アシアセラフィカ ―久遠の傍観者―
戦い
《マインド・ログ 2020.4.17》
やがて機が熟した。
僕は、研究所四階の隅にある404会議室に彼らを呼び寄せた。
6人がけのテーブルが一つ置いてあるだけの部屋は、その不吉な部屋番号のために使われることの少ない場所だった。
「やあ、待たせたね」
指定の時刻から5分ほど遅れて彼らはやってきた。
まず、背が高い方の男が扉をくぐって入ってくる。それに隠れるようにして中背の男が入っていくる。
僕は立ち上がって二人を招き入れる。
彼らは、机の上に置いてある鍵付きの黒いケースを見て、やや警戒するような表情を見せてきた。
僕はひとまず、机の向かいに二つ並べた椅子を彼らにすすめる。
「これが例の画期的なアイデアってやつかい?」
座りにくそうに椅子を引き出しながら、男たちが聞いてくる。
「はい、これはまだ室長にも報告していません。僕が一人で研究を進めていたサンプルです」
「それを何でまた俺達に?」
「本社の方の意見をまず聞きたかったのです。室長は、ご存知の通り独立を目指していますので……」
といって僕は、僕がそちら側につく可能性があることを二人に示唆する。
「ああ、うちから特許を盗み出そうとしているんだ。困ったものだよね」
「味覚プリント装置の原始的特許権は、契約上、まだ新谷さん個人に帰属しています」
「帰属させることがまだ可能、と言うべきだな。まったく、会社の管理が甘いからこんな面倒なことになる。それで、早速そのサンプルとやらを見せて欲しいんだが……。出来れば早めに本社に戻りたいんでね」
男は僕から目をそらすことなく、そう告げてくる。
この時点で、言い表しようない威圧感を放っている。
場の雰囲気を征する能力が、ずば抜けているのだろう。
「機密のために会議室の鍵を閉めたいのですが、よろしいですか?」
「やけに慎重だな。こんなところ、誰も来やしないよ」
「一応、念の為に」
「ああ、かまわないからさっさとしてくれ」
僕は一度立ち上がって、会議室の入り口の前に行く。
そしてケースロックの鍵を回して扉を施錠した。
席に戻り、鍵付きケースのダイヤルキーを回す。
ケースの中には手の平ほどの大きさのプラスチック製のタッパー二つと、爪楊枝、そして果物ナイフが入っている。
「これがお話していたサンプルです」
手の平ほどの大きさのタッパーを開く。中には寒天状のサンプルが詰まっている。
ただし、普通の寒天のような透明感はなく、やや白濁している。
「これは?」
男の質問を聞き流して、僕はもう一つのタッパーを開く。
そこにはオレンジ色をしたゼリー状のものが詰まっている。
「メロンゼリーです。召し上がったことはありますか?」
「ああ、何度かな。あの果肉感があって美味いやつだろう」
「こちらの半透明の物もメロンゼリーです。ただし、味覚プリント装置で作ってあります」
「……なに?」
男たちの顔色が変わったのを、僕は見逃さなかった。
果物ナイフで二つのゼリーをさいの目状に切っていく。
そして爪楊枝を刺して二人に勧めた。
「食べ比べてみてください」
男たちはまず始めに、プリント装置で作った透明なゼリーを口にした。
「むっ」
「これは……」
続いて本物のメロンゼリーを口にする。
そして何度か交互に口に入れて、その再現性を確認する。
「素晴らしいな。俺もそれなりに舌には自信があるが、この二つの区別は殆どつかない。食感まで再現できてるじゃないか。どうやって作った?」
思ったとおり、食いついてきた。
「味覚プリントで作ったフィルムを積層しただけですが……若干の工夫はしてあります」
「なるほど。その工夫とやらについて聞いてみても?」
僕は首を横に振る。
「それは……ちょっと待ってもらいたいんです」
「ああそう。まあ今はいい、新谷のことは放っといていいから、とにかく研究を進めてしまってくれ、これは物になるかもしれない」
「ひとつ良いでしょうか?」
「なんだい?」
「プリント方式の開発は、10年は凍結するという話を聞いてますが、それでもこちらの研究は進めてしまっても良いのですか?」
