イレギュラー・レゾナンス 〜原初の世界を再び救う為の共振〜

新海 律希

第42話 最後

「シン……なんか、怖いですね」
 セレスが話しかけてくる。声からして、緊張と怯えがあるのが分かる。

 恐らく、俺と同じことを考えているのだろう。

「うん……」
 俺も恐怖を感じているので歯切れの悪い返事になってしまう。

「う……」
 後ろの方から声がする。

「シン……?」
「シン……君?」
 みんなの意識が戻った。

「みんな、大丈夫?」
「うん……。あいつは?」
「そこ」

 俺がみんなに大丈夫かと問い掛け、それに軽くシェル先輩が答え、すぐ後にディザイアについて聞かれる。

 そして華の方を見ながら答える。

 まだ、俺とセレスはディザイアへの警戒を解いていない。

「シン君、どしたし?」
「なんか、これじゃ終わらない気がしてならないんですよ」

 そんな様子を見て、不思議に思ったのだろう。リア先輩が問いてきて俺がまだ終わってないと思ってることを伝える。

「……やっぱり警戒したままか」
 どこからか、そんな声が聞こえる。

「ディザイア!?」
 その声はディザイアのものだったので、警戒レベルをマックスに引き上げる。

 次の瞬間、氷の華が全て壊れる。

 そこから姿を現したのはさっきとなんら変わらないディザイアだった。

「くそ」
 思わず悪態を突いてしまう。だってそうしたくもなるだろう。

 俺とセレスのさっきの攻撃が、まったく効いてないのだから。

「アストライル……か」
 俺を見つめながらそんなことを呟くディザイア。

 ……アストライル? そんな単語、前の世界にあったっけか?

 ここで聞こえる言葉は全部、前の世界のものに変換されて聞こえるはずなんだけどな。

「……ディザイア」
 俺はどうしても気になることがあるので、応えるかどうか一縷の望みに賭けて、ディザイアに話し掛ける。

「何?」
 俺は少し驚く。正直応えないと思っていたからだ。

「お前の望みは何? 何の為にここに来た? それで襲ってきた? そんで、どうやってこの島に入った?」

 初めの3つは当然。

 そして最後の質問は、この島は特別な魔力に覆われているから、海の色や色々なものに影響が出ているが、その魔力には様々な力があり、その中には予約した者以外の者が入るのを防ぐ結界もある。

 予約は、アストリア家の限られた人しか出来ないし、やり方も王とその人達しか知らない。

 誰かがアルスベリア島を利用しているのなら、どんな例外があっても他の人は入れない決まりだ。

 ということは、こいつはその結界を無理やり破って入ってきたとしか考えられない。

 でも、結界はメイタール様に近い実力がないと破れないと聞いた。

 ならこいつがメイタール様に近い実力があるということになってしまうが、そんな実力者はいないとメイタール様は言ってたのにな。

『自分に近い実力を持ってるやつはいない』と。

 もしこいつが仮にそんな実力を持っているとしたら、俺達は100パーセント死ぬ。

 でも持ってるならなんですぐに殺さない?

 殺さないんじゃなくて、殺せないのか?

 ってことはそんな実力はない?

 でも、ないならどうやってこの島に入った?

 本当に意味が分からない。

「望み……それなら、あるものを探し出すこと」
 ある……もの?

「そして、探す過程で来て、襲った」
 要は、その『あるもの』を探し出す為にやったってことか。

 なんで俺達を襲うのがそうなるんだ?

「最後にどうやって入ったのかってのは無理やり」

「「——!!」」
 つまり、メイタール様に近い実力者だと!?

「……今ので疑問が増えた」
「いいよ」

 答えることを了承してくれたということだろう。

「なんで俺達を殺さない?」
 やろうとすればすぐにでも殺れるはずだ。

「……探す為」
 これも、探す為……?

