。
カトリに貰ったお金が200ヤンだったので、これでは2玉しかプレイできない。そこで三姉妹はまずこのお金を増やすことにしたのだった。
まずは、近くの古着屋で売っていた踊り子の服を200ヤンで購入し、馬の小便で汚してから離れた場所にある古着屋に売った。するとなぜか600ヤンで売れた。
深く突っ込んではいけない。とにかく売れたのである。
さらに三人は三着の踊り子の服を買い、同じように使用感を出してから別の店に売った。
そうして200ヤンが1800ヤンに化けた。三姉妹はこの調子でどんどん稼ごうとしたのだが、思いのほかルジーナ市民のモラルは高かった。大きな剣の街では、これと同じ方法で豪勢なメシを食えるほどに稼いだのだが……。
三姉妹は舌打ちをしつつも、警備隊に目を付けられる前にさっさと切り上げ、その1800ヤンを全て、1玉100ヤンの高額スマートボールにつぎ込んだ。
すると、一か八かで一がでた。
なんと三人は、2倍穴に10連続で決めることに成功したのだ。
そうして1800ヤンが10万ヤンに化けた。
あとはカジノにゴーである。
スロット、ポーカー、ルーレット、闘技場。
ひとしきり賭け事を楽しんでいたら、手持ちの金を5万ヤンにまで減ってしまった。
ここで切り上げても、元手が200ヤンだったことを考えれば大儲けだ。しかし10万が5万に減ったことで、三人はひどく損をした気持ちになっていた。
だから、ここでまた大勝負に出たのである。
VIPルームにて、1000点あたり1万ヤンという超ハイレートの賭けマージャンが行われていることを知った三人は、無謀にもそこに乗り込んでいた。
そうしてたまたま、ルジーナ王と卓を同じくしたのである。
1000点で1万ヤンなので、下手をすると半荘で数十万の損をする。所持金5万ヤンの三人では、普通、参加する資格すらなかった。
そこで三人は、一万点につき一枚脱ぐという条件を提示したのである。
ルジーナ王は相当なやり手であり、三人の服はどんどんひん剥かれてゆき、毛糸のパンツと皮のブーツだけという破廉恥極まる状況にまで追い込まれた。
だがそこは三つ子の姉妹。以心伝心でもって巧みなコンビ打ちを行い、役満を上がるなどして、国王相手に五分に持ち込んだのであった。
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