そう僕が聞くと、男はやや表情をしかめてきた。
「そのことは追々、本社の人間と協議するよ。おそらくは別口でいけるだろう。君が気にするようなことじゃない」
「そうですか……」
このプリントシート積層のアイデアが、彼らにとって有効であることが確かめられた。
ここで僕は、勝負に打って出る。
まずは揺さぶりをかける。
いきなり二葉さんのことを聞いても、まず取り合ってもらえないだろうから。
「さし当たって、三次元味覚再現装置と名付けておきます。もし商品化の目途が立ったとして、どのような形で売り込むことになるのでしょう」
「なに?」
僕がこのようなことを言うとは思っていなかったのだろう。
男達は、二人同時に身を乗り出してきた。
まるで、僕を威嚇するかのように。
「そんなことはまだ考えなくていい」
「どうして俺達がそんな話をしなきゃならないんだ」
二人して僕に抗議してくる。
だが、僕は続ける。
「いいえ、そんなことはないと思います」
「はあ?」
僕の態度の変化を読み取ったのか、男たちは緊張した様子になる。
「何が言いたい」
「僕はまだ、この研究を会社のために続けるとは言っていません……。室長に付いて行くかどうか、決めかねている状態なんです」
「なるほど……。それでこのメロンゼリーの工夫とやらについて黙っているわけか」
「はい」
その工夫の内容については、今は僕の頭の中にしか無い。
つまり三次元味覚再現装置の研究を進めるためには、僕を会社側に引き入れておく方が有利というわけだ。
どこまで有効がどうかはわからないが、これが僕が持っている唯一の武器だった。
「なにか交渉したいことがあるんだな? 金か? 待遇か? どっちに行けば旨みが多いか天秤にかけている。そうであれば、新谷に付いて行くより、ここに残った方が有利だと断言できるな」
「それはどういう……」
「大手のバックアップが付いているからだよ。プリント方式の10年間凍結ってのはな、つまり他社さんが作ってる電気パルス方式が十分に普及するまで待てって意味なんだ。まずは市場に、味覚デバイスという概念をはっきり植えつけてやらなきゃならない。それにはコストが安くて量をさばける電気パルス方式が有効なんだ」
そこで男は、居心地が悪そうにネクタイをいじった。
プリント方式が先に普及してしまっては、電気刺激方式が売れなくなってしまう。
出来るだけ利益を出せる機会を多くしようという考えなのだ。
「これは他言無用だぞ? あの新谷氏にも言ってないことだ。あの人、勝手に動きまわって、あれこれとダメにしてくれそうだからね」
しかし、どこまで本当のことを言っているのか、僕には正直判別がつかなかった。
ともかく僕に会社に残ったほうが良いと説得にきているようだ。
「正式な決定ではないが、その後はテレビ局も巻き込んで、うちの味覚プリント方式を国内市場向けに売り込んでいく手はずになっている。大手メーカーに加えて、テレビ局までバックアップしてくれる。独立開業した小企業では、まず望みようのない条件だ。新谷さんについて行っても出来ることは限られるだろう。これが、君がこの会社に残ったほうが良い理由だ」
言われると、確かにそうした方が良いような気になってくる。
詳しくは語られないが、味覚デバイスに関しては、相当大掛かりな枠組みがすでに出来上がっているのだ。
だが僕は、彼が二葉さんを洗脳したことを知っている。
そうやすやすと、彼らの言葉に乗るわけにはいかないのだ。
「俺達は今、結構なことを君に打ち明けたんだ。そんな顔しないで、少しは信用してくれないかな」
どうやら顔に出ていたようだ。
僕は少しうつむき加減で、これからどう話を持って行こうかと考えた。
二葉さんの一件がある以上、信用するなんて元から無理な話だ。
このまま販売戦略の話をしていても仕方がない。
無関係な人を洗脳してまで、強引に問題を解決しようとすることの、真の理由が知りたかった。
「ここで僕がお二人を信用するには、決定的に互いの理解が欠けていると思います」
「ふん、まあ確かにそうかもしれないな。一体何が知りたい?」
そう言って男は、ふてぶてしく背もたれに体を預ける。
