異世界デスゲーム お荷物リュックと魔導の塔

チョーカー

狂気の兄弟 迷宮のその後

 歩いて間合いを詰め、正確に逃げられないように剣を振りかざした天使。

 しかし、その剣が振り下ろされる事はなかった。

 なぜ? 

 「もう少しだけ、遊んでいたかったんだけどね」と天使の背後から声が聞こえてきた。

 その声はアダムの物だ。 その手にはナイフ……いや、あれはナイフと言ってもいいのだろうか?

 凶悪なフォルムの刃物。 可愛らしいアダムの容姿との相乗効果で禍々しさがひどいことになっている。

 「僕らだって3層まで殺し合ってきた遊戯者《ゲーマー》だよ。このくらいは簡単さ」

 「そうだよ。リュックのお兄ちゃん!」と今度はイブの声。

 しかし、その声は上から聞こえてくる。

 見上げれば目を疑う光景。 イブは天使像の背中に乗っていた。

 旋回していた天使たちは混乱していた。

 そのままイブは暴力的に天使の羽を毟り取り始めた。

 「GIUYAAAAAAAAAAAAAAAAA!?!?」

 それは恐怖だろう。敵に背中に乗られ攻撃を受けてる恐怖の雄たけび。

 他の天使も恐怖が伝播しているようだった。 

 大混乱。 しかし、それも一瞬。

 一斉にイブに狙いを定めて、襲い掛かっていく。

 だが、イブの姿は狂戦士を連想させるように暴れる。

 天使像から天使像に飛びつき、手刀を叩きこんでいく。

 笑い。

 けたけたけた……と笑っているイブ。

 「なんだ、あれは?」と地上に残されたリュックはつぶやいた。

 「あれが、本当のイブですよ。楽しそうでしょ? 僕も楽しくてね」

 振り返ればアダムが立っている。 その様子に、さっきまで怯えていた少年をイメージすることはできなくなっていた。

 その手にした凶悪なナイフが、彼の内面を表現しているような危うさ。

 「本当に猛ってきたようで、困ったものです。それでは、僕もイブの手助けに行ってきますので、後は頼みましたよリュックさん」

 狂気。しかし、その笑みは天使のように甘く、悪魔のように優しかった。

 ん? いや、手助け? どうやって、上空で暴れまくってるイブの元に?

 そう問いかけようとした次の瞬間には――――

 《《飛んでいた》》

 おそらくは魔力を噴射して推進力に変えている。

 笑いながら天使像を虐殺しているアダムとイブに、リュックは困惑を振り払う。

 考える。

 考える。

 考える。

 精神の奥地にある思考の部屋。

 積み重なれた資料の山。それはイメージ化された情報。

 そして過去、手に入れた記憶。 

 情報と記憶。

 リュックは、その2つを結びつける作業に入る。

 それに加えて……

 この塔の問題と傾向の分析。 そして、それは神話にある。

 かつて、この世界であった出来事と言われる神々の物語。

 ならば、ミノタウロス……その後の話? 

 迷宮の主 ミノタウロスに復活するとか、蘇るとか、不死身とか、そんな逸話はない……はず。だったら迷宮の主は、ミノタウロス以外? 主といえる人物は?

 父親のミノス王?
 
 確かのミノス王も英雄の1人に違いない。

 しかし、彼の天使が登場するエピソードがあったとは思い出せない。

 ……天使? そもそも、あれは……

 本当に天使なのか? 

 いやいや、僕は何を考えている。 だれが、どう見ても天使じゃないか。

 けど……気になる。

 天使じゃないとしたら……羽が生えた少年?

 何かが繋がる。

 ミノタウロスの迷宮。 アリアドネの糸。

 その脱出法を教えたのは……迷宮の製作者 ダイダロス

 そしてダイダロスの息子の名前は――――

 イカロスだ。

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