前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います
その61 言い聞かせるように脅す
「あいたた……大丈夫ですかね、エリィさん」
「かすり傷程度ですよ。ドラゴンリッチの一撃で昏倒したことに比べれば大したことはありません《キュアヒーリング》」
フラフラと降りてくるバス子とエリィが傷を癒しながら降りてくる。僕は腰を抜かしていたルビアを助け起こしながらその様子を見ていた。
「大丈夫ルビア?」
「え、ええ。というか何よアレ! 強いとかそういうレベルじゃないわよ!?」
「たまたまだよ」
「たまたまで通りませんよ! ルビアの言う通りです。あの、悪神って本当に……?」
立ち上がったルビアが半分驚き、半分怒りながら言い、エリィがおずおずと僕に訪ねてくる。
「はは、レオバールを怖がらせるための演技だよ?」
「いやいや……魔力の高さは演技じゃできませんから……大魔王様を倒したのは聞いていましたけど、ここまでとは思いませんでしたよ、えっへっへ……」
「まあ、その辺はあまり聞かないで欲しいかなとは思うよ。さて、エリィは自分で治療したし、次は……」
エリィ達には真実を語ってもいいかなとは思うけど、この先みんなずっと一緒とは限らない。対戦を挑まれたり力を狙って命を狙われたり(簡単にはやられないけど)、利用されたりする可能性は避けたい。
まさかレオバールが追って来るとは思わなかった。というより、よく僕達の場所が分かったものだと感心するよ。
「う……」
「えっへっへ、レオス様、こいつ止め刺しましょうか!」
「そこまでしなくていいよ。回復させるから剣を回収しておいて」
「命拾いしたなこの筋肉だるま! このセクシーなわたしをガキ呼ばわりしたお前に次は無いですからね!」
僕のためじゃなく、私怨で止めを刺そうとしただけだった。
おっと、そろそろ回復しないとね。
「<ダークヒール>」
即効性の高い僕の回復魔法でレオバールの傷を癒し、僕達は再度出発の準備を進める。
「ベルゼラ、シルバ大丈夫かい?」
「きゅん……レオス兄ちゃん怖すぎるよう……」
「ふ、ふふ……流石はお父様を倒し、私が伴侶と認めた人……こ、怖かったです……」
「あー、ごめん……ほら、お前達、水と食料だよ」
「ひひーん♪」
「ぶるる♪」
「荷台が二台になりましたけど、どうしますか?」
「いらないでしょ……」
寝転がる二人に謝りながら馬二頭に餌をあげると、嬉しそうに鳴いてむさぼるように食べていた。絶好調のエリィルビアがため息をついて返すと、レオバールの剣を肩に担いで僕へ訪ねる。
「こいつはどうするの?」
「このまま捨てて行こう。アレンの装備が欲しいみたいだから一式置いていくよ。これなら帰ってもメンツは保てるよね」
「優しすぎると思いますけど……パンツいっちょうで縛られてもおかしくありませんよ?」
「うん、それは結構エグイと思うよエリィ。お?」
「う、うう……俺は……? レ、レオス!?」
どうやら騒いでいたせいで目が覚めたようなので、これはこれでと僕はしゃがんで目線を合わせる。にっこりとほほ笑んで。
「おはようレオバール。この勝負は僕の勝ちだね。さっきも言ったけどもう二度と僕の前に姿を現さないでよ? 次はどうなるか分からないよ……?」
「う……」
さっきの攻撃を思い出して怯むレオバールに僕はさらに続ける。
「アレンの光の剣を含めた装備品は全部返すよ。お金は……いいや。アレンの結婚祝いにあげるってことで。その代わり、エリィやルビア。それとベルゼラにバス子に今後ちょっかいをかけてくるようなら……大魔王と同じ末路を辿ることになるからね?」
「そ、それはどういう……ことだ……」
「答える必要ないと思うけど? これでメンツは保てるよね。僕達は本当に急いでいるんだ、頼むから邪魔をしないで。行こう、みんな」
そしてエリィが、
「世の中には自分より強い者がいることもあります。謙虚な気持ちでいればこんなことにはならなかったかもしれません。力があっても自分から振りかざすことはしないレオス君と、剣聖という肩書をひけらかして他人に傲慢な態度をとるあなたと、どちらを好きになるかなど明白では?」
と、最後の諭しと言わんばかりにそう告げるとレオバールはがっくりと項垂れた。
「レオス、行くわよ!」
「うん。レオバールの剣を」
「ええー……この先に捨てて行けばいいのに。拾って斬りかかってくるかもしれないわよ」
「いいよ。その時はまた痛い目に合うだけだから」
僕は剣を地面に突き立てると、その場を後にする。
「……ルビアの言う通り後ろから襲うかもしれんぞ?」
「それをやったらどうなるかくらいは流石に分かるんじゃない? 後、僕達を追うのはしばらくかかると思うけどね?」
僕はスッとカバンからとある笛を取り出すと、バス子が興味津々で聞いてくる。
「なんですかそれ?」
「領主様を狙っていた野盗が持っていたんだけど、どうもこれでゴブリンを操れるみたいなんだよね」
「へ?」
ひゅるるるる~
気の抜ける音が鳴ると、森からざわざわとした気配がこちらに近づいてきた。
「ゴ、ゴブリン……! ええい、寄るな!」
「悪いんだけど、レオバールの足止めをお願いねー!」
ゴブ!
ごぶっふーん♪
「よ、寄るな気持ち悪い! ええい!」
ゴブー!?
何匹か斬られているが、わらわらと群がってくるゴブリンは正直うざい。あっという間に取り囲まれるレオバール。
「ま、待て!? これがゴブ運とでもいうのか、あの騎士めぇぇぇ!」
「? よくわからないけど、頑張ってね! それ! 頼んだよ!」
「ひひーん!」
少し離れたところから一気に馬車を加速させ、レオバールから離れることができた。
「……諦めると思う?」
「回答するなら恐らく無理だと言っておくよ。それでも、僕の実力は分かったはずだし、すぐには手を出してこないんじゃないかな?」
「そこまで想定内か。あんたって怖い子になったわねー……お姉さん悲しいわ」
「そういわないでよ。大魔王を倒したのも僕達が全滅しそうだったからだしね。できればさっきみたいな力は使わない方がいいんだよ」
「それでこそレオス君ですね! それはともかく、レジナさんは大丈夫でしょうか?」
「無茶はしないと思いたいけど、子供のことだからね」
「そろそろお嬢様の出番も作らないといけないですし、急ぎましょう」
「そういうのはやめて!?」
まだ公国都市までは距離がある……もう一度追いつけるかな?
◆ ◇ ◆
――レオスがゴブリンを喚んでいたころ、木の上には顔を隠した見慣れぬ風貌の男がレオスとレオバールの様子を伺っていた――
「あはははは! あれがレオスってやつか、面白い奴だな。それにしても剣聖をあっさり倒すとはとんでもない坊主だな。というより強すぎる。勇者どころか大魔王に匹敵するんじゃないか? 悪神ってのは眉唾だが、この世界に神が居ないのと何か関係でもあるのか……? とりあえずギルド経由で報告だな」
そこまで丁寧に呟くと、レオバールをチラ見して口をへの字に曲げる。
「あいつは……どうするかなあ……ただのストーカー野郎だったのは見ていたこっちが顔を赤くしちまうよ。情けない……。レオスは無実、むしろレオスに金を返せと国王に言うとして――」
男は何かを思いついた顔をして、スッと姿を消した。
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