前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います
その145 全員集合!
<土曜の日>
「ここから先はラーヴァ国だ、国境を越えるのかい……って、ずいぶん疲れてるな……」
「お、お構いなく……。これ、ギルドカード、です……」
門番のおじさんに呆れられるほど、僕達は憔悴した状態で国境に到着。本来は明日到着予定だったけど、アースドラゴンの卵を狙う魔物から逃れるため、一気に抜けてきたのだ。
「ぶるる……」
馬達も走り通しで疲労が溜まっており、珍しく頭が垂れていた。しかしここまで来れば魔物も近づけまいと、おじさんに尋ねる。
「すみません、中で少し休んでいいですか? 夜通し移動してきたのでみんな疲れていて……」
「おお、構わんよ。中に休憩スペースはあるし、厩舎もある。壁の中だから空は拝めんが、使うといい」
ここまで旅をしてきて分かっているが、町、国境、町といった感じで、どの国も国境から町までそれなりに距離があるため国境にはそれなりの設備が用意されている。まさか立派な 馬車を持っている僕達が使うことになるとは思わなかったけどね。
「メディナ、休めるわよ。……メディナ?」
「め、目を開けたまま寝ていますよ!?」
「安らかにお眠りなさい……ふあ……」
「ベルゼラさん、その言い方はちょっと……」
「むにゃ……レオス、一緒に寝よう……」
僕を含めた魔法を使うエリィ、ベルゼラ、メディナは交代しながらついてくる魔物達を追い払ったり退治していたのだから無理もない。六魔王やエスカラーチと戦った時と同じくらい魔力を消費したと思う。僕もそれなりに使ったしね。
「うーん、ごめんねみんな……あたしが変なものを持って来ちゃったせいで」
ルビアが心底申し訳なさそうにしていると、エリィがあくびをしながら口を開く。
「ドラゴンの卵なんて珍しいし。それに孵化したらこういうのも無くなるでしょ? 今だけ我慢しようよ。私結構楽しみよ?」
「そう言ってくれるとありがたいけど……レオスも?」
「うん。子供のドラゴンって見たことないじゃない? 産まれたらどうなるのかなってわくわくしているよ」
「そっか。うん、ありがと。それじゃ、ゆっくり休んで? 馬車はあたしが見ておくから」
「はーい! あっちにベッドがあるわ、行きましょうレオスさん」
「Zzz……」
目を開けたままのメディナが怖いな、と思いつつ僕達は休む。
僕はすぐに回復したけど、よほど疲れていたのかエリィ達は起きてこなかったので、夜明けまで休むことに。
「ふあ……よく寝たわ。いつでもいけるわ!」
「すっきり」
元気になったエリィ達が起き出してきたので夜明けと同時に出発。だけど、ラーヴァ側に出てからしばらくすると森の中ほどではないが、やはり魔物に襲われることが多かった。
「たああ!」
「<ファイヤーボール>! 蛇以外も増えて来たね、国境にも匂いかなにかで集まってきていたし、このまま城下町へ行くのは危ないかなあ」
「そうね。ね、孵化させたらいいんじゃないかしら? というか、ハイラルの城下町の時は平気だったのに急におかしいわね」
「あの時は町の中だったからね。城下町で町壁もあったし、広かったこともある。もしかすると外にはいたかもしれないよ? ……ラーヴァの城下町まで五日か……それまで町は二つ。別ルートなら――」
と、自国の地図を頭に描き考える。流石に故郷の地理を知らないなんてことはないのだ。
さて、冷静に位置関係を考えよう。ここから北西に目的地の城下町があり、真北にいけば僕の故郷”リンカー”の町がある。城下町へ行く途中に町が二つあるけど、この調子では町に魔物を引っ張っていくことになりかねない。
「……アースドラゴンは土に埋めて孵化させるんだっけ?」
「ああ。図鑑ではそうなっていたよ」
クロウが即座に返答をくれたので、僕は頷いてみんなに告げる。
「このまま城下町へ向かうけど、一つ目の町は避けよう。で、近くにもう使われていない採掘場があるんだ、そこで孵化を試してみよう。もう採れないけど、昔は宝石が出ていたりしていたから土壌としてはいいと思わない?」
「あ、いいわね。でも埋めるだけでいいのかしら?」
すると、やはりクロウが少し鼻息を荒くして口を開く。
「えっとですね、土に埋めた後、少し突き出たてっぺんに三日ほど朝昼晩、水をかけるらしいです。太陽の光をしっかり浴びせて温めると、四日後に孵化するんです」
「クロウ、あんたそこまで見てたの!? 実は楽しみにしてた?」
「あ、いや……」
「わたしが卵を抱えていた時、ずっと見てたのはそういうことだったんだね~」
「まあ、男ならドラゴンはわくわくするよね。それに見て置いてくれて助かったよ。それじゃ、採掘場へ向かおうか。書状を届けるのは少し遅れるけど」
「期間は決まってないからなるべく早くってところね。他の国に届けられるのも時間がかかるし、少しならいいでしょ」
ルビアがそう言ってくれたので、僕達は三叉路を北西に向かって進む。
ラーヴァは平野が広がっているので、魔物を発見して迎撃するのは難しくない。だけど、採掘場は山間にあるので魔物の襲撃は激しくなりそうだ。
「もぐもぐ……」
「あ! メディナ勝手に食料食べちゃダメよ!?」
「腹が減っては魔物退治はできない」
「そんなリスみたいな頬でキリっとされても……。突っ込み切れないわ……」
「バス子、早く戻ってこないかしら?」
御者台で荷台の話を苦笑しながら警戒を怠らないよう周囲に目を配る。そういえばメディナの青いうさぎメモを使えばすぐ戻ってくるはずだから話し合いが難航しているのだろうか?
ルビアが戦ったという悪魔みたいに妨害があると面倒だから、いざというときのためにバス子には説得を頼みたいんだけどな。
僕がそんなことを考えながら迫ってくるゴブリンに魔法を放っていると、荷台から光が差してくる。
パァァァァァ!
すると、聞きなれた声が聞こえてくる。
「じゃーん! 美少女悪魔、バス子、ただいま戻りましたよ! ……あれ? どうしたんです? そんなポカーンとした顔をして? え? 下?」
僕も荷台をチラ見すると、確かにバス子が戻ってきていた。
――メディナが確保していたハンバーグを踏みつぶして。
「……! ……!」
涙目無言でバス子の肩をバシバシ叩くメディナに、バス子が怯みながら口を開く。
「あ!? 痛っ!? せっかく戻ってきたのにこの仕打ち!? た、確かにハンバーグを踏みつぶしたのは悪かったですけど、ふかこうりょ――痛っ!? 表へ出ろ黒づくめぇぇぇ!」
「ふふ、また賑やかになりそうね」
「エリィ、ちょっと達観しすぎじゃない……? ま、無事に戻ってきたのは嬉しいけどね」
馬車の屋根で暴れ出した二人の叫びに何となく安堵してしまう僕がいることに驚き。
「……だいぶ毒されちゃってるかな……」
一人、そんなことを呟くのだった……
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