永久なるサヴァナ
2on1
トウモロコシの葉をかさかさと揺らし、密林のようなその畑の中を、ネコとカカポが駆けていく。
後を追うのは一頭のハイエナ。密林に阻まれて思うように動けないでいる。
「ちっくしょう、面倒臭えな!」
作物を荒らすと後が怖いことは承知しているようだった。茎と茎の間を縫うように、慎重に二人の後を追う。
そのトウモロコシ畑は広大で100m四方はある。このまま延々と追いかけっこを続けることも可能だが、追う側も追われる側も、そのままではまずいのだった。
「ええい! うっとしい!」
畑が荒れるのを覚悟して、一気にハイエナが飛びかかってきた。
バキバキと作物をなぎ倒し、動きの遅いカプラを狙って突っ込んでくる。
「危ないにゃ!」
「きゃあ!?」
ミーヤは素早くカプラの背中を口でくわえると、そのまま前方にダッシュ。
作物に阻まれてハイエナの動きが一瞬止まる。そのまま駆け抜けて、距離を置いたところでカカポを離す。
「あ、ありがとう……!」
「礼なら後でロンに言うにゃ、ミーヤはラーメンのために戦ってるにゃ!」
二人はそのまま、トウモロコシ畑の端に向かって走る。後ろからはどんどんハイエナが迫ってくる。オスカー達の元に辿り着くためには、一度この畑を抜けて、隣のヒマワリ畑に入らなければならない。そこを抜けた先の空き地で土煙があがっている。牛館の者達が仕事中だ。
「ミーヤが引き付けるから、そのうちに隣の畑に飛び込むにゃ!」
カプラを前にして全力で走り、そのまま密林の外に飛び出す。
ヒマワリ畑までは20mほどある。小さな体でヨチヨチと走るカカポにとっては結構な距離だった。
「にゃあーん、そこのお兄さん、ちょっと止まるにゃあ」
少女の姿に戻ったミーヤは、そのまま地面に座り込んでしなを作った。
そしてワンピースの裾をまくりあげ、その素足をハイエナの前に晒す。
お色気作戦だ。
「止まってくれたら、ちょっと良いことしてあげなくもなーいにゃーん」
するとハイエナは、ミーヤの手前でぴたりと止まった。
「ガキに興味はねーよ」
だがそれだけ言って通り過ぎてしまった。
「にゃー! 失礼な奴ー!」
慌ててその後を追うが、ハイエナの方が足が速い。追いつけたとしても、戦闘力指数30のネコが太刀打ちできる相手ではないのだ。
カプラはあと少しでヒマワリ畑に突入する。後ろを振り向き、追いかけてくる肉食獣を見つけて飛び上がる。
「きゃー!」
飛べない翼をばたつかせて、少しでも速度を稼ごうと頑張ってみる。
だが、畑に頭の先を突っ込んだところで、ついに追いつかれてしまった。
「グガガガーー!」
「いやああーー!」
ヒマワリをバリバリとなぎ倒してカプラに迫ってくるハイエナ。
とっさに飛び上がってヒマワリの茎をよじ登る。
次々となぎ倒される太陽の花の上、必死になって飛び回る。
「きゃあああー! 来ないでええー!」
「大人しくしろやああ!」
絶望的なまでの体格差と戦力差。相手が致命傷となる攻撃を繰り出してこれないことが唯一の救いだったが、もはや掴まるのは時間の問題だった。
黄色の大輪が無残に舞い散っていく。
「もう頭にきたにゃ!」
その時、少女としてのプライドを傷つけられたミーヤが、勇敢にもハイエナの背に飛び掛っていった。
ネコの姿でしがみつき、首筋に噛み付く。
「ぎにゃあああー!」
「あだだだだだ!」
慌てて振り払おうとするが、ハイエナの手は背中には回らない。
止む終えず獣人形態に戻ることになる。
その瞬間をめがけて、ミーヤは相手の顔面を思いっきり爪で引っ掻いた。
「ネコなめんにゃー!」
「てめええええ!」
