Unlucky!
第四十五話 無意識
これでクエストは終わりだ。
この魔法陣が見つかるのも時間の問題だろう。
下手に人が集まりだす前に、さっさと避難することにし、俺達は街中を歩いていた。
傍目からすればデートのように映っているかもしれないが、俺は正直そんな気分じゃないしオレンジもそうだろう。
だから、そこの男こっちに嫉妬するような視線を向けるな。
男を一度睨むと、男はふんと鼻を鳴らして去っていく。
どうにも疲れた俺はため息ついでにオレンジの横顔を盗み見ると、目があった。
「じー……」
なぜかこちらに視線を集中している。
「俺の顔にみかんはついてねえぞ」
「知ってる」
「ならなんで見てるんだよ」
「あなたの観察」
そういうとさらに視線を強くする。
人に見られることには慣れているほうだが、ここまであからさまだとさすがに辛い。
「やめろ。みかん汁を目に飛ばすぞ」
「あなたといて、わかったことがある」
オレンジはみかん汁が飛ばされるのを嫌がったのか、視線を建物に向けて語りだす。
いきなりわけがわからない。
「なにがだ」
「あなたのこと。少しだけだけど」
「俺の何がわかったんだ?」
元々、オレンジだって瑞希の話を聞いて色々わかっていたはずだ。
俺の家や俺の実力などなど。瑞希が過剰に話している可能性も十分にあるけど、ある程度はオレンジもわかっているはずだ。
「あなたは誰も近くに寄せ付けない」
「よくわからないな。今こうしているだろ?」
寄せ付けない、ねえ。
「あなたの口調。あなたは人を突き放すように話してる」
「舐められないようにしてるんだ。丁寧な口調だとなんか弱そうな気がするだろ」
「そうかもね」
オレンジはそれから立ち止まりこちらを見る。
どこか意志がこもったような表情にこちらもふざけた表情を消す。
「だけど、時々あなたは他人に近づく」
「……?」
いまいち言っている意味がわからない。
「たぶん、だけどあなた自身が耐えられないときが来るから。私も、一人でいいと思っても、無理だった」
昔のオレンジの話だろう。それよりも気になることがあった。
「……耐えられない?」
ただ、ふざけて言葉を並べているわけではないようだ。
気になり、オウム返しにすると。
「あなたが本当に嫌なら、拒絶すればいい」
「拒絶してるだろ」
少なくとも、何度も面倒だと言っている。
「口でダメなら力を使えばいい。あなたにはそれが出来る。でも、それはしない」
「人間としての道徳があるからな」
「違う、あなたが一人でいるのが嫌なだけ。見ていれば分かる」
な、なんなんだコイツ。
俺は確かに基本的に一人が好きだ。だが、いつも一人ではない。
現実では葵や瑞希とよく話をする。どれだけ遠ざけてもヤツらは関わってくる。
オレンジに指摘されて初めて考えてみる。確かに、一人でいることは少ない。
(わけわかんねえな)
それは実は俺が耐えられなかったからか? わかんねぇ。
オレンジは相変わらず感情の映らない瞳で、
「あなたは、瑞希の何?」
「瑞希、か。瑞希は……家族以上友達未満って感じだな」
素直にそう思えた。ある意味ではわからない表現かもしれない。
だが、俺にとってあいつは妹みたいな存在で、友達というのはおかしい。好きな人、というわけでもない。
考え出したらわからなくなりそうだ。
オレンジに好き勝手言われるのを嫌った俺は、反撃するように言ってやった。
「そもそも、誰かを近づけないわけじゃない。ただ単に会話が面倒なだけだ。一言も喋らない人形のようなヤツなら一緒にいてもいいさ」
だからこそ、いつもより雄弁に語って動揺を隠そうとしていた。もしかしたら当たっているかもしれないと思ったからだ。
言い切ってから気づいて、まだまだだなとため息をつく。
オレンジの反応を窺うと、頬がぽっと赤くなっている。
なんだその表情は。
この真面目な話をしているときには似つかわしくない、女性らしい表情だ。
「……恥ずかしい」
「お前のことじゃねぇっ。お前は意外とおしゃべりだろうが」
