お前らの目は節穴か。
6.モテ男の初恋
お昼休みのことである。
珍しくこの男が落ち込んでいた。
この世の全ては自分中心に回っていると思っている究極ナルシストのこの男がである。
遊至は教室の外のベランダに寄りかかり、頭を垂れていた。
黒神 遊至は俺の中学の時からの友人である。
高身長の上にこの美貌であり、運動も勉学もできるこいつはあらゆる面で負け知らずだった。
この俺、白戸昌也も遊至に重要な局面で勝った記憶は一つもない。
外見も悪くはない方だと自分では思っているが、こいつがいつも横にいるせいで女の子は全て取られてしまうし、県大会で100メートル短距離走の新記録を出したところで、帰宅部のこいつには負けてしまう。
腹立たしさがないと言えば嘘になるが、もはや諦めの境地である。
そういった経緯からしても、遊至が究極のナルシストとなってしまったのもしょうがないと言えばしょうがないのかもしれない。
あらゆる面で前向きだったことと相まって、昔から無双していたこいつが、ここまで落ち込むのは珍しいことだった。
「おい、どうしたんだよ?朝からずっとその調子じゃねーか。」
俺がそう声をかけると、遊至は暗い顔でため息をつき、小さな声でつぶやいた。
「昌也…俺ってさ、キモイ?」
おい、誰だ。
遊至をこんなにしたやつは。
「急になんだよ。誰かに言われたのか?キモいって。」
遊至は何故か傷ついた顔をする。
俺がキモイと言ったわけではないんだが。
「俺さ、なんか自信なくしちゃったんだよね。」
自信をなくしただと?
あの、遊至が?
何かの冗談だろうか。
明日は雪でも降るんじゃないか。
「昌也、お前失礼なこと考えただろ?」
「いや‥別に‥」
「まぁ、俺なんて、容姿より中身が最悪な男ですから‥。」
‥‥。
「おい、本当に遊至か?」
返事がない。
遊至の方をみると、虚な目でじっとスマホの画面を見つめている。
なんだ?
俺は後ろからそっと覗き込んだ。
「女か?」
俺がそう聞くと、遊至は漫画のような慌てっぷりであたふたしだした。
スマホも落としそうな勢いである。
スマホの画面には、人生の幸せの頂点かのような顔でアップルパイをほうばる女の子がいた。
「べ、別に!女だけど、女じゃねーし。」
おい、なんだ。
その反応は。
「初恋の小学生みたいな反応だな。」
「は?な、何言ってんだよ!んなわけないだろ。初恋だなんて。アホが。」
小学生は怒らないのか。
それより、初恋にどれだけ動揺してんだよ。
重症である。
「それよりその子誰?」
俺は顎で携帯を示した。
その言葉を聞いた途端、遊至は唸るように黙り込む。
「その子にキモいって言われたの?」
遊至の肩がびくんっと跳ねた。
マジかよ‥。
「遊至、その子に何したんだよ?」
まだ、遊至はうぅ‥と唸っている。
「好きなの?この子のこと?」
「ちげーよ!好きなわけないだろ!」
そこだけ反応早いな。おい。
「じーと写真眺めては、ため息ついてさぁ。恋じゃなかったらなんなの?」
「だから、恋じゃねぇー!!」
遊至は興奮しすぎて、はぁはぁと息切れをしている。
なんだ、この珍しい反応は。
ちょっと楽しいのは内緒である。
「飯食いながら話聞いてやるから、食堂行くぞ。」
俺がそういうと、遊至はすがるかのような目でこちらを見てきたのであった。
「おい!笑うなよ!」
遊至が不快そうな顔でそう言った。
笑うな。という方が、難しい話である。
頼んだチキン南蛮定食のチキンを吹き出しかねないところだった。
蕨ザラメとかいう下級生と遊至の出会いからの顛末を聞いたのだ。
まぁ、とりあえずザラメちゃん最高だな。
「ザラメちゃん、酷いと思わない?そこまで言うことないじゃん?」
遊至は、いじけてるのか、落ち込んでるのか分からないような態度を取っている。
「酷いのは遊至だろ?」
俺がそういうと、遊至は驚いた顔をした。
「なんで?!」
食い気味で返答してくる。
「ザラメちゃんの冷たい態度の理由が、遊至にどうせ相手にされないと思ってたからの拒否反応で、自分自身を卑下してると思ってた。的なことを本人に言ったんだろ?あのな、それってつまり『俺はお前を下に見てますよ。』っていう意味も含んでることになるだろ?」
「バカにしてるんですか?って言われた。」
遊至はそう言って肩を落とす。
「だろ?」
「でも、誰にも今までそんな怒られたことなかったからさぁ。」
不満そうな顔をしている遊至。
子供かお前は。
いつもと違う遊至に俺は少々呆れていた。
「逆に誰にも怒られてないのが奇跡だよ。これを機会にちゃんと言動を見直した方がいいと思うぞ。遊至。」
遊至は声にならないような音を漏らして、まだ唸っていた。
「で?どうしたいの?」
「なにが?」
「仲直りしたいの?ザラメちゃんと。」
遊至は俺の言葉に驚いた顔をした。
「えっ?違うの?」
「いや、まぁ‥。」
なんだ、その煮え切らない返事は。
「いつも女を口説きまくって、落としまくってる百戦錬磨のお前が情けない。」
そう言って俺は、味噌汁をすする。
味噌汁に納豆の具は有りだな。
「ザラメちゃん、変人過ぎてさ。他の女と違って、どう接したらいいか分からなくて。」
女の子とどう接したいいか分からないだと?
