異世界転生した悪役魔女のリセットライフ

如月ゆかり

第三章 優しい歌声



「ベル、何してるの?」




お風呂からあがって部屋に行くと、ベルが何やら分厚い本を開いていた。ベルは私に気付くと本の表紙を見せてくれた。




「魔法の本だよ。少しでも魔法を覚えたくて」




その言葉に私は衝撃を受けた。


あ、あのベルが勉強?しかもこんな難しそうな本を...。


―なんとかなるっしょ―を通し続けて全くの無知で学園に入学したのに...。


もしかして、ベルまで性格変わっちゃってる?


このままベルが勉強が出来る子になっちゃったら、普通に学園に馴染んじゃって恋愛フラグが立たないじゃない!




「どうしたの、ミッシェル。顔色優れないけど」


「ううん、なんでもないよ。私も勉強してみよっかな」




このままじゃ私の方が一番勉強出来なくなりそうだし。


ベルの横に座れば、ベルは私に本を差し出してくれた。だけどその中身を確認すると私は言葉をなくしてしまった。




えっ、なんて読むのこれ。何語?


ちらっと横を見れば、ベルがぶつぶつと熱心に何か呟いていた。


私、今はこの世界の者なんだよ?自然に読めたりしないの?




「ねぇ、ベル?」


「ん~?どうしたの」


「これ、なんて読むの?」




そう言った途端、私も含め時が止まったかのように暫しの間固まっていた。


だけど次の瞬間、時の呪文から逃れたベルが私の事をものすごく可愛そうな目で見てきた。


―はぁ?!ちょ、ちょっとまってよ!なんでそんな目で見んの?!普通ならここはベルの台詞じゃん!―




「ミッシェル、本気マジ?」




私は無言で頷いた。




「えっと、大魔法事典。火、水、草、氷、雷、闇、光など全種族に必要な事が書かれています。これを使いこなせれば、あなたも立派な魔力の持ち主に...。」




「へぇ、そうなんだ...。」


「ねぇ、ミッシェル?私が言うのも変だけどさ、今のままで大丈夫なの?」


「もう~、ベルは心配しすぎ!大丈夫だよ、なんとかなるから。」




...あれ?この言葉、どこかで。




「そうだよね。一緒に頑張ろう!」


「えぇ!」




その後もベルに言葉を教えてもらいながらも勉強を続けていると何時の間に寝たのか気が付いたときには朝になっていた。


...ベルはまだおやすみようね。


ちょっと散歩でも行こうかな。皆が起きる頃には帰ってくれば良いだけだから。


ベルを起こさないように立ち上がって、私はそのまま外に出た。




ん~、やっぱ早起きした外の風は気持ちいいわね。だけど、静かすぎてちょっと怖いかな。


あれ、なんか向こうから声が聞こえるような。


この静かすぎる朝に響きわたる歌声。だけどこの歌を私は知っている。気が付けば無意識に歌声が聞こえる方へ一歩ずつ近付いていた。




「あっ、あれは...」




そこには銀髪の青年が居て、目を閉じながら透き通った声を響かせていた。


ルイズ・レイビス!


間違いない、メインキャラクターの一人ルイズだ。


だけど、どうして此処に?




声をかけたい...。だけど、未来を変えちゃダメだし。


でも、せっかく憧れのメインキャラに会えたんだからあのゲームのファンなら声をかけて言葉を交わしたいと思うわけで。


だけど、私が関わった事でベルの恋路を邪魔しちゃったら...。


私が頭を抱えていると、そこに人影が。


顔をあげてそこに居る人物を確認した瞬間、私はこの世の終わりみたいな顔をしてたに違いない。だって、そこに居たのは.....


ルイズ・レイビスだったから。


なんで彼が私のとこに来ているんだろう。私、無意識に音立ててた?てか、目の色綺麗だなぁ~...。




「君、なんで此処に居るの?」




喋った!...いや、落ちつけ私。




「私、ここの近くに住んでるんだ。朝早くに目が覚めちゃって...それでね、外に出てみたら歌声が聞こえたから」




その言葉にルイズは、ばつが悪そうにしていた。なんで、そんなに戸惑ってるの?ゲームではそんな表情したことなかったよね。




「ボクの歌、聴いたんだ...」


「う、うん!とっても、素敵な歌声だったよ」


「...素敵?」




ルイズは訳が分からないと言いたげに首を傾げていた。


私、なんか変な事言ったかな?




