Unlucky!

木嶋隆太

第三十七話 新たな依頼

 ひとまずはレベルをあげてスキルを取得しよう。最悪おっちゃんワープもある。
 イベントのときから色々あって一度も確認していない。


 スキルを開くと、


『スキル[二刀流]が解放されました』


『スキル[ウィギリア]が解放されました』


 二つのスキルが解放されていた。
 二刀流!


 いやいや待て、今はあのクエストの攻略に必要なスキルを取得しなければならない。
 だから、二刀流はそこまで重要じゃないのだから――。


 気づけば取得していた。
 自分を抑えることも出来ずまだまだだなと額に手を当てながら、残り1のスキルポイントで何を取得するか考える。


 ウィギリア 
 腕力、敏捷、器用を一定時間強化する。


 スキルツリーのようなモノが発生している。腕力、敏捷、器用強化の三つから伸びているので、ウィギリアは三つの上位スキルなのだろう。


 強化の度合いが分からないが、取得したい。
 だが、おっちゃんを守るために戦うのなら、挑発や範囲攻撃系のスキルを取得しなきゃならないし。


 ……ああ、くそ迷う。
 そこで、俺は自身のステータスに気づく。


 経験値はパーセント表示されていて、100%になるとレベルアップになる。
 俺の気のせいかもしれないが、すでにかなり溜まっている。


 朝時間の確認のために見たときはもっと少なかったような気がするんだが。
 もしかしたら、あそこの魔物はかなりの経験値が手に入るのかもしれない。


 だとしたら……。
 あそこをレベル上げに使えるかもしれない。


 おっちゃんがやられれば、俺は自動でここに戻ってこれる。無理だと思えばサードジャンプを利用しておっちゃんに別れを告げればいい。


 それで、レベルをあげてから挑めばいい。
 なので、俺はウィギリアを取得する。


 スキルをセットするが、迷う。
 種族人間なのに、スキルのセットが余る。


 これって他の種族にしたら、相当苦労するよな。
 ひとまず、筋力、敏捷アップを外して今回は装備した。


 それから、おっちゃんをつれて俺はダンジョンにもぐり続けた。






 あれから、4日が経った。
 朝起きたらひたすらクエストのダンジョンでレベル上げだ。


 とはいえ、飽きっぽい俺は途中結構休みを入れていたりもしたが。


 成長したといえば、サードジャンプがフォースジャンプにレベルアップした。これだけジャンプできると、空を駆け回る戦士という気分にもなってくる。敵が空を飛んでいないのでそこまで活用できる場面がないのだが。


 装備こそ変わっていないが、例の拳銃のレベルが6になった。


 あがりにくく、そこまで強くはないのだがレベルが上がるごとに使える銃弾の種類が増えていたりと中々面白い武器だ。


 いつかはマグナム弾が使えるようになってほしい。
 俺自身のレベルは42に到達し、たぶんもう攻略できる。


 だからこそ、5日目である今日に攻略しようと思ったのだ。
 実のことを言うと昨日、しつこいストーカーに苦しめられたのだが。


 ヒメめ……恐ろしい執念だ。そりゃもう呪いで現世に残った亡霊のように追いかけてくるのだ。おまけに本人はただ俺と居たいという純粋な気持ち。


 街中を走りながら愛の言葉を叫ばれる俺の身にもなれっつんだよ。
 ダンジョンの構造も大体把握し、なるべくスピリームスパロウを使用して撃退していく。


 敵の少ないこの辺りはもう余裕で撃退できる。
 問題なく広間まで進み、イベントが始まる。


『10分間魔物の攻撃を防ぎきるか、500体の魔物を討伐した瞬間に終了します』


 流れるようにバトル開始だ。
 四方八方から襲い掛かってくる敵を片っ端から銃撃する。


 初めのうちは敵も少ないので、焦らず対処すれば問題ない。
 スキルもMPが途中でなくなる危険があるので抑えながら戦闘を繰り広げる。


 中盤。
 この辺りになってくると敵も数を増し、通常攻撃だけでは倒しきれなくなる。


 スキルを駆使し、時にはガンエッジに切り替えながら戦う。
 二刀流のおかげで、攻撃力は倍に跳ね上がる。


 そして敵に囲まれたのなら、


(マグナムスラッシュッ)


