異世界デスゲーム お荷物リュックと魔導の塔

チョーカー

異世界デスゲーム 完

 炭化した肉体。 炭や煤が媒体となり肉体となる。

 それが生物をしての証が存在しているとすれば目だろうか?

 爛々と毒々しい瞳。 それは、死んだ体には相反して異常な活力に灯っている。

 人が持つ、死に対しての原始的恐怖。 まるで未知。
 
 もしも、闇夜に幽霊を見たとすれば同等の恐怖に揺さぶられただろう。

 恐怖……圧倒的な恐怖がそこにいた。

 だが、リュックは少しだけ安心していた。 そこに揺らめく物体にカイトを感じなくなっていたからだ。

 カイトの肉体だった物から、カイトという存在が抜け落ちている。

 それは、もう……化け物だ。

 「よかった……ただの化け物なら、安心して殺せる」

 斬――――

 手にした武器で化け物の胴を斬撃を走らせた。

 手ごたえはなし。

 霞や霧を切ったかのような感覚。

「……だったら」と化け物の足元に小瓶を投げ落とす。

 その中身は爆薬。 だから閃光――――その威力は爆音を通り越しては無音。

 「やったか?」

 ここまでして半信半疑のリュックであったが、その判断は上々。

 いまだ光包まれる空間から、化け物は蠢き這い出してきた。

 その姿にダメージというものは見て取れぬ。

 ならば、ならば、どうやって殺す?

 カイトを葬り去った時と同じように魔法を発するか?

 (いいや、違う)

 リュックは頭を振るった。

 いつだってそうだ。 化け物は人の手によって退治される。

 そう英雄の手によってだ。 ならば、この場に相応しい倒し方ってものが存在しているじゃないか。

 不思議と、それは目の届く位置――――リュックの真横にあった。

 それは、カイトが武器として使っていた長剣。 

 「そこにいるのか、カイト? それじゃ一緒に――――行こう!」

 化け物を倒すのはいつだって英雄だ。 その英雄の剣を手にしたリュックは――――

 その片目が一瞬、赤く染まったのは錯覚だろうか?

 今度こそ、本当に――――

 化け物の肉体を切断して見せた。

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 声援。

 闘技場の席に座っていた同じ顔をした何万にもの老婆たちが声援を飛ばす。

 悍ましくも不気味な老婆たち。 それが初めて人間らしく見えた。  

 「だが、これで最後だ」

 リュックが呟くと体内の魔力が暴れだすような感覚に襲われる。

 塔が持つ力。英雄を生み出すシステムとしての力がリュックの肉体を作り替えるように体の内部へ注入されていく感覚。

 神話の英雄。 神々と並び立つ半神半人の領域。

 それに踏み込むとは、こういうことなのか……

 人が人を捨て去り、超常的な力を手にしたときに何を行うのか?

 「――――決まっている。 人は、人間は、いつだって、分不相応の力を持ったら破壊をするんだ」

 リュックは闘技場の天井を見上げる。

 天井? いや、そこは突き抜けた青空――――死にたくなるほどに青かった。

 足元から膨大な魔力を放出して、空へ飛び立つリュック。

 一瞬で上空へ――――下には初めて見る塔の全貌。

 想像していたよりも、ずっと小さな塔だった。

 酷く古ぼけた、全体的に黒く汚れた薄汚い塔。

 それがある場所は雲の上だった。 ぷかぷかと優雅に空に浮かんでいる。

 なんとも滑稽な――――

 リュックは、その塔に向けて手をかざす。

 「―――だから、僕はもう、こんな事を――――ギガファイア!」

 リュックが放つギガファイアは、塔から供給された魔力で強化に強化を繰り返され、本物の太陽を見間違うほどの巨大さと威力を持って――――

 塔へ落とされた。

 まるで神の鉄槌のような火球は、あっけなく塔を蒸発させた。

 それと同時に塔から供給を失ったリュックは、全ての魔力が消失していく。

 宙を飛ぶ力さえ失い、落下を始めた。

 重力のまま――――

 雲を貫き――――

 地上が見えた。

 「―――嗚呼、こんなに綺麗な世界だったんだ。 僕は、どこに落ちたいのかな?」

 魔力に限らく、全身から力が消失したリュックは、意識すら留めることすらできずに瞳を閉じた。

 だが、次の瞬間に意識を失ったはずのリュックの瞳は開かれた。

 そこに灯るのは、全てを焼き払わんとする炎の如く深紅だった。

 『いいや、死なさないさ』 

 リュックの口から発された彼以外の声。

 落下していく彼の肉体は――――

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