イレギュラー・レゾナンス 〜原初の世界を再び救う為の共振〜

新海 律希

第50話 予選決勝

 そして今、俺達がいる場には、いくつもの熱狂的な歓声が集まっていた。

「うわぁ……予選でもこんなに盛り上がるんだ」
 心底驚いた。

 将来有望な新人を発掘できるかもしれないし、見ていても楽しく、試合はどれも見ごたえのある試合ばかり。
 そんな学園対抗戦が盛り上がらないはずがないと、クラスの皆に熱弁されたから、すごいとは予想していた。

 ……本戦は、すごいと。

 まさか、予選でこれ程とは思っていなかった。

「それで、一時間後にフォークス学園とやるんですよね?」
 確か決勝に勝ち進んだのがその学園だと思ったから、合ってるかと先輩に確認する。

「そうだよ。みんな、緊張してない? いつも通り気楽にね!」
 先輩が俺の記憶を肯定し、その後に誰かが緊張で凝り固まってたりしないかと心配する。

 だが……。

「あの……」

 少し申し訳なさそうに、セレスがひっそりと手を挙げる。

「お、どしたし? セレス」
「えっと、シンが緊張のせいか、さっきから口以外微動だにしないで汗かいてるんですけど……」

 俺の容態に気付いたセレスが、それを先輩に報告する。

「あぁ、シン、こういうのに弱いもんね」
 その内容に、レイが理由も付きで納得する。

「そうだったんだ……シン君、大丈夫?」
 シェル先輩が、心配そうに覗き込み、見上げてくる。

 ……シェル先輩。近いです。いい香りが漂ってきます。

「はい……なんとか」
 思ったことをそのまま言う訳にもいかないので、簡単な返事をする。

「じゃ、シン君は慣れるまであんまり戦わない方がいいかな。まず私達が戦《や》ってるから、シン君は大丈夫そうだったら来てね?」
「あ、ありがとうございます……」

 足引っ張ってしまって申し訳ない。

「それに、シン君は出来るだけ温存して切り札にした方がいいしね」
「確かにそうですね」

 シェル先輩が俺は切り札にしておく方がいいと言い、マギアスがそれに賛同した。

「いや、それだったらマギアスの方が良くないですか?」
 絶対マギアスの方が強いし。

「言っとくけど、俺は本気でやってシンに負けたんだぞ?」
(まぁ、枷《かせ》がある状態での本気……だけどな)

 いや、あれは俺の実力じゃないと思うんだが……。

 俺が自分の実力で勝ったならまだしも、違うんだからな……。

 なんかもやもやする……。

 ほんとに、あの夢みたいなのに出てきたあいつは何なんだよ! 謎すぎんだろアイツ!!

「ソルセルリー学園のメンバーの皆さん。もうそろそろお時間ですので移動をお願いします」
 俺がもやもやしている時に、係の人? がそろそろ時間だからと、俺達を呼びに来た。

「も、もうそろそろ……」
 そろそろ本番だと実感し、俺だけ緊張が高まる。

 レイはこういうのに強いから分かるとして、他のみんなも強いの?

 ……強いかそりゃ。

 なんせ、セレスは第三王女。人前に出る機会は少なくないはずだ。

 カイルは、四大貴族、レクシア家の子息。セレスと同じで、人前に出る機会は少なくないはず。

 シェル先輩も、四大貴族のアストリア家のご令嬢な上に、生徒会長を務めている。
 恐らくセレス以上に人前に出る機会はあるだろう。

 マギアスは……よく分からん。
 レイと同じで単にこういうのに強いのかな?

 あとメンバーではないが、回復要員として同行しているリア先輩も貴族な上に副生徒会長。

 つまり、この場で俺だけ人前に弱い。

 ……仲間外れの独りぼっちかな?

 ……やめよう。認めたら虚しくなる。

 そうだ! 誰かは強がっていて本当はこういうのに弱いって可能性も。

「よし! がんばるぞ!」
「みんな怪我しないように気を付けるんだしー」
「そうよ、怪我したら痛いんだからね」
「いつも通り普通にやったらいけると思うけど?」
「ほら、シンも座ってないで行こうよ」

 レイが分かりやすくやる気を出し、それに対して、リア先輩がのほほんとしながら注意を促し、シェル先輩が小さい子のようなことを言う。

 そしてカイルがすかしたように、当然のように落ち着きながら『いつも通りやればいけるでしょ』なんてことを言い、マギアスがずっと座ったままの俺を誘ってきた。

 ……ごめんなさい。みんなほんとに緊張? ナニソレ、オイシイノ? 状態でした。

 てか、シェル先輩、ほんとは年齢俺達より低いんじゃ……?

