50年前に滅びた世界で

たかき

第38話 コミュニケーション

「あ、あれは……」 

建物端っこからそれを見たアンジェラが、少し震えた声でそう言う。まぎれもない。本物のドラゴンだった。いや、正確にははワイバーンか。とにかくでかい羽根がついた生き物だ。はっきり言って滅茶苦茶強そうだ。

「ねえちょっとユウト、もう先っちょ見たんだからもう離れようよ……」

彼女は怯えたよう顔をし、震えた声でそう言った。あの竜を見て、恐怖心を抱いているみたいだ。俺の服を引っ張って離れるようにと促している。

「……う」
「う?」
「……うおぉぉおぉぉぉ! かっけぇぇぇぇぇぇ!」

が、俺は彼女とは違った。ワイバーンがいるなんてまさに異世界、これぞ異世界。まさかこの滅びた世界で生でワイバーンと出会うことができるだなんて思ってもみなかった。俺はアンジェラの魔法を初めて見たとき並みに興奮した。

「……ちょっと! なに大きな声出してるの!? そんな大きな声出すと、あー……とにかくなんかやばそうじゃん!」
「え、あ、確かに。どうもすいません……えーと。あれ、襲ってきたりしませんよね?」

その俺の様子に対し、彼女は慌てて静かにするように言った。彼女のその言葉を聞き、少し冷静になり、そして俺がやってしまった失態の大きさに気が付いた。確かに、俺の声でこちらに気が付いたら、何が起きるか分かったものではない。
思わず敬語でアンジェラに確認を取るが、彼女は無言のままだった。あのワイバーンの方を見て呆然としている様子だった。何かあるのかと思い俺もワイバーンの方を見ると、そのワイバーンがばっちりこっちの方を見ていた。というか今多分俺と目が合った。

「……これはやってしまいましたなぁ」

こっちを見ているのは俺がかっこいいと興奮して大声を出したせいだろう、100%そうだ。
そういえば、前にドラゴンを見かけたことがあるとアンジェラはいっていた。もし見つかっていたら襲われたかもしれないとも。あのワイバーンがおとなしくない性格だった場合、ブレスやらなんやらで攻撃される可能性もある。

「どどどどうしよう!?」
「ええいやそんなこと言われても」

ワイバーンがこっちを向いているのはきっと俺のせいなのだが、しかし俺は妙に冷静になっていた。反対にアンジェラはかなり慌てている。
とりあえず顔を出すのは2人ともやめているのだが、ここはチャリのとこに戻ってかっ飛ばして逃げるべきなのだろうか。いや、チャリごときでは空を飛ぶことができるワイバーンには簡単に追いつかれてしまうだろう。建物の中に入るべきかと思い周りを見るものの、このあたりの建物は多くが大なり小なり崩れており、中に入るというのは難しそうだ。
ここらに洞窟か何かはないか。穴があったら入りたいと、俺は強く思った。恥ずかしさからではなく命の危機を感じているからだが。
その時。

『そこにいるのは……人間か?』
「こいつ直接脳内に……!」

思わずそう言ってしまった。何も聞こえてはいないはずなのだが、今マジでテレパシー的な何かで脳内に直接語り掛けてきた。俺だけでなくアンジェラにも聞こえたみたいで、辺りをキョロキョロとみている。

「え? 今のって……」
『そんなに怖がらなくてもいいだろう……わしももう攻撃する力も、飛ぶ力も残っていない』
「え……もしかして、あのドラゴンが?」

彼女が周りをきょろきょろと見渡しながら、そう驚いたような声を出した。周りに他の生き物もいないみたいだし、どうやらあのワイバーンがこちらに語り掛けているということで間違いないみたいだ。角から様子をうかがったが、口元辺りは動いてる様子はなさそうなので、テレパシーやら魔法やらで語り掛けているのだろう。

『おぬしらは……人間か? それともエルフかのう』
「あ、いや。アイアム人間です」
『ふむ、そうか……その姿を見てみたい、こっちに来てくれんかのぅ』
「え? いやーどうでしょう」
『心配せんでも、食ったりしないわい』
「え、えーっと……じゃあ、お言葉に甘えて?」