ハイエナの獣人は取って代わってミーヤを追いかけ始めた。そのままトウモロコシ畑の方に引き返し、再び農作物の密林に突っ込んでいった二体の獣は、そこで猛然と追いかけっこを始めた。
ガサガサと緑色の海が波打っていく。
「ミーヤちゃん!」
このままでは彼女がやられてしまう。
ヒマワリの花の上で焦りに翼をはためかせながら、カプラは何とかできないかと考えた。
足も遅い、力もない、空も飛べない。そんな自分に出来ることはなにか? 答えは一つしかなかった。
「お願い、届いて!」
カプラは人の姿に戻って、大地の上に立った。
そして姿勢を正し、へその下に両手を当てて複式呼吸をした。
そしてこれまで歌い手として培ってきた技術を如何なく発揮し、限りなく高く澄んだ声で、力強く『救援』を叫んだ。
『誰か助けてー!!』
鋭い声が農園中に響き渡る。
ヒマワリの葉の上にいた数匹の虫が、びっくりして地面に落ちてきた。
まるで彼女の体全体が高性能スピーカーになったようだった。
『誰かあー!!』
カプラの声帯が破れる寸前に至った瞬間、農園の一角から銀色の影が飛び出してきた。
「ロン!!」
それは紛れもなく、オオカミとなったロンだった。
ネコとハイエナがデッドヒートを繰り広げているトウモロコシ畑の中に、一直線に飛び込んでいく。
直後、二つの獣がぶつかり合った衝撃で、畑の土が広範囲に渡って巻き上げられた。
とばっちりを食ったネコのミーヤが、カプラの元にポーンと放りだされてきた。
「ミーヤちゃん!」
「あにゃにゃー!?」
カプラはヒマワリ畑から走り出すと、その小さな獣を両手で受け止める。
「大丈夫!?」
「ひ、ひどい目にあったにゃ……」
――グガアアアアア!
――ウガグルルルル!
トウモロコシ畑の中では、すでに激闘が繰り広げられていた。
後を追うのは一頭のハイエナ。密林に阻まれて思うように動けないでいる。
「ちっくしょう、面倒臭えな!」
作物を荒らすと後が怖いことは承知しているようだった。茎と茎の間を縫うように、慎重に二人の後を追う。
そのトウモロコシ畑は広大で100m四方はある。このまま延々と追いかけっこを続けることも可能だが、追う側も追われる側も、そのままではまずいのだった。
「ええい! うっとしい!」
畑が荒れるのを覚悟して、一気にハイエナが飛びかかってきた。
バキバキと作物をなぎ倒し、動きの遅いカプラを狙って突っ込んでくる。
「危ないにゃ!」
「きゃあ!?」
ミーヤは素早くカプラの背中を口でくわえると、そのまま前方にダッシュ。
作物に阻まれてハイエナの動きが一瞬止まる。そのまま駆け抜けて、距離を置いたところでカカポを離す。
「あ、ありがとう……!」
「礼なら後でロンに言うにゃ、ミーヤはラーメンのために戦ってるにゃ!」
二人はそのまま、トウモロコシ畑の端に向かって走る。後ろからはどんどんハイエナが迫ってくる。オスカー達の元に辿り着くためには、一度この畑を抜けて、隣のヒマワリ畑に入らなければならない。そこを抜けた先の空き地で土煙があがっている。牛館の者達が仕事中だ。
「ミーヤが引き付けるから、そのうちに隣の畑に飛び込むにゃ!」
カプラを前にして全力で走り、そのまま密林の外に飛び出す。
ヒマワリ畑までは20mほどある。小さな体でヨチヨチと走るカカポにとっては結構な距離だった。
「にゃあーん、そこのお兄さん、ちょっと止まるにゃあ」
少女の姿に戻ったミーヤは、そのまま地面に座り込んでしなを作った。
そしてワンピースの裾をまくりあげ、その素足をハイエナの前に晒す。
お色気作戦だ。
