勇者の名産地

ナガハシ

ルジーナ

 よく整備された幅の広い道を、無数の馬車がひっきりなしに行き来している。
 カトリ達の視界に、西大陸一の都であるルジーナの姿が見えてきた。


「おおー」「あれが」「ルジーナか」


 地平線を覆いつくす程の建物。市場の上空には無数のアドバルーンが上がり、工房地区からは煙の筋がいくつも立ち昇る。
 市街地を抜けた先にルジーナ城がそびえ立ち、その黒々とした威容を天にさらしていた。
 ここは西大陸における、政治・経済・文化の中心地だ。


「「「トンガス村とは大違いだぜ!」」」
「比べたってしょうがないだろ!」


 すっかり浮き足立っている三姉妹は、カトリとハナちゃんを置いてどんどん先に行ってしまう。慌ててカトリは手綱を引いた。


「待てお前ら! ハナちゃんを置いてくな!」
「ブルルルッ」


 ハナちゃんも心持ち興奮しているようだった。


 ルジーナ市街地に入ったカトリ達は、街の外れに宿を取り、ハナちゃんを厩に繋いだ。
 そして、魔物のみしるしを役所の出張所に届け、道中で手に入れた金目のものを売って歩いた。


「しめて400ヤンか」


 なかなかの稼ぎだった。ルジーナでは武器防具類が安く手に入るので、これなら、かなりの装備を整えられるだろう。


「じゃあカトリ」
「武器とかはあたしらが買ってくるから」
「宿屋に戻ってゆっくりしててくれよっ」


 と三人は、あくまでも真面目な態度で言ってきた。
 カトリは気味が悪くて仕方が無かった。


「お前ら、カジノに行くつもりだな?」
「「「ぎくうっ!」」」


 三人の額に冷や汗が伝った。


「やだなあ……」
「大事なお金を」
「すったりはしないよっ」
「カ・ジ・ノ・に・行・く・つ・も・り・だ・な・!?」


 何となく昨日からわかっていたことだった。この三人が、こんなに賑やかな場所にきて、大人しく過ごすはずがないのだ。


「おいおいカトリー」
「仲間だろー?」
「信じてくれよー」


 カトリはふうとため息をつくと、財布から稼ぎの半分、200ヤンを取り出して三人に渡した。


「これで好きなだけ遊んでこいよ」
「「「おおー!?」」」


 三人はそのお金を受け取ると、驚いて顔を見合わせた。
 そして、その表情を喜び一杯に膨らませると、三人同時に抱きついてきた。


「うおおっ!?」
「「「愛してるぜカトリー!」」」


 そう言って次々と頬に口付けしてくる。そしてあっという間に走って行ってしまった。


「ま、まったく……」


 接吻された場所をさすりながら頬を赤らめる。
 あの娘達はお金でしか愛を感じられないタイプなのだろうとカトリは思った。


 * * *


 三姉妹と別れたカトリは、ひとまず宿に戻った。
 しかしまだ休むわけにはいかない。ハナちゃんに背負わせて持って来た、大きな剣を売らなければいけないのだ。


「もう一仕事たのむな」
「ブルルルンッ」


 手綱を引き、大通りを通って工房地区に向かう。
 そして、そこの一番大きな武器屋を訪ねた。


「あのー、ちょっと変った剣なんですけど」
「はい、いらっしゃい」


 武器屋の店主は、随分と痩せた男だった。武器屋の主人と言えば、大抵が筋骨隆々なので、カトリは少し頼りなく思った。


「ふむふむ……これは」


 だが、カトリの大きな剣を目にしたとたん、主人の瞳がプロの気迫を纏った。


「どうでしょう……。大きさだけは一級品ですが……」
「むむむ、確かに大きい……」


 どんな値が付くのだろうと、カトリが胸を膨らませていると、にわかに店の主人が表情を曇らせた。


「150ヤンになります……」
「えっ! こんなに大きいのに!?」


 予想外の低価格。驚いて聞き返すが。


「150ヤンでも、相当にまけております。『廃棄手数料』が150ヤンなんです」
「……!?」


 カトリは一瞬、主人が何を言っているのかわからなかった。
 廃棄手数料。つまり、引き取って貰うのに費用がかかるということだ。
 この大きな剣の値打ちは、つまり『△150ヤン』だったのだ。


「……やられた!」


 カトリはがっくりと地に膝を付く。
 あの宿屋の主人はわかってやっていたに違いない。どういうわけかは知らないが、本当はあの大きな剣を『処分』したかったのだ。
 しかし、それには費用がかかるし運賃もかかる。だからカトリ達に『息子を助けてくれた報酬』ということにして、押し付けてきたのだ。


「ぐぬぬー!」


 拳で強く地面を打つ。まさに恩を仇で返された。
 流石のカトリも、呪いの言葉を叫んでしまった。


「滅んでしまえあんな街!」
「お気の毒です……旅人さん」


 痩せた店の主人が、さも申し訳なさそうに言う。


「この剣は、大きな剣の街のものですね。恐らくはこの剣を処分して、街のイメチェンをしようと考えたのでしょう。もう、随分と悪名高いですから」
「……俺達が世間知らずだったんです!」
「お気を確かに……」


 悔やんでも悔やみきれない。
 武器屋の主人が親切なのが唯一の救いだ。
 あの街は、一体どんなイメチェンをするというのだろう。
 大きな剣の街から、大きな石垣の街にでも変身するのだろうか。
 それでカモが戻ってくるのだろうか。
 カトリにはわからない。









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