「……恥ずかしい」
「ほめてねぇよ!」
と、すっかりいつもの調子に戻ってから、オレンジは服の裾を掴んでくる。
「これからどうするの?」
「さあな、適当にボスめぐりでもするかね」
俺はこの世界にいる間に多くのボスと戦うつもりだ。
強い相手っていうのは目の前に立っているだけで、身を震わせてくれるものだ。
ピンチになろうと構わない。
とにかく強い相手と戦いたい。
「一緒にいたいけど……」
「別に俺は構わないぜ」
最近では、ゲームの世界でくらいなら多少関わってもいいかという気分になっている。
だから、瑞希とももう少し関わってもいいんだが、あいつのパーティーに参加するということはありえない。
ヒメがいなければいいんだけどな。あいつは普通に苦手だ。
「ううん、ソラソラの気持ちじゃなくて、私が」
そこで言葉を区切る。
「一緒にいると少し、面倒になる」
「面倒?」
それはどういうことなのか。
聞きだそうと質問を考えていると、前方に人の影が見えたのでぶつからないように移動する。
するとその影が通行を妨害するように俺の移動方向に動く。
喧嘩売ってるのか。受けて立ってやるよ。
俺が正面を睨むと、睨んだ気持ちが萎えるようなヤツがいた。
「フィリアム……」
なぜここがわかったんだ。
その質問はぐっと飲みこみ、オレンジに視線を移す。
オレンジはごめんと元気よく片手をあげる。謝罪は形だけのようだ。
「見つけたわよ、ソラソラ」
防具に身を包んだフィリアムの腰のあたりにはホルスターに収まった二つの拳銃がある。
金髪つり目。絶対に見間違いはない。
「出来れば見つかりたくなかったな」
俺が言葉を漏らすがフィリアムはこちらを見ていない。
「フィリアム、久しぶり」
「ええ、オレンジ……」
フィリアムはばつが悪そうに顔をそっぽに向ける。
それから俺を睨み指を突きつける。
「私と決闘しなさい」
フィリアムは強気な面構えのままはっきりと言い切ったのだ。
強敵を所望したが、あんな女はいらないんだけど。
この魔法陣が見つかるのも時間の問題だろう。
下手に人が集まりだす前に、さっさと避難することにし、俺達は街中を歩いていた。
傍目からすればデートのように映っているかもしれないが、俺は正直そんな気分じゃないしオレンジもそうだろう。
だから、そこの男こっちに嫉妬するような視線を向けるな。
男を一度睨むと、男はふんと鼻を鳴らして去っていく。
どうにも疲れた俺はため息ついでにオレンジの横顔を盗み見ると、目があった。
「じー……」
なぜかこちらに視線を集中している。
「俺の顔にみかんはついてねえぞ」
「知ってる」
「ならなんで見てるんだよ」
「あなたの観察」
そういうとさらに視線を強くする。
人に見られることには慣れているほうだが、ここまであからさまだとさすがに辛い。
「やめろ。みかん汁を目に飛ばすぞ」
「あなたといて、わかったことがある」
オレンジはみかん汁が飛ばされるのを嫌がったのか、視線を建物に向けて語りだす。
いきなりわけがわからない。
「なにがだ」
「あなたのこと。少しだけだけど」
「俺の何がわかったんだ?」
元々、オレンジだって瑞希の話を聞いて色々わかっていたはずだ。
俺の家や俺の実力などなど。瑞希が過剰に話している可能性も十分にあるけど、ある程度はオレンジもわかっているはずだ。
「あなたは誰も近くに寄せ付けない」
「よくわからないな。今こうしているだろ?」
寄せ付けない、ねえ。
「あなたの口調。あなたは人を突き放すように話してる」
「舐められないようにしてるんだ。丁寧な口調だとなんか弱そうな気がするだろ」
「そうかもね」
オレンジはそれから立ち止まりこちらを見る。
どこか意志がこもったような表情にこちらもふざけた表情を消す。
「だけど、時々あなたは他人に近づく」
「……?」
いまいち言っている意味がわからない。
「たぶん、だけどあなた自身が耐えられないときが来るから。私も、一人でいいと思っても、無理だった」
