Unlucky!
第六話 食事
このゲームには満腹度などがあり一日三食、おまけに睡眠も取らないといけない。
どれも放置すると、ステータスなどにマイナス効果がついてしまう。
現在俺の満腹度は70%近くまで下がっている。
睡眠は最低7時間とらなければ次の日のステータスに悪影響が出る。さらに24時間以上起きていても、悪い効果が出てしまう。
街に戻ってきた俺は、地図を頼りに近くの食堂に入る。
中々広い。6人がけのテーブルが20個近く並び、カウンター席まである。
普通なら4人なのだろうが、パーティーの組める人数の限界が6人だからこうなっているのだろう。
まだ少し早いが、夕食を食べに来たのか何グループかが席を確保している。料理を注文しないで座ってる奴らは店からしたら相当迷惑な客だろうな。
酒場のような構造で、仲良く談笑している人たちは四人掛けの椅子に腰掛けている。
俺は一人なのでカウンターに座る。料理のメニューがない。塩、胡椒などは置いてあるのだが。
どうやって注文するのだろう。
そんな疑問はすぐに吹き飛んだ。数秒してウィンドウが出現、どれを注文しようか。
100、300、500、1000と値段ごとに分けられている。
一番安い100ポイントで食べられるモノにはおにぎりしかない。麺類は300ポイント。セットメニューになると500ポイント。
1000ポイントになると少し高級な料理が出てくる。
瑞希の家ではもっと高い料理も出てくるので、好んで食べたいとは思えない。
俺の口は庶民だからな。山盛りのキャビアより、山盛りの梅干のほうが嬉しい。
狩りによってそれなりに金はあるが、無駄な金を使うつもりもないので、梅おにぎりを一つだけ注文する。
料理を注文してから、待つ時間はあまり好きじゃない。
俺の心境を察知したように10秒ほど経つと、店員の可愛いらしい子がおにぎりを持ってきた。
早いな。
「あんた……NPCか? 今度デートにでも行こうぜ」
軽くナンパしてみると、
「……警察呼びますよ?」
なんてAIだ。優秀すぎて泣けそうだ。
俺は「冗談だ」と言って、おにぎりを受け取る。
できたてだと証明するように湯気をもうもうと上らせ、俺の鼻孔に入ってくる。
昼はカップラーメンだったからな。腹をすかしていたのを思い出した胃袋がぐーと盛大な音をあげる。
おにぎりに巻かれたぱりぱりとした海苔の部分へ手を伸ばす。
眼前に持ってきたおにぎりの米一粒、一粒がこれでもかと輝く。海苔の風味にとうとう我慢できなくなった俺は口に運ぶ。
一口の大きさになった米たちは口内で細かく分かれていく。
普通のご飯だなと、少々がっかりしたタイミングを狙うように旨みが襲ってくる。米たちに僅かにかかった塩。
どんな塩を使っているのか分からないが、白米のおいしさを殺さない程度に自己主張してくる塩の脇役に徹した生き様に一種の感動を覚える。
塩、お前は間違いなく主役だ。
絶妙な塩加減とご飯の炊き具合が混ざり合い、俺の口内を幸せ色に染める。
梅に到達していないにもかかわらず、既にこのおにぎりは今まで食べた中で一番の出来だった。
母さんごめんなさい。
俺は一言謝ってから、今度は先程よりも大きな一口でかぶりつく。
塩だけで漬けられた梅干は、思わず目を瞑ってしまうほどにしょっぱいがたまらなくおいしい。
何日も食べ物を得られなかった獣のように残りのおにぎりにむさぼりついた。
……なんておにぎりだ。中毒になりそうだ。
この料理を作ったのは誰だ?
