50年前に滅びた世界で

たかき

第13話 朝のひと時

「おーい、朝だよー」
「んぐぁ……」

誰かの声によって意識が覚醒し始める。
おかしい。1人暮らししているので時計のアラーム以外で起こされるということはないはずなのだが。テレビをつけたままにしてしまったのだろうか。

「……そういえば今日学校……って、ここ異世界だったか」

意識がしっかりしていくとともに、昨日起きたことを思い出していく。昨日の出来事は夢なんかじゃない。ほっぺをつねってみると、少し痛みを感じた。異世界へときてしまったということは間違いないみたいだ。

「朝のご飯はどうしよう……昨日見つけた瓶詰でいい?」
「ああ、どうぞ」

重い瓶の方から消化しとかないとね、彼女はそういいながらバッグから瓶詰を取り出していった。
俺はというとまだかなり眠い。スマホをを見ると午前3時前を示していた。いつもならまだいびきをたててぐっすりと眠っている頃だ。異世界と日本との時差は4時間ぐらいだろうか。

「ふあぁぁぁ……ちょっと寒いな……」

あくびをしながら布団から半身を出すと、その出した部分の体温を冷気が奪っていく。試しに息をはいてみると、少し白くなった。布団の外は結構冷えているみたいなので、布団からあんまり出たくない。だが、彼女がいろいろとしてくれているのに俺は布団の中に引きこもっているというのはなんとなく罪悪感を覚えるので、俺はおとなしく布団から出た。

(そういえば、昨日は同じ布団で寝たんだよな……)

昨日は色々あってこの子を抱きしめながら寝てしまったが、特にえっちコンロが点火するような展開はなかった。なんかいろいろあって結局この子に抱き着いてしまった気がするが、別に他意はない、多分。
しかし、こんなおなごと密着して寝ていること自体点火するようなことではないだろうか。そう考えると色々とまずい気がする。しかしこの子は特に気にしていないみたいだし……

「あんまりいろいろ考えてもしょうがないか……」
「どうしたの? 難しい顔して」
「ああいや、ちょっと考えていただけ」
「ふーん……」

ありきたりな回答をしてお茶を濁す。馬鹿正直に考えていたことを伝える必要はないだろう。
彼女はこちらに興味をなくしたと思ったら、そうそう、といい、なにか思い出したような表情をした。

「今日の夜さぁ、私を抱いたでしょ?」
「くぁwせdrftgyふじこlp!」

彼女の発言に、思わず叫び声を出してしまった。人間が発声不可能な感じの声になってしまったかもしれない。とにかく叫んだ。

「だ、大丈夫?」
「すいませんでした。いや別に僕にそんな抱き着いてみたいなーという下心がなかったと証明することは不可能かもしれないけど、僕は清廉潔白ですいやそれも証明しろといわれたら無理だけどほんとこの通りですのでちょっと刑事訴訟だけは勘弁して下さいほんとお願いします」

よくわからない言葉を言いながら深々と頭を下げる。もう90度くらいはは下がっているだろうか。家族でもなんでもない幼い女の子と同じ布団で一夜を過ごす……
完全に事案である。彼女から求められたとかそんなことは関係ない。もしこれが公に出たら、待っているのは社会的死だ。この世界は社会が死んでいるけど。

「け、けーじ……?」
「あなたのお怒りはごもっともですが、私も前途ある若者でして、どうかここは……」
「いや私怒ったりなんかしてないよ?」
「どうか私へのお慈悲を……へ?」
「ありがとう言いたかっただけだよ……?」
「あ、そうなんすか」

どうやら俺はとんだ勘違いをしていたみたいだ。どうやら社会的抹消をされなくて済むみたいだ。もしこの件が公の出たら事案として全国に知れ渡ること間違いない。ツイ垢も特定されて炎上間違いなしである。そうでなくてもここでさよならとか言われたらもう俺は野垂死ぬしかない。いやぁよかったよかった。

「……そういえば、ありがとうってのは?」
「えっとね、昨日、夢を見ていたの。あんまり覚えていないんだけど、お父さんが死んだときの夢だと思う」

アンジェラはバッグから取り出した瓶詰のふたを取ろうとしながら、話をつづけた。
夢を見ていたのは、彼女が寝言を言っていた時だろう。あの時見ていたのはやはりお父さんの夢だった見たいだ。

「それで悲しくなっていた時、急に心があったかくなって、気持ちが楽になって……それで、起きたらユウトが私に抱き着いていたから、そのおかげかなって」
「あー、なるほど」

確かに、俺が抱いた後は悲しげな表情が消えていた。彼女の言う通り、俺のおかげなんだろうな。やっぱり俺の行為は正しかったのである。うん。

「だから、えっと……」

今まで缶詰を出すなどしていた彼女は、俺の方へと顔を向けた。

「ありがとね、ユウト!」

彼女は俺に向けて、にかっと笑みを浮かべた。
彼女の笑顔は、今まで見た笑顔の中でも特に可憐で、いとおしくて、そしてかわいかった。



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