昔のオレンジの話だろう。それよりも気になることがあった。
「……耐えられない?」
ただ、ふざけて言葉を並べているわけではないようだ。
気になり、オウム返しにすると。
「あなたが本当に嫌なら、拒絶すればいい」
「拒絶してるだろ」
少なくとも、何度も面倒だと言っている。
「口でダメなら力を使えばいい。あなたにはそれが出来る。でも、それはしない」
「人間としての道徳があるからな」
「違う、あなたが一人でいるのが嫌なだけ。見ていれば分かる」
な、なんなんだコイツ。
俺は確かに基本的に一人が好きだ。だが、いつも一人ではない。
現実では葵や瑞希とよく話をする。どれだけ遠ざけてもヤツらは関わってくる。
オレンジに指摘されて初めて考えてみる。確かに、一人でいることは少ない。
(わけわかんねえな)
それは実は俺が耐えられなかったからか? わかんねぇ。
オレンジは相変わらず感情の映らない瞳で、
「あなたは、瑞希の何?」
「瑞希、か。瑞希は……家族以上友達未満って感じだな」
素直にそう思えた。ある意味ではわからない表現かもしれない。
だが、俺にとってあいつは妹みたいな存在で、友達というのはおかしい。好きな人、というわけでもない。
考え出したらわからなくなりそうだ。
オレンジに好き勝手言われるのを嫌った俺は、反撃するように言ってやった。
「そもそも、誰かを近づけないわけじゃない。ただ単に会話が面倒なだけだ。一言も喋らない人形のようなヤツなら一緒にいてもいいさ」
だからこそ、いつもより雄弁に語って動揺を隠そうとしていた。もしかしたら当たっているかもしれないと思ったからだ。
言い切ってから気づいて、まだまだだなとため息をつく。
オレンジの反応を窺うと、頬がぽっと赤くなっている。
なんだその表情は。
この真面目な話をしているときには似つかわしくない、女性らしい表情だ。
「……恥ずかしい」
「お前のことじゃねぇっ。お前は意外とおしゃべりだろうが」
「……恥ずかしい」
「ほめてねぇよ!」
と、すっかりいつもの調子に戻ってから、オレンジは服の裾を掴んでくる。
「これからどうするの?」
「さあな、適当にボスめぐりでもするかね」
俺はこの世界にいる間に多くのボスと戦うつもりだ。
強い相手っていうのは目の前に立っているだけで、身を震わせてくれるものだ。
ピンチになろうと構わない。
とにかく強い相手と戦いたい。
「一緒にいたいけど……」
「別に俺は構わないぜ」
最近では、ゲームの世界でくらいなら多少関わってもいいかという気分になっている。
だから、瑞希とももう少し関わってもいいんだが、あいつのパーティーに参加するということはありえない。
ヒメがいなければいいんだけどな。あいつは普通に苦手だ。
「ううん、ソラソラの気持ちじゃなくて、私が」
そこで言葉を区切る。
「一緒にいると少し、面倒になる」
「面倒?」
それはどういうことなのか。
聞きだそうと質問を考えていると、前方に人の影が見えたのでぶつからないように移動する。
するとその影が通行を妨害するように俺の移動方向に動く。
喧嘩売ってるのか。受けて立ってやるよ。
俺が正面を睨むと、睨んだ気持ちが萎えるようなヤツがいた。
「フィリアム……」
なぜここがわかったんだ。
その質問はぐっと飲みこみ、オレンジに視線を移す。
オレンジはごめんと元気よく片手をあげる。謝罪は形だけのようだ。
「見つけたわよ、ソラソラ」
防具に身を包んだフィリアムの腰のあたりにはホルスターに収まった二つの拳銃がある。
金髪つり目。絶対に見間違いはない。
「出来れば見つかりたくなかったな」
俺が言葉を漏らすがフィリアムはこちらを見ていない。
「フィリアム、久しぶり」
「ええ、オレンジ……」
フィリアムはばつが悪そうに顔をそっぽに向ける。
それから俺を睨み指を突きつける。
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