「止まってくれたら、ちょっと良いことしてあげなくもなーいにゃーん」
するとハイエナは、ミーヤの手前でぴたりと止まった。
「ガキに興味はねーよ」
だがそれだけ言って通り過ぎてしまった。
「にゃー! 失礼な奴ー!」
慌ててその後を追うが、ハイエナの方が足が速い。追いつけたとしても、戦闘力指数30のネコが太刀打ちできる相手ではないのだ。
カプラはあと少しでヒマワリ畑に突入する。後ろを振り向き、追いかけてくる肉食獣を見つけて飛び上がる。
「きゃー!」
飛べない翼をばたつかせて、少しでも速度を稼ごうと頑張ってみる。
だが、畑に頭の先を突っ込んだところで、ついに追いつかれてしまった。
「グガガガーー!」
「いやああーー!」
ヒマワリをバリバリとなぎ倒してカプラに迫ってくるハイエナ。
とっさに飛び上がってヒマワリの茎をよじ登る。
次々となぎ倒される太陽の花の上、必死になって飛び回る。
「きゃあああー! 来ないでええー!」
「大人しくしろやああ!」
絶望的なまでの体格差と戦力差。相手が致命傷となる攻撃を繰り出してこれないことが唯一の救いだったが、もはや掴まるのは時間の問題だった。
黄色の大輪が無残に舞い散っていく。
「もう頭にきたにゃ!」
その時、少女としてのプライドを傷つけられたミーヤが、勇敢にもハイエナの背に飛び掛っていった。
ネコの姿でしがみつき、首筋に噛み付く。
「ぎにゃあああー!」
「あだだだだだ!」
慌てて振り払おうとするが、ハイエナの手は背中には回らない。
止む終えず獣人形態に戻ることになる。
その瞬間をめがけて、ミーヤは相手の顔面を思いっきり爪で引っ掻いた。
「ネコなめんにゃー!」
「てめええええ!」
ハイエナの獣人は取って代わってミーヤを追いかけ始めた。そのままトウモロコシ畑の方に引き返し、再び農作物の密林に突っ込んでいった二体の獣は、そこで猛然と追いかけっこを始めた。
ガサガサと緑色の海が波打っていく。
「ミーヤちゃん!」
このままでは彼女がやられてしまう。
ヒマワリの花の上で焦りに翼をはためかせながら、カプラは何とかできないかと考えた。
足も遅い、力もない、空も飛べない。そんな自分に出来ることはなにか? 答えは一つしかなかった。
「お願い、届いて!」
カプラは人の姿に戻って、大地の上に立った。
そして姿勢を正し、へその下に両手を当てて複式呼吸をした。
そしてこれまで歌い手として培ってきた技術を如何なく発揮し、限りなく高く澄んだ声で、力強く『救援』を叫んだ。
『誰か助けてー!!』
鋭い声が農園中に響き渡る。
ヒマワリの葉の上にいた数匹の虫が、びっくりして地面に落ちてきた。
まるで彼女の体全体が高性能スピーカーになったようだった。
『誰かあー!!』
カプラの声帯が破れる寸前に至った瞬間、農園の一角から銀色の影が飛び出してきた。
「ロン!!」
それは紛れもなく、オオカミとなったロンだった。
ネコとハイエナがデッドヒートを繰り広げているトウモロコシ畑の中に、一直線に飛び込んでいく。
直後、二つの獣がぶつかり合った衝撃で、畑の土が広範囲に渡って巻き上げられた。
とばっちりを食ったネコのミーヤが、カプラの元にポーンと放りだされてきた。
「ミーヤちゃん!」
「あにゃにゃー!?」
カプラはヒマワリ畑から走り出すと、その小さな獣を両手で受け止める。
「大丈夫!?」
「ひ、ひどい目にあったにゃ……」
――グガアアアアア!
――ウガグルルルル!
トウモロコシ畑の中では、すでに激闘が繰り広げられていた。
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