 一体何を探してるんだ? そんなにも必死に。

 そう疑問に思った時、ディザイアの雰囲気が豹変した。

 戦闘態勢に変わったのだ。

「ディアソフラ!」
「闇纏い漆ノ型 闇夜!」
「嵐纏い玖ノ型 竜の息吹!」

 2対1の技と魔法が激突する。

 優勢なのは数の利を持っている俺達……ではなく、ディザイアだった。

「シン君、加勢するよ!」
 俺達が劣勢だと分かり、みんなが手助けしてくれる。

「玖ノ型 轟く裁雷!」
「玖ノ型 水禍!」
「玖ノ型 竜の息吹」
「拾ノ型 極光!」
「玖ノ型 灰燼阿修羅!」

 レイが撃ち、シェル先輩が斬り、リア先輩が槍で突き、マギアスが壊し、カイルが燃やし斬る。

 結果、俺達の技は1つになり、威力はプラスではなくカケルで増大する。

 そのおかげで劣勢だった俺達だったが均衡状態になる。

「……まだいけるか」
 すると、せっかく俺達が頑張っているのにディザイアは威力を上げてきやがった。

 またさっきの劣勢状態に追い込まれる。

 せっかく同等になったってのに……。

 その時、マギアスはみんなに気付かれないように不審な行動をした。

(このままだとちょっとまずいかもな……)

 マギアスは、自分が俺達の手助けをしてる幻覚をこの場の全員に見せる。

 ディザイアと名乗る者すらも惑わす幻覚を。

「——Мマジック。……朽ちろ」
 その言葉の後、ディザイアの魔法は次第に弱まっていき……最終的には消え、俺達の技がディザイアに直進して行く。

 マギアスが糸を引いたということを知らない俺達はディザイアの魔法が急に消えたことに驚く。

 今、何が起きた? 今の流れだったら俺達が負けてたと思ったけど。

「シン、今、何が起きた?」
「分からん……」

 マギアスも意味が分からないのだろう、俺に分かるかと聞いてきたが俺も分からないと答える。

「……今のは、誰がやった?」

 またもや無傷のディザイアが話しかけてくる。またかよ……。こいつにダメージ与えられんのか?

 聞いてきたってことは、ディザイアも分からないのか……。

「お前? アストライル」
 俺を見て尋ねるディザイアだが……。

「俺の名前はアストライルなんかじゃない。シン」
 俺はなぜ自分に聞くのかよりもそこが気になった。

「いいから答えて」
 こいつ、たまに普通に女子っぽい口調になるな。

「違う」
 
 とりあえず本当のことを答えておく。

 てか、俺が教えてほしいくらいだわ。

「そう」

「冰纏い玖ノ型 華ヤカナル降雹!」
 マギアスが不意打ちを仕掛けた。

 あ、確かに今は絶好のチャンスだったな。

「ハァ!」
 また掛け声だけで全て壊れる。

 これもまたかよ……。

「闇纏い漆ノ型 無明一閃…………え?」
 闇纏いで仕掛けようとしたところ、無明一閃は出来なかった。

 ど、どういうこと? まだ魔力は残ってるのに。

 ……まぁ今はいいか。むしろ普段使えないのに今は使えただけ良いことだ。

 分かりやすく言えばさっきまでは覚醒状態ってことかな?