味覚プリンタの販売を始めるのは、今から10年後。それだけ時間が経てば、二人の地位も随分と変化しているはずだ。
もしかすると、この会社の役員クラスになっているかもしれない。
つまりこのまま会社に残れば、僕はいずれ二人の下で働くことになるのだ。
ここで二葉さんの話を持ちだしてもよかった。
彼女から手を引いてくれれば、僕は二人の下につくことも構わなかった。
だが、二人の全身から放たれる威圧感が、僕にその話題を切りださせることを阻んでいた。
「味覚プリンタのグレードは現在3種類あります。15要素、30要素、120要素。使う味の要素が増えるほど、再現性は高くなります。一番ローコストな15要素だと、性能的には電気パルス方式といい勝負です。明らかな差異を示すには、最低でも30要素以上が必要だと僕は考えています。その点の考えをお聞かせいただけませんでしょうか」
「ふん……なんでそんなことを」
「ちょっと面白いアイデア思いついたくらいで、調子に乗らないほうがいいぜ、あんた」
二人はそういって威圧してきた。
僕は頭を必死に回転させながら言葉をつなぐ。
「研究者はコンピューターではありません。意地と誇りと理想をもった一人の人間です。理想なくして研究は続けられない。先々の明確なビジョンが無ければ、息を飲むような発想は出てこないものだと思います」
「そうですか? じゃあ逆に聞かせてもらいましょうかね。あなたの理想とやらを」
「はい、ただしこれは僕個人の理想ではなく、室長と、研究室一同の共通する理想です……」
そして僕は、二人に語って聞かせた。
味覚再現装置を通して、食文化のさらなる発展に貢献したいと考えていること。
食文化の世界的な交流を活発化させて、より人々の理解を深めていきたいと考えていること。
その先に生まれる新たな価値観が、さらなる市場の可能性を切り開いていくだろうということ。
二人しばし黙って僕の話を聞いていた。
だが、ある瞬間にプッと吹き出し、そして頭を抑えながらクツクツと笑い始めたのだ。
やがて機が熟した。
僕は、研究所四階の隅にある404会議室に彼らを呼び寄せた。
6人がけのテーブルが一つ置いてあるだけの部屋は、その不吉な部屋番号のために使われることの少ない場所だった。
「やあ、待たせたね」
指定の時刻から5分ほど遅れて彼らはやってきた。
まず、背が高い方の男が扉をくぐって入ってくる。それに隠れるようにして中背の男が入っていくる。
僕は立ち上がって二人を招き入れる。
彼らは、机の上に置いてある鍵付きの黒いケースを見て、やや警戒するような表情を見せてきた。
僕はひとまず、机の向かいに二つ並べた椅子を彼らにすすめる。
「これが例の画期的なアイデアってやつかい?」
座りにくそうに椅子を引き出しながら、男たちが聞いてくる。
「はい、これはまだ室長にも報告していません。僕が一人で研究を進めていたサンプルです」
「それを何でまた俺達に?」
「本社の方の意見をまず聞きたかったのです。室長は、ご存知の通り独立を目指していますので……」
といって僕は、僕がそちら側につく可能性があることを二人に示唆する。
「ああ、うちから特許を盗み出そうとしているんだ。困ったものだよね」
「味覚プリント装置の原始的特許権は、契約上、まだ新谷さん個人に帰属しています」
「帰属させることがまだ可能、と言うべきだな。まったく、会社の管理が甘いからこんな面倒なことになる。それで、早速そのサンプルとやらを見せて欲しいんだが……。出来れば早めに本社に戻りたいんでね」
男は僕から目をそらすことなく、そう告げてくる。
この時点で、言い表しようない威圧感を放っている。
場の雰囲気を征する能力が、ずば抜けているのだろう。
「機密のために会議室の鍵を閉めたいのですが、よろしいですか?」
「やけに慎重だな。こんなところ、誰も来やしないよ」
「一応、念の為に」
「ああ、かまわないからさっさとしてくれ」
僕は一度立ち上がって、会議室の入り口の前に行く。
そしてケースロックの鍵を回して扉を施錠した。
席に戻り、鍵付きケースのダイヤルキーを回す。
