イレギュラー・レゾナンス 〜原初の世界を再び救う為の共振〜

新海 律希

第49話 メイタールの悲しい仮説

 ——国王が俺達を呼んでいる。

 ……俺、何かしたっけ? 国王に言われるほどのこと、何かしたっけ?

 軽い恐怖で、おかしかったテンションもほんの少しだけ平常に戻る。

 城に帰り、いつもならそのまま自由に、部屋でくつろいだり出掛けたりするが、今日は違う。

 学園から帰り、荷物を置き、応接室に向かう。

 国王は、気さくな人だ。本当にいい人なのは間違いない。
 でも、国事のことなどになると、とても厳格だ。

 なので、こういう形で王に会うのはとても緊張する。

 いつもご飯の時に会ってはいるんだけどな。

「失礼します」
 俺がドアをノックして、ひと声かけながら部屋に入る。

「うむ、よく来たの」
 宰相のクルシュさんと、大臣のラクラさんもいる。

 俺達、そんな大事何かしたっけ……?

 この国の最重要人物が、この場に集まるなんて、俺達がそれだけのことをしたということになる。

 きっと、濡れ衣ですから……俺ら何もしてません。

 実際には声に出せない抗議を心の中でしながら、国王の威厳に圧倒される。

「お父様、今日はどのような要件ですか?」
「あぁ、ちょっとばかし、主達に聞きたいことがあっての。すまんが呼び出させてもらったわ」

「「……え?」」
 俺とレイの、驚いたような声が重なる。

 でも、よかった、聞きたいことってことは、俺達が何かした訳じゃなさそうだ。

 でも、そうなると何を聞きたいんだ?

 この3人が集まってるんだから、重要なことに変わりはないんだろう。

 そして俺達はそのことについて聞かれる。

 ということは、その重要なことに俺達が関わったということだ。
 そんな重要なことなんか、俺多分知らないから無駄だと思うけど……。

「実は、アストリア家のご令嬢からアルスベリアでの出来事を聞いての、そのことをメイタール嬢が詳しく聞きたいというんじゃ。そしてそのことは国にとっても重要なことかもしれんと」

 アルスベリア島での出来事……ディザイアのことか!!

 ディザイアのことと分かった瞬間、ずっと乗らなかった気持ちが、一気に昂る。
 ——そして、この応接室内の空気が引き締まる。

「その顔は……心当たりがあるようじゃの?」
「はい……」

「じゃあ、そのことについて……」
 国王の言葉が終わる前に、ついさっき聞いた音と同じ音が響いた。

 ノックの音だ。

 そしてその次に、ドアが開くガチャという音が響き、部屋に入ってきたのは——。

「メイタール様……」
「ごめんね、もう話始まっちゃってるかしら?」
「い、いえ、まだあまり……」
「そう? なら良かったわ」

 俺の頭は、今猛烈に混乱していた。

 おいおい! もうこの部屋に国の最重要人物集まってるんじゃないか!?

 第一王女は他に国に嫁いでいて、第二王女のフィリア様は今魔法院にいる。

 なので、この2人を除けば、ここに国の最重要人物が全員いるということになる。

「じゃあシン君? アルスベリア島での話を聞かせてくれないかしら」
「は、はい——」

 ―――――――――

 俺達は全員、自分が知っている限りの情報を残すことなく全て、この場で話した。

「そのディザイアと名乗った者は、シン君のことを『アストライル』確かにそう呼んだの?」
「はい。どういう意味なんですか?」

 すべて話し終えた後、メイタール様が『アストライル』について確認してきた。

 俺はその意味が分からなかったので、合っていると言いながら、もしかしたらメイタール様なら知ってるかもと、その意味を聞いた。

「ごめんなさい、私も分からないわ……」
「そうですか……」

 希望を持ったが、メイタール様も知らないと言う。

(アストライル…………まさか、ね……)

