Unlucky!
第三十一話 ブラッディクロウ
嫉妬というか、口に出さないで手を出してしまう人間は、喋るのが苦手とか、正直な気持ちを吐き出すのが苦手とか色々あるだろう。
それでも、暴力に任せるのはよくない。相手が俺のように回避したり出来るのならいいと思うが……フライは奇妙な格好で寝そべってしまっている。
とはいえ、暴力的なミリフィに俺は若干引く。それと同じくらい鈍感なフライにも引いてるのだが。
そりゃあ、あそこまで露骨なのに、気づかないフライも悪い。怒って手を出すミリフィも悪いが。
フライが地面でのびたのを確認してから、ミリフィの肩に手を置く。
「ひっ!」
ミリフィが小さな悲鳴をあげた。ちょっぴり傷ついたぞ。
「一つアドバイス。気持ちに気づいてほしいのは分かるけど、力に頼らないほうがいいぜ? より勘違いするぜ。鈍感なヤツには正面から告白したほうがいいぞ」
「……な、なに言ってるんですか? なんのことかさぁーっぱり」
とぼけたように目がきょろきょろと虚空をさまよっている。
分かりやすいヤツらだな、二人とも。からかってくださいと言ってるようなモノだぞ。
「見てりゃ分かる。フライもまんざらでもなさそうだし、可能性はあると思うぜ」
「……。あなたって、何歳ですか?」
「17歳だ」
「……同じだったんですか」
「驚きだな。もっと若いと思った」
「私から言わせてもらうなら、あなたがもっと歳いってると思いました」
「……そんなにふけて見えるか」
自分の言ってることに気づいたのか。ミリフィは慌てたように両手をばたばたと振る。
遅いぞ、俺のハートはバキバキ音をあげて崩れ散ったぞ。
「違います。なんか、精神年齢がかなり高い……みたいな?」
「よく言われる」
あまり、フォローにはなっていない気がするな。
よく、冷めた人間だと言われる。精神年齢が高いというのはあながち間違ってもいないのかもしれない。
「ちょっと静かにしてくれ」
どうにも、足音がする。
音から恐らく一人だが、敵なのかプレイヤーなのかは分からない。
ミリフィも気づき、耳を済ませる。
「……人、ですかね?」
「恐らくな」
フライとヒメは何が起こっているのかわからないのか、首をかしげてやがる。バカではあるが、静かにしているので何も言わない。
「一応武器を構えろ。もしも敵なら、俺が相手する」
緊張した面持ちではあるが頷かれたが分かってから、洞穴へ意識を向ける。
「……ここは、どこなんだよ! クソがっ!」
出てきたのはプレイヤーだ。いきり立っているが、敵ではない。
顔がだいぶ弄られているので、年齢は分からないが、年上な気がするな。
かなりのイケメン――おまけに高身長で作られているが、体全身を弄っているのはすぐに分かった。
好き勝手に変え、理想の自分を作るのがVRのいいところではあるのだが、あまりにも弄りすぎるのもどうなのだろうかと考えたくなるほどに違和感がある。
「あ? なんだ、テメーら」
相手もこちらに気づいたようだ。
怒り顔のままではあるが、こちらに近づく。
「ガキ4人が仲良くゲームかぁ? 仲良しごっこかよ」
「一人寂しくゲームやってるからって、嫉妬はやめてくれよ。俺は男の嫉妬なんざ見たくねえ。吐き気がするぜ」
「あぁ? 調子にのってんじゃねーぞ、ガキ! どうせ、ネットでしか威張り散らせないような中坊がっ!」
「そっくりそのままお返しするよ」
「うるせぇぞ!」
身勝手な怒りを振りまき、近くの突起物を蹴り飛ばす。激しい音と共に崩れ落ちるつららのような物体。沸点ひけぇな、コイツ。
力を見せて相手を従えるのはよく使われる業だな。
へっ、と顔をいかつく歪ませ近づけてくる。
砕けた音が……でかすぎるな。まるで、自分たちの居場所を知らせるように響いた。
俺以外の3人が男の剣幕にのまれ、怯えてしまっている。
