Unlucky!
第十七話 ウルフの森
北門を出てお試しの草原を北東の方角へ歩いていく。
まだ太陽が昇っていないからか、出現するモンスターが少し違う。
コウモリのような魔物。
夜の戦闘はたいまつなどの明かりを使用しなければ攻撃は難しいとされているが、わざわざ敵が攻撃するときに叫ぶのだから、声のありかを探って攻撃すればどうってことはなかった。
何の問題もない。
あるとすれば隣にいるこいつだ。
「なんていうか戦闘に参加しないで見ているのはラクですねー」
「テメェもちったぁ戦えよ」
「いいじゃんいいじゃん」
葵は気持ちよさそうに笑い、それから指差す。
目的のダンジョンにつき、さっさと用事を済ませようとした俺の動きを止める。
「行かないのか」
「まず先に生産スキルを取得しろ。ほら、早く」
せかすように言われたが、さすがに待ったをかける。
「理由を説明しろ」
さすがにスキルポイントを使うような内容だ。
すんなり首を縦にふるわけにもいかない。
「あるダンジョンに入るのに必要だから。これでいい?」
「そのダンジョンは、なんだよ」
「どうせ後で説明することになりますから、今はいいでしょう?」
「聞きたい年頃なんだよ」
「九万」
切れ味抜群の一撃だ。
「くそ、ったく、ついてねえ……」
俺は前から考えていた弾薬師のスキルを取得する。
なんだかんだで鍛冶のほうは葵を頼ろうと考えていたからだ。
俺たちの目的はウルフの森というダンジョンだ。
名前の通りウルフが大量に沸くエリアだが、ここの狩り場はあまり人気がない。
ウルフはすばしっこい上に、森というフィールドのせいで戦いにくいからだ。
夜では違う魔物が出現するが、それでも人は少ない。
ゴブリン基地から東に進んだ辺りに位置するダンジョンだ。道のようなモノがあるが、基本的に森ということもあり木が多い。
戦闘に不自由しない程度ではあるが、視界が悪い。だが、夜も合わさると相当戦いにくくなるだろう。
俺たちは入ってすぐの石碑の前に来ていた。
『六』という数字が刻まれた石碑の前には白い珠が置かれている。
神々しいまでに輝いており、白い珠付近は昼間のように明るい。
石碑は全部で四つあり、これから全部を回るらしい。
理由は教えてくれないんだがな。
「これはなんだ。大福か」
「食べてみればいいんじゃないですか? 歯が砕け散ることを祈ります。なぜ構えている」
「お前にぶつけようと思って」
「いいから、無駄なことしないでください。耳の周りを飛ぶ蚊のようにうざい」
「……」
それはうざい。
白い珠を置こうと思ったが、既に石碑の前には新しいのが置かれている。
再生したようだ。
「どうやら、野球でもしろってことだな」
野球といいながらリフティングで遊ぶことにした。
「一人でやっててください。……と、誰か来ました」
葵がいち早く察知し、俺も耳を済ませる。
足音が1……3つか。
距離的にも、すぐ出くわす。ここではPKも可能だ。負ける気はしないが。むしろかかってこいという気分だ。
現れてくると思われる方角に顔を向けていると、すぐにそちら側から現れた。
「うぉ!? 誰だ!」
暗くていまいち顔が見えないので、手元にある白い珠を眼前にあげる。
すると、辺りが明るくなり、相手の顔が見える。野性的な男の人だ。がっはっはっと笑いそうな雰囲気がある。
「ぷにゃんさんじゃないですか!」
「あ、お久しぶりです」
知り合いだろうか。ガタイのいい男がこちらに寄ってくる。頭の上では犬耳がひこひこ揺れている。結構いい年なのに、それはちょっと見せられるこっちの身にもなってくれ。
獣人なのだろう。
葵が犬耳なら可愛かったかもしれ……もぎたくなるな。
「一人で来たんですか?」
俺が見えないのか、盲目おやじ。
「いえいえ、この方と一緒にいたんですよ」
