イレギュラー・レゾナンス 〜原初の世界を再び救う為の共振〜

新海 律希

第64話 共振同調

「うん、鬼ごっこしようよ!」

「……え? そ、そんなこと?」
 わざわざここですることがそんなことか? と言わんばかりに落胆するシン。

 まぁ、俺も少なからずびくった。

 それにシンは運動をしないために休んでいたのに動くことになったから、当然気に入らない。

「うん! 対抗戦の特訓とでも思えばいいじゃん!」
「うん……分かったよ」

 仕方ない。付き合ってやるか。
 雰囲気でものを語りながら賛同するシン。

「えっと、どっちが鬼やるの?」

「んーじゃあ私がやるよ。……あ、あとタッチされたら10秒間動いちゃダメね」

 レイがやると言ったことで逃げる体勢に移行したシンを、少し焦った様子で追加説明をした。

「分かった。じゃ、10秒数えて」

「はーい。じゅーう。きゅーう。はーち。なーな。ろーく……」

 数え始めた途端に走り始めたシンにも聞こえるようにと大きな声を張るレイ。

「いーち。ぜーろっ!」

 カウントダウンが終了すると同時に何かのスイッチが入り、魔力を昂らせるレイ。

 こんなんじゃ居場所丸分かりだから、シンに有利じゃないか?

 俺がそう思ったのも束の間。考えは驚愕と同時に改めさせられた。

 レイは身体強化と風の調整で真上に跳び、公園全域を見渡す。

「──いた」
 眼でしっかりとシンをロックする。

「漆ノ型 迅雷!」

 本来、銃の共振武器の型では、移動出来ない。

 出来ない分、中距離戦闘、そして近距離との使い分けもできるというメリットもある。

 そう、本来は出来ない。……が、例外ももちろんある。

 本当の英雄の1人。カリディア。

 彼女が開発した超高等技術。

 自分をも共振の銃弾に変換し、相手を襲う弾として自分が成る技。

 攻撃力も速度も通常とは段違い。ただ発動が難しいというだけ。

 共振融合の一種。『共振同調』。

 超高等技術で使える人間は数少なく、知っている者もあまりいない。

 今ではサンクテュエール王国に2桁もいないはずだ。

 なのにレイは、それを知っただけじゃなく、会得したと?

 ……まさか、直感? 偶然出来たとか? ……いや、ないか。

 ……ははっ。

 思わず愉快な笑みが零れた。

 なんでかは分からないけど……流石、──ってとこか。

 自身が武器となったレイが、上空からシンに詰め寄って行く。

 だが、まだ完全に共振同調を扱いこなせるというわけではないようで。

 シンをターゲットにしたが、あくまでそれは過去のシン。
 今のシンは走り移動している。つまり、全く違う場所のシンをターゲットにレイはしていた。

 そのおかげで、シンは直撃を免れた。

「……っ!」
 余波で異変に気付き、振り向く。

 ……バカ。気付くのが遅ぇよ。

 そしてなぜ移動系の攻撃ができたのかは理解出来ないも、今自分が置かれている状況は理解した。

「んな……共振武器使うのいいのかよ!」
 共振武器を使わないルールだと思っていたのに別にそんなことはなかったという訳で、悪態を突きながらもそれならこちらもと。急ぎで応戦体勢に入る。

「伍ノ型 豪華絢爛」
 するとシンが先手を打つよりも先に、レイが自分の姿を何人も映し出した。簡単に言うと分身のようなものだ。

 でも影纏いと光系統の纏いは、両者気付いているが酷似している。
 ま、纏いは大体似てるけど、この2つは特に似てるってだけだ。

 シンも伍ノ型 日裏の朧で分身を作ればいいとなるが、それでは解決しない。

 2つはあくまで酷似。同物ではない。

 光系統纏いは主に別の目立つものにミスディレクションする原理。
 それに対して影纏いは、自分など、対象そのものの相手の認識を薄める。

 どちらも自分の姿が消えたりするわけじゃない。

 だから、できないことはないが影纏いは分身系には向いていない。

「参ノ型 万雷の圧・八方」
「……ちっ」

 そりゃ舌打ちもしたくなるだろう。

 八方にしたのは本物の位置を明かさないため。分身はあくまで映像、技を使うことはできない。

「陸ノ型 極夜」
 今のシンにできることはこれくらい。当然且つ最適な判断だろう。

 でも、レイがこれを予想してないわけがない。つまりそこから考えられることは……『未だずっとレイの掌の上』?