ガキ大将にでもなった気分を味わっているのか、男は楽しそうに口元を歪めている。
「他人を怯えさせて楽しんでるところ、悪いが……」
「あぁん?」
「後ろ、来てるぞ」
「はぁ?」
目の赤いコウモリのような魔物が三体こちらへ向かってくる。
ターゲットはうるさい音を出した男だ。
たぶん、突起物の破壊によりヘイトとやらが溜まっているのだ。
「3人、こっち来い!」
俺たちが通ってきた洞穴の前に立ち、手招きする。
なぜ、ここがこれだけ広い空間なのか。なぜ壁に明かりがあるのか。
……どう考えたって、ここで戦闘を行うという証明――強敵が出るに決まってる。
「くそ、ジャマだ!」
バカな男は斧を振り回すが、回避される。
コウモリに噛み付かれ、ひるむ男。その隙に俺以外の人間は洞穴に入り、たいまつを消す。
……きやがったな。
広間に地響きがなり、何かが降ってくる。
「う、わぁあああ!?」
斧男が悲鳴をあげるのもムリはない。
二足歩行で、たぶん、人間をモデルに作っているのだろう。
だが、体には何も纏っていない。右腕の先には鋭い爪があり、目は黄色く皮膚は真っ赤だ。
化け物……それもグロテスクな方向に。
注視しているとレベルと名前が分かる。
Lv31 ブラッディクロウ
俺とのレベル差がある敵だ。HPバーを見る限り、ボス以上普通の魔物程度の長さだ。
ボス、ではないのかもしれない。
それでも、かなり強いだろうな。
「た、助けてくれー!」
俺たちが逃げた方向に這いずって来るが、その前に化け物の爪に背中を串刺しにされる。
まだHPは削りきられていないが、ぐいぐいと減っていく。
こちらに助けを求めるように、腕を伸ばしてくる姿を見て俺はハンドガンをホルスターから取り出す。
「助けるの!?」
ヒメが意外そうな声をあげる。酷いヤツだ。まあ、普段の俺の行動を見ていれば、こんなことするわけないもんな。
もちろん、俺だって人並みの優しさを持っているからな。
「あの男にトドメをさせば俺に経験値入らないかなーと思ってな」
『……』
「なにやら冷たい視線を感じるな。気のせいか」
6つの目が俺に向いている。
「ソラソラさんって、なんか色々ぶっ飛んでますね」
フライが真剣に怯えた様子で言ってくる。俺が悪者みたいじゃないか。
「ぶおぅぅぅぅぅ!!」
男を倒し、歓喜の雄たけびを上げている。
俺たちにはまだ気づいていないようなので、洞穴の奥に入っていく。
「もう、イヤッ! 明かりつけていい……?」
暗闇がダメなヒメはすでに涙目だ。
「俺たちと別行動してくれよ」
「アカバネ家の人間なんだから私の言うこともっと聞いてよ!」
「他人の前でリアルの名前を言うのはやめてくれよ」
別にいいのだが。ばれたとしてもこの二人なら悪い事には巻き込まれないだろう。
ある意味で純粋そうだからな。
プレイヤー名ではない名前がでて、ミリフィが気づいたようだ。
「二人もリアルで知り合いなんですか?」
ちなみにフライは「名前違くない?」と首を捻っている。バカだ。
「いや、俺の幼馴染が知り合いなんだ。そんで、なんだかんだでこうなってしまった」
俺はやれやれと頭を押さえて首を振る。
あはは……と渇いた笑いで答えるミリフィ。フライは「あ、だから違う名前が出たんだ」。理解が遅すぎる。
「私を邪魔者みたいに言うなっ」
「邪魔者だからな」
「ガルルッ!」
両手の爪を構え、歯を見せて飛び掛ってくる。
噛み付いてこようとしたヒメを押し返し、俺はため息をつく。
「……今度はバケモノ退治か」
同時に笑みを浮かべてしまう。暗闇だから、他のヤツらにははっきりとは見ていないだろう。
全長2mほどの裸体の男。男の腕には50cmほどの爪がついている。
あれを討伐するのは厳しいだろうな。だからこそ、燃え上がるのだ。
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