Unlucky!
第三十八話 装備
全くいいゲームだな。
NPCにもしっかりと役目を与えている。俺は新たな街で幼女に出会えることを願う。
「やや、そこの幸のうす――なさそうな顔は……おう、ソラソラじゃないですかー」
「ぷ、ぷにゃんぷにゃんっ」
ラスボスとフィールドでエンカウントするこのゲームはクソゲーだ。
俺は既にどうやって逃げるか脳内でルートを考え始める。
「そだそだ。今回はちょっと用事があるんですよ。ささ、こっち行きますよー」
「ちょっと待てよ。事情を説明しろ」
「新しい装備作ってほしい?」
「……いくらだ」
「一つはランキング入りした褒美に好きに作ってあげますよ。まだまだ強化の珠『橙』はあるからマックス強化をしてあげよう」
そういって、葵に連れて行かれる。場所は宿屋。
なぜか俺が普段寝泊りする場所だった。
偶然こんな近くにいたのか。恐ろしい。
いつ後ろから刺されるか分かったモンじゃねえよ。
「今持ってるアイテムでランクの高い素材は?」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
ネズミ、魚、ウルフ。ダンジョン内で戦ったあいつらの素材は結構ランクが高い。
ウルフにしても、前に戦ったヤツはランク1~2の素材だったが、今回のはどれもランクは3~4だ。
単純に敵のレベルが高かったから質がよくなったんだろ。
ウルフよりも、ネズミ、魚のほうがランクは高い。
ネズミと魚を葵に見せると、目が点になる。
「ナニコレ。この素材みたことない。……素潜り?」
「普通にダンジョンで敵と戦ったんだよ。つーかふざけてるのに付き合ってる余裕ないんだよ。今クエスト受けてる最中なんだ」
今もきっと手紙を待っているだろう。俺は頑張らなければならないんだ。
「クエスト?」
「ああ」
「そうですか。とりあえず出来るまでの間にこれをあげましょう。ランキング入賞おめでとうございます。プレゼントです」
「なんだ?」
可愛らしく包装された小さな箱を渡される。素直な好意を俺は受け取り、結び目を解く。
びよーん、びしっ!
俺は目を押さえてうずくまる。
「……謝罪をするのなら、許さないこともないぞ」
「すみませんでした。さすがにやりすぎましたね」
突然飛び出してきた蛇のような生き物が的確に俺の目に入りやがった。反射的に目を閉じるよりも素早く。
そしてなぜか痛みがある。HPが減ってないのは一つの救いか。
たぶん、おふざけでからかう道具なのだろう。見事に成功だ。
俺が飛び出してきた蛇のおもちゃを手で掴み弄ぶ。
「それ、パーティーグッズです。広場の露天で売られていたので面白そうだったから買ったんですけど……だいじょぶ?」
「目がな、痛いんだ」
「目薬必要?」
「俺の目が正しければ、それは練りからしに見えるんだが」
そんなアイテムがあることに俺は少し驚いた。
「きっと見間違いです。ささっ」
「お前の目に塗りこんでやる」
葵の手を叩き、手にもった練りからしを掴む。
葵は目を見開き、
「させますかっ」
俊敏な動きで空中に舞う練りからしに反応する。
俺も負けじと手を伸ばし。
思い切り掴んだっ。
中に入ったからしが飛び散り、俺と葵それぞれの目に飛びごろごろと床を転がる。
「いって、まじいってぇっ。なにすんだよ親父ぃー」
「お前の父親なんて絶対嫌だ」
俺たちはそんな会話をしながら痛みが治まるの待つ。
どうやら、食材系のアイテムはフィールド内では凶器になるようだ。今度ヒメに襲われたら、口にわさびを放り込んでやろう。
「……さて、おふざけもここまでにして。武器は何を作りますか?」
「銃を一つ剣を二つ作れるか?」
拳銃はスピリームスパロウがあるからな。あれは火、水、風、土の属性弾が使えるので威力的にはまだまだ心もとないが将来的に育てておきたい武器だ。
「二刀流? でも、なぜ三つ」
「なんでもいいだろ。全部マックスで強化したらいくらだ?」
「ケルベロスの森は私がある程度の情報料で生産職仲間に教えたんですよ。だから、今は多く揃っていますからそれほど高額にはなりません。素材も足りるし……ざっと10000ポイントですね」
「なら、俺が持ってるネズミとサカナの素材を分けるからそれでどうだ?」
「そうですね。まだまだ持ってるのか?」
「ああ、防具も頼んでいいか?」
「そうですね。全部マックスで強化するなら、ネズミとサカナの素材を70個くらいもらいたいのですが」
「おやすい御用だ」
アイテム欄には、アクアフィッシュは牙、鱗合わせて100くらいあるし、ネズミも牙、皮が同じだけある。
後で銃弾精製に使えるし、十分だ。
「わー太っ腹ー」
全部葵に渡してから、装備を作ってもらった。
さらにプラスで素材による強化も行い、物理攻撃の底上げをしてもらう。
「あぁ、そういえば拳銃カスタムパーツがつけられるようになりましたよ」
