Unlucky!

木嶋隆太

第四十四話 解放



 決勝戦のために闘技場に入る。


「ここまできたか」


 言うほど苦労はしていないが。
 最初に襲い掛かってきた無礼な大剣男。


 多少話をしたかったが、戦闘はすぐに始まってしまう。 


 戦いはすぐに始まった。
 大剣を地面と水平に構え、爆発的な加速。


 迫り来る大剣。左右に分かれて回避し、敵の攻撃の芽をつむように銃弾をばらまく。
 片手で地面を叩き、跳ね上がるようにして態勢を戻しながらさらに何度も撃つ。


 一度オレンジと合流する。


「基本は俺があいつとやる。お前はうまくサポートしてくれ」


「分かった。やられないことを祈る」


 オレンジの強気な態度に苦笑しながら、相対する。


 大剣の一撃をすんでで回避し、トリプルショットを発動。
 だが、即座に戻された大剣の腹ではじかれる。すぐに跳び、大剣ごと蹴る。


 吹き飛ばすつもりだったが、力で押し切れなかった。
 空中で体を捻り、くるりと大剣男の右側を後ろ回し蹴りで狙うが腕に阻まれる。


 フォースジャンプを使い、敵の背後に回りハンドガンで撃つが、回避される。
 逃げた先でオレンジが渾身の突きを放つが、大剣に阻まれ反撃の剣に襲われる。


 態勢を崩すオレンジ。このまま一気に攻められれば、死ぬだろう。
 俺はウィギリアとガンエッジを発動し、一気にかけよる。


 大剣が振り下ろされる。側面から力の方向を変えるようにガンエッジを叩きつける。
 今度はこっちの番だ。


 ひるんだ相手を数度きりつける。カートリッジブレイクを発動させ、刀身が赤く輝く。
 顔をゆがめながら後ろに跳んだ男へ数発連射すると、ガコンと弾切れを起こす。


 自動リロードを使いながら、追撃する。
 なぎ払いを上体を低くして、よけて、がら空きの足に銃弾を打ち込む。


 振り下ろしをぎりぎりで回避し、殴る、蹴る。
 大剣男の一撃は確かに重そうだが、動きが大きく読みやすい。


 隙はほとんどないが、針の穴のように小さな一瞬を見逃さない。
 着実に、HPを減らし40%を切ったところで一度距離を開く。


 どうにも攻撃スピードがあがっている。ドン・ゴブリンのように体力が減ると覚醒するようだ。


(やっぱり、おかしいな)


