前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います
その78 不意の打開
シロップと女の子が再びセーレの手に渡り、エリィが慌てて僕達に並び立つ。
「すみません、また捕らわれてしまいました……」
「仕方ないよ。あいつが思いの外きっちりしていたってことさ。取り返せばいいだけだよ」
「はい……!」
と、エリィも憤慨した様子で僕がカバンから出したロッドを握る。
さて、どういったものか分からないけど『印』をつけるだけで人間を手元に引っ張ってこれるのはかなり凄い。
たまにできる人がいる『転移』は自分がイメージした場所へ移動するのに対し、セーレのは『自分ではないモノ』を移動させるというだけだと思うけど、実は難易度がかなり高い。
自分が移動するのは『自分の体』を意識できるから後は『行きたい場所』を思い浮かべれば飛べるんだけど、AからA’、もしくは手元へもってくる場合『対象が目に見えている』なら僕でもそんなに難しくないけど、セーレの場合は『見えていない』場合でも手元に引き寄せることができるのが凄いのである。
あまりいい例じゃないけど、印をしていれば手を触れずに相手のパンツをはぎ取ることができるということだ。
そんなことを1.5秒ほど考えていたところでセーレは口の端を歪めて僕達に言う。
「形勢逆転、というやつでしょうか? いくらあなた達が連れ帰っても、私は何度でも手元へ戻せます。解決する方法は二つ。印を消すか私を倒すか」
分かりやすくて結構だけど、そんなことをペラペラ喋るあたりこいつは三流かなと思う。僕達は目くばせをして、セーレに隙ができないか質問をする。
「ならあんたを倒して解決ね。ついでに公王様を解放してもらおうかしら。あんたが操っているのでしょう?」
「そうだね。あ、一つ聞くけど、大魔王に関係があるのかな?」
「魔族なら大魔王が倒されたことも知っているはずです。こんなことをしたら私達はまた倒さなくてはなりません。無意味な戦いは止めましょう」
「仲間は何人いるの?」
「儀式ってなにさ」
「女の子を人質にして恥ずかしくないんですか!」
「ええい、いっぺんに喋るな! やかましいわ! 《フレイム》!」
イラッとしたであろうセーレがシロップを抱えたまま左手で魔法を放ってきた。渦を巻いて襲ってくる炎を避け、ルビアは左、僕とエリィは右から攻撃を仕掛ける。
「公王!」
「……」
「ハッ!?」
セーレの合図で公王様が僕の前に躍り出ると、持っていた杖を振りかぶってくる。存外速い……! ガコッ、っとセブン・デイズと杖の木がぶつかる鈍い音がし膠着状態になり、横目でセーレを見るとちょうどルビアがセーレに殴りかかるのが見えた。
「エリィ、ルビアの援護を!」
「はい! 《ウォータバレット》!」
ヒュッとエリィがロッドを振るうと、水の塊が5つ生成され合図とともにセーレをと飛ばす。ルビアの攻撃を受けながらセーレがフレイムでウォータバレットを相殺する。
ボォン!
「隙あり!」
炎と水がぶつかり派手な音と水蒸気を上げて爆発し、セーレがフレイムを唱えた隙を見逃さず、脇腹にルビアの一撃が刺さった!
「うげ!? 馬鹿力女め…!」
「馬鹿はよけいよ! もう一撃!」
「そうはいきませんよ」
「きゅん!?」
「う……!?」
セーレは抱えていたシロップを盾にし、ルビアの拳が止まると、セーレはすかさず魔法を使う。
「《エクスプロード》」
「きゃ……!」
「危ない! 《ホーリーウォール》!」
「ナイス、エリィ! 公王様目を覚ましてください!」
上級火魔法のエクスプロードがルビアを襲う直前、エリィのホーリーウォールがルビアの前に現れて魔法を霧散させると、二人でセーレの前に立つ。
「助かったわ、ありがとエリィ」
「ふふ、少し前を思い出しますね。レオス君、公王様をお願いします!」
「無理しないでよ! っと、当たらないよ」
僕は公王様の杖を避けながら返事をする。正直なところエリィとルビアが人質を無視することはないだろうから、何かもう一つこの状況を打開する策を考えないといけないね。
目の前の公王様を制圧して三人で行くのが一番なんだけど、公王様の攻撃は鋭いので迂闊に目が離せない。セーレに奇襲をかけてエリィとルビアに向かせるわけにもいかないからだ。この杖も得たいが知れないしね。
かといってセブン・デイズで公王様を下手に攻撃して傷をつけるのも憚られる。アクセラレータで一気に制圧するかと思ったその時――
ガシャァァン!
「な、なんですか!? ぐあ!?」
セーレの背後にある窓ガラスが派手に割れ、何者かが侵入してきた! そしてその人物が持っていた槍がセーレの右肩を刺し貫きシロップを取り落とす。
「見つけたぞ、ティリアは返してもらう!」
「カ、カクェールさん!?」
「今!」
「おのれ……ぐはあ!?」
肩を押さえてたたらを踏むセーレをルビアが蹴り飛ばし、壁に激突する。カクェールと呼ばれた男性はエルフの女の子、ティリアに駆け寄り抱き起す。
「大丈夫か?」
「あ、ああ、本物のカクェールさん! やっぱり見捨てないでくれたんですね!」
「お前な……」
と、あきれ顔になった瞬間、窓からメガネをかけた緑髪の子がよっこらっしょという声と共に入ってきた。
「君、屋台街の匂いに釣られてフラフラとしていたね? そこを誘拐されたと目撃者がいっぱいいたよ!」
「ル、ルルカ……!? あ、あなたも来たのね……」
「まったく。ティリアが居なくなったらボクもカクェールさんとラブラブイチャイチャできるけど寝覚めが悪いからね。仕方ないから助けにきたよ」
「ううう……」
何か残念な会話が聞こえてくるがそれは後回しだ。僕はシロップを保護したエリィとカクェールさんに叫ぶ。
「エリィ、カクェールさん! シロップとティリアさんの体のどこかに見慣れない『印』を探して! 見つかったら何とかして消せないか試して!」
「お、おう! ……こいつか?」
「ひゃん!?」
「きゅきゅん……」
「掌にありました!」
「こいつは押さえておくから急いで! ”鋼牙”」
「ぐ……邪魔をするな……! 集中できんではないか!」
ルビアがセーレに手を出させまいと次々に技を繰り出していく。ルビアの攻撃をあそこまで受けて立っているセーレも何気に凄い。
「後は公王様を何とかすれば!」
「……!」
瞬間、公王様の持つ杖に魔力が収束するのを感じ、マズイと本能が告げる。切り落とすか? でも魔力が暴走して爆発でもしたら僕達もタダでは済まないかも。
そう思った瞬間――
バン!
「えっへっへ! ここがパーティ会場ですか! わたしの分も残っているんでしょうね!」
僕達が入ってきた扉から意気揚々とバス子が入ってきた!? そして僕に踏み込んできた公王様と鉢合わせになる。
ゴチーン!
「いたた……何ですか一体……あ、これ公王!? 何か光ってるんですけど!?」
涙目で杖を見て驚くバス子。だけど、公王様もぶつかった衝撃で少し怯み、チャンスだと思った。
「ナイス、バス子!」
僕は公王様に体当たりをし、その手から杖を奪った!
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