「ねぇシン君、もう一つ聞いてもいいかな?」
「はい、何ですか?」

「そのディザイアって者、容姿は赤い長髪に、青い目をしてたりしてた……?」
 メイタール様は、覚悟したような目で俺に聞いてくる。

 あいつの容姿は、しっかりと覚えてる。あいつの姿形声だけは、絶対に忘れない。

 ディザイアへの怒りを思い出したことにより、俺は、俺が一番見たくないものを思い出してしまった。
 ——レイの泣き顔を。

 ……あいつなんかに負けないくらいには強くなる。今度こそ、もう2度と、そんな顔はさせない。

「……くん? ……シン君?」
「……あっ、ごめんなさい」
「いいけど、どうしたの?」
「いえ、なんでもないです。それより、ディザイアの容姿でしたよね?」
「あ、うん」

 ふぅ、思考に集中してしまっていた。

「はい、確かに赤い長髪に、青い目をしてました。でも、なんで分かったんですか?」
「あ、ううん……なんとなくだよ」

「そうですか?」

「じゃあ、これでもう話はついたから、自由にしていいよ」
「あ、はい……」

 ―――――――――

 シン君達にディザイアと名乗った者について聞き、思考を整理する為に、空室のバルコニーへと転移する。

「アストライル……」
 その言葉に、私はなんとなく覚えがあった。

 そして——ディザイア。欲望や、願望を意味する言葉。

「もしかしたら……」
 私の中に、認めたくはない仮説が生まれる。

「嘘だよね……もし、そうだとしたら……私はどうすればいいのかな……教えてよ。マゴス……セレス……ライラ……クロエ…………カリディア」

 ―――――――――

「はぁ~緊張した~……」
 糸が切れたように、自分の部屋のベッドに倒れこむ。

「だねぇ~……」
 レイも同じく俺のベッドに倒れこむ。

「あぅ……」
 セレスはベッドに座った。

 ……俺のベッドに。

「あの、なんで俺のベッドにいるんですか? 2人とも?」
「そりゃこのまま桜の会へ直行するからだよ?」

 ……そうなの?

「ま、いっか」

「そいえばシン、テンションがいつも通りになってるよね? 前は一回そうなったら、寝るまでそのままだったのに」

「あぁ、メイタール様だったり王だったりで、圧倒されて元に戻ったよ」
「なるほど……確かにあれはそうなるか」

 レイもさっきの圧を覚えているので、苦笑いをしながらさっきのことを思い出す。

「私でもあれには気押《けお》されましたよ……」

「ね、もう楽しい話しない? こんな話してると気が滅入《めい》っちゃうよ」
 レイがこの雰囲気を変えようと、別の話題を探そうとする。

「じゃ、どんな話する?」

「うーん……楽しい話、楽しい話……」
 どうやら思いついてはなかったようだ。

「ピクニックとか?」
「頭の中お花畑ですか?」

 やべ、つい正直に。

「なんでよ! ただピクニックって言っただけでしょ!?」
「楽しい話で最初にピクニックが出てくる奴は、脳内お花畑。俺の持論」

 レイが、私は脳内お花畑ではないと抗議してくるが、俺の持論で論破してやった。

「なんですかその持論……」
 セレスが苦笑いしている。

 そんなにおかしかったか? 俺の持論。

「ねぇ、もう……ゆっくりとしない? 俺《おり》ゃ疲れた」
 さっきまでの圧が原因の疲れがまだ抜けていないので、今日はゆっくりとしたいと、自分の意見を2人にぶつける。

「んーそっか。じゃあ、そうしよっか」
 レイも俺と同じで、疲れが残っているので、俺の意見をすぐに取り入れてくれた。

 そして今回の桜の会では、『おやすみ』などの挨拶を除いて、それが最後の会話となった。

 ……なんで俺の部屋でくつろいでるのかは何回も疑問に思ったけど。

 ―――――――――

 そして今……俺達がいる場には、いくつもの熱狂的な歓声が集まっていた。

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