仮面を被った葵が丁寧な口調と愛想笑いで対応している。その一面だけは、モデルでもやっていけるんじゃないかというほどに綺麗だ。
相手は三人パーティーで全員男なのだが、うち一人が、
「……」
頬を紅潮させて、アホ面で葵の動きを目で追っている。同じくらいの年代か。一目ぼれ――見事に騙されたな。
つーか、おい。
やめろ、自己紹介とか面倒なんだが。葵が三人に見えない位置から不敵な笑みをぶつけてくる。
のけぞりたい衝動をぐっと押さえ、俺は出来うる限りの微笑を浮かべる。
「こんばんは」
それだけ言うと、全員の表情が凍りついた。
どうした。氷魔法を使う魔物でもいたか。
「あ、ああ。頑張ってくれ」
相手のパーティーリーダーの男が引きつりながら石碑に手を伸ばし、白い珠を掴みあげる。
「明かりの効果が切れたんですか?」
すかさず葵が質問を入れる。
もういいよ、放っておいて先に進もうぜ。
俺の視線はがん無視だ。
「いや、まだあるんだがこの森の近くに来たからな。この前装備を新調してポイントもあまりなかったから節約ってところですね」
「そうですか。頑張ってくださいね」
ほんと、お前誰だよ。俺は鳥肌がたちすぎて、鋭くなってるぞ。このままハリネズミになりそうだぞ。
「こいつ、ギルドの新入りでさ。今度装備作ってもらうと思うから、そのときはよろしくお願いします」
リーダーの男が、先ほど葵に見とれていた男に肩を組んでいる。
「いつもいつもありがとうございます」
ぺこりと綺麗にお辞儀をして、満面の笑顔で、
「頑張ってくださいね」
囁くように言う。
そんなモノを喰らった男の子はひとたまりもない。頬の僅かな赤みが顔全体に周り、なるべく葵を見ないようにあちこちに視点を飛ばす。
「は、ははははい! が、ががんまります!」
はっはっはー、噛みまくってるな。恐らく女子に免疫がないのだろう。
ゲームとはいえ正面から美少女に満面の笑顔を向けられりゃあ仕方ないか。
からかいたい気分ではあったが。足を止めるような会話を振るのも面倒だった。
その三人パーティーは明かりの代わりとなる白い珠を取って、街の方角へ移動した。
「白い珠を取りにわざわざきたのか、あいつら」
「ええ、そうでしょうね。ただで手に入る明かり系アイテムで、街などに入るまで使用できますから」
「街に入ったらどうなるんだ?」
「自動で消滅します」
葵から簡単にこの白い珠の人気を説明される。
夜は明かりを生み出すアイテムが必要で、街でも買える。明かりがないと普通の人間では攻撃を当てにくいからな。
明かり系のアイテムは一つ300ポイントと地味に財布を圧迫する。
「ナイス笑顔。面倒な会話をすべてシャットアウトする般若も涙目の最高スマイルですね」
笑顔? ああ、だから俺が挨拶したときに、あいつら顔が凍りついてたのか。
俺もふんっと笑いながら、
「お前こそ、高級な仮面を被ってるな。ああやって、客を増やしているのか」
「素直な気持ちですよ」
「白々しいヤツだぜ」
「これからは、周りの警戒を怠らないで」
「怠った覚えはないんだがな」
それから葵が石碑に手を伸ばす。
「って……なにしてる」
石碑に触れる前にこちらにいぶかしんだ目を向ける。
なんだよ、せっかく守ってやってるのに。
「ウルフが襲ってきたからな。腕を逆方向に曲げて遊んでいる」
昼に戦っているウルフとは少し違う。所々骨が見え隠れしている。噛み付こうと口をあけてきたので、肘鉄を頭に入れて倒す。
比較的死体には見慣れている俺にはどうってことないのだが、普通の人は嫌悪するのではないだろうか。
「それはゾンビウルフ。普通のウルフよりも強いから気をつけてください、ゾンビ」
「人をゾンビにするな。いまいち、やることも分からねえから俺はレベル上げしてるぜ。テメェに負けてるのは気にくわねえからな」
「なら、私は寄生してますね」
「パーティー解除しろ」
結局葵が解除するわけもなかった。