下半身猿のお前が?
「なぁ、今また失礼なこと考えただろう?」
また、遊至が不快な顔をしたが、余裕でスルーをする。
「まぁとりあえず、謝ったら?どう考えても、遊至が悪いし。つーか、壁ドンの練習とかするのやめなよ。遊至に変人とか言われたらザラメちゃんがかわいそうだよ。お前がいうな!って話だからね、ほんと。」
遊至はため息をつくと、またスマホの画面を眺めはじめた。
また、ザラメちゃんの写真を見ているのだろうか。
「あのさ、遊至って真剣に女の子のこと好きになったことある?」
俺はふと尋ねる。
「うーん、分からないな。」
片手で頬をついて携帯を眺めながら、遊至は言った。
「分からない?えっ、じゃあ今までの歴代彼女は?」
「向こうから告白されて、顔が可愛いし付き合ったって感じかな?好きかって言われると。」
分からない。と続けたいのか。
なるほど。だから、全然長続きしないのか。
俺が知る限り、付き合った歴代の彼女で最長は半年である。
まぁ、とりあえず最低だな。
そんなことより、この小学生の初恋を見せられているこの感じ。
まさかとは思うが‥。
「本当に、ザラメちゃんのこと気になってないの?」
「なってないって!こんな、チビとどうこうなんてあるわけないだろうが。」
なんだ、遊至のこの必死な感じ。
ひょっとして気づいてないのか?
自分の気持ちに。
それにさっきから、顔が真っ赤だぞ。
「遊至、飯食べないの?冷めるぞ。」
遊至の前には手がつけられていない、唐揚げ定食。
ただ、遊至はそれどころではないらしい。
「遊至?聞いてるのか?」
「うん。」
「昼休み終わっちまうぞ。」
「うん。」
「ほんと、お前は最悪最低のナルシストだな。」
「うん。」
おいおい。
重症すぎるだろ。
俺の話なんて、耳に入っていないようである。
初恋ねぇ…。
……。
初恋…。
うわぁ、面倒さっ。
遊至の初恋とか面倒さっ。
気づかなかったことにしよう。
俺はなかったことにした。
珍しくこの男が落ち込んでいた。
この世の全ては自分中心に回っていると思っている究極ナルシストのこの男がである。
遊至は教室の外のベランダに寄りかかり、頭を垂れていた。
黒神 遊至は俺の中学の時からの友人である。
高身長の上にこの美貌であり、運動も勉学もできるこいつはあらゆる面で負け知らずだった。
この俺、白戸昌也も遊至に重要な局面で勝った記憶は一つもない。
外見も悪くはない方だと自分では思っているが、こいつがいつも横にいるせいで女の子は全て取られてしまうし、県大会で100メートル短距離走の新記録を出したところで、帰宅部のこいつには負けてしまう。
腹立たしさがないと言えば嘘になるが、もはや諦めの境地である。
そういった経緯からしても、遊至が究極のナルシストとなってしまったのもしょうがないと言えばしょうがないのかもしれない。
あらゆる面で前向きだったことと相まって、昔から無双していたこいつが、ここまで落ち込むのは珍しいことだった。
「おい、どうしたんだよ?朝からずっとその調子じゃねーか。」
俺がそう声をかけると、遊至は暗い顔でため息をつき、小さな声でつぶやいた。
「昌也…俺ってさ、キモイ?」
おい、誰だ。
遊至をこんなにしたやつは。
「急になんだよ。誰かに言われたのか?キモいって。」
遊至は何故か傷ついた顔をする。
俺がキモイと言ったわけではないんだが。
「俺さ、なんか自信なくしちゃったんだよね。」
自信をなくしただと?
あの、遊至が?
何かの冗談だろうか。
明日は雪でも降るんじゃないか。
「昌也、お前失礼なこと考えただろ?」
「いや‥別に‥」
「まぁ、俺なんて、容姿より中身が最悪な男ですから‥。」
‥‥。
「おい、本当に遊至か?」
返事がない。
遊至の方をみると、虚な目でじっとスマホの画面を見つめている。
なんだ?