「ボクの歌に良いとこなんてないよ。」




ルイズは不機嫌そうに目を細めた。その表情に背筋がゾッとなった。ルイズの瞳はそれだけ冷たいものだったから。




「ボクの歌はさ、呪われてるんだよ。ボクの歌を聴いた人は皆不幸になるんだ。」




そう言えば、ゲームでそんな事言ってた気がする。あんまルイズとの親愛度高くなかったからな...。接し方が良く分からない。




「此処なら誰にも見つからないと思ってたのに、近くに家があるなんて。...もう、此処には来ないからあんまりボクの事言いふらさないでね」


「あっ、待って!」




私はほぼ無意識に背を向けて歩き出そうとしているルイズの服の袖を掴んでいた。




「...なに?」




ルイズは少し驚いたように目を見開いていた。それに声質もなんだか戸惑ってる様に発せられた気がした。




「ご、ごめん...。でも、もう来ないとかそんな事言わないでよ。私、貴方の歌声が好きだから」




私は何を言ってるんだろう。そんな事を言われてもルイズが困るだけなのに。変な女だとか、うざいとか思われるかもしれないのに。でも、私は...ルイズと仲良くなりたいんだ。別にそのくらい構わないよね。ベルの邪魔なんてしてない、よね?




「話聞いてなかったんだ。ボクの歌は呪われてんだよ。これ以上聴いてたら呪われるよ?」


「でも私は、貴方の優しい歌声が好き!」




気付いたら私はルイズに向かって叫んでいた。


だけど、本当なんだもん。


私はルイズの歌声に魅了されてしまった。こんなにルイズの歌が優しくて、温かいものなんて思ってもみなかった。


ルイズは何時の間に私の前に来ていたのか、ゆっくり私の頬に手を添えてきた。


ルイズの冷たくて少し大きな手に包まれたまま、至近距離で見つめられたら流石に胸が波立ってしまう。




「もう一度聞くけど、ボクの側に居ると本当に呪われるよ?」


「うん...でも、貴方は歌が好きだからこうやって隠れてまで歌ってるんでしょ?私と二人っきりの時は思いっきり歌ってもいいんだよ?」


「.....二人っきり?何それ...アンタ、それがどう言う意味か分かって言ってんの?」




えっ?どんな意味って、そのままの意味だけど。ルイズは周りに人がたくさん居るから遠慮して歌えないんだよね?だから、私はなんとも思わないから思いっきり歌ってもいいんだよって意味で言ってんだけど...。


何か間違ってる?


首を傾げてる私にルイズは溜め息を溢していた。




「まぁ、いいや...。一応名前を言うと、ボクはルイズ・レイビス...。」




うん、知ってる。


ルイズ・レイビス...。無表情で何を考えてるのか良くわからないけど、歌ってる時はいつもより表情豊かだったりする。容姿が整ってるからか、ユーザーファンがダントツで多かったりもするんだ。
    



「私は、ミッシェル・エドワーズ。よろしくね、ルイズ...君。」


「別に、呼び捨てで構わないよ。ボクもミッシェルって呼ぶし」




今日会ったばっかりだし、いきなり呼び捨ては不味いかなと思ってたのに返ってきた言葉はまさかの“ルイズ”呼びで構わないとの事だった。


戸惑ってる私にルイズは―嫌?―と首を傾げながら聞いてきた。そんなルイズの言葉に私は、そんな事ない、有り難き幸せです!そんな思いを込めて首を思いっきり横に振った。




「そっか、良かった」




ルイズはふわりと微笑んだ。その笑顔に後少しで心が奪われそうになっていたら、




「ミッシェルー?」




私を呼ぶベルの声が聞こえてきた。


そうだった!もう帰らないと、皆起きてる頃じゃない。


ベルだったら此処に呼んでも良いかな。だって一応、恋人候補だもん。そう思ってベルの名前を叫ぼうとしたら、いきなり耳元でルイズが何か呟いた。




「今此処に他の人を呼ばれたら不味いんだよね...だからさ、寝ててよ」




ルイズが何か囁いた途端、いきなり視界がぼやけて瞼が重くなった。


次の瞬間、私はそのまま気を失ってしまっていた。






「...ル、...シェル...ミッシェル!」


「う、ん...ベル?」


「もう、朝起きたら居なかったからびっくりしたよ!」




気が付くと私は芝生の上で眠っていた。そこには心配そうに顔を覗き込んでくるベルの姿が。




「...ルイズは?」


「ルイズ?誰それ。」




辺りを見渡してもルイズの姿はなかった。帰ったんだ...。そりゃあ、そうだよね...。


私、最低だ!ルイズと一緒に居る時に寝ちゃうなんて。そう言えば、ルイズが耳元で何か囁いてた気がするけど、あれは何だったんだろう。


まぁ、気にしてても仕方ないか。


まだ気になることはあるものの、今はそう思うことにして、私は未だに心配そうに見つめてくるベルと共に家に戻ることにした。

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