Unlucky!

木嶋隆太

第二十七話 決闘



 振り切って逃げるのもいいが、楽しそうなことが起こりそうだと俺のアンテナが伸びる。


「その子はオレたちと一緒に狩りに行くんだよ」


 彼らの中ではすでに決定事項のようだ。
 ヒメを見ると、そんな約束していないと物凄い勢いで首を左右に振っている。


「人の女に手を出すなよ。これから、こいつは俺との子作りに忙しいんだよ」


「こ、こどぅっ!?」


 言葉につまったヒメは、そのまま咳き込んでしまう。
 このまま黙っててもらおう。


「その子はもう、おれたちのモノだ。これ以上文句を言うなら、おれたちのギルドにPKされても文句言えないぜ」


 金髪の男が脅すように笑うが、全く怖くはない。むしろ噴出しそうだった。


「自分たちだけじゃ何もできねえのか? 一人じゃ怖いから二人でつるんで、ナンパして、二人でも怖いからギルドに入ったと。臆病すぎるぜ」


「なんだと……っ」


 煽られるのは慣れていないようだ。


 二人はカッと顔を赤くし、それぞれの武器に手を伸ばす。そんなモノ脅しにもならない。
 街で戦闘をするには、ゲームシステムの『決闘』を使う必要がある。武器なんて街の中ではおもちゃ同然だ。


「ちょ、ちょっと。変に挑発して大丈夫っ?」


 ヒメは俺の外での評価を知っているだけあって、この事態を終息させる力が俺にはないと分かっているようだ。
 だから、安心するように微笑みかけてやる。


「いざとなったら、お前をあいつらに渡せばいいんだろ?」


「ダメ! お、お願いだから助けてよっ!」


 すがりついてくるヒメに別に見捨てねえからと心の中で答える。
 口にはしない。ちょっと怖がってもらおうか。面白いし。


「おいおい、お姫様が泣き出しそうだな」


 金髪男が剣を構えて口元を歪める。


「ちびりそうなんだよ。これからトイレに案内しなくちゃだからな、んじゃっ」


 ヒメが「誰も頼んでないっ!」と叫ぶが無視する。
 茶髪男が背中に装備していた弓を右手に持ちながらウィンドウを表示する。


「『決闘』だ。まさか、逃げねえよな?」


 分かりやすい挑発だ。


「二対一か? 本当にチキンだなお前ら」


「二対二だ。そっちの女も入れろ。負けたら女は借りていくぜ」


 もはや意味が分からない。あいつらにとっての勝利品であるはずのヒメまで戦わせるのか。


 この事態に、街にいたプレイヤーたちが楽しそうに俺たちを遠巻きに眺めている。
 とはいえ、全員ゲーム内だからかどこか楽しんでいる。イベントか何かと勘違いしているみたいな。


「どうする。俺とお前で戦うか?」


「なんで、私が……いやっ」


「だろうな。俺も足手まといは必要なかったんだよ」


「むかっ!」


 口で言うな。はっきり言うとかなりだるい。それにヒメのようなお嬢様の目の前で全力を出すのはあまりやりたくない。
 それでも、助けてしまったのだから。乗りかかった船だ。