さっきの女の子だろうか。また一段味が上がったような気がする。
梅おにぎりの食事効果は筋力+1だ。+1がどのくらい効果があるのか不明だが。
食事効果は一時的なもので、効果時間は120分。満腹度も100%になった。
「はぁ……」
ところで、さっきから気になっていたのだが定期的にため息を漏らすこの店員は何だ? せっかくのおにぎりの味が落ちる。
接客業でこれだけため息を連発していたら、現実なら即クビだぞ。
カウンターの向こう側で左右に歩いてはため息。それを何度も繰り返す。
「やめろ、目障りだ」
NPCとは分かっているが、言わずにはいられない。
「……クエスト、受けてくれるんですか?」
どうやらクエストを発注している人間のようだ。
会話の流れにおかしさを覚えてたが、相手はNPCなんだから気にしたら負けだ。
あまり気は進まないが、何かのアイテムが手に入る可能性もある。
クエストによっては経験値も手に入るし……一応受けておくか。
OKボタンが出たが、返事をしたらどうなるのだろうかと
中々便利だ。
「……ああ」
「ありがとうございます。実は最近料理がうまく作れなくて。それで新しい料理に挑戦しようと思ったんですよ。そこで『20cm以上の魚』を持ってきてくれませんか?」
魚の納品か。
返事をして何の問題もなく進んだ。確か、この会社のVRゲームは全部心の中でスキルをイメージして発動できるんだったな。
これがかなり難しいらしく、そもそも生まれつきできない人もいる。
一種の才能が必要なプレイヤースキルだ。俺は問題なく出来る。
この会社のゲームは本当にプレイヤーを選ぶゲームが多い。それでも、人気があるのはそういう層のファンが多いからだろう。
「ああ」
どうにかなるだろう。始まりの街で受けられるようなものなんだから。
「ありがとうございます! これ、釣竿と餌です」
両手に持った竿と餌に触れると、自動でアイテム欄に入れられる。
おい、効果を見たいのに勝手に引きこもるな。
仕方なくウィンドウを開いて、確認する。
ボロイ釣竿。
魚をつることができる。強度がないので、大物はつれない。
安い餌×30
店で一番安い餌。魚が食いかかる確率をあげる。
さすがに、ただでもらえるだけあって効果は微妙らしい。
食事を終え、時刻は午後7時くらい。
宿に戻り、100ポイントで部屋を借りる。
これで24時間は自由に使える。とはいえ、何か
釣りはいつしようか。
それほど詳しいわけじゃないし、やり方も分からない。
無人島でサバイバルをさせられたことはあるが、川に飛び込んで魚をわしづかみした覚えしかないからな……。
断言するなら、チマチマするのは嫌いだ。
釣りをどこで出来るのか調べるために、地図を開く。
地図にある水色の部分。街を東と西に分けているその部分には橋がかかっている。
川があるのか。魚がいるか分からないが、まずはそこに行ってみよう。
そこに魚がいなければ、川から海なり湖なりに出れるはずだ。
そのどちらにもいなければ俺はこのクエストを破棄するだけだ。
シャワーをさっと浴びてから、綺麗な風呂を見て思わず浸かる。夏なので、浸からなくてもいいのだがあまりにも気持ちよさそうだった。夏に風呂に入る機会もあまりないし。
ただ風呂に浸かっているのも暇なので、他にどんなクエストがあるのか見ておく。釣り以外にもクエストがいくつかあるので、明日はそれをこなしていこう。
風呂を終えて、完全に疲れもとれた。ゲームのくせに多少疲れができてしまうのはどうにかしてほしい。
起きていても仕方ないのでベッドに飛び乗る。
『睡眠時間を設定できます。最低7時間は眠らないといけません』
そんなアナウンスと共に画面が表示される。
睡眠時間までも設定できるのか。目覚ましがあれば破壊する俺だ。どうやって起こされるのか気になるな。
設定時間は7時間。
明日は朝早くに川に行かなくちゃだからな。釣りと言えば朝早くだろう。澄んだ空気を肺にためながら、魚を釣るんだ。
どれも放置すると、ステータスなどにマイナス効果がついてしまう。
現在俺の満腹度は70%近くまで下がっている。
睡眠は最低7時間とらなければ次の日のステータスに悪影響が出る。さらに24時間以上起きていても、悪い効果が出てしまう。
街に戻ってきた俺は、地図を頼りに近くの食堂に入る。
中々広い。6人がけのテーブルが20個近く並び、カウンター席まである。
普通なら4人なのだろうが、パーティーの組める人数の限界が6人だからこうなっているのだろう。
まだ少し早いが、夕食を食べに来たのか何グループかが席を確保している。料理を注文しないで座ってる奴らは店からしたら相当迷惑な客だろうな。
酒場のような構造で、仲良く談笑している人たちは四人掛けの椅子に腰掛けている。
俺は一人なのでカウンターに座る。料理のメニューがない。塩、胡椒などは置いてあるのだが。
どうやって注文するのだろう。
そんな疑問はすぐに吹き飛んだ。数秒してウィンドウが出現、どれを注文しようか。
100、300、500、1000と値段ごとに分けられている。
一番安い100ポイントで食べられるモノにはおにぎりしかない。麺類は300ポイント。セットメニューになると500ポイント。
1000ポイントになると少し高級な料理が出てくる。
瑞希の家ではもっと高い料理も出てくるので、好んで食べたいとは思えない。
俺の口は庶民だからな。山盛りのキャビアより、山盛りの梅干のほうが嬉しい。
狩りによってそれなりに金はあるが、無駄な金を使うつもりもないので、梅おにぎりを一つだけ注文する。
料理を注文してから、待つ時間はあまり好きじゃない。
俺の心境を察知したように10秒ほど経つと、店員の可愛いらしい子がおにぎりを持ってきた。
早いな。
「あんた……NPCか? 今度デートにでも行こうぜ」
軽くナンパしてみると、
「……警察呼びますよ?」
なんてAIだ。優秀すぎて泣けそうだ。
俺は「冗談だ」と言って、おにぎりを受け取る。
できたてだと証明するように湯気をもうもうと上らせ、俺の鼻孔に入ってくる。
昼はカップラーメンだったからな。腹をすかしていたのを思い出した胃袋がぐーと盛大な音をあげる。
おにぎりに巻かれたぱりぱりとした海苔の部分へ手を伸ばす。
眼前に持ってきたおにぎりの米一粒、一粒がこれでもかと輝く。海苔の風味にとうとう我慢できなくなった俺は口に運ぶ。
一口の大きさになった米たちは口内で細かく分かれていく。
普通のご飯だなと、少々がっかりしたタイミングを狙うように旨みが襲ってくる。米たちに僅かにかかった塩。
どんな塩を使っているのか分からないが、白米のおいしさを殺さない程度に自己主張してくる塩の脇役に徹した生き様に一種の感動を覚える。
塩、お前は間違いなく主役だ。
絶妙な塩加減とご飯の炊き具合が混ざり合い、俺の口内を幸せ色に染める。
梅に到達していないにもかかわらず、既にこのおにぎりは今まで食べた中で一番の出来だった。
母さんごめんなさい。
俺は一言謝ってから、今度は先程よりも大きな一口でかぶりつく。
塩だけで漬けられた梅干は、思わず目を瞑ってしまうほどにしょっぱいがたまらなくおいしい。
何日も食べ物を得られなかった獣のように残りのおにぎりにむさぼりついた。
……なんておにぎりだ。中毒になりそうだ。
この料理を作ったのは誰だ?