 シンはそう気付くのにほんの数拍遅れた。

 シンが万雷の圧を処理している間、レイはもちろん静観しているだけではなかった。
 極夜の射程の外をシンを囲むように狙い撃ち、仕込みを終える。

 おそらくシンが極夜を解いたところを仕留める魂胆だろ。
 シンだってずっと発動したままで無駄に魔力消費するわけにはいかない。

 シンはその光景を見ていないので知らないが、本能で感じ取る。このまま解いていいのか。と。

 ——結果、シンは本能に従った。……いや、直感を信じた。

「……参ったよ。完璧にやられた」
 だがすぐにこの絶望的な状況からの脱出が困難なことを理解してしまう。

 でも、よく考え直して欲しい。
 この鬼ごっこの報酬と犠牲はなんだ?

 やり終えた報酬……特にない。強いて言うなら、疲れる。

 犠牲……特にない。

 なら、負けてもいいじゃん。そんな当然のことに、シンは今頃気付いた。

「あ、ちなみに負けた方は勝ったの方の言うことなんでも聞くね?」
「てないわ。ちゃんと考えたら勘違いだった」

 シンはその言葉で何を想像したわけじゃない。ただ、言う人がレイというだけで、猛烈な不安と嫌悪感を感じた。
 だから、少し遅かった気もする訂正をした。

 とはいえ、シンが1人でこの状況を切り抜けるのは難しそうだ。
 レイが考えているルールが『制限時間終わりの時に鬼だった方の負け』になっていることにも気付いてないみたいだし……。

 仕方ない。ちょいと手助けしてやるか。

「ヴッ……!」
 途端何かに脅されたように一瞬痙攣し、動きが止まるシン。

 硬直が起きたことによって極夜が解かれてしまった。

 それを見逃さず、瞬間的な反応を起こしたレイ。仕込みを起動させる。
「弐ノ型 雷霆宮《らいていきゅう》!!」

 発生する稲妻。爆発、火花。その全てがシンを襲う。

 轟音がシンを中心に轟くが、レイは考えていた。
 これでは、シンを仕留められないと。

 そう考えていたからこそ、更に念を込めて追撃を送る。

「玖ノ型 復讐《ふくしゅう》の光雨《こうう》」

 無慈悲にも、轟音に轟音を重ね、完膚なきまでに叩き潰すようにレイは引き金を引く。

 その途中、レイは感じた。

 シンとセレスがディザイアと名乗る者を前にした時、不意に感じたあの恐怖に似たものを。

 一瞬にして猛烈な不安を覚え、疑心暗鬼になりピタリと攻撃の手を止める。

 砂煙が晴れてきて、薄々と視えてくるシルエット。

 異様としか言えないその影に、レイは固唾を飲み込む。

 人型の影から、ゆらゆらと1つ片方から出ている翼のようなものが揺らめき、その力が原因か、そのらの景色すらも揺れている。

 まるで、全てが朧げになったように。

「スゥーーー……」
 異形のシンは、白い吐息をゆっくりと吐き出した。その姿は、まるで暴走したかのようだ。

 漆黒を司ったその翼が、それを強調している。

 冷徹な威厳を発するその姿に、レイは思わず萎縮しわずかに退いてしまった。

 だが、しっかり思考は残っているんだろう。なぜなら、レイを襲うことをしなく、逃げることを一番に考えているから。
 つまり、鬼ごっこに勝つことを考えている。

 そんなシンに対するレイの行動は、退くこと。だった。

 あんなヤバそうなシンを相手にするのは危険。なんでそうなったのかは分からないけど、多分強い。強いってことは、きっと何かしら制限があるはず。そして長時間続けられないはずだ。

 そう至り、シンのそれが治まるのを待つことにした。

 ……もういいかな。

 ここを抜け出すことを達成した俺は、最後にシンの頭に『制限時間の最後に鬼だった人が負け。というルール』だということを残し、シンの身体から消えることにした。

「……あれ、さっきの、なんだ……?」
 正気に戻ったシンが先の出来事を思い出し、謎に思うが、そこら辺は問題ない。

 しっかりとシンとレイの記憶からそのことを思い出せないようにしとくから。

 ……にしても、シンの身体、ちゃんと耐えてくれるとは。
 少し驚いたが、それでも嬉しかった。いや、感謝した。

 シンのことを鍛えてくれて、ずっと守り続けてくれてるあいつに。

 確か今の名前が……エクセレトス、だっけか?

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