異世界転生した悪役魔女のリセットライフ
第五章 宣戦布告
私達が森に入る頃にはもうとっくに皆、前に進んでいるみたいで誰の姿も見当たらない。誰も後ろに居ないと分かるとなんだか心細い。しかもここ気味が悪いし。
「薄気味悪いとこですね」
「怖かったら私の後ろに隠れていても良いからね」
「ミッシェルさん、可愛らしい顔してるのにたくましいですよね」
レイラには、度胸がある人って見えてるんだ。本当は内心、此処から先に進みたくないんだけどね。だけど、私までビビって先に進まなかったらそのまま不合格になるし、それだとベルとの約束を破ることになるから。
「でも、魔法石どこにもないね」
もう他の人に取られた後なのかも。
「ごめんなさい、私があんな仕掛けに引っ掛かるから...」
「ううん、気にしないで」
頭を必死に下げてくるレイラに私はそう声をかけることしか出来なかった。
最初は結構先頭に居た私達だけど、此処に来る途中で仕掛けられてるトラップに引っ掛かってばかりで最終的には一番出遅れてしまった。
「どうしましょう、このまま合格出来なかったら親に顔向け出来ません」
「レイラはどうしてこの学園を選んだの?」
この学園に通う人は皆それぞれに理由があるからだ。ちゃんとした理由は知らなくてもそれだけは分かる。
「私は、落ちこぼれだから...。ここは魔法学校でもトップクラスのところだし、この学園に入学出来たら少しは自信持てるかと思ったんです。.....ミッシェルさんは何故ですか?」
「私は...」
その続きが出てこなかった。私にはちゃんとした理由がないからだ。皆、ちゃんとした理由を持って此処に来てるのに私だけは違う。ベルに頼まれたから...。ベルに頼まれなかったら今此処に居ないと思う。そう考えたら、本当に此処に居て良いのか分からなくなった。
「ミッシェルさん、どうなさったのですか?」
ハッとして気付いた時にはレイラの顔がドアップで写り込んでいた。
「わ、私は...レイラみたいにたいした事じゃないよ」
そう言って笑った私はどんな顔をしてたんだろうか。
「.....あっ、ミッシェルさん!」
突然レイラが声をあげた。レイラが指を指してる方向を見ればそこには水色に輝いてるものが。多分あれが魔法石だ。見たことないけどきっとそう。あれを取ればきっとギリギリ間に合う。だけど、ひとつしか見当たらない。あれを取ったとしても、もうひとつなくちゃ意味がない。
「レイラ、ちょと待っててね」
「へっ、み、ミッシェルさん?!」
まさか異世界で初めて木を登る事になるとは思わなかった。下でレイラの驚いてる声が響く。だけど、止まることなく魔法石の方へ手を伸ばした。もう少しで手に入りそうだから絶対諦めたくない。だんだんと魔法石との距離が縮まった。後少しで触れられそうだ。
あと少し...あとちょっと...届いた!
魔法石を手に抱えてじっくりと見てみるととても綺麗で感動した。水色の光の中に薄く雫のマークが描かれていた。
きっとこれは水魔法ね。
木から降りて真っ先に水の魔法石をレイラに渡した。渡されたレイラは吃驚してた様だけど。
「ミッシェルさん、これ...」
「良かったね。これでレイラもあの学園に入学出来るよ」
「何を言ってるんですか?!これは、ミッシェルさんが手に入れたもので、それに合格条件は二人で一人一個ずつ魔法石を手に入れることなんですよ?」
「でもそれさ...おかしくない?」
レイラは私の顔を見て息を呑んでいた。もしかして私は、無意識の内に悪役魔女のミッシェルみたいな冷たい目付きをしてたのかもしれない。
「魔法石を二人同時に手に入れる?出来なかったら即失格?そんなゲーム感覚の試験、初めてだわ。」
「ミッシェルさん?な、なんだか口調...」
「私達はライバルで、だけど同じ条件を受けてる仲間で...皆色んな思いでここに立ってる。それなのに...頑張って条件クリア出来た者の未来を周りの人間が引っ張るだなんてやっぱ変だよ!...分からせてやる」
「ミッシェルさん?」
何がなんでも分からせてやる。人を人とも思わなくて、痛々しい発言をしているあの、イキり生徒会長に!
「.....もうすぐ、時間の様だな。」
「あの、これ...」
「君達が最後のペアか...おや、そちらのお嬢さんは手ぶらの様だが」
エヴァンは私の方を効果音が付きそうなくらい不気味に微笑んで見ていた。
やっぱ近くで見ると迫力ある...。
怖じ気づいちゃいそうだけど、ここで私がなんとかしなかったらレイラまで不合格になっちゃう。
「.....すみません、手に入れられませんでした」
「...そうか。ならば、君達のペアは不合格になるな。」
「ちょっと待ってください。私は良いですけど、彼女はちゃんと合格条件を満たしてます。」
そう主張すれば、エヴァンは他の人に見られないように私をギロリと睨み付けた。その目には―黙っていろ―の意味が込められてる気がした。
「私は一人一個ずつ持って帰ってくるようにと言ったよな?」
「それは、そうなんですが...」
「それを実行出来なかったのは君達だ。君達にはここに居る資格が得られないんだよ」
やっぱり相手が悪すぎる。どんなに理不尽な扱いを受けていても、全生徒を味方につけてるエヴァンには敵わない。だって、確かにエヴァンは言ってた。それを実行出来なかったのは確かに私達だ。皆は文句を言わずにそれを受け入れてる。じゃあ、私のこれはただの我儘なの?