「影纏い漆ノ型 迅一閃」
 使い慣れてる影纏いに切り替えて攻め入る。

 もうちょっと闇纏い使えても良かったのに。てかずっと使わせろ。

 心の中でそんなことを考えながらもしっかりと攻める。

「伍ノ型 殃禍繚乱《おうかりょうらん》」
 なぜか俺を集中砲火で切り刻んでくる。

「ア˝ア˝ア˝ァ˝ァ˝ァ˝ァ˝!!!」
 その痛みが激しく、不快な声をあげてしまう。

「ろ、陸ノ型 極夜《きょくや》……」
 なんとか発動できたものの、殃禍繚乱《おうかりょうらん》には焼け石に水で激しい痛みは未だ俺を襲う。

 あぁ……やべ、感覚なくなってきた……。

 痛みを受けすぎて逆に痛みを感じなくなってしまった。

 かなり危険な状態だ。

「共果! 星屑と化せ、スターダスト・ディアス!」
 マギアスのおかげで俺を襲う無数の斬撃は、文字通り星屑となったように消えた。

「カハッ……カハッゴホッ」
 どうやら、肺に傷がついたようで、吐血してしまう。

 息もしにくい……。

「……邪魔だな。肆ノ型 戯礫砕《ぎれきさい》・封《ふう》」
 俺以外のみんなが、いとも簡単に礫によって拘束される。

「……なんで俺だけ拘束しない?」
「一対一で戦《や》るため」

 なんで、俺と一対一で戦《や》ろうとするのか気になるんだけどな。

「玖ノ型 影鰐 《かげわに》!!」
 今俺が出来る最大の技だ。

 さっきの覚醒状態だったら拾ノ型 夜叉《やしゃ》ノ虧月《きげつ》とかも出来たろうが。

 だが、ディザイアは俺の周辺の地面を破壊して俺の体勢を崩す。

 そのせいで影鰐《かげわに》の向かう先はディザイアではなく、シェル先輩になってしまった。

「——!!」
 シェル先輩に当たらないようにと、急いで影鰐《かげわに》を停止する。

「……」
 すぐにディザイアの方へ振り返ろうとするが、それは叶わなかった。

 なんで?

「……」
 俺は、あることに気付いた。

 俺の目には、自分の腹部から剣が突き出ている光景が映っている。

 ——つまり、後ろから剣で貫かれた。

 認識した瞬間、激しい痛みがやってくる。

「シン!!!」
 レイを始めに、みんなの悲壮な声が聞こえる。

「ハァァァァ!!!」
「無駄だよ、その拘束は魔法を無効化する効果を持ってる」

 かろうじてだがそんな声と、その後の舌打ちする音が聞こえる。

 あぁ……段々体温もなくなっているのが分かる。

 その後、また俺を痛みが襲う。

 ディザイアが剣を抜いたからだ。

 そして俺の身体を剣脊で叩き、俺と自分を向き合わせる。

 立つので精一杯な俺は、逆らうこともなくディザイアと向き合う。

 ディザイアは無慈悲にも、俺の身体をバツ印をなぞるように斬る。

 すでに俺は死ぬことを感じていた。出血が酷すぎることは、自分でも簡単に分かった。

 ディザイアは、蹴って俺を突き飛ばす。

「シン……」
 突き飛ばされた先の隣には、レイがいた。

「泣か……ないで」
 泣いているレイを見て、俺は思い出す。あの頃、もう二度とさせないと誓った……その表情を。

 でも、死を意識してしまい、なぜか穏やかな気持ちになった。

 声は途切れ途切れだけど、気持ちを表すように穏やかな笑顔を浮かべる。

「……立て」
 ディザイアは、おもむろに手を前に突き出す。俺はそれで宙に浮く。

 俺、やっぱ死ぬのかな……。

 レイにあんな顔、させたくなかった。もし、生きていたなら、こいつとは俺がケリをつける。

 2度目にそう決意した時、ディザイアが突っ込んできた。

「……どっちにしろこの出血量じゃ生きれるわけないか」

 ……もっと生きたかった。

 もっと友達と話したかった。

 もっとふざけ合いたかった。

 もっと楽しみたかった。

 そしてもう一度……真姫に会いたかった。

 最後と分かった瞬間、色々な思いが溢れてくる。

 最後に見るレイの顔が泣いてる表情だなんて嫌だし、セレスとも話したかったし、真姫にも会えなかったし。

 未練、いっぱいあるなぁ……。

「破壊纏い参ノ型 開闢《かいびゃく》の刻《こく》」

 俺はディザイアに打たれ、最後を迎えたのだった。

「シン……シン? ……………………シンッ!!!!!」


 日も落ちかけているその時、6人の青年達は、悲痛な叫びをあげるのだった。

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