特に甘えたつもりはないが、せっかくなので恐る恐る近づいてみる。改めてその姿を見ると、やはりかなり大きく感じる。さすが異世界とでもいうべきだろうか。こんな巨大生物が空を飛んでいるだなんて。
実は俺たちを食べる気でいて、近づいたところを一気に襲われるかもしれないと思ったが、そんなことはなく、そのワイバーンは何もすることはなかった。ゆっくりと近づいていき、距離にして2mぐらい離れているところまで近づいた。

『ほう、お主は人間か……もう1人はどうしたんじゃ?』
「いや、隣に……いない」

隣にいると勝手に思っていたのだが、どうやらそれは違ったみたいだった。振り返ってみると、建物の陰からこちらの方を見ているアンジェラがいた。どうやらこのワイバーンのことを怖がっているみたいだ。

「うー……」
「……怖がってるみたいですね」
『ほっほ。そんなに怖がらなくても大丈夫じゃぞ』
「ほら、このワイバーンさんも言ってる……言ってる? し、多分大丈夫だから、こっちにおいで」

一応、ワイバーンに害を与える気はないらしいし、もっと近づても大丈夫だというのを彼女に伝える。
やがて彼女は陰からひょっと出てくると、ストストと近づき、そして、俺のすぐ後ろにまで来ると、俺の背中に手を添えてワイバーンの方をちらりと見ていた。どうやらワイバーンから見えないよう、あるいはワイバーンを見ないように俺の後ろに隠れたいみたいだ。
どうも、まだこのワイバーンへの不信感は拭えていないみたいだ。

「まだちょっと怖がってるみたいですね……」
『まあ、構わん構わん……しかし、人間を見るのは2年ぶりじゃなぁ』
「2年ぶり?」
『そうじゃ。ごくわずかだが、人間などの生き残りが地上にいる。わしが最後に人間を見たのは、2年ほど前に小さな村みたいなところで集まっている群れじゃ。見たといっても遠くから見ただけじゃがな』
「はへー」

やっぱり、この子以外にもちゃんと生存者はいるんだな。それだけでなく小さな村みたいなものを作ったりもしているというのは、結構重要な情報ではないだろうか。距離とかにもよるだろうが、行き当たりばったりではなくそこを目指してみるというのもいいかもしれない。

「その村ってのは、何処にあるんですか?」
『ううむ……2年も前じゃからな。すまんが、場所は覚えとらん』
「ああ……まあしょうがないか」

残念ながら俺の計画は頓挫してしまった。その村の位置が分かるのであれば行ってみるというのも考えたのだが。まあ俺も2年前の夕飯とか覚えていないし、忘れてしまったというのは仕方がないことだ。できれば覚えてほしかったけど。

「そういえばちょっと聞きたいことがあるんですが、ワイバーンさんはいつ生まれたんですか? ひょっとして崩壊前の生まれなんですか? それとも後?」

確かアンジェラの話では50年ほど前に滅びたとか言っていたはずだ。もしそれより前に生まれたのなら、滅びる前のことを知っているかもしれないし、後なら後でどこで生まれたのかが気になってくる。

『わしか? わしが生まれたのは……まあ大体130年くらい前かのう』
「ああ、130年前……え!?」

一瞬耳を疑ってしまったが、そういえば耳で聞いているわけではないんだったというのを思い出した……と、そんなことはどうでもいい。このワイバーンは俺の予想よりもはるかに前に生まれていたらしい。

「ま、マジっすか!?」
『うむ、まあ正確な年月はわからんが、大体そんぐらいじゃ』
「ほへー」

確か人間でギネス登録されている世界最長寿が120歳ぐらいだったと思うので、このワイバーンはそれ以上生きているということになる。メチャクチャおじいさんである。

「ワイバーンってそんなに長生きするんですか?」
『いや、大体は5、60年ほどで息絶えることになるが、一部は100年、200年と生きることになる。わしがそんなに生きるとは思っていなかったんじゃがの』

つまりこのワイバーンが特別ということか。いずれにしても、すごいことである。

「えっと、じゃあもしかしてこの世界が滅んだ理由とか知っているんですか?」
『うむ。わしもすべてを知っているわけではないが……まあ、話せることもそれなりにはある。少し長くなるかもしれんが、いいかのう?』
「ノープログレムです」

お経とか校長先生の長い話とかを聞いてたらぐっすりと眠る自信はあるのだが、それでもこのワイバーンの話を聞いても寝ることはなさそうだ。どうやら、もっと詳しい話を聞いた方がよさそうだ。




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