50年前に滅びた世界で

たかき

第1話 すべての始まり

〈――戦線は日に日に拡大している。やはり自由帝国は強大だ、どこの戦線も劣勢に――〉



〈――これも勝利のために必要なことです。この魔法が前に使われたのは100年以上前ですが、それでも――〉



〈――ダメだったな……仕方ない、もともとこんな魔法は博打のようなものだ、今更――〉



〈――最終術式が使用されたことを受け、連盟は自由帝国に対する断固とした――〉



〈――魔素の濃度がいまだ上昇傾向ある。このままでは生命に有害な影響を与える可能性がある。早急に対策を――〉



〈――森林を破壊したせいで逆にカウントダウンは大幅に短縮されてしまった、私は反対したのに、いったいどこの誰が――〉



〈――おそらく、ここが人類最後の砦になるかもしれない。種の存続のために、我々も可能な限り――〉










〈――世界は、どうしてこんなことになってしまったんでしょうか――〉






「ほげほぉ!」

謎の奇声とともに勢いよく上体を起こす。その勢いでベッドが少し揺れた。
朝、圧倒的なまでに朝だ。陽の光がカーテン越しに部屋へと入ってきていた。自分の目覚めはいつも悪いのだが、今日に限っては眠気はほとんどない。
今の夢はいったい何だったのだろうか。どこかの異世界を垣間見ていたような気がするが……ラノベやアニメを見すぎただろうか。それにしては違和感が残る。異世界にしては妙に近代的だった。途中でラジオのシーンとかあった気がする。そりゃ異世界が中世ヨーロッパレベルの文明しかもっていないといけないとかそういう決まりはないが、俺が見ているラノベやアニメはこぞって中世レベルの文明ばっかりなのでやっぱり違和感がある。
起きている間の記憶の整理をしているのが夢だとネットで見た気がする。それが本当なら、整理しているときに記憶がいろいろとごっちゃになってしまったのだろうか。それならそれで現代レベルの文明を持ってなければおかしいと思うのだが。

「……そういや、今日学校か」

起こしていた上体を再び寝かせて布団の中で考えに耽っていると、今日が登校日だということを思い出した。日曜日が昨日で終わり、今日は忌々しい月曜日のはずだ。面倒なこと極まりないが、だからと言って学校をさぼるわけにもいかない。俺は覚悟を決め潔く布団から出ることにした。
……したのだが、今すぐ出るというわけではない。1月真っ只中なので布団の外は寒いことこのうえない。もう少しぐらいこのぬくもりを体感していても罰は当たらないだろう。

「……そういえば何時だ?」

布団のぬくもりを感じていると、ふと、今は何時かが気になった。カーテンの外はすでに明るくなっているのでアルマゲドンとかが起きていない限り深夜という訳ではないだろう。
俺は布団から頭だけを出しながら、目覚まし時計を探す。いつもはアラームが鳴って起きるのだが、今日はまだそれが鳴っていない。ひょっとしていつもより早く起きてしまっただろうか。もしそうならば二度寝しよう。いつもアラームをセットしている7時半ぐらいに起きれば十分だろう。そう思いながら探すと、存外すぐに見つかった。いつも置いているところから少し離れたところで倒れている。どうやら蹴飛ばすなりなんなりしてしまったらしい。
俺は時計を持ち上げ、長針と短針がどの方向に向いているのかを確認した。時計の針は8時過ぎを示していた。
……8時過ぎ?

「――ってヤベえ、遅刻する! 」

HRの開始は8時30分から。登校には15分以上はかかるので、あと10分ほどで家を出なければいけない。なんてこったい。完全に寝過ごした。どうやら前日にアラームを掛けておくのを忘れていたようだ。こうなった以上布団の中にいる場合ではない。颯爽と布団から飛び起きる。
時間がない、飯は食パンを食えばいい。それよりも制服はどこだ。ネクタイは、ブレザーはどこだ。やっぱその前にトイレ行こう。

「後20分! ヤバァイ! 」

トイレを済ませ、朝食に食パンを食べようと思っていたが袋に入ったロールパンが丁度机の上にあったので、それを頬張りながら大急ぎで着替える。寒いので着替えている間に水筒にお湯を入れ。雑にお茶のティーパックを入れる。着替え終わると同時にパックを捨てるとふたを閉め、学生鞄へと放り込む。鞄を持ち財布、携帯をブレザーのポケットへとしまう。筆記用具とかはすでに入っているので朝に用意する必要はない。

「よし、行ってきまーす!」

高校進学を機に地元を離れ、東京郊外で1人暮らしをしているため家には他に誰もいないが、自然と行ってきますという言葉が出た。鍵を閉め、階段を大急ぎで降りると駐輪場に向かい、自分の自転車の鍵を外す。両足スタンドを上げ、マンションの敷地外へ手で押して公道へ出る。周りに車がいないことを確認すると、早速チャリを全力でこいだ。たち漕ぎでペダルをまわし、一気に加速する。空気を切り裂いていく感覚が止まらない。十数秒ほどで、自転車はかなりの速度を出していた。
とはいえ、交差点や信号ではちゃんと止まらなければいけない。この前は交通ルールを無視して飛ばしたせいで警官に止められてしまった。

『法を破った俺が悪いんじゃない、法が俺にあっていないのが悪いんだ……!』

警察に捕まったときはそのような供述をした気がする。とにかく俺は悪くない。法と約束は破るもの。道交法よりも遅刻しないことの方が重要である。
とはいえ、ここで警官につかまってしまったら遅刻が確定してしまう。幸いにもちょっと飛ばしさえすればホームルームの開始には間に合いそうなので、それなりの速度で交通ルールをギリギリ守りながら通学路を走り抜けた。
車と警察官に気を付けながら自転車で行くこと15分、腕時計を見ると時刻は8時26分を示していた。ここの下り坂を下ると自分が通う高校を拝むことができる。どうやらギリギリ間に合いそうだ。坂道に入り、自転車を加速し続ける。
すると。

「……光? 」

本当に前触れは無かった。突然、自分の周りに光の粒子みたいなのが輝き始めた。明らかに超常現象である。

「なんだ!」

大慌てでブレーキを掛ける。自転車の速度が落ち始める。しかし、車は急には止まらない。自転車も車の一種。その上下り坂なので、止まるには若干のロスタイムを要した。その間にも光は強くなる。完全に停止したときには目を開けていられないほどに強くなっていた。

「え、ちょなに」

考える暇もなく、光は目を閉じていても明るく感じるほど強くなっていった。

「う……まぶしい……」

思わず腕で目元を覆う。何が起きているのか考えるも、思考がまとまらない。周りの温度が上がっていくのを感じた。






一応初投稿となります。いろいろと至らない所があるかもしれませんが、ご覧いただければ幸いです。
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