ううん、違う。皆だっておかしいと思ってる。だけどそれを言わないのは、エヴァンがこの学園の理事長の息子だから。怖いんだ...エヴァンの一言でこの学園から追放されるのが。
だからって、こんなの奴隷と同じじゃない。ずっと、ライエス親子の言いなりで居るの?
「会長さんは、生徒を正しい方向に導く事が出来ますか?」
「当たり前だ。それが私の仕事だからな。」
「私にはそうは見えません。会長には生徒を導く事なんて無理だと思います。」
「...なんだと?」
エヴァンは眉毛をピクりと動かした。
皆の前だと忘れてるのか、いつもの笑顔がとれて少し不機嫌そうに腕を組んでいた。
周りも少しざわついていた。私が会長相手にそんな事を言うとは誰も予想してなかったんだろう。
だけど一度言っちゃったし、もう後戻り出来ない。
「会長は御自分が正しいことをしてると本当に思いですか?ですが、こんなゲーム感覚で一人の人生を決めるだなんてやっぱりおかしいです。これだけはハッキリ言えます。貴方は間違ってる!」
言っちゃった...。言っといて後悔してる私が居る。後悔後に立たずとはまさしくこう言う事を言うのね。
周りがとても静かだ。皆どんな顔をしてるのかな。ベルは?ルイズは?横のレイラは?皆がどんな表情で私を見てるのか分からない。だから怖くて顔があげられなかった。
「君、会長に失礼だろ!」
    後ろに控えてる男の人がエヴァンの前に立って私を睨み付けてきた。
「俺の前に出るな」
いつの間にか一人称が“俺”になってるエヴァンが私にまだ何か言いたげな男性を睨み付けていた。エヴァンの鋭い突き刺さるような視線を受けた男性はそそくさとその場から退場して、代わりにエヴァンが私のすぐ前まで来た。
「...確かに貴様の言う通りだな。一人でも多くの生徒を導いてこそ、完璧と言おう。貴様のその度胸に免じてちゃんとクリア条件を満たした彼女を合格とする」
人の目を気にするのも疲れたのか、少し口の悪いエヴァンが告げたのはレイラの入学許可だった。
「ご、合格ですか?私が?」
「...おめでとう、レイラ!」
私が笑顔でそう言えば、レイラは小さな声で―ありがとうございます―と言った。
その表情は今にも泣きそうだったけど、嬉しさに満ちていた。
「彼女の入学許可は出したが、君の入学は許してないぞ。君は課題をクリアしてないからな」
「はい、分かってます」
「...さっきは凄い勢いで反論してたのに、今度は随分と素直なんだな」
「...私が条件を満たしてないのは事実ですから。彼女がちゃんと入学出来るだけで嬉しいんです。エヴァン会長、さっきは数々の無礼を失礼しました。入学許可をありがとうございます」
ベル、ごめんね...。一緒に入学する約束守れなかった。だけど、これで良いんだ...。私は最初から入学出来るだなんて思ってなかった。だから、レイラだけでも入学出来るんならそれだけで良い。
「.....気に食わんな。」
「...はい?」
「この世で俺が一番嫌いなのはお前みたいな良い子ちゃんだ。友のために歯向かい、頭を下げる自分が格好いいと思ってるのか?だとしたら勘違いにも程がある。此処で諦めたら逃げたのと同じで負けを認めた事になるぞ」
―良いのか?―エヴァンの一言一言が、ずっしりと重たく感じる。
エヴァンのその人を見下した表情も、冷たい瞳も、嫌味しか言わないその口も何もかもが気に入らない。
だけど、エヴァンの言ってる事は正しい。だからハッキリと否定出来ない。
「そうですね...会長の仰る通りです。ですが、私が諦めないとして何が出来ると言うのでしょうか。合格条件を満たしてない私が出来ることなどありません」
「出来ることなどこれから探せば良い」
「...はぁ?」
本当に何を言ってるの、この人は.....。さっきから色々と矛盾してない?
「お前は俺が間違ってると言ったよな?それは、この学園の理事長...俺の父親を否定してるのと同じように捉えられるのだぞ?それでもお前は、俺の事を間違ってると言うのか?」
そうか、エヴァンは全て理事長の教え通りにやって来たんだ。だから私がエヴァンを否定すると、自然と理事長も否定してる事になるんだよね。
すぐに取り消した方が良いかな。
そう思ってたんだけど...エヴァンは小さく笑っていた。それで気が付かされた。エヴァンは私を試してるんだと。このまま貫き通すのか、取り消すのか。
だったら私は...。
「私は、他の生徒を自分より下だと思ってる貴方が嫌いです。そして何より、そんな貴方に怯えて何も言えないこの学園が大嫌い!私がこんな学園変えてみせる!これは私からの宣戦布告だと思って頂いて結構です。」
きっと今の私は、悪目立ちしてるに違いない。だけどもう、我慢の限界だから。全生徒を敵にまわしてでもこんな学園変えなくちゃダメだよ。私は元々、嫌われ者の魔女。だったら、怖いものなんてない。
「...その言葉を待っていた。合格だ。お前を特別枠として入学を許可しよう。」
「...ありがとうございます」
まさか特別枠で入学させられる事になるとは思わなかった。だけど、私の入学を許可してくれた事だけはエヴァン会長に感謝しよう。だって、入学出来なきゃ学園を変えることなんて無理だから。
これが私、ミッシェルの新たな物語を綴る第一歩。
ここから先は、台本など有り得ない本編が始まるんだ...。
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