前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

その49 難癖を……


 「兄ちゃんたち、誰に断って店を出してるんだ?」

 「あ、えっと……」

 ヤンキーみたいな男にそんなことを言われ、僕は口ごもる。すると男は頭を掻きながらため息を吐いて言い放つ。

 「はあ……。お前たち、この町は初めてか?」

 「あ、はい」

 「仕方ねぇ、なら教えてやる。ここで店を出すなら許可が必要なんだよ。あとショバ代。銀貨1枚だ」

 「え!? ほ、ホントですか!?」

 「おう。その辺のやつらに聞いてもらっても構わないぜ。まあ知らなかったなら仕方ない、今払ってくれるならそれでいい」

 おお、見た目とは裏腹にいい人だ!

 「あの料金は10倍とか言わないですよね?」

 「言わねぇよ!」

 「すみませんでした、これ銀貨1枚と販売中のハンバーグです。お詫びにしてはしょぼいですが食べて行ってください」

 「殊勝なやつだな、別にそういうのはいいんだけど。へえ、こりゃ肉か?」

 僕がお金とハンバーグを渡すと、男はフォークを掴んでハンバーグを口に運ぶ。

 「……! うめぇ……それに柔らかい。はぐはぐ……」

 男は一気にハンバーグを食べつくし、笑顔でお皿とフォークを返しながら言う。

 「サンキュー、これはかなり美味いな。それにきちんと謝れる奴に悪い奴はいねぇ、頑張って稼ぐんだぜ? こいつは許可証だ。じゃあな」

 そういってヤンキー風の男は片手を上げて去っていく。

 「人は見かけによらないなあ」

 「そうですね。レオスさんも強そうには見えないですけど、実際強いですしね」

 ベルゼラがフフっと笑い、僕は顔をしかめて言う。

 「それは僕が弱そうだって言いたいの? ……まあ、父さんみたいな優男っぽいな顔だけどさ……」

 「あ、あの、それいただけますか?」

 「あ、いらっしゃいませ! 銅貨一枚です!」

 僕とベルゼラが話していると、周りで様子を見ながら緊張していたお客さんがまた殺到してきた。そういえばああいう手合いに突っかかりそうなバス子が大人しかったな……? そう思ってバス子を見ると――

 「えっへっへ、どんどん出ますよ……お肉がむちむちと……」

 ひき肉機の前で光悦していた。

 それはともかく、きちんと営業許可をもらいその後も販売を続けると、昼過ぎには5キロのお肉は完売することができた。

 「終わり? ああ、残念だなあ……」

 「すみません、仕入れができたらまたお店を出しますのでまたお願いします!」

 いい匂いと食べた人の感想、それに人だかりと好条件が揃いまだ購入者はいたのだけど帰ってもらった。食器にピュリファイをかけて奇麗にしながらお金を数える。

 「えっと、一個銅貨1枚だから銀貨9枚と銅貨9枚か。うん、もらい忘れは無いね」

 一つは営業許可をくれた男に無料提供したので予定調和だ。その中から銀貨3枚ずつ、二人に渡す。

 「今日はありがとう、これ少ないけど持って行って」

 「え、これだと三等分だからレオスさんの取り分が少なくありませんか?」

 「まあ、今日くらいは取っておいてよ。今後もこんな感じで手伝ってもらうからよろしくね」

 「うひょー! 銀貨3枚! いいんですかね! わたし肉をむちむちしてただけですけど!」

 ああ、自覚はあったんだ。

 「いいよ。今度は先に仕込んでおいて、バス子も売り子をしてもらおうかな」

 「えっへっへ、お任せくださいご主人様! ありがとうございます! では行ってきまーす!」

 「あ、バス子!?」

 ベルゼラが止める間もなく銀貨を握りしめてバス子はどこかへ走っていった。お小遣いをあげたらすぐ使い切る子供みたいなやつだ。

 「もう……」

 「まあちゃんと働いたし、好きに使う分にはいいと思うよ。後で泣き言を言っても知らないけど」

 「そうですね。これから宿へ?」

 「いや、僕達のお昼もまだだし、何か食べに行こうよ」

 「いいですね! これってデデデデートみたい――」

 「え?」

 ベルゼラがそんなことを言い、僕が振り返るとこちらに手を振りながら向かってくるエリィとルビアの姿が見えた。

 「あ、居ましたよルビア! レオス君!」

 「どう? お店は?」

 「エリィにルビア。うん、ちょうど材料が切れて終わったところ。二人は?」

 「へへー、こんな感じよ」

 ルビアが買い物袋を掲げていい笑顔で言う。どうやら服やアクセサリーを買ったらしい。エリィはアクセサリーに興味がなく、服と魔力回復ポーションを買ったのだそうだ。

 「今からお昼だけど二人はどうするの? あれ、そういえばバス子は?」

 「あいつ給金を渡したらどっか行っちゃったよ。僕達も今からお昼と思っていたから、一緒に行こうか」

 「決まりですね! ベル、どうでした?」

 エリィがベルゼラに話しかけると、ベルゼラは心底がっかりした表情でエリィに耳打ちし、エリィが困惑顔で耳打ちをし返していた。


 「――です」

 「ぐぬぬ……」



 「? どうしたんだろ」

 「うーん、ベルには悪いことしたかしら? でも、エリィのことを考えるとねえ」

 ルビアが僕を見ながらそんなことを呟く。

 「どういうこと?」

 「あんたはしっかりしなさいってことよ。さ、行くわよ」

 ルビアが言うと、エリィとベルゼラが僕を挟むように立ち歩き出す。二人は笑顔で話していた何だったんだろう?
 それからお昼を適当に食べ、二人の荷物を僕のカバンにしまい、少し早いけど宿へ戻ろうと歩き出す。しかし途中、昨日鍵がかかっていた集会場の扉が開いていることに気づく。そこへ色々な人が吸い込まれるように消えていく。

 「あれ? オークションって明日だよね?」

 僕がそういうと、エリィがポンと手を合わせて口を開く。

 「そういえば昨日ギルドでリリさんが『前日に査定してくれる』みたいなことを言ってませんでしたっけ? だからじゃないですか?」

 そうだっけ……ああ、目利きは自分でやるって言ったから頭から抜けてたけど言った気がする。

 「ちょっと行ってみませんか? 他の人も色々出すみたいだし興味があります」

 「そうだね、まだ時間もあるし行ってみようか」

 僕達は集会場へ足を運ぶ。

 そこで――

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