前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

その28 噂話



 「さて、何を食べようかな?」

 適当なレストランでいいか? それとも個人でやっているような職人気質なおじさんがやってそうな料理屋がいいか? 名物もこれと言って無さそうなので、とりあえず料理屋を探しつつ町を散策する。

 「普通の町だねえ」

 まあ『普通じゃない町』ばかりでも困るので、これくらいがちょうどいいと思う。そこへ、目に入ったスパゲティの看板を見て僕のお腹がぐうとなったため、ここに決めた。

 「いらっしゃいませー」

 「一人だけどいいかな?」

 「もちろんですよ、見ての通りお昼も過ぎていますし、お好きな席へどうぞ」

 最初に女の子が声をかけてくれ、次に席に案内してくれたのは初老の男性で、感じのいい笑顔でそう言ってくれたので僕は窓際の席に腰掛ける。

 「メニューはこれか、うーん、ここはサラダとスープにパンがついた銀貨一枚のセットかなあ?」

 「どうぞ」

 「あ、どうも」

 女の子が水を置いてくれたので、僕はそれに口をつけながらメニューを見る。昨日は肉だったから、ペスカトーレもいいね。ボンゴレも好きなんだよね――

 「それで、なにボナーラにするの?」

 「さも他にも種類があるみたいな言い方だけど、カルボナーラ一択だよね!?」

 「そうだったかもしれないわ。それで、何を食べるの?」

 「あ、決まったら呼ぶし、待ってなくていいですよ? もう少し考えさせ――」

 「お父さん、カルボナーラセット」

 「はいよ」

 「うおおおおい!? 何勝手に決めてるのさ!」

 「大丈夫、お父さんのカルボナーラは凄く美味しいわ」

 何故、僕のツッコミに怯みもせずそんなドヤ顔ができるのだろう……

 「あれ? 違うのかい?」

 おじさんがカウンターの向こうで首を傾げるので、何となく申し訳ない気持ちになり、おじさんへ告げる。

 「あ、それで大丈夫ですよ! 麺は大盛りでお願いします。……美味しいなら期待させてもらうよ」

 「少々お待ちください」

 ぺこりとおじぎをして戻っていく女の子。そこはきちんと大丈夫って言おうよ……そう思いながらテーブルに頬杖をついて待っていると、何故かおじさんがセットを運んできてくれる。

 「はは、すまなかったね。ウチの娘は初見の人を見るとカルボナーラを勧める癖があるんだ。セットの分のお代はサービスしておくよ」

 「それ、止めさせた方がいいんじゃないですか? ……! うまっ!?」

 クリーミィなソースに半熟の卵黄がのったスパゲティ。さらに粉チーズ、黒こしょう少々がいいアクセントになっている。

 「お、嬉しいねえ。良かったな、今回もお前の勝ちだぞ」

 「ぶい」

 「ごゆっくり」

 ニコッと笑って僕にブイサインをする女の子に苦笑しながら、カルボナーラを食べ進める。そこでふと窓の外を見ると、ぞろぞろと冒険者が歩いていくのが目に入った。

 ちゅるっと口にスパゲティを入れてから一人呟く。

 「パーティにしては多いなあ。手ごわい魔物でも出たのかな?」

 するとおじさんがカウンター越しに答えてくれた。

 「ああ、最近スヴェン公国へ向かう街道で魔物がよく出るようになったらしい。ゴブリンとかレッドホーネットみたいなあまり強くないやつがポロポロとな」

 ゴブリンは以前僕がエコール達に会う直前で斬殺したのでご存じだと思う。レッドホーネットは子供の胴体くらいの大きさをした蜂で、刺されるとその部位が赤くはれ上がって熱を出すことからその名がつけられた魔物。刺されさえしなければスズメバチより倒すのは楽なんだけどね。

 「でも今通った冒険者は一五人くらいいませんでした? ゴブリン相手なら多くても四、五人で倒せますよ」

 「そうね。でも、それに乗じて野盗が出るの。魔物と戦って疲弊したところを襲ってくるみたいね」

 「なるほどね」

 やってることはゲスそのものだけど、戦略としては合っているなと僕が納得していると、おじさんがため息を吐きながら呟く。

 「大魔王が倒されたから早く平和になって欲しいもんだ」

 「うん。お客さんいっぱいで金貨がっぽりになってほしい。お客さんは冒険者? ギルドにいけば盗賊退治の依頼があるかもね」

 「ごちそうさま。僕は家に帰っている最中なんだよ、だから折を見て出発するかな?」

 「そうなんだ、気を付けて旅を」

 おじさんが笑いながら言い、僕は手を振って店を出る。厄介な匂いがぷんぷんする……宿へ戻ってもいいけど、情報集めがてら素材を売りに出してみようかな。

 スヴェン公国に向かう街道はこの後、僕も利用するので野盗のおおよその数とか、襲撃される時間が分かればと思い、ギルドへ向かう。


 キィ……

 若干錆びついた蝶番の音を立てながら扉が開くと、中は冒険者達がわんさか居た。報酬をもらいに来ている者や、怪我をして椅子で呻いている者など様々だ。……どちらかと言えば怪我をしている人の方が目立つ。

 「すみません、素材を買いとって欲しいんですけど」

 「君は見かけない顔だね? 素材の買い取りは奥の扉を出た先に別の建物があるからそこでやってくれるかい?」

 「あ、そうなんですね。ありがとうございます」

 人の好い笑顔をした男性に促され、奥へ進むと、


 「ゴブリンの群れとハチ合わせとはついてねぇなあ」

 「それだけならいいんだけど、その後の盗賊どもよ……ゴブリンを盾にして襲ってきやがる。数も十人はいた」

 「今回はこっちが撃退したが、ランクの低い冒険者はやられるだろうな」


 「……」

 そんな話を耳にしながら別室へ向かう。見た感じ僕と同じCか、良くてBランク位だと思われる男達がそんなことを言うのだ、恐らく実力では勝てるのだろうけど、数の暴力でやられたという感じだと思った。


 「これかな? すみません、素材の買い取りをお願いしたいんですけど――」

 情報収集は終わったので、僕は早々にトルミノスボアの牙と肉、それとキレイに肉を削いだ骨を売って宿へ引き返す。

 「今度こそ馬車で移動したかったけど、レビテーションで飛んで行くのがいいかな? 見られたら頭をぱーに……」

 ベッドで策を練っていると、いつの間にか眠りについていた――




 ◆ ◇ ◆




 「見えたわよ、ミドラの町」

 「ありがとうございます。……ここまでレオス君を見かけませんでした。この町に居てくれるといいんですけど」

 「厄介なのは死んでいて誰にも目撃されず魔物の餌になっていた時ね。探しようがないから」

 「や、止めてくださいよルビア」

 ゆっくり進ませてきて丸二日。エリィとルビアは目を皿のようにして道すがらレオスを探していたが見つからず、がっかりとした表情でミドラの町についた。

 「流石に道を外れるほどおっとりはしていないと思うし、ちゃんと歩いていたらこの町にいるはずよ。ちょっと尋ねてみましょう」

 「はい!」

 エリィとルビアは馬車を宿へと預け、町を歩きはじめたのだった。

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