永久なるサヴァナ
サヴァナ
アフリカ南部に広がるサヴァナ平原。
太古の昔より、その広大な土地のある場所に、異空間へと続くゲートが存在していた。
それは高さ10m、幅5mの巨大な石の門である。その向こう側には、直径15km程の謎めいた円形の大地が広がっていて、その周縁は虹色に光輝く壁に囲まれている。
この地に最初の『ヒト』が足を踏み入れてから、数十万年の時が経っている。
そして今、この謎と神秘に満ちた空間には、150万の人口を抱える都市が築かれているのだった。
「――素晴らしい眺め」
最頂部420m。
80階立ての都庁舎の最上階『獅子長の間』。
壁一面に張り巡らされた巨大なガラス窓の向こうに広がる夜景を見下ろしながら、一人の老婦人が感嘆の声を漏らす。
「まさに欲望の都。全ての願いが叶うべき場所ですわね」
都庁舎を中心にして広がる高層建築の群れ。その下に広がる闇の中には、卑しい者達の住まう、夥しい規模のスラムが沈んでいる。
「お褒め頂きありがとうございます、マダム」
老婦人の隣に立っているのは、獅子の獣面を被った男。
その鍛え抜かれた巨体を、ダークグレーのスーツに包んでいる。
彼こそが、サヴァナの最高権力者たる獅子長、キング・ジョーその人だった。
ライオンの顔を精巧に模った獣面の奥から発せられる声は、雷鳴のように力強い。
「まだ開発の半ばではありますが」
「完成の日が楽しみですわ。私も頑張って長生きしなければ」
「フェンリルタワーの警備は万全です。最上階ペントハウスにてごゆるりとお過ごし下さい」
「ええ、それにしても不思議な所。ゲートを通って数日なのに、もう自力で立っていられる……」
婦人は己の手の甲を眺め、そこにあった黄疸がすっかり消えていることを確認する。
末期のすい臓がんに侵されてた彼女は、ついこの間まで死の淵にあった。
しかし石のゲートを潜りぬけ、膨大な金をつぎ込んで、サヴァナシティに安住の地を得てより数日、見違えるような回復を見せている。
「すべては不死の炎の恩恵にて」
獅子長はそう言うと、老婦人とともに夜空を見上げた。
そこには小さく月の形に翼を閉じた不死鳥が、静かな光を放っていた。
サヴァナに満ちる神秘の力――不死の炎。
この地に難病はなく怪我もすぐに癒える。
故に、身の内に燃える生命の炎が全て燃え尽きるまで、人々はその意志を貫くことが出来るのだ。
「本当に、大抵のものはお金で買えてしまいますわ」
老婦人は下界に向けて見せ付けるようにして、その五指にはめた巨大な宝石を煌かせた。
「その通りです、マダム」
だが獅子長は、その言葉を受けて表情を厳しくした。
「サヴァナの本質は力。そして金もまた力。しかしその言葉、ここではむやみに口にしない方がよろしい」
獅子は手のひらを夜景に向け、老婦人にもっとよく見るようにと促す。
するとその直後、眼前に広がる巨大な闇に、無数の赤い瞳が浮かび上がったのだ。
「……ひっ!?」
得体の知れないその恐怖に、老婦人は思わず身震いする。
無数の飢えた獣達が、肥え太ったブタを見上げて、その獰猛な牙を生やす口から止めどなくよだれを垂らしてる。
「命惜しくば努めて謙虚に。極力、獣達の眼に触れぬように」
「あああ……」
厳かに言い放たれる獅子の言葉を聞き届けることなく、老婦人はその場にへたれこんでしまう。
ここは弱肉強食の都市サヴァナ。
どんな強者も、いつかは地にひれ伏す場所である。
太古の昔より、その広大な土地のある場所に、異空間へと続くゲートが存在していた。
それは高さ10m、幅5mの巨大な石の門である。その向こう側には、直径15km程の謎めいた円形の大地が広がっていて、その周縁は虹色に光輝く壁に囲まれている。
この地に最初の『ヒト』が足を踏み入れてから、数十万年の時が経っている。
そして今、この謎と神秘に満ちた空間には、150万の人口を抱える都市が築かれているのだった。
「――素晴らしい眺め」
最頂部420m。
80階立ての都庁舎の最上階『獅子長の間』。
壁一面に張り巡らされた巨大なガラス窓の向こうに広がる夜景を見下ろしながら、一人の老婦人が感嘆の声を漏らす。
「まさに欲望の都。全ての願いが叶うべき場所ですわね」
都庁舎を中心にして広がる高層建築の群れ。その下に広がる闇の中には、卑しい者達の住まう、夥しい規模のスラムが沈んでいる。
「お褒め頂きありがとうございます、マダム」
老婦人の隣に立っているのは、獅子の獣面を被った男。
その鍛え抜かれた巨体を、ダークグレーのスーツに包んでいる。
彼こそが、サヴァナの最高権力者たる獅子長、キング・ジョーその人だった。
ライオンの顔を精巧に模った獣面の奥から発せられる声は、雷鳴のように力強い。
「まだ開発の半ばではありますが」
「完成の日が楽しみですわ。私も頑張って長生きしなければ」
「フェンリルタワーの警備は万全です。最上階ペントハウスにてごゆるりとお過ごし下さい」
「ええ、それにしても不思議な所。ゲートを通って数日なのに、もう自力で立っていられる……」
婦人は己の手の甲を眺め、そこにあった黄疸がすっかり消えていることを確認する。
末期のすい臓がんに侵されてた彼女は、ついこの間まで死の淵にあった。
しかし石のゲートを潜りぬけ、膨大な金をつぎ込んで、サヴァナシティに安住の地を得てより数日、見違えるような回復を見せている。
「すべては不死の炎の恩恵にて」
獅子長はそう言うと、老婦人とともに夜空を見上げた。
そこには小さく月の形に翼を閉じた不死鳥が、静かな光を放っていた。
サヴァナに満ちる神秘の力――不死の炎。
この地に難病はなく怪我もすぐに癒える。
故に、身の内に燃える生命の炎が全て燃え尽きるまで、人々はその意志を貫くことが出来るのだ。
「本当に、大抵のものはお金で買えてしまいますわ」
老婦人は下界に向けて見せ付けるようにして、その五指にはめた巨大な宝石を煌かせた。
「その通りです、マダム」
だが獅子長は、その言葉を受けて表情を厳しくした。
「サヴァナの本質は力。そして金もまた力。しかしその言葉、ここではむやみに口にしない方がよろしい」
獅子は手のひらを夜景に向け、老婦人にもっとよく見るようにと促す。
するとその直後、眼前に広がる巨大な闇に、無数の赤い瞳が浮かび上がったのだ。
「……ひっ!?」
得体の知れないその恐怖に、老婦人は思わず身震いする。
無数の飢えた獣達が、肥え太ったブタを見上げて、その獰猛な牙を生やす口から止めどなくよだれを垂らしてる。
「命惜しくば努めて謙虚に。極力、獣達の眼に触れぬように」
「あああ……」
厳かに言い放たれる獅子の言葉を聞き届けることなく、老婦人はその場にへたれこんでしまう。
ここは弱肉強食の都市サヴァナ。
どんな強者も、いつかは地にひれ伏す場所である。
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