「カスタムパーツ?」
「ええ、なんか色々素材があると拡張マガジンとか、レーザーサイトとか」
「マジか。拡張マガジンをつけられないか?」
「頑張ってください」
「教えろ」
それから必要な素材を言われる。
比較的簡単な素材で作れるので拡張マガジンもつけてもらった。
「なあ、グレネードとかないか?」
ふと気になった。もしも付けられるのなら俺がもらった報酬はハズレなんじゃないだろうか。
銃は確かに強力ではあるが。
「OH! ヨクワカリマシタネ!」
なぜか片言で葵は大声をあげた。
「どのくらいの素材が必要なんだ?」
「ツッコミはなしか。私がアホみたいじゃないですか」
「実際そうだろ」
「グレネードの素材はランクが5以上の牙やまだ私が見たことない素材があるようですね」
「そうか」
となるとあながちハズレではないのか。どっちみちグレネード弾がなければ使い道がないのは変わらないか。
「そうですね……」
「……なんだこりゃ?」
「何かおかしなところはありましたか?」
フィッシュガン+3 拡張マガジン+15発
物理攻撃118 魔法攻撃23
器用+11
精神+3
跳弾+1
スキルセット ○
上のは見たことはあるが、下の二項目については初めてだった。
跳弾+1というのは……ああ。
今までの銃弾だと敵や壁に当たっただけで消滅してしまうのだが、この銃だと一度だけ跳ね返るようだ。
跳ね返る角度などがわかれば、トリッキーな攻撃が出来るかも知れない。面白そうだ。
拡張がマガジンによる+15発というのは驚きだが、ゲームだからと納得しておく。
俺が普段使う拳銃は大体が15発だ。スピリームスパロウは20発入るが。
「スキルセットって何だ?」
「ありゃりゃ、ダメだこりゃ」
「今すげぇムカついたんだが」
「本当に何も知らないんですか? 私をからかってるだけとかじゃなく?」
「とかじゃなく」
「……」
「……」
「……ぷっ」
「殴っていいか?」
葵が口元を片手で隠しながら、小さく笑い続ける。
とりあえず拳をちらつかせると葵も落ち着き、
「これは装備にスキルをセットする枠ですよ。前回の魔物狩りのイベントが終わってから見られるようになったので、その時に実装したんじゃない?」
「お前もよく知らないのか」
「失礼な。私はすべて知ってますよ。この装備が人間族泣かせだということもっ!」
確かに。
俺たちの職業の利点はスキルを多くセットできることだ。
装備品でこんなことされたら、人間なんて肩身が狭くなるだけだな。
にやりと笑ってしまう。
「まあオープンベータの時からありましたけどね」
「お前知ってたのかよ、ドMめ」
「そんなあなたはなぜ人間を選んだんですか」
「人気がないってことはソロでやりやすいってことだろ?」
正直に言うと、しゅんと葵は表情を暗くしてしまう。
「……すみません、友達が少ないのを考慮していませんでした」
「俺が友達を欲しているように見えるのか」
だとしたら心外だ。
友達を欲する前にまずは邪魔者たちを排除したいくらいなんだ。
「まあ私はいつまでも友達でいてあげますから」
「そうか、そりゃ悲しいような悲しいような」
「人の厚意を無碍にするソラはいつか天誅が下るでしょう」
俺にとってはよりソロになりやすい環境になったということだ。
作ってもらった防具を身につけると、防御力の合計はアクセサリを含んで200に。
……もしもこれで、物理攻撃に注いだら?
答えは最強の火力になる。
ふ、ふふふ。
「あなたの今の表情はちょっと年齢制限が必要なレベルですよ」
サササと葵が俺から距離を開けている。
おっといけない。俺は口元を隠すようにして、まだ笑う。
早く試し斬りがしたいな。
「というわけで、今回はこれだけですね」
「そうか、それは残念だな!」
「なぜ嬉しそうですか」
「いやいや、そりゃもうすげぇ悲しいよ。じゃっ、装備は感謝してる」
「ふう。そうですか、ではまた今度一緒にパーティーでも組みましょうか」
「ああ、気が向いたらな」
宿屋を後にして、俺は第二の街に向かうために西門がある場所まで移動する。
移動中に装備を変える。
どうやら、防具に二つ、剣と銃合わせて二つスキルセット欄がある。
ガンエッジは剣を元にしても発動できるので、剣と銃の装備でいいだろう。
スピリームスパロウはガンエッジのときに活躍してくれ。
現在俺が持つスキルは13個。
そのうち弾薬師はいらないし、ステータス強化系もウィギリアが登場したからな。
ひとまずはつけられるだけつけて、敏捷アップを外しておく。
スキルのほとんどをつけられたから、これでまた火力もアップしたはずだ。
俺はホクホク顔で門をくぐり、第二の街まで一気に向かった。
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