イレギュラー・レゾナンス 〜原初の世界を再び救う為の共振〜

新海 律希

第53話 王女と姫

「では、これからは自由なので、帰宅してもよろしいです。また、明日の13時から始まるので、遅れないようよろしくお願いします」

 今日はこれでもう終わりということなので、宿に戻って休みまくろうとなった。

 明日から本戦の本番は始まるので、それに備えておこうという考えからだ。

 そして、休みまくろうとなったということは……。

「うはー! 明日から本番だー!」
「ですねー」

 無論、『桜の会』が開催される。

「はぁ……」
「ん、どしたの?」

 一体俺に自由な時間は訪れるのかと、憂鬱になり、溜息を吐くとなぜ溜息を吐いたのか聞かれた。

「いや……なんか緊張がなくなったから、それだけ」

 桜の会が憂鬱だと言うと、叱られそうなのでやめて、適当に誤魔化しておいた。

「にしても、あの説明文句にはびっくりしたね……」
 レイがして参ったというような顔で話しかける。

「あぁ、あの王者! とか帝王! ってやつか。俺もびっくりした」

「聞いた話だと、それぞれの学園長があの文句を決めているそうですよ?」
「まじで!?」

 恥ずかしくないの!?

 俺だったら恥ずか死だよ!

「毎回、学園長はあの文句を聞いて笑い転げているとどこかで聞きました」
「なにそれ!」

 自分達で決めてそれを聞いて楽しんでるの? 俺達めっちゃ被害者じゃん!

 無駄に恥ずかしくなるし、なんか迷惑!

「あーでも、俺帝王が良かったなぁ……かっこいい」
「そう? 私は孤高の聖女とか面白かったよ?」

 ……面白かっただけかよ。

「……あ、そういえば、あの人にちゃんと謝らなきゃな……」

 宿でぶつかったあの人、急いでてしっかり謝ることも出来ていなかったかもしれない。
 何か失礼だったりしなかったかな? 急に心配になってきた。

「あの人って、誰ですか?」
「え? あぁ、宿で俺遅れてたじゃん」
「そうですね」

「あの時、誰かにぶつかっちゃったんだよ。その時はすぐどっか行っちゃったから、謝れてないような……」

 謝ったかどうか、急いでて覚えていないんだよなぁ。

「あの人も急いでいたみたいだし、遅れなかったかな?」
「きっとこの宿にいたら、いつか会えますよ。だって、この2階でぶつかったんですよね? なら、ここに泊まってるということですから」