 俺が新しく入手したスキルを発動する。
 剣で斬った場所を爆発させるスキルだ。


 剣を装備時にしか使用できないのだが、ガンエッジも剣として認められているらしく問題なく使用できる。
 その場で回転して、敵全体を斬りつける。


 ワンテンポ遅れて敵が爆発し、煙が溢れる。
 もうここからはおっちゃんにどれだけ敵を近づけないで敵を多く倒すかだ。


 マグナムスラッシュはかなりの威力ではあるが再使用まで時間がかかる。
 敵の波に耐え切れなくなったら、ウィギリアを発動する。


 ウィギリアの効果はステータスの強化。それはかなり顕著に現れている。
 身体がさっきまでとは別人のように軽くなる。通常攻撃では倒しきれなかった敵を一撃で倒せるようになる。


 効果時間は15秒と短いが、それでも十分すぎる。
 俺は何かに取りつかれるように銃と剣をふり続けた。






『規定数のモンスターを討伐しました』


 そんな機械音が俺を現実によみがえらせる。
 途中から意識はどこかに旅立っていたようで、どうやって魔物を倒していたのか記憶はない。


 経過時間は8分57秒となっている。
 ふっ、俺に不可能はない。


 と少しかっこつけながら、剣をしまう。


「いよっし、魔方陣の修復が完了したぜ」


 裸身騎士の癖にそんなことができるのが驚きだ。


「どうやらこれ、どっかに繋がってるみたいなんだよな」


 裸身騎士は魔方陣に乗り、俺を無理やり掴んでワープと命じる。
 すると、そこはどこかの店。


「ぬおっ! ここギルドショップじゃねぇか!」


 NPCが叫ぶと、中には何人か人がいた。プレイヤーのようだ。
 こちらを見て驚いている。イベントか? などと話し合って俺のほうを見てくる。


 NPC、それともプレイヤー、分からないが見られるのは好きじゃない。ギルドは酒場のようになっていて、お酒などが飲めるようだ。未成年は飲めない。


 別に飲んでも体に悪影響が及ぶわけはないが、ゲームの世界の気分のまま現実で飲んでしまう人もいるとか何とかで、禁止になってしまったのだ。


 この前なんか、魔物を殺したりするゲームがあるから未成年の犯罪が増えるとか何とかで、戦闘があるゲームすべてを禁止にするとかいう法案もでかかったらしい。さすがに多くの反対があって、中止されたが。


 とにかく、犯罪が増えているのは確かだ。リアルに近いのが一番の理由だろう。
 と、大分話が逸れていた。


 俺は自分たちが乗る魔方陣の隣に青い魔方陣があるのを見つける。
 おっちゃんも気づいたのか、にやっと子供のように笑う。


「あり? こっちも魔方陣? よし、乗ってみっか」


 おっちゃんは何の迷いもなく俺を無理やり乗せてもう一度ワープと唱える。
 すると、どこかの街中にいた。


「……ここは、天空都市! 確かここにはスカイドラゴンという風を操るドラゴンを祭った神殿があって、そうだ! 敵のレベルが相当高いステージじゃないか!」


 説明ありがとな。
 どうやらここは、新たなエリアなようだ。地図で確認すると空中都市スカイと書かれている。分かりやすいネーミングだ。


「ま、今のお前さんじゃ無理ってわけだ」


「あんたもな」


 軽口を叩くと、「ワープ」とおっちゃんが呟いてギルドショップに戻る。


「依頼はこれで終了だ。この鍵はお前さんにも渡しておくぜ」


 地下水路には入っても正直いいことがあるのかどうか分からない。
 一人になりたいときにはいいかもな。


 おっちゃんは両手を合わせて、


「鍵、閉めといて」


「……勝手な」


 鍵を押し付けられたので、俺は一旦鍵を閉めにギルドを出る。ギルドショップにいた人に話しかけられた気もするが、たぶん空耳だ。
 俺は愚痴を呟きながら、報酬を確認する。いくらかの経験値と称号だ。


