Unlucky!

木嶋隆太

第十四話 そう、彼は中二病



 やけに、でかいな。
 ドン・ゴブリンと対面した俺が一番最初に感じた体格差。


 ゴブリンと名前につく癖にでかく、強そうだ。種族をオークと間違えたんじゃないのか?
 だが、しっかりドン・ゴブリンと表示されLv10だ。俺よりも低いし、ここに来る前のゴブリンたちのほうがレベルだけなら上だ。


 右手には人間なんて真っ二つになりそうな巨大な剣に4mほどの大きな体。腕や脚は太く、俺が乗っても問題ないほどだ。


 こりゃ、銃よりも剣のほうがいいかもな。
 あの剣の攻撃を銃で受け流すのは厳しい。戦闘も始まっていないので、武器の交換はできる。


 巨体から繰り出されるなぎ払いを受ければ、パーティーメンバー全員が巻き込まれそうな恐ろしい魔物だ。
 これなら、ソロのほうがいいんじゃないか?


 まだ、戦いは始まっていないのか。各種ゲージが出ていない。


「珍しい生き物だな。魔物の癖に喋るのか」


「くははは、減らず口を叩くな。だが、その慢心どこまで続くかな」


「来いよ、鬼の親戚みたいなもんだろ? 豆ぶつけて倒してやるよ」


「殺し合いを始めようか……」


 微妙にかみあっているのは製作者の努力の賜物か。


 俺の頭目掛けて横振りをしてきたので、体を屈めて回避。気づけばHPゲージなども出現している。ボスだけあって、普通よりも大きいな。


 頭上すれすれを通ったが、当たっていないのなら問題ない。
 体を前へと弾き出し、剣を打ちつける。


 ダメージは少ない。それでも、HPゲージは減っている。
 十分だ。このぐらいハンデを与えて、ちょうどいい。 


 ドン・ゴブリンは一撃こそ破壊力抜群だが、動きは鈍重で武器を戻すのにも苦労している。
 走り抜けながら足を斬りつけ、背中側に回る。


 巨木のようなドン・ゴブリンの足を利用し、一気に駆け上がる。
 限界まであがったところで、セカンドジャンプを発動させて頭付近まで跳び、


「ちょこまかとぉっ! 蝿め」


 後頭部へ、剣を刺す。白いエフェクト、クリティカルだ。
 ドン・ゴブリンの攻撃はそれにより中断される。


 やはり人型だけあり、頭が弱点だな。


「ぐあああっ!? 痛い、いったー……」


「黙れっ。さっきからうるせぇんだよ。魔物なんだから感情豊かに喋ってんじゃねえ!」


 ドン・ゴブリンがよろめくが、攻撃とばかりに手を伸ばしてくる。剣を抜く力を利用しバク宙のように空中へ身を投げる。


 そのまま、セカンドジャンプ。実験的な試みだったが、成功したようだ。魔物の体も足場に認められているようでよかった。


 これなら魔物を足場に空中戦を展開できる。
 刺して、バク宙で戻り、ジャンプで追撃。


 四方に飛び回り、時には位置を変えながらドン・ゴブリンの周囲を蚊の如く舞う。
 いや、蚊じゃない、ハエだ。どっちもかっこ悪いな。


 どちらにせよ、よろよろとまだ不慣れさが目立つ飛び回り方でドン・ゴブリンの体力をじわじわと削り続ける。
 その調子で10分ほど。


 集中力を切らすことなく、攻撃したおかげか一度もダメージは喰らっていない。 
 逆に俺は弱点ばかりを攻撃したからか、ドン・ゴブリンの残りHPは10%程度。


 飛んでいて標的がつけにくいのだろう、おまけに何度か攻撃するとよろめく。攻撃は大振りだし、負ける要素がないな。


 このまま行けるだろ。
 作業的な戦闘もそろそろ終わるだろうと、僅かに気を抜いた瞬間。


「こざかしいわぁぁぁ!」


 ゴブリンが吼え、俺の体をびりびりと空気の層が襲う。
 な、なんだ!? 前が全く見えず、体が動かない。……やばい、な。


 これは……気絶、麻痺のどちらか、か。
 空を掴むように手を伸ばしたような状態で態勢が固定されてしまう。


 空中にいた俺は、しばらくして地面に叩きつけられる。
 同時に体を蝕んでいた悪い状態もとれるがHPゲージが減っていることに気づく。落下ダメージだ。


 背中にちくりとした痛みが広がる。


 そんなモノ無視して、相手の動きを考える。攻撃のパターンが変わった。
 空気の塊が襲ってくるような感覚が俺の意識を戦闘に戻す。


 体を赤く光らせたドン・ゴブリンが一番最初に見せた大振りを放つ。速い。