まだ太陽が昇っていないからか、出現するモンスターが少し違う。
コウモリのような魔物。
夜の戦闘はたいまつなどの明かりを使用しなければ攻撃は難しいとされているが、わざわざ敵が攻撃するときに叫ぶのだから、声のありかを探って攻撃すればどうってことはなかった。
何の問題もない。
あるとすれば隣にいるこいつだ。
「なんていうか戦闘に参加しないで見ているのはラクですねー」
「テメェもちったぁ戦えよ」
「いいじゃんいいじゃん」
葵は気持ちよさそうに笑い、それから指差す。
目的のダンジョンにつき、さっさと用事を済ませようとした俺の動きを止める。
「行かないのか」
「まず先に生産スキルを取得しろ。ほら、早く」
せかすように言われたが、さすがに待ったをかける。
「理由を説明しろ」
さすがにスキルポイントを使うような内容だ。
すんなり首を縦にふるわけにもいかない。
「あるダンジョンに入るのに必要だから。これでいい?」
「そのダンジョンは、なんだよ」
「どうせ後で説明することになりますから、今はいいでしょう?」
「聞きたい年頃なんだよ」
「九万」
切れ味抜群の一撃だ。
「くそ、ったく、ついてねえ……」
俺は前から考えていた弾薬師のスキルを取得する。
なんだかんだで鍛冶のほうは葵を頼ろうと考えていたからだ。
俺たちの目的はウルフの森というダンジョンだ。
名前の通りウルフが大量に沸くエリアだが、ここの狩り場はあまり人気がない。
ウルフはすばしっこい上に、森というフィールドのせいで戦いにくいからだ。
夜では違う魔物が出現するが、それでも人は少ない。
ゴブリン基地から東に進んだ辺りに位置するダンジョンだ。道のようなモノがあるが、基本的に森ということもあり木が多い。
戦闘に不自由しない程度ではあるが、視界が悪い。だが、夜も合わさると相当戦いにくくなるだろう。
俺たちは入ってすぐの石碑の前に来ていた。
『六』という数字が刻まれた石碑の前には白い珠が置かれている。
神々しいまでに輝いており、白い珠付近は昼間のように明るい。
石碑は全部で四つあり、これから全部を回るらしい。
理由は教えてくれないんだがな。
「これはなんだ。大福か」
「食べてみればいいんじゃないですか? 歯が砕け散ることを祈ります。なぜ構えている」
「お前にぶつけようと思って」
「いいから、無駄なことしないでください。耳の周りを飛ぶ蚊のようにうざい」
「……」
それはうざい。
白い珠を置こうと思ったが、既に石碑の前には新しいのが置かれている。
再生したようだ。
「どうやら、野球でもしろってことだな」
野球といいながらリフティングで遊ぶことにした。
「一人でやっててください。……と、誰か来ました」
葵がいち早く察知し、俺も耳を済ませる。
足音が1……3つか。
距離的にも、すぐ出くわす。ここではPKも可能だ。負ける気はしないが。むしろかかってこいという気分だ。
現れてくると思われる方角に顔を向けていると、すぐにそちら側から現れた。
「うぉ!? 誰だ!」
暗くていまいち顔が見えないので、手元にある白い珠を眼前にあげる。
すると、辺りが明るくなり、相手の顔が見える。野性的な男の人だ。がっはっはっと笑いそうな雰囲気がある。
「ぷにゃんさんじゃないですか!」
「あ、お久しぶりです」
知り合いだろうか。ガタイのいい男がこちらに寄ってくる。頭の上では犬耳がひこひこ揺れている。結構いい年なのに、それはちょっと見せられるこっちの身にもなってくれ。
獣人なのだろう。
葵が犬耳なら可愛かったかもしれ……もぎたくなるな。
「一人で来たんですか?」
俺が見えないのか、盲目おやじ。
「いえいえ、この方と一緒にいたんですよ」
仮面を被った葵が丁寧な口調と愛想笑いで対応している。その一面だけは、モデルでもやっていけるんじゃないかというほどに綺麗だ。
相手は三人パーティーで全員男なのだが、うち一人が、
