前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います
その151 ラーヴァで謁見
<土曜の日>
馬車を歩かせお城へと向かう僕達。さすがに走らせるわけにも行かないのでのんびりと進んでいく。自国ながら、穏やかでトラブルも無さそうだと安堵していたりする。ノワール城を出てからこっち、何かしら巻き込まれていたもんね……。
「見えてきましたよ!」
バス子が屋根から叫び、やがてお城へ到着する。
「謁見希望です」
「ふむ、用件を軽く聞かせてくれるか?」
衛兵へそう言われたので、エリィとルビアが御者台に身を乗り出して話しをしてくれる。
「あたしは拳聖のルビアで……」
「私は賢聖のエリィと申します。ここへはハイラル王国の王女様から書状を届けに来た使者としてきました。お目通りをお願いできますか?」
ルビアがギルドカードと書状をスッとハイラル王国の封蝋が目に入るように目の前に出すと、衛兵は目を丸くしてびしっと敬礼をして口を開く。
「は! 聖職でありますか! ハイラル王国はゴタゴタしておりませんでしたか……?」
「その件も含めて報告がありまして……いいですか?」
僕が尋ね返すと衛兵は頷き、続ける。
「ただ、大勢での謁見は認められていませんから、人数は絞っていただけますか? 四人が限度です」
なんと、ラーヴァってこういうところ厳しかったんだと驚く。となると――
「僕とエリィ、ルビアとベルゼラかな? メディナとバス子は悪いけどテッラ達を頼めるかい?」
「わかった。テッラと待つ」
「ピ♪」
「仕方ありませんね。どちらにせよアースドラゴンを連れて入るわけにも行きませんしわたしはそのつもりでしたから大丈夫です」
テッラに無表情で頬ずりをするメディナをよそに、バス子が手綱をとって代わってくれた。僕達は馬車から降りると、城の門近くへ馬車が移動し待機する。
「ではこちらへ」
「どきどきするわね……」
「一応王族なんだからしっかりしなさいよ」
右足と右手が同時に出ているベルゼラの背中をルビアが軽く叩きながら進んでいく。すぐに謁見の間に到着する。
「国王様、ハイラル王国の使者をお連れしました」
「通してよいぞ」
初老と言って差し支えないくらいの声が響き、衛兵が扉を開けてくれたので中へ入る。玉座には声に相応しい精悍な顔つきの国王と、王妃様が座っていた。僕達は真ん中ほどまで進んだところで膝をついて礼をする。
「顔を上げてよい。それで、ハイラル王国からの使者とはどういうことだ?」
その問いにエリィが返す。
「まずはこちらをご覧ください。王女様からの書状になります」
「ふむ。貰い受けよう」
エリィが手渡し、再度僕達のところまで下がる。国王様は書状を開封ししばらく内容を吟味していた。すべてを読み終えたところでため息を吐き僕達に目を向ける。
「話は分かった。ハイラル王国の危機を救ったとはさすが聖職だ。しかし問題は……”旅の男”とやらだな。いつどこに出てくるかわからんというのは何とも歯がゆい」
顔を顰めて書状を王妃に渡しながそんなことを呟く国王様。言いたいことはもっともだと思う。それと同時にバス子とは反対勢力の悪魔達は厄介なことをしてくれたな、とも思う。国がゴタゴタになる理由は悪魔達の暗躍も多かったからだ。せめてあいつらが大人しくしてくれると助かるんだけどね。
「ともあれご苦労であった。旅の男、衛兵たちにも言っておかねばならんな」
「そうしてください。とは言うものの、風貌などがわからないのがなんとも……」
すると国王様が書状を見て僕達へ言う。
「キラールとやらが見たというフード姿ではわからんからな。注意させよう。お主たちはこれからどこへ?」
「僕はこの国の出身でして、リンカーの町にお店を構えているんですよ」
「ほう、そうだったのか? ん? ……リンカーの町……? そういえばお主の顔、見覚えが……ちと尋ねるが、父の名は何という?」
「え? あ、はい。父はアシミレートです」
「……!?」
僕が父さんの名前を答えると、国王様は目を細めてさきほどの旅の男の話よりも顔を顰めた。どうしたんだろう……?
「歳は四十過ぎくらいだろう?」
「僕が十六なので……確かそれくらいですね」
「はあ……あやつ、店などをやっておるのか……」
「えっと、失礼ながらお尋ねしますが、父をご存じなのですか……?」
「うむ。その様子だと知らないようだから教えてやろう。あやつは……アシミレートはラーヴァの騎士団長だった男だ。二十五になったころ、好きな女ができたから辞めるといって騎士団長をあっさり辞めおった! ぐぬぬ……」
「ええ!? 父さんも母さんもそんなこと一言も言ってなかったですけど!?」
「アシミレートは何を考えているかわからん男だったからな。まあ戦いが好きではなかったから、女を理由に騎士をやめたのではないかとは言われていたがな」
「うーん……あのナチュラルナンパが得意な父さんがまさか……」
「レオスさんってやっぱり記憶が無くてもそういう素質があったんじゃないかしら……」
僕が呆れるやら驚くやら呆然としていると、ベルゼラが嫌なことをいう。君達がついてきたんじゃないか……僕はナンパはしてないはずだよ? そう思っていると、王妃様がコロコロと笑いながら初めて口を開いた。
「それにしても子がいるとは思いませんでしたね。誰か一人の女性と一緒になるとは思っていませんでしたから」
この様子だと相当ちゃらんぽらんだったんじゃなかろうか……僕がそんなことを考えていると、
「しかしアシミレートの子とは興味深い。それに父のことをあまり知らんようだし、俺……こほん、私が教えてやろう。宿は取ってあるのか? 聖職がいると心強いし、城で泊っていくといい」
意地の悪い笑みを浮かべながら僕達にそういう国王様。エリィとルビアにベルゼラが顔を見合わせて笑い、僕はぜひと答えた。
「あ、外に仲間がいるんで呼んでもいいですか?」
「構わんよ、くくく……父の威厳を落としてやる……!」
すでに地の底だとは言えず、僕は苦笑しながらメディナとバス子を呼びに行くことにする。
◆ ◇ ◆
<リンカーの町>
「へっくしょん!?」
「風邪かアシミ? アタシにうつさないでくれよ? 大魔王討伐の報からずいぶん経つけどまだ帰ってこない……レオス、途中でどうにかなってるんじゃ……」
「大丈夫だと思うよ? なんせ僕とグロリアの子だからね」
「無事じゃなかったらアンタを殺してアタシも死ぬからね……!」
「ははは。ちゃんと戻ってきたら二人目だね。レオスも彼女とか連れて帰るかもしれないし」
「か、彼女……!?」
「結婚するって言われたりしてね!」
「やめて……!? はあ……早く帰ってこないかな……。あ、そうだ、城下町に雑貨を運ぶんだろ? 準備しないと」
「そうだね。明日から出発だ! ま、城下町は知り合いが多いからあまり長居したくないけどね」
「世話になった人には挨拶くらいはしないとダメだ」
「はいはい」
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