「……それもそうだね」

 ―――――――――

 そして、学園対抗戦本戦の1日目。

 またも闘技場は盛況に包まれていた。

『さぁ! 学園対抗戦初日! まだ見ぬ才能の持ち主が現れるかッ! お待ちかねの本戦! スタートです!!』

 学園対抗戦の勝敗の決定は、予選と同じ。

 いくつかの競技で競い、その合計ポイントが高い学園の勝利だ。

『最初の競技は、まずは小手調べ。『代表対戦』だぁ!! ルールは簡単。各学園からの代表者が、一対一で戦うというものだ!』

 なるほど、小手調べね。

 代表者は、メンバーの一員。つまり、その学園の力が、大まかにだが分かると言う訳だ。

 そいつが一番弱くても、少なくともそいつ以上の実力を全員持っているということ。
 強くても、警戒して損はない。

「これ、誰が行く?」
「私は、シン君とマギアス君以外が行くべきだと思うし」

 いやだから……マギアスは分かるけど俺は違うって。考えを直してほしいな。

「ここは普通に考えて、私かど……シェル先輩にするべきだと思います」
 ……また泥棒猫って言おうとしたな。

 ちなみに呼び方は、アルスベリアにいる時に全員そう呼ぶようになった。

「じゃあ、私が行くよ」

「異論はないです」
「頑張ってください」
「ファイトです!」

 シェル先輩の要望により、シェル先輩が代表と言うことで決まった。

 ―――――――――

『さぁ、ここで全ての学園の代表者が決まりました!』

 ……ふう。一番最初、慎重に行こう。

『では紹介です! なんと、ソルセルリー学園からは、国内でも有数の実力者。通称、大草原に咲き誇る一輪の華。『純白の王女』シャムル=フォン=アストリアッ!!』

「うっ……」
 この二つ名嫌なんだよなぁ……絶対学生に付ける二つ名じゃないって。

 それに王女はセレスちゃんでしょ? 私じゃないって。

 心の中で不満を垂れながらも、場に出ていく。

『そしてフェラス学園からは、同じく国内有数の実力者。戦場に咲き誇る一輪の華。『静寂の戦姫』ローレイ=クライアッ!! なんと、初っ端から姫と王女の戦いだぁ!!』

 うわ、最初からルーちゃんかぁ……。

 ルーちゃん強いんだよなぁ。

「久しぶりですね、シェル。前の学園対抗戦以来ですか」
「久しぶり、そうだよ……私、強くなったからね」

「それは私のセリフです。今までの戦績は、四勝四敗でしたね」
「まずは1つ、引き離そうかな」

「その身長で、ですか」
「なっ……! そ、それは関係ないもん!」

「ほら、すぐ乱れる」
「うぅ……身長のことはエヌジーだよ」

「そうでしたか。これからは気を付けます」
「さっきだって分かってたくせに……」

『構え!』
 せっかくのルーちゃんとの久しぶりの会話も、その一言によって半強制的に終わらせられる。

「弐ノ型 荒波!」
「お、漆ノ型から始まる癖は治りましたか……壱ノ型 水神《みかみ》斬《ぎ》り」

 その癖はリアに言われてしないように頑張ったんだから!

「「……八咫烏!」」
 互いに相殺したことにより、どちらにも隙が出来る。

 そこから一気に流れを掴もうと、攻撃が当たる確率が最も高い八咫烏で狙う。

 その八つの刃は、全てが当たることはなく、勢い衰えずルーちゃんに向っていった。
 だが、それはあちらにとっても同じこと。

 八つの刃がルーちゃんに直進するのと同時に、八つの刃が私にも直進する。

「「……っ!」」
 咄嗟に当たるであろうところを身体強化で硬力を高め、防御態勢に入る。

 その攻防は、どちらもかすり傷が出来るだけで終わった。

「螺旋水!」
「彗穿《すいせん》!」

「轟天華!」
「千日紅《せんにちこう》!」

「冰剣戟!」
「緋天!」

「冰輪虧月《ひょうりんきげつ》!」
「飛輪煌舞《ひりんこうぶ》!」

「滅冰泉《めっひょうせん》!」
「火燕不知火《かえんしらぬい》!」

『これは……激しい技の攻防ッ! こんな豪華な試合は、そうそうないぞ! これが、王女と姫の実力かぁ!』

 王女ってところに引っかかるな?

 それに…………『これが王女と姫の実力』? 舐めないでほしいな。

 こんなんで終わるわけないでしょッ!?

「……あれが私達の限界だと思われてるみたいで、なんだか不愉快ですね」
「……やっぱり、気が合うね」

 不愉快だなんて人を傷付けそうな言葉は使いたくないけど。

 でも、ここでいきなり手の内全部曝すのも良くないしな。

「……私相手に手加減ですか」
「あら、それはルーちゃんだってそうでしょ?」

「やはり気付かれていましたか」

「でも安心してね。最後の領域乱戦では本気でやるから」
「楽しみにしておきますよ」

 でもだからって……負けるのは嫌だよ!!

「ハァッ!!」
「セアァッ!!」

 甲高い金属音を鳴らしながら、剣と剣がぶつかる。

 私達が剣を交えるに連れ、次第に、会場は静まっていった。

 それは決して、しらけなどではなく、寧ろ、逆だった。

 私達の豪華な攻防は、衰えを知らず、未だに続いていく。

「いつまで、続くんだ……?」

 誰かが、そう呟いた。
 通常なら聞こえるはずのないその呟きも、衝突音しか響いていないこの場では、大人数の耳に届いた。

 時間が経つとともに、私達二人の傷も増えていく。

 だが私達はそんなこと全く気にしておらず、寧ろ、今のこの対戦を楽しいと、この時間がもっと続いて欲しいとさえ思っていた。

 だが、私達のそんな願いを裏切るように、終了の刻は突如、訪れた。

 時間切れを知らせるブザーが、闘技場全体に鳴り響く。

「はぁ……はぁ……」
「はぁ……うぅ……はぁ……」

 息を切らしながらも、もう終わりと言われたような気がして、邪魔しないでほしかった。
 そう思い、恨みの籠った目で鐘の鳴った方を見る。

「……はぁ……もう、終わりですか……」
「引き離せなかったか……」

「仕方ありません。やはり決着は、領域乱戦で着けましょうか」
「そうだね、楽しみにしてるよ」

「えぇ、こちらこそ……そうだ、1つ。忠告をしておきましょう」
 これで話が終わると思いきや、ルーちゃんが忠告があると言ってきた。

「今年、フェラス学園に超大型新人が編入してきました」
「……! 忠告ありがとね。でも、それなら心配ないよ」
「……?」

 私の発言に、ルーちゃんが興味を持ち、振り返る。

「こっちには、超大型新人が2人編入、学園で一番強い一年生もいるんだから」
 それに、セレスちゃんもいるし。

「……シェルよりも強いのですか。それは気になりますね」

「……シン君とマギアス君に、ご注意を」
「……ふっ。では、あなた達も、マキにご注意を。あの子は……この世界の理から外れています」

 ルーちゃんは少し楽しそうに笑い、私と同じように忠告してきた。

 ……理から、外れてる? ……『マキ』覚えとこ。

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