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アシアセラフィカ ―久遠の傍観者―

ナガハシ

新人 ―2036年ー

《マインド・ログ 2036.5.25》


 五年目の春がやってきた。
 木の葉もまばらな裏の山林が、ザワザワと風音を鳴らしている。
 僕は小屋の近くの畑にトラクターを入れて、土の切り返し作業をしていた。


 道を挟んだ向こう側に広がるエレノアの草原は、開墾から5年たって少々雑草が目立つようになってきた。
 昨年のうちに、さらに追加で農地を購入し、新種の光発電性植物の種を冬の直前に撒いておいた。いわゆる、フロストシーディングと呼ばれる方法だ。
 耕された状態で冬を越えた畑は、水気をたっぷり含んで真っ黒な色をしている。まもなく気温の上昇とともに発芽を始めて、少しづつ緑がかってくるはずだ。


 農地発電用牧草新品種「カミカワ」。
 オーチャードグラスをベースにしたその極早生の光発電性植物は、牧草飼料としての価値が高く、生育も旺盛なのでエレノアよりも高い収益が期待できる。
 ただし欠点もある。カミカワはエレノアのように根茎繁殖をしないので、電子のやりとりをするネットワークが土の下に出来にくい。つまり、そのままでは集電効率が悪いのだ。


 なので、集電効率を上げるために、畑の至るところに電極を埋設する。
 そのぶん初期費用がかさんでしまうが、牧草売却収益の3年分ほどで回収できる。
 うまく行けば、今年の売電収入は二倍になっているだろう。


 野菜畑の方も、芋やトウモロコシばかり作っていても芸がないので、去年からトマトとナスを作っている。僕の両親が、生前よく作っていた野菜だ。種も同じものを種屋から取り寄せた。
 ビニールハウスの中に、さらに小さなビニールのトンネルを作って苗床にする。
 土の中に堆肥と藁、そして石灰窒素を混ぜ込んで発酵させ、トンネル内部の温度を上げて、発芽を促進する。


 ポッドに撒いたトマトの種が発芽した頃に、保坂さんが訪ねてきた。
 お土産にタラの珍味を持ってきてくれた。


「よう、うまくいっとるかい?」


 僕はビニールハウスに保坂さんを案内し、トマトの苗を見てもらった。


「おお、随分いっぱい作ったな」


 ビニールトンネルの中にずらりと並んだポット苗。おすそ分けをするにしても幾分量が多いのだが、僕は多めに作ってドライトマトにして、冬用の野菜にしようかと考えていた。


「いつもおすそ分けしてもらってますので。今年はお返ししようかと」
「ははは、それは楽しみだな。まあ、俺んとこでも食いきれねえほど作るんだけどな」


 保坂さんはそう言って豪快に笑うと、そのまま立ち話で今日の用件を話した。
 農業委員会に関係した話だった。


「今年また一人、電気畑を始める人が来るんだわ。それで、あんたにもちょっと世話みてもらえねえかって思ってさ。その人街から来る人なんだ」


 話によるとその人は、都市部で家電販売店に勤めていたのをやめて、家族四人で引越してくるのだという。


「家族で来るんですか? 農地発電だけでは食べてけないと思いますけど」
「奥さんが介護士の資格持っててさ、街の老人ホームで働いてくれるんだと。旦那さんも発電のことよく調べてきてるたいだし」


 久々の入植者ということで、保坂さんはとても嬉しそうにしていた。
 僕は喜んで、保坂さんの申し出を受け入れた。


 * * *


 光発電性植物の栽培は、そう難しいものではない。
 一度畑をおこして種を撒けば、ほぼ永続的に生えてくる。
 元々のベースになっているものが競合性の強い植物なので、他の品種に駆逐されることも少ない。
 施肥は春先と一番草刈り取り後の二回行うことが推奨されているが、しなかったからといって畑が駄目になるということもない。


 ただし、カミカワの作付けを行う時には、いくらか注意する点がある。
 一つは地中に金属片が埋まっていないかをよく確認すること。もう一つは、集電配線の取り回しだ。
 地中に金属が埋まっていると、そこが電極の役割を果たしてしまい、電流発生菌によって生み出された電子がそこから逃げてしまう。これは、草が生え揃ってしまってからだと取り出すのが難しいので、畑を起した際にやってしまわないといけない。
 出来るだけ人手を集めて、金属探知機をレンタルして畑中を調べまわるのだ。


 そして集電配線。
 適切に配置しないと野生動物の足に引っかかって切れてしまうことがある。
 出来るだけ一纏めにして、動物の通り道を避け、もし切れてもすぐにわかるようにしておかなければならない。


「今年からお世話になります、三春と申します」


 ある日の朝、僕のプレハブ小屋に三春さんが家族とともにやってきた。
 保坂さんが言っていた、今年から農地発電を始める人だ。


「これ、つまらないものですけども……」
「わざわざご丁寧に、ありがとうございます」


 僕の粗末なプレハブ小屋を見て驚くかと思いきや、特にそういった様子はなかった。農地発電をする人がしばしば使うものであることを知っているのだろう。越冬までする人はあまりいないのだけど。


 三春さん一家は、二人の息子さんのいる四人家族で、5月から町営住宅に移って暮しているそうだ。
 旦那さんの三春和之さんは43歳で、僕と同じ年だった。丸顔で鼻が大きく、小柄ではあるが逞しい体つきをしていて、もうすでに何年も農業をやっている人のように見えた。
 何でも、学生の頃から田舎暮らしにあこがれていて、市民農園を借りて野菜を作っていたのだという。


 長男は中学2年生で、次男は小学6年生。二人とも奥さんに似て細身で、どちらかと言えば室内で遊ぶことを好むようだった。
 二人とも町の学校に転校し、すでに全ての生徒と友達付き合いがあるらしい。小さな町なので、生徒数そのものが少ないのだ。
 奥さんは予定通り、町の福祉施設で働いている。家族全員が、今回の引っ越しに満足しているようだった。


「これがエレノアですか」
「これで5年目の畑です」
「へええ、思ったより雑草が生えないんですね……」


 若芽が生えてきたばかりの畑を、僕はしばし案内してまわった。









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