Unlucky!

木嶋隆太

第十一話 依頼づくし

 橋を渡り、西地区に来る。
 西地区も東地区と基本的に変わらない。現在時刻なんと午前1時。こんな時間にクエストを受けられるのか、かなり不安ではある。


 だが、西と東では民衆同士でことあるごとに対決があるという設定だ。
 いらんところに力入れてる暇があったらNPCを攻略できるようにしてくれたらいいのに。MMOにそんなこと望むほうがおかしいか。


 クエストは受けられるのか、俺は目的の人物をみつけてホッと胸を撫で下ろす。
 クエストの内容がないようだからな。


「おい、ガキ。あんたが迷子か?」


 迷子の子を母親に送り届けるという依頼だ。


 顔を覆うように蹲っていた子は俺に気づいて顔をあげげ……なに、女だと?
 涙を流しながら地面で丸くなっている子。彼女は、可愛らしい顔に黒い髪を張り付かせている。


 なんてことだ、こんな可愛い子だとは。
 俺はすかさずしゃがみこみ、前髪をどける。うん、いい幼女だ。


「大丈夫か? お兄ちゃんが必ず君をお母さんの元に連れて行くぞ」


「えう……ぐす、あう。はい、ありがとぅ……」


 それでも、まだ涙を流す彼女。
 とりあえず、どうしようか。


 子どもに慣れているわけではないので、どうすればいいのか分からない。
 確か、目線を合わせるといいとか。そのぐらいだ。


「どこではぐれたか、分かるかな?」


「うう、えぐ、ぐす?」


 手で涙を押さえるのに忙しくて俺の話は聞こえないらしい。ここまで派手に泣いているのに、鼻水を垂らさないなんておかしくないか。


「いや、いいよ」


 彼女の手を取り、歩き出す。辺りを探し回っていると、女の子がはっと顔をあげる。


「わたしのいえのちかく……」


 きょろきょろ、どこかなーと顔を左右に振る。
 わりと、近かったな。


 道を覚えていてもおかしくないほどだが、こんな小さな依頼をいちいち気にしてるだけバカらしいか。


「あれは、違うのか?」


 心配そうに辺りを見回している母親らしき人がこちらに気づく。視線を辿ると、俺と手を繋いでいる子に注がれているようだ。


 ビンゴ。


「……リン!」


「ママぁっ!」


 ぎゅっとお母さんと抱きつく迷子幼女。
 俺は腰に手をあて、僅かに表情が緩む。


 幼女を出すなんてこのゲームへの評価を改める必要がある。食堂の男によって傷つけられた俺の心がどんどん癒されていくのが分かる。
 母親が幼女を抱っこしながら、頭を下げる。


「ありがとうございます。これはほんのお礼です」


 いえいえ、こちらこそ。そんなお気になさらないでください。
 俺としては可愛い幼女が拝めただけで十分ですから。


 とはいえ、依頼の品を断ることもできない。
 別に欲しいわけじゃない。欲しいわけじゃないのだ。


 ほんのと言いながらあっさり渡してきた500ポイント。ゴブリン一体が30ポイントくらいしかもらえないからな。
 迷子の子の家族は随分と太っ腹だな。


「もしも道で迷子になったら、地図を見なさいって言ったでしょ! 詳しい地図が見たかったらズームしたりすればいいんだから!」


 お母さんが子供に説明しているようだ。俺にチュートリアルしてくれてるのかと思ったよ。
 依頼も達成したので、俺は最後に子供に声をかける。


「もう、迷子になるなよ」


「ありがとう、おじちゃん!」


(お、おじ……!?)


 天使スマイルで感謝された俺は、緩んでいた表情を引きつらせてその場を離れた。
 数分後。


 先ほど迷子になっていた子がいた場所にはまたまた同じ子がいた。


「ぐすっ、ひぐっ」


 他のプレイヤーが依頼を受けるためなのだろう。
 とはいえ、気になった俺は、


「幼女、これからデートでも行かないか?」


「警察よんでよぉ~! えーん!」


「変態なおじちゃんで悪かったな」








 俺は勢いを殺さないために次の依頼を受けに行く。
 西地区側の橋から土手へ行く。そうすると対面側である東地区側の橋の下に不思議な扉があるのを発見する。あれはなんだろうか? 地図で確認すると地下水路への入り口と書かれている。