「……」
頬を紅潮させて、アホ面で葵の動きを目で追っている。同じくらいの年代か。一目ぼれ――見事に騙されたな。
つーか、おい。
やめろ、自己紹介とか面倒なんだが。葵が三人に見えない位置から不敵な笑みをぶつけてくる。
のけぞりたい衝動をぐっと押さえ、俺は出来うる限りの微笑を浮かべる。
「こんばんは」
それだけ言うと、全員の表情が凍りついた。
どうした。氷魔法を使う魔物でもいたか。
「あ、ああ。頑張ってくれ」
相手のパーティーリーダーの男が引きつりながら石碑に手を伸ばし、白い珠を掴みあげる。
「明かりの効果が切れたんですか?」
すかさず葵が質問を入れる。
もういいよ、放っておいて先に進もうぜ。
俺の視線はがん無視だ。
「いや、まだあるんだがこの森の近くに来たからな。この前装備を新調してポイントもあまりなかったから節約ってところですね」
「そうですか。頑張ってくださいね」
ほんと、お前誰だよ。俺は鳥肌がたちすぎて、鋭くなってるぞ。このままハリネズミになりそうだぞ。
「こいつ、ギルドの新入りでさ。今度装備作ってもらうと思うから、そのときはよろしくお願いします」
リーダーの男が、先ほど葵に見とれていた男に肩を組んでいる。
「いつもいつもありがとうございます」
ぺこりと綺麗にお辞儀をして、満面の笑顔で、
「頑張ってくださいね」
囁くように言う。
そんなモノを喰らった男の子はひとたまりもない。頬の僅かな赤みが顔全体に周り、なるべく葵を見ないようにあちこちに視点を飛ばす。
「は、ははははい! が、ががんまります!」
はっはっはー、噛みまくってるな。恐らく女子に免疫がないのだろう。
ゲームとはいえ正面から美少女に満面の笑顔を向けられりゃあ仕方ないか。
からかいたい気分ではあったが。足を止めるような会話を振るのも面倒だった。
その三人パーティーは明かりの代わりとなる白い珠を取って、街の方角へ移動した。
「白い珠を取りにわざわざきたのか、あいつら」
「ええ、そうでしょうね。ただで手に入る明かり系アイテムで、街などに入るまで使用できますから」
「街に入ったらどうなるんだ?」
「自動で消滅します」
葵から簡単にこの白い珠の人気を説明される。
夜は明かりを生み出すアイテムが必要で、街でも買える。明かりがないと普通の人間では攻撃を当てにくいからな。
明かり系のアイテムは一つ300ポイントと地味に財布を圧迫する。
「ナイス笑顔。面倒な会話をすべてシャットアウトする般若も涙目の最高スマイルですね」
笑顔? ああ、だから俺が挨拶したときに、あいつら顔が凍りついてたのか。
俺もふんっと笑いながら、
「お前こそ、高級な仮面を被ってるな。ああやって、客を増やしているのか」
「素直な気持ちですよ」
「白々しいヤツだぜ」
「これからは、周りの警戒を怠らないで」
「怠った覚えはないんだがな」
それから葵が石碑に手を伸ばす。
「って……なにしてる」
石碑に触れる前にこちらにいぶかしんだ目を向ける。
なんだよ、せっかく守ってやってるのに。
「ウルフが襲ってきたからな。腕を逆方向に曲げて遊んでいる」
昼に戦っているウルフとは少し違う。所々骨が見え隠れしている。噛み付こうと口をあけてきたので、肘鉄を頭に入れて倒す。
比較的死体には見慣れている俺にはどうってことないのだが、普通の人は嫌悪するのではないだろうか。
「それはゾンビウルフ。普通のウルフよりも強いから気をつけてください、ゾンビ」
「人をゾンビにするな。いまいち、やることも分からねえから俺はレベル上げしてるぜ。テメェに負けてるのは気にくわねえからな」
「なら、私は寄生してますね」
「パーティー解除しろ」
結局葵が解除するわけもなかった。
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