Unlucky!

木嶋隆太

第三十六話 おっちゃん



 イベントを終え、ヒメのしつこいストーカーから逃げ延びた。
 コールやメールが届きまくっていて、前にいくつか目を通したのだが。


『どこ? どこにいるの? パーティーくもーよーっ!』


『ねぇ、本当にどこにいるの?』


 だいたいこんな感じのメールがずらっと100通ほどある。
 いい加減面倒になったので、俺は彼女からのメッセージ受信を拒否させてもらった。


 そんな俺は第三の街で10日目を終えてから、第一の街に戻ってきた。まだ、朝早いのでヒメが出回っているわけがない。


 昨日はなんだかんで武器の試し撃ちも出来なかった。
 とはいえ、部屋に戻ってから銃をチェックしたところ少々特殊な武器だと分かった。


 スピリームスパロウLv1
 この武器にはレベルがあり、現段階ではレベル1でたぶん使用すると経験値が溜まるのだろう。攻撃力は1なので、育てるにも場所を選ぶ気がする。


 銃器パーツはどうやらつけたが最後外せなくなるらしい。スピリームスパロウにつけたら外せなくなってしょんぼりした。


 グレネード弾を発射できるらしいのだが、まだ弾が無いのでお預けだ。
 マグナムは弾があるが、撃てる拳銃がない。なんていうか、色々と俺を焦らしやがる。


 通常弾Lv1しか撃てないスピリームスパロウは実用できるのだろうか。
 まあ、ひとまずは育ててから判断するしかない。


 今さら第一の街に来る価値ははっきり言うと少ない。と思っていたのだが。
 だが、クエスト一覧を見ていて気になるモノを見つけてしまった。


『特殊ステージ解放クエスト 地下水路の魔方陣』


 特殊ステージ解放クエストとは、いわゆる第二の街、第三の街の解放戦のようなモノなのかなと予想してみる。


 『特殊ステージ解放クエスト』というのがクエスト一覧に載っているので、間違いない。
 地下水路の魔法陣という謎の表現。


 詳しい内容は依頼相手から聞けるようだ。
 依頼主はいつぞやのギルドの前に陣取っている半裸でムキムキのおっちゃんだ。


「突然、この街の地下に封印されていた魔方陣が見つかったのだ。我々も調査しているが、一向に手がかりがつかめない。君なら、何か見つかるかもしれない……そこで、君に調査を任せたい。依頼を受けてくれないか?」


 昨日新たなクエストが解放されたとも言っていた。他にも条件があるのかもしれないが、受けられるのだからいいじゃないかという気分だ。


「ああ」


「鍵が必要なんだが、後で俺が開けておくからな。よし、行ってこい!」


 場所は、街の地下水路。ここに入るには特殊なアイテムが必要らしい。
 俺は地図を頼りにふらふら移動する。


 場所は、東地区側の橋の下だ。
 ああ、以前に見つけたあの扉か。


 ……移動。
 東地区側の土手に下りると、相変わらず水切りしている幼女を西地区側で見つけた。こちらには気づいていないようだ。


 上半身裸のまま、だが背中に二本の剣をつけたおっちゃんが扉の前に突っ立っている。


「いよっし、鍵は開けたぞ! 探索に向かおうではないか!」


『パーティーを作ってください』


「……あんたも来るのかよ」


 俺はパーティーを作成し、おっちゃんを誘う。NPCの参加なのだが、いいのだろうか。
 いや、解放クエストとはこういう意味なのではないだろうか。


 NPCが参加する数少ない限定のクエストだよ。
 おっちゃんのレベルはパーティーに入ると、HPゲージにレベルも表示されるようになる。


 プレイヤーではありえないが、簡単な職業も見れる。


 レベルは34で職業は裸身騎士。防具の数が少ないほどに様々な能力があがるスキルを取得できる。完全なネタ職業でパーティーの盾役だ。一応防具をつけられなくても戦闘を行える程度にスキルが充実しているが、それでもやはり他の盾職を比べると弱い職だ。


 おっちゃん……。
 不憫すぎるおっちゃんに涙しそうだ。


「さあ、中に入るぞ!」


「……ああ」


 死体は放置するからな。死んでも知らないからな。
 中は暗いが所々に明かりがあり、前が見える程度ではある。


 道はそれほど広くはないが、戦闘に困るほどではない。俺の場合クリティカルアッパーの使用が制限されるくらいだ。


 足場には水があるのか、歩くたびにぴちゃぴちゃとうるさい。
 すると、目の前に霧のようなものが現れ、大量のネズミが沸く。


 うじゃうじゃとゴキブリのように沸いてきやがる。約10体。


 すぐに屠れるので狩るのに苦労はないが。面倒だ。


「『かかってこい!』」


 挑発系スキルを発動させたのかおっちゃんの方へすべてのネズミが押し寄せる。
 俺は背後から一体ずつ排除していく。幸いにも2~3回の攻撃で死んでくれる。


 剣を大きく振り二体を纏めて斬ったりしているが効率が悪い。
 10体を倒すには結構な回数剣をふりまわす必要がある。うっかりおっちゃんに当たっても、パーティーにはダメージがない。とはいえ、怯んだりはするので俺が斬るたびにおっちゃんが「ぐっ」と呻く。