さっきの女の子だろうか。また一段味が上がったような気がする。
梅おにぎりの食事効果は筋力+1だ。+1がどのくらい効果があるのか不明だが。
食事効果は一時的なもので、効果時間は120分。満腹度も100%になった。
「はぁ……」
ところで、さっきから気になっていたのだが定期的にため息を漏らすこの店員は何だ? せっかくのおにぎりの味が落ちる。
接客業でこれだけため息を連発していたら、現実なら即クビだぞ。
カウンターの向こう側で左右に歩いてはため息。それを何度も繰り返す。
「やめろ、目障りだ」
NPCとは分かっているが、言わずにはいられない。
「……クエスト、受けてくれるんですか?」
どうやらクエストを発注している人間のようだ。
会話の流れにおかしさを覚えてたが、相手はNPCなんだから気にしたら負けだ。
あまり気は進まないが、何かのアイテムが手に入る可能性もある。
クエストによっては経験値も手に入るし……一応受けておくか。
OKボタンが出たが、返事をしたらどうなるのだろうかと
中々便利だ。
「……ああ」
「ありがとうございます。実は最近料理がうまく作れなくて。それで新しい料理に挑戦しようと思ったんですよ。そこで『20cm以上の魚』を持ってきてくれませんか?」
魚の納品か。
返事をして何の問題もなく進んだ。確か、この会社のVRゲームは全部心の中でスキルをイメージして発動できるんだったな。
これがかなり難しいらしく、そもそも生まれつきできない人もいる。
一種の才能が必要なプレイヤースキルだ。俺は問題なく出来る。
この会社のゲームは本当にプレイヤーを選ぶゲームが多い。それでも、人気があるのはそういう層のファンが多いからだろう。
「ああ」
どうにかなるだろう。始まりの街で受けられるようなものなんだから。
「ありがとうございます! これ、釣竿と餌です」
両手に持った竿と餌に触れると、自動でアイテム欄に入れられる。
おい、効果を見たいのに勝手に引きこもるな。
仕方なくウィンドウを開いて、確認する。
ボロイ釣竿。
魚をつることができる。強度がないので、大物はつれない。
安い餌×30
店で一番安い餌。魚が食いかかる確率をあげる。
さすがに、ただでもらえるだけあって効果は微妙らしい。
食事を終え、時刻は午後7時くらい。
宿に戻り、100ポイントで部屋を借りる。
これで24時間は自由に使える。とはいえ、何か
釣りはいつしようか。
それほど詳しいわけじゃないし、やり方も分からない。
無人島でサバイバルをさせられたことはあるが、川に飛び込んで魚をわしづかみした覚えしかないからな……。
断言するなら、チマチマするのは嫌いだ。
釣りをどこで出来るのか調べるために、地図を開く。
地図にある水色の部分。街を東と西に分けているその部分には橋がかかっている。
川があるのか。魚がいるか分からないが、まずはそこに行ってみよう。
そこに魚がいなければ、川から海なり湖なりに出れるはずだ。
そのどちらにもいなければ俺はこのクエストを破棄するだけだ。
シャワーをさっと浴びてから、綺麗な風呂を見て思わず浸かる。夏なので、浸からなくてもいいのだがあまりにも気持ちよさそうだった。夏に風呂に入る機会もあまりないし。
ただ風呂に浸かっているのも暇なので、他にどんなクエストがあるのか見ておく。釣り以外にもクエストがいくつかあるので、明日はそれをこなしていこう。
風呂を終えて、完全に疲れもとれた。ゲームのくせに多少疲れができてしまうのはどうにかしてほしい。
起きていても仕方ないのでベッドに飛び乗る。
『睡眠時間を設定できます。最低7時間は眠らないといけません』
そんなアナウンスと共に画面が表示される。
睡眠時間までも設定できるのか。目覚ましがあれば破壊する俺だ。どうやって起こされるのか気になるな。
設定時間は7時間。
明日は朝早くに川に行かなくちゃだからな。釣りと言えば朝早くだろう。澄んだ空気を肺にためながら、魚を釣るんだ。
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