ケースの中には手の平ほどの大きさのプラスチック製のタッパー二つと、爪楊枝、そして果物ナイフが入っている。
「これがお話していたサンプルです」
手の平ほどの大きさのタッパーを開く。中には寒天状のサンプルが詰まっている。
ただし、普通の寒天のような透明感はなく、やや白濁している。
「これは?」
男の質問を聞き流して、僕はもう一つのタッパーを開く。
そこにはオレンジ色をしたゼリー状のものが詰まっている。
「メロンゼリーです。召し上がったことはありますか?」
「ああ、何度かな。あの果肉感があって美味いやつだろう」
「こちらの半透明の物もメロンゼリーです。ただし、味覚プリント装置で作ってあります」
「……なに?」
男たちの顔色が変わったのを、僕は見逃さなかった。
果物ナイフで二つのゼリーをさいの目状に切っていく。
そして爪楊枝を刺して二人に勧めた。
「食べ比べてみてください」
男たちはまず始めに、プリント装置で作った透明なゼリーを口にした。
「むっ」
「これは……」
続いて本物のメロンゼリーを口にする。
そして何度か交互に口に入れて、その再現性を確認する。
「素晴らしいな。俺もそれなりに舌には自信があるが、この二つの区別は殆どつかない。食感まで再現できてるじゃないか。どうやって作った?」
思ったとおり、食いついてきた。
「味覚プリントで作ったフィルムを積層しただけですが……若干の工夫はしてあります」
「なるほど。その工夫とやらについて聞いてみても?」
僕は首を横に振る。
「それは……ちょっと待ってもらいたいんです」
「ああそう。まあ今はいい、新谷のことは放っといていいから、とにかく研究を進めてしまってくれ、これは物になるかもしれない」
「ひとつ良いでしょうか?」
「なんだい?」
「プリント方式の開発は、10年は凍結するという話を聞いてますが、それでもこちらの研究は進めてしまっても良いのですか?」
そう僕が聞くと、男はやや表情をしかめてきた。
「そのことは追々、本社の人間と協議するよ。おそらくは別口でいけるだろう。君が気にするようなことじゃない」
「そうですか……」
このプリントシート積層のアイデアが、彼らにとって有効であることが確かめられた。
ここで僕は、勝負に打って出る。
まずは揺さぶりをかける。
いきなり二葉さんのことを聞いても、まず取り合ってもらえないだろうから。
「さし当たって、三次元味覚再現装置と名付けておきます。もし商品化の目途が立ったとして、どのような形で売り込むことになるのでしょう」
「なに?」
僕がこのようなことを言うとは思っていなかったのだろう。
男達は、二人同時に身を乗り出してきた。
まるで、僕を威嚇するかのように。
「そんなことはまだ考えなくていい」
「どうして俺達がそんな話をしなきゃならないんだ」
二人して僕に抗議してくる。
だが、僕は続ける。
「いいえ、そんなことはないと思います」
「はあ?」
僕の態度の変化を読み取ったのか、男たちは緊張した様子になる。
「何が言いたい」
「僕はまだ、この研究を会社のために続けるとは言っていません……。室長に付いて行くかどうか、決めかねている状態なんです」
「なるほど……。それでこのメロンゼリーの工夫とやらについて黙っているわけか」
「はい」
その工夫の内容については、今は僕の頭の中にしか無い。
つまり三次元味覚再現装置の研究を進めるためには、僕を会社側に引き入れておく方が有利というわけだ。
どこまで有効がどうかはわからないが、これが僕が持っている唯一の武器だった。
「なにか交渉したいことがあるんだな? 金か? 待遇か? どっちに行けば旨みが多いか天秤にかけている。そうであれば、新谷に付いて行くより、ここに残った方が有利だと断言できるな」
「それはどういう……」
「大手のバックアップが付いているからだよ。プリント方式の10年間凍結ってのはな、つまり他社さんが作ってる電気パルス方式が十分に普及するまで待てって意味なんだ。まずは市場に、味覚デバイスという概念をはっきり植えつけてやらなきゃならない。それにはコストが安くて量をさばける電気パルス方式が有効なんだ」