 敵の平均レベルは37。俺よりも強いが、おっちゃんが攻撃を引き受けてくれるので問題ない。
 とはいえ頼りすぎないようにしたほうがいいな。


 敵の強さから判定するに、まだ俺が受けるには早いかもしれない。出来なければやめればいいだけなのだ、今は突き進む。


 敵を倒しながら、奥へと歩いていく。


 おっちゃんは戦闘が終わるたびにポーションを使い自動で回復している。
 財布を圧迫する職業だな。


「よし、先に進むぞ!」


 あと、定期的にこの台詞を吐くのだ。そんなに俺の進むスピードが遅いだろうか。
 曲がったり、まっすぐ行ったり。似たような地形なので、感覚が麻痺しそうになる。


 しっかり地図を確認しながら、先に進んでいくと☆マークがついた大広間を見つける。
 ……嫌な予感しかない。


 大広間に入る前に外から魔方陣が見えた。
 目的地、だろう。だけど、絶対に何かが起こる。


 俺は気を引き締めながら一歩を踏み込む。
 すると、とたんにおっちゃんが魔方陣に向かって走り出す。


「おお! 魔方陣みっけ」


 黒く染まった魔方陣の上に乗り、手を当て調査をする。
 すると、途端に大広間に大量の魔物が沸く。ネズミ、スライム、サカナなど。


 サカナは初めて見たな。空中に浮いており、水中で泳ぐように優雅に動いている。呼吸大丈夫なのか?
 おっちゃんは途端にあせったように顔に汗を浮かべ、


「ぐ、くそぅ罠か! オレが魔方陣を抑える! お前は周りの雑魚を倒してくれ!」


 おっちゃんががんばっと拳を固める。


「どう考えても、逆だろ……」


 挑発系スキルをとっていないので、おっちゃんを守りながら敵を殲滅するのは難しいぞ。
 魔方陣の抑え方は知らないが、役割分担に失敗した気分だ。


 眼前に画面が表示される。


『10分間魔物の攻撃を防ぎきるか、500体の魔物を討伐した瞬間に終了します』


 スピードの速さはフレイムネズミ、アクアフィッシュ、スライムの順番。
 ネズミを剣でさばき、おっちゃんに噛み付こうとしたのを蹴り飛ばす。


 俺を標的にしたのを左手でさばき、剣で斬る。一方向だけを相手にしている余裕はない。
 前方向を全力で切りつけ、すぐにステップでおっちゃんに近い魔物のほうへ移動する。


 アクアフィッシュだ。体当たりを食らわせようとしていたので、横にずれ斜めに斬りつける。
 背後に気配を感じ、後ろ回し蹴りで撃退。


 これ、一人で受けるクエストじゃねぇだろっ。
 敵の数が爆発的に増加し、捌くのが厳しくなる。


 俺一人なら負けることはない。
 だが、おっちゃんが……。


「あぐぅ! いってぇ! などうっ! ほい、ぶべぇ!」


 確実に体力を削られている。
 魔法陣は後でいいだろ。敵を撃退してからでゆっくり調査してくれよ。


 ガンエッジを発動し、回転するように全体を斬りつける。
 敵の殲滅力にも問題があるのかもしれない。


 俺は範囲攻撃を持ったスキルを持っていない。
 剣だって、全体を攻撃、または複数を攻撃するスキルはある。


 俺の場合は二体までなら剣を大振りに振るうことで対処してきたし、それで困ったことは無かった。
 だが、全方向から敵が襲い掛かってくるこのエリアではどう考えてもそれだけでは無茶があった。


 おっちゃんを庇おうと戦えば、俺がダメージを受けてしまう。
 俺が無傷になれば、おっちゃんが悲鳴の嵐。


 ……こりゃあ、無理っぽいな。
 俺はおっちゃんを無視してサードジャンプを発動。


 真下にいるおっちゃんを中心に拳銃で撃ち続けるが、もちろん倒しきれるわけもなく。


「ぬぐ、ぐおおおおおおお!」


 おっちゃんが盛大な叫びと共にぶっ倒れて、その姿を消し――。


『クエストに失敗しました。ダンジョンの入り口に戻ります』


 そのメッセージと共に俺も飛ばされる。
 橋の下のダンジョンの入り口でおっちゃんが頭を押さえている。


「はっ! 夢か!」


 夢落ちにしやがった。
 再度挑む様子だったが、俺は一度考える。


 現段階では、守りながら戦うのは無理だ。
 手段としては二つ。パーティーメンバーを増やすか、戦い方を変えるか。


 パーティーについても少し考えた。呼べる人間は、葵、フライ、ミリフィくらいなんだが。
 瑞希たちは絶対に誘いたくない。誰か一人を呼び出すとしても、絶対に全員がもれなくついてくる。


 そうなると、戦い方を変える必要があるか。
 どうすっかねぇ。

「Unlucky!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く