異世界転生した悪役魔女のリセットライフ
第七章 微かな違和感
私達が所属するⅠ組は他のクラスと校舎が別になる。階ごとにクラスが分けられてるからそれだけでも広いのにⅠ組は他のクラスと比べ物にならないくらいだった。
「うわぁ~広い!」
ベルが校舎に入った瞬間、大声を出した。周りの人が何人かこっちを睨んでるけどそれに気付かないベルは辺りを見渡していた。
周りの視線が痛いし、ベルを止めに入ろっかな。
「ベル、そろそろ...」
ベルのとこに行こうとしても周りがなかなか通してくれなかった。
―退きなさいよね...―
悪態を吐きそうになるのを我慢して人の波に押し潰されながらもベルの元へ歩いていった。
―もう、邪魔だな―
この人達は自分の事しか考えてないのかな。
まぁ、退かないって事はそう言う事なんだろうけど。
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
人の波に堪えきれずぐらついた私をすかさず誰かが支えてくれた。
「.....ニコ、ラス。」
私が思わず口にした言葉に目の前の男性は小さく―えっ―と溢した。
―やばっ、―
なんで、彼の名を口にしたんだろう。
言うつもりはなかったのに、彼を前にしたらつい口から漏れてしまった。
目の前の男性、ニコラスは未だに目を丸くして固まったままだ。
「どうして、僕の名前を?」
どうしよう、なんて答えよう。
きっと不気味に思ったに違いない。
だけどずっと黙ってるわけにはいかないし。
「もしかして、僕のファンクラブの子かな?」
.....はい?
私が何か言うよりも先にニコラスが予想だにしてなかったことを言った。
それには私も拍子抜けだ。
「それなら、僕の事を知ってるのは当たり前だし。」
なんか色々と勘違いしてるみたいだけど私の事をファンだと思ってくれてるのは有り難いわね。
騙してるみたいで少し心が痛むけど。
「そ、そうなんです!私、ずっと前からニコラスさんのファンで!」
「ありがと。君みたいな可愛い子がファンだなんて僕は幸せ者だなぁ~。」
ごめん、ニコラス...。
ーニコラス・セルヴェー
女好きで有名な貴族ね。
ゲームでは、周りと全く違うベルに興味本位で近付き接するうちに惹かれていくんだけど...。この世界でベルが主人公じゃないとすれば二人が結ばれる事もなければニコラスがベルに好意を寄せる事もない。
普通ならここでベルと先に関わらないといけないのに私が先に話しちゃったし。
「ニコラスさん、私の友達が居るんですけど会ってくれませんか?」
どうにかして、私の手を握ってるニコラスの気を違う方に持っていかないと。
「...どうして?君は僕との時間を独り占めしたくないのかい?」
それがニコラスの本当のファンならね。
だけどごめんなさい。
私は貴方のファンじゃないの。
出来る事ならこの時間が早く過ぎ去れば良いのにって思ってる。
「ニコラスさんの時間はニコラスさんだけのものでしょ?私が決めていいものじゃないじゃないですか。」
「......君、変わってるね」
何故かニコラスは口元を押さえて私から視線を逸らした。
でもまぁ、私からしたらニコラス達の方が変わってるけどね。
「ミッシェル、何してるの?」
「...ベル。」
まさかベルの方から来てくれるだなんて。ここでうまくベルに興味を持たせる事が出来たら良いんだけど...。
「ニコラスさん、紹介します!私の友達のベルです!」
「どうも?」
「えっと、初めまして。ニコラス・セルヴェです」
なんか、無理やりすぎたな。
少し戸惑いながらも自己紹介をしてる二人に申し訳なく思う。
「では、私はこれで!」
背後から私を呼ぶベルの声が聞こえる。
でも、ごめんね?今は止まって振り返る事が出来ないの。
*******************
「ベルとニコラス大丈夫かな.....」
ベルを置いてきて今日会ったばかりのニコラスと二人っきりにしてしまった事を一人教室の隅に座り込みながら後悔する。
てか、ここ広すぎよ!教室に居るだけなのにベルがすぐ見当たらなくなるし、周りは知らない人だらけだし。
私、こう見えてコミュ障なんだから!
だけど周りは小刻みに震えてる私に気付くことなく会話に華を咲かせてる。
「あっ、ミッシェルさん!!」
だれ、私を呼ぶのは。
声がした方を見るとレイラがこちらに笑顔で手を振りながら走ってきた。
「はぁ、はぁ、やっと見つけました。」
「レイラ!?」
そんなに急いで走ってきてどうしたのかな。
何か事件?
「どうしたの、レイラ!大丈夫?」
「それは、こちらの台詞ですよ!!」
え、え?なんかレイラ怒ってる?
私、怒らせる様な事した?
「ミッシェルさんを見つけたので声を掛けようとしたらどこかへ走っていっちゃうし。」
「あ、あ~ごめん!!ちょっと色々あって」
「.....色々ってなんですか?」
うっ...なんだかレイラの目が鋭くなった気がする。
「なんでもないの!心配掛けちゃってごめんね?」
レイラを心配させないようになるべく笑顔で言わなきゃ。
それがレイラにも伝わったようで少し笑顔になった後、私の手を両手でしっかり握ってきた。
「何かあったら一番に教えてください。私、ミッシェルさんの力になりますから」
「え、うん。」
レイラ?どうしてそんな....
悲しそうな表情で見つめるの?
あんな安心しない“力になる”初めてだよ。
「では、私はこれで」
「え、レイラこのクラスじゃないの?」
「ふふっ、私の実力でこのクラスでやってけると?」
それは.....ごめん、思わない。
「嘘がつけないんですね、ミッシェルさんは。」
―では、失礼します―
そう言って私に背を向けて歩きだしたレイラに安心した。
え、なんで安心したんだろ。
普通は寂しいとかもっと一緒に居たいとか思うんじゃないの?
だけど、これ以上レイラと居たら私がレイラに狩られてしまう..そんな気がした。
おかしいな、昨日はそんな事思わなかったのに。
ん?ちょっと待って...。
私はある事に気付いた。
なんでレイラは、このクラスにいたの?
この階全体はⅠ組の筈なのに。
「あっ、ミッシェル~!」
遠くで私を呼ぶベルの声が聞こえた。それに小さく返事をすると再びあの人混みの中に入らなければならない憂鬱感を感じ、深いため息を溢した。
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