俺は後ろからそっと覗き込んだ。
「女か?」
俺がそう聞くと、遊至は漫画のような慌てっぷりであたふたしだした。
スマホも落としそうな勢いである。
スマホの画面には、人生の幸せの頂点かのような顔でアップルパイをほうばる女の子がいた。
「べ、別に!女だけど、女じゃねーし。」
おい、なんだ。
その反応は。
「初恋の小学生みたいな反応だな。」
「は?な、何言ってんだよ!んなわけないだろ。初恋だなんて。アホが。」
小学生は怒らないのか。
それより、初恋にどれだけ動揺してんだよ。
重症である。
「それよりその子誰?」
俺は顎で携帯を示した。
その言葉を聞いた途端、遊至は唸るように黙り込む。
「その子にキモいって言われたの?」
遊至の肩がびくんっと跳ねた。
マジかよ‥。
「遊至、その子に何したんだよ?」
まだ、遊至はうぅ‥と唸っている。
「好きなの?この子のこと?」
「ちげーよ!好きなわけないだろ!」
そこだけ反応早いな。おい。
「じーと写真眺めては、ため息ついてさぁ。恋じゃなかったらなんなの?」
「だから、恋じゃねぇー!!」
遊至は興奮しすぎて、はぁはぁと息切れをしている。
なんだ、この珍しい反応は。
ちょっと楽しいのは内緒である。
「飯食いながら話聞いてやるから、食堂行くぞ。」
俺がそういうと、遊至はすがるかのような目でこちらを見てきたのであった。
「おい!笑うなよ!」
遊至が不快そうな顔でそう言った。
笑うな。という方が、難しい話である。
頼んだチキン南蛮定食のチキンを吹き出しかねないところだった。
蕨ザラメとかいう下級生と遊至の出会いからの顛末を聞いたのだ。
まぁ、とりあえずザラメちゃん最高だな。
「ザラメちゃん、酷いと思わない?そこまで言うことないじゃん?」
遊至は、いじけてるのか、落ち込んでるのか分からないような態度を取っている。
「酷いのは遊至だろ?」
俺がそういうと、遊至は驚いた顔をした。
「なんで?!」
食い気味で返答してくる。
「ザラメちゃんの冷たい態度の理由が、遊至にどうせ相手にされないと思ってたからの拒否反応で、自分自身を卑下してると思ってた。的なことを本人に言ったんだろ?あのな、それってつまり『俺はお前を下に見てますよ。』っていう意味も含んでることになるだろ?」
「バカにしてるんですか?って言われた。」
遊至はそう言って肩を落とす。
「だろ?」
「でも、誰にも今までそんな怒られたことなかったからさぁ。」
不満そうな顔をしている遊至。
子供かお前は。
いつもと違う遊至に俺は少々呆れていた。
「逆に誰にも怒られてないのが奇跡だよ。これを機会にちゃんと言動を見直した方がいいと思うぞ。遊至。」
遊至は声にならないような音を漏らして、まだ唸っていた。
「で?どうしたいの?」
「なにが?」
「仲直りしたいの?ザラメちゃんと。」
遊至は俺の言葉に驚いた顔をした。
「えっ?違うの?」
「いや、まぁ‥。」
なんだ、その煮え切らない返事は。
「いつも女を口説きまくって、落としまくってる百戦錬磨のお前が情けない。」
そう言って俺は、味噌汁をすする。
味噌汁に納豆の具は有りだな。
「ザラメちゃん、変人過ぎてさ。他の女と違って、どう接したらいいか分からなくて。」
女の子とどう接したいいか分からないだと?
下半身猿のお前が?
「なぁ、今また失礼なこと考えただろう?」
また、遊至が不快な顔をしたが、余裕でスルーをする。
「まぁとりあえず、謝ったら?どう考えても、遊至が悪いし。つーか、壁ドンの練習とかするのやめなよ。遊至に変人とか言われたらザラメちゃんがかわいそうだよ。お前がいうな!って話だからね、ほんと。」
遊至はため息をつくと、またスマホの画面を眺めはじめた。
また、ザラメちゃんの写真を見ているのだろうか。
「あのさ、遊至って真剣に女の子のこと好きになったことある?」
俺はふと尋ねる。
「うーん、分からないな。」
片手で頬をついて携帯を眺めながら、遊至は言った。
「分からない?えっ、じゃあ今までの歴代彼女は?」
「向こうから告白されて、顔が可愛いし付き合ったって感じかな?好きかって言われると。」
分からない。と続けたいのか。
なるほど。だから、全然長続きしないのか。
俺が知る限り、付き合った歴代の彼女で最長は半年である。
まぁ、とりあえず最低だな。
そんなことより、この小学生の初恋を見せられているこの感じ。
まさかとは思うが‥。
「本当に、ザラメちゃんのこと気になってないの?」
「なってないって!こんな、チビとどうこうなんてあるわけないだろうが。」
なんだ、遊至のこの必死な感じ。
ひょっとして気づいてないのか?
自分の気持ちに。
それにさっきから、顔が真っ赤だぞ。
「遊至、飯食べないの?冷めるぞ。」
遊至の前には手がつけられていない、唐揚げ定食。
ただ、遊至はそれどころではないらしい。
「遊至?聞いてるのか?」
「うん。」
「昼休み終わっちまうぞ。」
「うん。」
「ほんと、お前は最悪最低のナルシストだな。」
「うん。」
おいおい。
重症すぎるだろ。
俺の話なんて、耳に入っていないようである。
初恋ねぇ…。
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初恋…。
うわぁ、面倒さっ。
遊至の初恋とか面倒さっ。
気づかなかったことにしよう。
俺はなかったことにした。
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