 以前は釣りにしか、興味がなかったので細かく見ていなかった。


 どんな繋がり方をしているのだろうか。考えてもしょうがないか。


 今の俺には行けそうもないし、依頼主を探すためにひとまず忘れることに。
 依頼主は西地区側の橋の下の土手で水切りをしている、幼女だ。


 以前釣りをしているときにいたか? 記憶を探るが思い出せない。


 短めの金髪に無垢な瞳。
 どこぞの生意気な金髪とは違う。ちらと頭の片隅でフィリアムが強く俺をにらむが、俺の脳内はすぐに幼女で埋め尽くされる。


「何やってるんだ?」


「おにぃちゃん。ミナのためにアイテムとってきてくれる?」


 お兄ちゃんだとぉ?
 きゅっとこちらに向き、甘えるように瞳を揺らす。早速依頼を受けるか聞かれる。


 よしよし、何でもとってきてやろう。


「当たり前だ、幼女の頼みを断るつもりなどない」


「ありがとー」


 むぎゅ。両手を掴まれ、上下に振り回される。
 肌の感触とかはないが、手をつかまれたという事実が何よりも俺に元気をくれる。


「ブルースライムの液体が欲しいんだ。あれ? もしかして持ってる?」


 すでにアイテムを持っていたからか、受け答えが早い。アイテム欄から取り出すと、彼女は嬉しそうにビンに収まったそれを――の、飲んだ。


 狂ったのかと少女の健全な未来を心配した俺は止めようと思ったが、


「おいちー! ブルースライムの液体は飲み物になるからね。もしも、貧乏すぎて何も食べるものがなかったら飲むといいよ!」


 ぷはーっと飲み干した少女は自身の奇行について説明をくれる。
 なるほどな。どんな味がするのだろうか。


 彼女の後を追い、俺も飲んでみる。喉に張り付くような、あまり味わいたくない喉越しだ。
 味は……ぬるいソーダ水だ。


 これは残念なモノを飲んでしまった。吐き出したかったが、そんな効果はない。
 報酬はレッドポーションLv1だ。レッドポーションなら十分だな。


「今度はゴブリンの皮が欲しいな。あれ? 持ってる?」


 またもやおねだりをしたので、よしよしお兄ちゃんがあげよう。
 アイテムを取り出して、渡す。


「わぁっ、ありがと! これは、鍛冶師のスキルがあると武器や防具を作ったりできるよ。木や銅などと混ぜて作ってみよう!」


 鍛冶師。確か、店売りの装備品よりも性能のいいモノが作れるはずだ。
 俺は持っていないが、誰かに……面倒だな。後でポイントが余ったら、取得してみようか。


 木や銅は稀にモンスターが落としている。
 他にも虫取りのときに気づいたが、手ごろなサイズの石がフィールドに点在していた。


 採掘とかもできるのかもしれない。
 今度の報酬はブルーポーションLv1。


「それじゃ、次はウルフの毛皮がほし~な。ウルフは西の大地や北東にあるダンジョン『ウルフの森』で出現するよ。西の大地のほうが狩りやすいと思うよ! ウルフのレベルは10ぐらいだからね」


「ウルフの毛皮か……」


 それは持っていない。だからか、詳しい説明をしてもらえたのだろう。
 お試しの平原でしか戦っていなかったからな。さて、どうするか。


 このまますぐに向かってもいいが、一度店を回ってこようか。
 西も東も同じ商品だが、西の大地に向かう都合上いつも利用している食堂に行こう。


 食堂で鮭おにぎりを買い、アイテム欄に入れて武器、防具屋に向かう。
 武器や防具は鍛冶師のスキルで作ったほうがいいらしい。


 んなこと知るか。こちとら鍛冶師の友達がいないんだ。


 というわけで、ゴブリン系の装備一式を購入。武器、防具ともにこれで結構強くなったろ。武器については銃を選択した。剣も使うつもりだが、今はスキルがないので放置だ。


 かなりポイントを持っていかれたが、いいか。
 初めの武器と違って耐久値が設定されている。


 これが0になると、勝手に装備が外れるらしい。戦闘中だろうと。
 よし、これで戦闘準備完了だな。



「Unlucky!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く