 おっちゃんからもらったアイテムはアクセサリ。


 ワンディフェンス
 物理防御10
 魔法防御10
 特殊効果 物理防御を物理攻撃に、魔法防御を魔法攻撃に変換する。ON/OFF切り替えあり。


 いまいち説明だけでは分からないので早速つけてみる。
 ああ、なるほど。


 今俺の物理防御は防具、アクセサリなどの合計で90程度だ。物理攻撃は90だが、ワンディフェンスをつけたところ物理防御は1、物理攻撃は189になった。


 つまり、防御力をすべて攻撃にしてしまうのだ。恐ろしい。一気に紙装甲になってしまった。
 これは恐ろしい。だけど、デメリットなんて敵の攻撃に当たったら発動するだけだ。


 回避すれば問題ない。だったら、全くデメリットじゃないな。
 これはいい装備だと思う。まあ、使うのは火力が足りないと思ったらだな。今はOFFにしておくか。


 土手にやってきて、鍵を閉めようとしたがすでに閉まっている。なんだ、嘘ついたのか、あの野郎。次にあったら、殴ってやろうか。


 さて、最後の依頼だ。


 これで、この街の依頼もほとんど終わりか。寂しくなるな。依頼を受けに行く。
 場所はさっきのギルドで、おっちゃんだ。おっちゃんに始まり、おっちゃんで終わるのか。


 あまり、気分が乗らないな。つーか、さっき行ってまた戻ってくるのか。ギルドの前におっちゃんがいない。中にいるのだろう。


 ギルドに入ると、何人かのプレイヤーが魔方陣に近づいていた。


 高レベルらしいぞ、そこは。お前ら大丈夫なのか?
 まあ、魔物に殺されても経験値が減る程度のぺナルティしかない。


 誰かに殺されると装備中の武器、防具、アクセサリから一つを落としてしまうらしいけどな。
 と、おっちゃんに近づいていると一人の男が道を阻んでくる。


「お、おい! お前、これなんだよ? 何したんだ?」


 誰だ、こいつ。邪魔だ消えうせろ。
 茶色の髪が盛大に乱れている。寝癖なのか、ファッションなのか判別に困る野郎だ。


「依頼を受けた」


「え、そうなのか? いや、まさか依頼をちゃんと受けてるヤツなんていたのかよ~」


 小ばかにするように笑う男。
 何が楽しいんだ? へらへら笑って、怪しいヤツだな。


(こういう、バカ丸出しのヤツは嫌いなんだよ。知らないが、普段からニコニコニコニコ。そんなに面白いことでもあるのか? それとも、思い出し笑いなのか? 変態なのか、こいつは)


「ととと、悪ぃ、悪ぃ。オレ、珍しいものとか見ると興奮が抑えらなくってよ。邪魔して悪いな」


 どうやら変態だったらしい。魔方陣に興奮するとか、何フェチだ。
 片手をあげて、頭を下げる男。一応、道をどいてもらったのだからいいか。


 何も言わずに、おっちゃんの前まで移動する。


「ああ、オレにはな母親がいるんだよ。冒険者になる! って家、出てきてさこの街で冒険者になったんだよ。だけど、毎日微妙な依頼ばっかで細々と生活しててさ。一度も親孝行してないんだよ。だけど、お前さんのおかげで大きな仕事をもらえてな。ありがとう、感謝してるよ。それで、最後に頼みを聞いてくれないか?」


「ああ」


「この、ペンダント。街で見つけてさ。何もできなかったかあちゃんにプレゼントをあげようと思ってさ。これ、届けてくれないか? 場所は第二の街なんだけどさ。ほんとは直接行きたいんだけど……恥ずかしくてよ。あと、これ手紙もつけといたから、頼む」


 よくわからないが、引き受けておこう。


「分かった」


「ああ、頼んだぜ」


 おっちゃんから手紙とペンダントを受け取った。
 任せろ、速達で運んでやるよ。

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