 とっさにバク転で回避しながら、剣を振り上げて腕を斬りつける。ドン・ゴブリンは俺の反撃などなかったかのように脳天めがかて振り下ろしてくる。


 横に回避しても、あれだけの大きさなら体に掠る。
 それでも、横に回転する。回避しきれない。


 ダメージ覚悟で手に力を入れ、剣をより強く握り締める。
 振り下ろされた大剣の軌道を見切り、剣を合わせる。


 大剣に触れると、圧倒的な重みが腕にかかり肩が弾き飛ばされそうになる。
 歯を食いしばり、必死に耐える。


「脳筋……やろうがっ!」


 力を出すために声を張り上げ、剣を横へ流しながら横っ飛びする。
 目的は軌道を逸らすこと。不安定な態勢ではあったが、なんとか剣はずれて、俺は倒れこむようにして回避した。


「ふはははっ! 逃げてばっかりで、勝てるかぁ! 勝てるわけがない!!」


 楽しそうに剣を振り回すドン・ゴブリン。空中や身を低くしたりとアクロバティックに立ち回り、全部を回避する。


 だが、態勢は相当厳しい。
 ドン・ゴブリンが暴れることにより地面も僅かに揺れる。中々態勢を戻すタイミングがない。


「くらえええ!」


 大振りの一撃が襲いかかる。ちっ、よけきれねえな。先ほどの一撃があるので、直接受けるのだけは避けたかったんだが……。


 剣に剣をぶつけ、やけくそ気味にクリティカルアッパーを使用。
 再びわずかに逸らすことに成功したが、今回は俺の肩を掠めてしまう。


「ぐっぅぅっ」


 痛みが僅かに肩から広がり侵食する。歯を噛み締めて我慢する。
 現実でくらえば痛みはさらにあるだろう。


 我慢できない、痛みじゃねえ。
 俺のHPバーは残り60%ほど。防具の、おかげだな。


 同時に心の底から沸きあがる狂喜じみた感動。さっきはバカにして悪かったな。
 やっと、少しは本気を出せる相手に出会ったな。


 肩を回し、剣を空中で振る。


「くくく、くはっ! いいぜ、やってやるよっ!」


「斬る、斬る! そして、斬ーるっ!」


「下品なヤツだな、戦闘中に叫びまくりやがって!」


 いきおいよく振り落とされた剣を半身だけずらして、回避する。
 目の前を通過し、耳に風の暴れる音が届く。舌なめずりし、ターゲットを睨みつける。


 地面に埋まったドン・ゴブリンの剣に向かって。俺はスキルをぶつけた。
 クリティカルアッパー。剣に宿った力により、いつも以上の力を発揮する。


 ドン・ゴブリンの力が加わっていない大剣を弾きあげるのは苦労しなかった。
 大きな剣は空に舞い、ドン・ゴブリンは一瞬焦ったように剣を目で追ったがすぐに俺へと戻る。


「小癪なああ! 殴る、殴るぞっ! ぶっつぶしてやる!」


 破裂しそうな絶叫とともにドン・ゴブリンは拳を振るう。爆風を纏った一撃をしかし俺は膝をおりまげ、すぐさま跳んで回避する。


 腕はさっきまで俺のいた部分を通過して、止まる。
 伸びきった腕を足場に駆ける。


 落下していくドン・ゴブリンの剣。
 セカンドジャンプを使用し、空中に躍り出た俺はしぼりだすように腕を伸ばして掴む。


 柄に手が届く。両手で添えるが重くて振るうのは無理だ。落ちる方向を修正して、重力に任せるしかない。
 俺にとっての大剣は狙い通りドン・ゴブリンの肩にめり込み、切り裂いていく。


 カウンターが成功したのかダメージは大きい。残り僅かの体力。


「死ぬぅぅぅ! 死んでしまうー!」


 大剣を肩に刺したまま、痛みに震えるように後退する。
 剣の柄を鉄棒のようにしてよじ登り、よろめくドン・ゴブリンの顔へと接近する。


 拳ほどある目玉に、


「Unlucky!」


 剣を突き刺す。ずぶりと奥に差し込まれ、剣から手に何かを刺した感覚が伝わる。現実なら、かなり気持ち悪くなる感触かもしれないが、ゲームだけありそこまでリアルな感触はない。


 HPゲージがなくなったドン・ゴブリンの膝が崩れ落ちる。


 落下ダメージをくらいながら、俺は動向を警戒する。
 いや、必要なかったか。


 剣を鞘に戻して、ドン・ゴブリンの体が光になるのを背中で感じる。


「運がなかったな」


 かっこつけながら、出口に戻ろうとして、


(ドロップアイテム……)





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