「こっちは俺一人でいい」


「はっ、負けたときの言い訳ってことか」


 金髪男があざ笑うように口を曲げる。
 俺は拳銃を抜いて、指でくるくると回す。


「俺一人で倒したほうがお前らの心を傷つけるだろ?」


「……ムカつく野郎だ」


 『我フィナーレさんから決闘の申し込みを受けました。相手パーティーは二人です。受けますか?』


 YESを選択すると、HPゲージが表示される。変なプレイヤーネームだな。


「ここではじめるのか?」


「当たり前だ!」


 開始と同時に矢を放ってくる。


 矢の軌道を既に見切っていた俺はトリプルショットで矢を落とす。
 残った二発の銃弾が茶髪男に当たり、僅かに顔をしかめる。


 接近してきた金髪男の剣が光る。スキルの発動だ。


「フレイムスラッシュ!」


 炎を纏った剣が上段から振るわれるがあまりにも隙が大きい。
 横に体をずらし、がら空きの胸に膝蹴りを入れてから茶髪男へ駆け出す。


 矢を装填しようとしていたが、俺の接近を見て茶髪男は右手に持った矢を剣のように振るう。
 腕をはたくようにして、攻撃を逸らしそのまま投げる。ガンエッジを発動。


「がっ!?」


 背中から落ちた茶髪男が痛みに悶えている間に、喉へガンエッジを突き刺す。
 HPが一気に減り、残り僅かになったところで、回し蹴りをかます。男は粒子となって消える、呆気ないな。


「くそっ!」


 叫びながら男が加速する。距離を詰めるようなスキルだろうか。
 俺との間隔が一気に狭まり、金髪男が剣を振るう。


 剣自体には何のスキルも発動しているようには見えない。
 片手で白刃取りする。


「なっ!」


「どうした? この程度か?」


 膝蹴りを顎にかまし、よろけた相手の頭を掴み壁に叩きつける。血が出ないのが残念で仕方ない。数回叩きつける。


 それでもまだ倒せなかったので、足払い。


 倒れた相手の頭に全体重をかけるようにかかと落としを放つと消えた。
 二つの死体があった場所には剣と篭手が落ちている。決闘においても、一応はプレイヤーキルと同列のようだ。


 俺に経験値も入り、装備のドロップもしている。経験値はかなり高い。これからはプレイヤーキラーとなろうかと思いたくなるほどだ。


 戦闘は終了した。
 呆気なさすぎる。早く終わりすぎたからか、周りの人間は誰も声を出さない。


「……ふえ?」


 間抜けな顔で声を漏らしたヒメ。周りを見るとさっきよりもさらに野次馬が集まっている。面倒なことになる前にさっさとずらかろう。


 とはいえ、ここから逃げるだけでも苦労しそうだな。一つ騒動でも起こしてやったほうがいいか。
 二つの死体から装備を手に取り、


「それじゃ、観客の皆さん。この篭手と剣投げるんで最初に取った人にあげます」


 俺はウェディングブーケを投げるような気分で、二つのアイテムを闇に覆われた空へ放る。
 観客たちは唖然としながらも、すぐに動き出しアイテムの落下地点を予測して移動を始める。


 今のうちに逃げよう。手についた汚れを落とすように数回叩きながら、ヒメの元へ戻る。


「アイテムー!」


「バカ! テメェはこっちだ!」


 下手な詮索をされないように囮として投げたアイテムに釣られたバカを引っ張る。
 群がる人たちをうまく利用して現場からの避難に成功する。


 近くの宿で、部屋は借りずに建物内部で止まる。


「じゃあな。もう面倒事を起こすなよ。起こしてもいいが、俺に関わらない範囲でな」


 片手をあげ、部屋を借りようと受付に向かおうとするが、腕をつかまれる。


「なんだ、まだ何か用でもあるのか。それとも一人じゃ宿も借りられない世間知らずなのか?」


「家買えばいいじゃない!」


 何がいいたいのだろうか。宿を借りられないなら、家を買えばいいじゃないみたいなそんな感じか?


「……」


「ちょっと待って。二人部屋借りて」


「……お前男と一緒の部屋で寝るのか」


 俺の言っている意味が一瞬分からずきょとんとする。
 だが、遅い思考がようやく答えを導き出し、顔を赤く染め上げる。


「違うーっ。ちょっと話したいことがあるの」


「ここで話せよ」


「立ってるの疲れたぁ」


「床に座れ」


「汚い。私、潔癖症なの」


「のわりに頭に埃ついてるぞ」


「え? ま、でもいいや。とにかく二人部屋っ!」


 ワケが分からないが、こいつの知能レベルは低い。ひとまず、説得するにもこいつはアホだ。
 分かりやすく説明するにも今は言うことを聞いておくか。


 説得するならどうにでもできそうだしな。


 それに、こいつをからかうのは面白い。
 しばらくおもちゃとして楽しませてもらうか。



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