50年前に滅びた世界で

たかき

第11話 1日の終わり

探索を終えたころには空はほとんど暗くなり、少し赤い光が残っているだけになった。もうすぐ夜なのだが、スマートフォンを見るとまだ午後3時過ぎであると表示された。
どうやら日本と異世界との時差があるみたいだ。現地時刻で何時なのかはわからないが、感覚的には午後6時か7時当たりかもしれない。そもそもこの世界が1日24時間なのかどうかはわからないが。
今日は廃墟と化した建物をお借りして一夜を過ごすこととなった。今は今まで見た中で一番マシな感じの建物の一階にいる。中は他の建物と変わらずボロくなっているが、それでも物が散乱していたりとかはしておらず、それなりの空間を保っている。
今はアンジェラが夕食を作っている。メニューは任せているのだが、どうやら今日探索して見つけた乾麺をさっそく食べるみたいだ。落ちていた葉っぱや木の枝などを集め、魔法で火をつけ、持っていた鍋に水を入れて麺をゆでたりしているところだ。一方の俺はというと、学生カバンの中に入れていた本を読み漁っていた。本といっても教科書とかではない。ラノベである。
カバンの中には教科書やノートよりも漫画や小説のほうが多いというのに突っ込む人はいない。面白いからね、しょうがないね。

「ごはんできたよー……何見てるの?」
「いやぁ、ラノベ」
「らのべ……って?」
「うーんと、小説の種類の1つだよ……あ、できたのね」

ついさっき麺をゆで始めたと思っていたのだが、いつの間にか平べったいお皿2つに麺が盛り付けられている。時がたつのは早いものだ。
彼女は俺に麺が乗っているお皿とフォークとスプーンが一体になったようなやつを渡してくれた。麺からは湯気が立ち上り、匂いが辺りへとたちこめる。

「じゃあ、いただきまーす……あちち。うん、おいしいよ」
「ほんとに? 嬉しいなぁ」

今は今日見つけた瓶に入ったパスタのような麺を食べているのだが、麺はまんまパスタだった。料理の味付けは塩のみのシンプルなものだが、結構おいしい。できればコショウか唐辛子辺りが欲しかったが、ないものねだりをしてもしょうがない。麺以外にはそのあたりで採取した緑色の野菜的な何かも入っているが、こっちの味も中々である。
彼女の方を見ると、俺と同じように麺をおいしそうにほおばっていた。その姿を見ているだけで更においしさアップである。
あっという間に、という訳ではないが、数分後には2人とも料理を完食した。

「ごちそうさまでした。結構おいしかったよ」
「よかったー、宇宙人さんがおいしいって思ってくれるか心配だったんだー」
「いやいや、うまかったうまかった。あと宇宙人呼ばわりはやめてほしい、俺はグレイとかじゃないぞ」
「えーっと、ぐれいってなんなの?」
「うーん、人々の妄想の産物? 俺にもよくわからん」
「……なんかよくわかんないけどまあいいや」

宇宙人とは呼ばないでくれよとくぎを刺したが、そういえば地球人も宇宙人から見れば宇宙人だということを聞いたことがある。日本人も外国人から見れば外国人だという感じだろうか。
まあ、そんなことはどうでもいいだろう。気にせず会話を続ける。

「えーっと、アンジェラちゃんはどうだったかな?」
「いつも食べている缶詰とかよりもおいしかった、けど……」
「けど?」
「うーん、やっぱりあのぽてちってやつが今までで一番美味しかったかなー。また食べたいなぁ」
「あー、あれ1つしかもっていないから無理かな……ごめんね」
「えー、残念」

僕の宣告を聞き、彼女は少し残念そうな表情をしたがないものないのだ。仕方がない。
本当はたけのこを模したクッキーと歌舞伎の家紋が刻まれているせんべいがあるのだが、それはしばらくはとっておいとこう。
しかし、やっぱきのこよりたけのこだよな。リアルのほうもきのこよりたけのこの方が好きだし。まあ一番好きなのはコアラを模したお菓子なのだが。

「夕飯も食べ終わったし、今日はもう寝よう」

腹ごしらえは済んだので今度は何をするのかと思ったが、どうやら彼女はもう寝るみたいだ。
こんな世界、娯楽らしい娯楽もないとおもうので陽が沈むと同時にやることもなくなるのだろう。
昔の人は太陽が沈むのと同時に睡眠についていたというし、こんな世界ではその生活もあっているのかもしれない。
かく言う自分も特にやることはなかった。スマホも電波が通じない以上大したことはできないだろう。一応、学生鞄の中にはソーラーパネルと手回し発電機能付きのモバイルバッテリーがあるので電池の心配はいらないのだが。
クロスワードとオセロ、パズルあたりはオフラインでもできるだろうか。まあ、今夜はやらないで眠ることにしよう。