そこで男は、居心地が悪そうにネクタイをいじった。
プリント方式が先に普及してしまっては、電気刺激方式が売れなくなってしまう。
出来るだけ利益を出せる機会を多くしようという考えなのだ。
「これは他言無用だぞ? あの新谷氏にも言ってないことだ。あの人、勝手に動きまわって、あれこれとダメにしてくれそうだからね」
しかし、どこまで本当のことを言っているのか、僕には正直判別がつかなかった。
ともかく僕に会社に残ったほうが良いと説得にきているようだ。
「正式な決定ではないが、その後はテレビ局も巻き込んで、うちの味覚プリント方式を国内市場向けに売り込んでいく手はずになっている。大手メーカーに加えて、テレビ局までバックアップしてくれる。独立開業した小企業では、まず望みようのない条件だ。新谷さんについて行っても出来ることは限られるだろう。これが、君がこの会社に残ったほうが良い理由だ」
言われると、確かにそうした方が良いような気になってくる。
詳しくは語られないが、味覚デバイスに関しては、相当大掛かりな枠組みがすでに出来上がっているのだ。
だが僕は、彼が二葉さんを洗脳したことを知っている。
そうやすやすと、彼らの言葉に乗るわけにはいかないのだ。
「俺達は今、結構なことを君に打ち明けたんだ。そんな顔しないで、少しは信用してくれないかな」
どうやら顔に出ていたようだ。
僕は少しうつむき加減で、これからどう話を持って行こうかと考えた。
二葉さんの一件がある以上、信用するなんて元から無理な話だ。
このまま販売戦略の話をしていても仕方がない。
無関係な人を洗脳してまで、強引に問題を解決しようとすることの、真の理由が知りたかった。
「ここで僕がお二人を信用するには、決定的に互いの理解が欠けていると思います」
「ふん、まあ確かにそうかもしれないな。一体何が知りたい?」
そう言って男は、ふてぶてしく背もたれに体を預ける。
味覚プリンタの販売を始めるのは、今から10年後。それだけ時間が経てば、二人の地位も随分と変化しているはずだ。
もしかすると、この会社の役員クラスになっているかもしれない。
つまりこのまま会社に残れば、僕はいずれ二人の下で働くことになるのだ。
ここで二葉さんの話を持ちだしてもよかった。
彼女から手を引いてくれれば、僕は二人の下につくことも構わなかった。
だが、二人の全身から放たれる威圧感が、僕にその話題を切りださせることを阻んでいた。
「味覚プリンタのグレードは現在3種類あります。15要素、30要素、120要素。使う味の要素が増えるほど、再現性は高くなります。一番ローコストな15要素だと、性能的には電気パルス方式といい勝負です。明らかな差異を示すには、最低でも30要素以上が必要だと僕は考えています。その点の考えをお聞かせいただけませんでしょうか」
「ふん……なんでそんなことを」
「ちょっと面白いアイデア思いついたくらいで、調子に乗らないほうがいいぜ、あんた」
二人はそういって威圧してきた。
僕は頭を必死に回転させながら言葉をつなぐ。
「研究者はコンピューターではありません。意地と誇りと理想をもった一人の人間です。理想なくして研究は続けられない。先々の明確なビジョンが無ければ、息を飲むような発想は出てこないものだと思います」
「そうですか? じゃあ逆に聞かせてもらいましょうかね。あなたの理想とやらを」
「はい、ただしこれは僕個人の理想ではなく、室長と、研究室一同の共通する理想です……」
そして僕は、二人に語って聞かせた。
味覚再現装置を通して、食文化のさらなる発展に貢献したいと考えていること。
食文化の世界的な交流を活発化させて、より人々の理解を深めていきたいと考えていること。
その先に生まれる新たな価値観が、さらなる市場の可能性を切り開いていくだろうということ。
二人しばし黙って僕の話を聞いていた。
だが、ある瞬間にプッと吹き出し、そして頭を抑えながらクツクツと笑い始めたのだ。
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