イレギュラー・レゾナンス 〜原初の世界を再び救う為の共振〜

新海 律希

第57話 遊び道具を手に入れたマギアス

「はぁーあ……学園対抗戦ではあんまり戦わないつもりだったのに、こんなすぐにやることになるとは……。でもま、戦いメインじゃないだけマシか」

 素人でも掛からない罠に掛かったような悔しさに苛まれながらだが、代表者になったことを妥協して我慢した。

『では代表者紹介と行きましょうッ! ソルセルリ―学園から。一年生にして対抗戦メンバーに選ばれた、『王家の新精』マギアス=イディオォ!!』
「「うおおぉぉぉぉ!!!!」」

『次に、リュギア学園から。リュギアを支える支柱! 人呼んで、『帝王の右腕』カラム=ソクマ!』
「「うおおぉぉぉぉ!!!!」」

『…………えぇ、すみません。時間がヤバイそうなので、ここからは簡略化して紹介します! フェラス学園から。サリア! セイナミス学園から。イカロス! ディアライト女学園から。モスタード! クリア学園から。デイドリー!』
「「うおおぉぉぉぉ!!!!」」

 あの実況……ただ説明がめんどかっただけじゃね?

 話してる素振り見せてたけど、よく見たらあそこ一人しかいないし。

「ではこの魔道具を持って、この転移碑で場に転移ください」
 そう言って代表者全員に、丸型の魔道具を手渡し、転移先に行けと言われた。

 この魔道具は……自動撮影機能のあるものか。
 しかも自立型だから、誰かが操作する必要がない。

 勝手にいい場面を撮影するから、その映像をこの会場の大画面で流して、そこには被害がないままで迫力ある場面を見れるって仕組みだろう。

 転移した先で、魔道具が開き、どこかへ飛んでいく。

 その転移した先には、スタートと大きく書かれた旗と、白い線があった。

「……お、あそこにマップがあるのか」
 舞台は大きめな街で、その中心に大きい塔があり、その周りに、半透明にここの地図らしきものが浮かんでいた。

 そしてゴールと指定されている場所は……街中の微妙な位置にあった。

 変なとこにあるなぁ……。

『この場では、他の選手の邪魔をするのもオッケーです』
 この街全体に、その声が響き渡った。

「なるほど、力よりも略策が必要とされるわけですか」
「ん……どうやらゴールまでのルートも指定されているようだね」

「あらあら、皆さん随分と余裕ですわね?」
「あ、あの……お、お手柔らかにおぬぇがぃます! あ、あぁ! ごめんなしゃい! ……あ、あぅ……」

 ……とりあえず早く始めない?

『では……スタートです!』
 それと同時に、ビーーーーッ!! と、ブザーも響く。

 その瞬間、ちょっとぼーっとしていた俺と、おちょこちょいそうな女の子以外が、どこかへ跳んで行った。

「……あ、みなさん、速いです……」
「あの、大丈夫?」

 さっきもドジそうな素振りを見せていて、この調子で大丈夫かと不安になって、話しかけてみる。

「は、はい。ありがとうございます。あ、私はフェラス学園の、サリアです! よろしくお願いします!」

 フェラス学園……『マキ』がいるとこか。

「俺はマギアス。こちらこそよろしく」
 マキ、ちょっと気になるな。

 探りを入れてみるか。

「——ねぇ、君の学園にマキって子が入ったと思うんだけど、知ってる?」

「マキさん、ですか? あ、もしかして、あなたがマキさんの言ってたシンさんですか!?」
 会えて嬉しい、とでも言うかのような笑顔を浮かべて聞いてくるサリア。

「いや、俺はシンじゃないけど、そのマキがシンのことを話してたの? あと、レイのことも」
「あ、よくわかりましたね。その通りです」

 ……やっぱりそのマキって、『花宮真姫』のことなんじゃ?

「……って大丈夫ですか? こんなところでゆっくり話してて……みなさんもう行ってしまいましたけど」
「あぁ……大丈夫じゃない?」

 実は、さっきのタイミングで行かなかったのは理由がある。
 本当なら、ゴールした順位でポイントが決まるのだから、早く行った方がいいのは当然だ。

 でも、妙すぎるだろ?