「そうか……俺はどこで寝よっかな」
「どこって、ここしかないじゃん」

アンジェラはバッグから出していた布団みたいなのを指さした。

「ほらここ。一緒に寝よー」
「マジか」

彼女は布団にくるまると、手で入るよう誘うポーズをした。
確かに寝具は他にないので、ここで寝ないとなると何も使わないで眠ることになるだろう。今は結構寒いので、そんなことしたら多分一日中眠れないことになるかもしれない。
どうやら、彼女の言う通り一緒にくるまって寝なければいけないみたいだ。

「はやくはやくー」
「え、じゃあ……お邪魔いたします」

意を決して布団の中に入る。別に僕がかわいい女の子と一緒に寝たいとか思っているわけではなく、布団が1つしかないから一緒に寝るしかないという極めて合理的な理由があるから致し方なく入るだけである。
布団は麻袋みたいなやつで結構薄手だったが、保温性はそれなりにあるみたいだ。結構あったかい。

「じゃあ、さっそくグルグル巻きになろー」
「え、なんで」

一緒の布団に入るだけでも色々とあれなのに、その上布団をぐるぐる巻きにするだなんてもう密着すること間違いなしである。ちょっとそれはいいのだろうか。

「なんでって……そうしないと地べたが冷たいじゃん」
「んあ……まあ、確かに」
「じゃあほら、そっちも巻いて」
「あ、わかりました」

彼女の指示通り、俺も一緒になって布団を巻いていく。
さっきと同じようにぐるぐる巻きにならないと地べたが冷たくなってしまうからという極めて合理的な理由があるから致し方なくぐるぐる巻きになっているだけである。

「すごい」
「そりゃまあ、体を結構密着しているからね」

かなりあったかい。あったかいのだが、アンジェラとかなり密着することになった。この子の柔らかなお腹やら胸やらが俺の背中に完全に密着している。やっぱりこれはまずくないだろうか。

「うーん、ちょっとこれ大丈夫かなぁ……」
「大丈夫だよ、2人一緒だからもっと寒くなってもあったかいままだよ!」
「いやまあそうだけど……そういう問題じゃないんだよなぁ」
「……? じゃあどういう問題?」
「いや、気にしなくていいよ」

あくまでも2人の方があったかいという合理的な理由の元でやっているので問題はない。いやあるけど。

「こっち向かないの?」
「いや、それはちょっと僕の平常心的に……」

こんなかわいい女の子と一緒に寝ているだけでも色々とやばいのに、向かい合って寝た日にはもうどうなってしまうことやら。背中を向けるのは無垢な心を維持するのに必要なことなのだ。

「……? よくわかんないけどまあいいや」

そういうと彼女は腕を俺の胸の前に持っていき、抱きしめてきた。

「えへへぇー」
「うわ、なに……!」

さっきまでもかなり密着していたのだが今は密着度がさらに上がってしまった。なんてこったい。

「あったかーい……」

俺の気持ちとは相反し、無邪気な声でアンジェラはそういった。
こっちもあったかい。それはいいのだが、10歳の少女に抱き着かれるという経験は生まれてこのかたないので、何とも言えない気持ちになる。彼女の背中は大きいと思っていたが、こうしてみるとまだまだ子供である。
しかし、こんな時でもYESロリータ・NOタッチの精神を忘れてはいけない。理性的な人間として平常心を保たなければ。邪な心は捨て、無心で眠ろうではないか。
と、思ったけどやっぱこれは恥ずかしい。ちょっと申し訳ないが、抱き着かないようにとお願いしてみることにした。

「あのさ、やっぱり抱き着かないで仰向けになって寝たほうがいいんじゃ……」
「……すぅ」
「え、寝るのはや!」

その間わずか20秒ほどである。さすがにのび太には及ばないが、かなりのかなりの早さで眠ったのではないか。

「……はぁ、しょうがないか」

わざわざ起こすわけにもいかないだろう。今夜はこれで我慢することにした。



自分はきのこよりもコアラよりもたけのこよりも黒い稲妻の方が好きです。
感想、評価等していただけると嬉しいです。

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