 シェル先輩の発言により、俺の中で失礼な仮説が立ってしまった。

「うん……行く……」
 緊張がもう限界に達しそうな俺は、そう返すので手いっぱいだった。

 ―――――――――

 その円形闘技場のような場所の、闘士達が戦うところに近づくに連れ、聞こえる歓声が大きくなる。

 歓声とともに、俺の緊張の度合いも高くなる。

「……シン、今回はほぼ何もしないでいいから楽にして? 私達で頑張るからさ」

 どうやら俺は、レイでさえ、こんなに気を遣わせてしまう程に緊張しているようだ。
 ……レイに失礼か? まぁ、いっか。レイだし。

「ありがと……」

『初めて決勝に勝ち進んだフォークス学園! そして、それを王座から迎え撃つのは……初回から全ての学園対抗戦に出場している、この国の代表的存在! 正真正銘の王者、ソルセルリー学園んんんん!!!!』

 フォークス学園の時でも十分な歓声が沸き上がったが、『ソルセルリー学園』と言い放った瞬間、さらなる完成が沸き上がった。

「うわぁ……流石にこれには慣れないなぁ……」
 シェル先輩が、珍しく微妙な顔をしている。そりゃそうか。

 なんせ俺でも、緊張じゃなくて、今は引きそうになっている。てか、もう引いてる。

 なんじゃこの対応? おかしいじゃろ。

「でも……逆に、緊張が和らいだな」
 こんな歓声を引き起こしたのは少し引いたが、俺の緊張を和らげてくれたのはいい仕事したな。実況さん。

「シン君、この予戦では、総将戦、大将戦、隊長戦、隊士戦、隊士戦って、五つになってるの」

「はい、聞きました。それで、隊士は1ポイント、隊長は2ポイント、大将戦は3ポイント、総将戦は5ポイントを、倒したら獲得できて、総計ポイントが多かった方が勝ち。ですよね?」

「お、正解だよ! よく覚えてたね! じゃあ、ポイントが同点だった場合は覚えてる?」

「はい。そうなった場合は五対五の乱闘ですよね?」

「その通り! そうなった時は毎回ものすごく盛り上がるんだよー」
「俺達はポイントで勝ちましょうよ」

 俺はまだ平和一番という考えを持っているので、せめてポイントで勝ちたかった。

「まぁ、それが一番いいよね」
 先輩は、遊んでいる時のような無邪気な笑みを浮かべながら、肯定した。

「みんな! これから作戦伝えるから集まるんだし!」

「え、作戦?」
 リア先輩が作戦を伝えると言うが、なぜ作戦が必要なのか分からず困惑する。

「ほら、役によって獲得ポイントは変わるでしょ?」
「はい」

「だから強い人は大事なところを任せればいい話だけど、相手が総将戦以外で獲ろうとしてきたら勝てないでしょ?」
「まぁ、そうですね」

「そういうのも考えなきゃいけないんだよ、これは」
 そう言って先輩はリア先輩のところへ行った。

「……めんどくさいな」
 それが、俺の持った感想だった。

 ―――――――――

「つまりシン君を総将に置いて、セレスとレイちゃんを隊士、シェルを隊長にしてマギアス君を大将にするんだし」

「まぁ、妥当だと思います」
「うん、実力的にそうだと思う」
 リア先輩の考えにレイとセレスは賛同しているが、俺は不満がある。

「あの、俺を隊長にして、マギアスを総将、シェル先輩を大将にしてくれませんか?」

「ん? どうしてだし?」

「一番の理由は、足手纏いになりたくないからです」
「……俺はいいと思いますよ」

 マギアスが、俺の顔を見て賛成してくれる。

「……じゃあ、そうしようか。シン君、緊張は大丈夫?」
「大丈夫です」
「そっか……」
 リア先輩は、俺に心配そうな目を向けている。

 みんなの足手纏いなんて、俺はごめんだ。

 これを突破しても、まだ肝心の本戦があるんだ。
 せめて、今のうちに少しでも慣れておかなきゃ。

 いきなり大役は難しいから、大役じゃないやつで慣れていこう。

 全部大事な役だけど。

 ……それに、総将戦なんて、俺には過ぎた役だ。

 ―――――――――

 レイとセレスの隊士戦が終わり、俺の番となる。

 2人の結果は……両者、敗北。

「2人とも、静かに休んでてね」
 2人の顔には、悲しみが浮かんでいる。

 でも、俺は、その中に怒りもあるように見えた。

 気になるが、今はこの戦いに集中しなければと気を取り直した。

 レイとセレスがあんな顔をしているのに、緊張なんかに囚われてる場合か。

 覚悟を決めると、観客のことを忘れられるほど、集中出来た。

「……フォークス学園の対抗戦メンバー、アルガオです」
「ソルセルリー学園の対抗戦メンバー、シンです」

 一度礼をして、最初の定位置に着く。

 アルガオの武器は、普通の剣だ。

「構え!」

「影纏い漆ノ型 迅一閃」
 それは、アルガオの剣に直撃し、アルガオごと吹っ飛ぶ。

 ……うん? あ、れ?

 今、あいつ、防御して、なかった・・・・ ・・・・

 今のは、出来ないことはなかったはずだ。なのにあいつは、しようともしなかった。

 ……一体、何を、企んでいるんだ?

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