 この競技名は、『障害物競走』だ。
 なのにさっきからずっと、障害物のようなものは見えないし、感じない。

 こんなにも広い街だから、どこかにあるんだろうけど、流石になさすぎじゃね? 他の代表者の悲鳴も何も聞こえないし。

「でもま、そろそろ俺達も行こっか」
「あ、はい。そうですね。ありがとうございました」

 今は一人で静かに考えたくて、サリーと別れるのを促すように話を持ち掛けると、上手く乗ってくれた。

「いや、こっちこそ」
「では」

「さてと」

 サリアがどこかへ行ったことを確認し、まずは上空は使えるのかと、石橋を叩くように、上に向かって特大の花火を打ち上げる。

 が、それは何かに当たったように弾け、更にはそこから雷が落ちてきた。

「うわ! Ⅿマジック、朽ちろ!」
 咄嗟にそれを防ぐと、上を使って不正をすると、雷で追撃してくる仕掛けだと確信した。

 だがそれよりも、俺は今犯してしまった自分の失態に気付いた。

「やべ……これ放送されてんだった。あんま使わないようにしなきゃな……」
 使いすぎて、Ⅿマジックの原理に気付かれたらアウトだ。

 特に、シンにはバレないようにしなきゃな。

「……さて、競技に戻るか」
 上はダメ。手掛かりになりそうなものは、あの地図だけ。

 つか、なんでこれだけの為に、誰もいない街に転移したんだろ?
 わざわざ手の込んだことを……。

 まいっか。考えても仕方ない。今はこの地図に沿って移動してみるか。

 ―――――――――

 そして10分ほど経過したところか。俺は違和感に支配されていた。

 今まで、岩石の嵐とか、数百発雹が飛んできたりはしたけど、言う程障害にはなってない。

 何もしなくても代表者の場所に飛んでくる仕掛けだった。
 あんなのすぐに型で壊せたけど。

 こんなので、障害物競走として成立するか?

 そして、もう一つの違和感。

 ……地図通り進んでも、思いもしない場所にいる。
 この地図、間違っているのではないか? と思う程に。

「んーむ……これからどうしよっか」
 さっきと同じく地図通り進んだとしても、更に迷子になるだろうし……。

 まず、ゴールがどちらの方向かも分からなくなってしまった。
「ホントにどうしたもんか……」

 これからどうしようかと、未だに一つしかない手掛かりの、地図を見る。

「……! ……ん? 今、あの地図で何か見えたような……」
 何かがビビッ! と来た。

 その正体が何だったのかと、その地図を時折向きを変えたりして見てみる。

「……この地図のルート、パラシェル公園の道に似てる……ってか、似すぎじゃね!?」
 その事実に、パラシェル公園は、自分にとってかなり身近で、そのことにはほぼ知り尽くしている存在だからこそ、気付けた。

 そう、この国の誰よりも。
 メイタール様よりも。

「この道のゴールになっている場所は……ちょうど青焔花の楽園か!」

 ——だからゴールの位置が街中なんて微妙な位置だったんだ。

 つまり、『障害物競走』の『障害物』とは、罠のことではなく、この地図自体が障害物。

 可愛い名前して意外といいことしやがんなコイツ。

 予想外に骨のある競技で、少し愉しくなる。

 パラシェル公園は、世界最高の地とされていて、その観光ルートすらも授業で習う。
 だからそれがゴールへの道に選ばれたんだ。

 パラシェル公園なら、全員が知ってるからな。

 その圧倒的人気からして、入園する為の券を手に入れるのすら至難の業。
 簡単に入れるのは、王族か、その関係者くらいだ。

「でも、ゴールが青焔花の楽園だとして、どこに行けばいいんだろ。まさかエデンサンクテュエール王国の青焔花の楽園に行けとかはないだろうし……」

 どうやら、まだ手掛かりが足りないみたいだ。

 思わず笑ってしまう。予想以上に楽しめそうだと。

 今まで退屈だった。俺と同じ者がいなくて。

 でもシン達が来てから、未完成だった歯車が完成したように、運命が動き始め、何かが変わり始めた。

 そして今は、初めて遊び道具を手にした子供のように、愉快な気分だ。

 ——なんだよ。必要なのは、罠に掛らない為の冷静さや解析力ではなく、罠を意にも介さないほどの力や肉体でもない。

 ——ゴールを導き出す推理力と閃きじゃねぇかよ。

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