 攻撃にパターンがない。
 やはりこいつも、NPCではないのかもしれない。


 それでも、確実に相手は疲弊している。このままいけば勝てる。
 嬉しい誤算が一つあったな。俺とオレンジのコンビネーションは初めてにしては中々うまくいっている。


 オレンジは誰かに合わせるのが得意なようだ。あまり、さっきの出来事は思い出したくないが、周りに合わせて生きてきたからだろうな。


 立派な能力だ。
 指示をしなくても、俺のやってほしい動きをしてくれる。


「だいぶ、減らした……」


 体力的に疲れることはないが、精神は疲労する。オレンジはわずかに呼吸を乱しながら、拳を構える。


「後は休んでていいぜ。おいしいところはもらってやるから」


「む、私だってまだまだ……できる」


「頼もしいぜ」


 ガンエッジの効果が切れ、俺はハンドガンを強く握りなおす。


 数回弾を放つが金属音と共にあらぬ方向へ。
 やはり、ハンドガンではここ一番の火力に問題がある。


「グランドスネイク!」


 大剣男が大きく叫び、大剣を地面へ叩きつける。
 初めてのスキル。


 蛇のように曲がりながら、オレンジに向かって地面から生えた岩が襲い掛かる。


「くっ……」


 俺はなんとか回避に成功する。


 不意打ちのスキルに回避が遅れたオレンジは足にかすってしまう。
 HPゲージが一気に減る。


 防具の効果があるオレンジがあれだと、俺なんか一撃でノックアウトだな。
 オレンジへ追撃しようとする大剣男の間に入り、銃撃。


 大剣の腹で弾きながら突撃してくる姿は戦車のよう。
 大剣の攻撃範囲に入ると振り下ろされる。ハンドガンを空中に投げ上げ、両手で白刃取り。


 そのまま、大剣を横に向けるが大剣男は柄をうまく利用して蹴りをかましてくる。
 上体をそらして回避。伸びきった足へ、大剣から手を離して殴る。


 男の目的は大剣を使用できるようにすることだったようで、俺の一撃をまともに受ける。
 即座に振られた一撃斜め切りをバク転で回避して、すぐに斜め上にジャンプする。


 フォースジャンプでもう一度ジャンプし、空中で回っていた拳銃を掴み空から頭を狙ってトリプルショットを放つ。


 MPの消費が多いので使用を控えていたが、攻撃が当たると確信できた。
 すべて当たるが、やはりこれといって大きな打撃にならない。


地円斬ちえんざん!」


 大剣男が大きく叫び、剣を地面に突き刺す。
 そして、俺の足場が丸く光。


 咄嗟に前に飛び込むと、俺がさっきいた場所には鋭く尖った岩の塊が浮き上がっていた。
 円の中から出れば危険がないとはいえ反応に遅れたら終わってた。


 ひやりとしていると、正面から大剣男が突っ込んでくる。
 やはり、どんどん速くなっている。


 まるで、短剣でも扱うかのような細かな動作とスピード。
 反撃をする暇がない。


 ガンエッジを発動し、攻撃の軌道を逸らしてさばいていたがそろそろ効果も切れる。
 ステップを使って大剣男の横に曲がり、攻撃はしないでそのまま後方へ避難する。


 横から迫るオレンジにようやく気づいたようだ。


 攻撃が成功するように、射撃で援護する。
 ガードに手一杯の大剣男。これで、また数回殴れるだろう。


 突然、大剣男の動きが変わった。
 大剣の切っ先で弾を斬り、側面にいるオレンジにも反応できるように移動する。……まじかよ。超人離れしすぎだろ。


 そのまま、オレンジを迎え撃とうと剣をむける。一旦退かせるべきなのかもしれない。
 ……勝てる。


 頭の中のパズルがはまるように、一つの結論を導き。
 回避行動に移ろうとするオレンジへ、


「オレンジ、ナイフを投げろっ!」


 オレンジが持つスローイングナイフのスキル。
 オレンジは片手に三本のナイフを発動させて投げつける。


 男はそれを大剣で払いのけようとしたのを見て笑顔を浮かべる。
 呼吸を整え、投げられたナイフに銃撃する。


 真っ直ぐだった軌道がわずかにずれ、大剣の攻撃に巻き込まれない。
 さらにナイフに反射した俺の銃弾が大剣男の顔へ、ナイフが肩に刺さる。


「ぐぅっ!」


 大剣男が怯み、そしてオレンジが懐に突っ込む。


「ストライクバーン!」


 オレンジの拳が光りをあげ、大剣男の顔面を殴る。怯んだ顎へ膝をいれ、背後に回るようにしながら投げた。
 大剣男が倒れ、かかと落としを顔面に叩き込む。


 よかった。成功した。
 跳弾させて敵の背後から攻撃したりするのは、ゲームでしかできない技術といってもおかしくない。


 現実では不可能だが、ゲームではどのくらいの角度で撃てばどれだけの角度で跳弾するかが決まっている。


 すべてを把握すれば、トリッキーな攻撃が可能になる。


「離れろっ!」


 衝撃波のようなものを発動して、オレンジを吹き飛ばす。
 残り体力の少ない男はなんとか立ちあがる。


 俺は一気に踏み込む。
 俺に反応して大剣を振り下ろす。もう男に勝ち目はない。


 右のガンエッジで攻撃を逸らし、左のガンエッジでクリティカルアッパーを放つ。
 振るった剣が大剣を弾きあげる。武器をなくした男の懐へ入り、


「Unlucky!」


 剣を胸に突き刺す。
 HPがなくなり、男は膝をつき戦いは終わった。


 オレンジとハイタッチを交わした。
 戦いが終わり、目の前に座り込む男を見る。


「あんたも、ゲーム製作者の仲間ってところか?」


 戦い中に感じていた答えを聞く。
 ぴくりと男は眉を動かして、それからあきらめるように答えを言う。


「まあな。この世界をただ見ているだけもつまらないだろ?」


「だったら、さっさと全員ログアウトさせればいいだろ。もう現実世界じゃ居場所はないだろうがな」


「ああ、そうだろうな。そんなことはどうでもいい。ここで話は終わりだ」


 男は人間らしい表情を消し、事務的に声を放った。


「おめでとう、これでお前たちはこの闘技場を自由に使う権利を得た。さあ、勇敢な冒険者よ。これが報酬だ」


 もうこちらと対話するつもりはないのか、NPCとして接してくる。


『グレネード弾製作書を入手しました』


 まあ、いいか。


 早速開くと、火、水、風、土の銃弾を混ぜてつくることがわかった。
 今まで銃弾を混ぜて造ったことはなかった。これは盲点だった。


 大剣の男はふんっと小さく笑みを漏らして、それから消えた。
 騒がしかった闘技場は静かになり、俺達の体は第二の街にワープする。


『新たなエリア、闘技場が解放されました。第二の街より移動できます』


 そんなアナウンスが流れた。
 俺たちの立っている場所には魔法陣が浮かび上がり、俺たちは街に帰還した。





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