Unlucky!
第三話 遭遇
隠れている意識があったのか俺の体はびくっと震える。ぞくっとした。
声を出さなかっただけでも凄いくらいだ。
女の子の格好は薄手の半袖とスカート。全体的にオレンジ色の服を着ている。
軽装備ってヤツか。俺の私服極まりない格好よりかは、冒険者らしい。
「誰だよあんた。もしかして、俺に一目ぼれしたとかそういうのか? 悪いな」
「……そんなのじゃ、ない。あなたに惚れる要素は皆無だ」
「ずばりと言うなよ。もっとオブラートに包め、泣くぞ」
彼女は目立つ俺を覗きこむ瞳は黄色に近く、髪もオレンジ色。ミカンを彷彿させるような女の子だ。お尻の辺りから黒い尻尾が生えている。種族の特徴だろう。
恐らく、悪魔人とか言うヤツだ。悪魔と契約した人間。
改めて客観的に自分の状況を考える。
噴水に隠れ、三人の女性を熱心に見つめる男。
(通報だな)
別にいやらしい気持ちはないぞと心の中で弁明しておく。
「あんた可愛いな。デートでもしないか?」
誤魔化すようにナンパしてみた。
「……それ以上、近づいたら、おる」
女性は何かの武術なのか、様になる構えを取り鋭い相貌を向けてくる。
「冗談だ、気にするな」
彼女はふーんと言った感じでゆったりとした空気のままこちらを注視してくる。
オレンジ少女はしばらく俺をジーと見た後、ポンと手を打ちある方向を指差す。
「……あの三人の処女を狙ってる?」
彼女が小首を傾げると、俺からみて左側にあるサイドテールが合わせて揺れる。
「豊かな発想力だな。頭切り開いて見てみたいよ」
「……下品だ。下品なことを言うのは、よくない」
「悪かったな、もういわねぇよ。バカッ」
「……もう、忘れてる……」
さて、見ず知らずの相手ではあるが結構話しやすかったモノだから色々ふざけてしまった。
相手には不快な気分を与えたかもしれない。一応謝っておくか。
「悪か――」
「あっ、いたいた」
なんとなく、俺たちの方へ声がかけられたようだったので振り返る。
(げえっ)
さっき見かけた三人がこちらに近寄っていた。普段なら、こんなあっさり接近を許しはしないのに。
後ろ姿はやっぱり、瑞希だった。赤い髪に、緑の瞳。俺を見つけて「あっ」と口が小さく開き、真っ先に話しかけてくるかと思いきや、表情は暗い。
銀髪の子がオレンジの髪の子へ片手をあげている。銀髪の子は森人か? 耳が鋭く尖っている。まさにエルフだな。
「みかんちゃん! 武器見終わった?」
「やっほー……いい、グローブはなかった。やっぱり、自分で作る、しかない……のか。それと、今はオレンジ……」
「そうだね。って、あれ? そっちの人って、ミズの知り合いの人?」
「ああ、ミズってのがそこで暗い顔をしてるヤツならな」
銀髪の子が俺と瑞希を数回見比べてから、ニヤリ。
「随分と貧相な顔。ミズも落ちたものだね」
ニヤニヤと意地悪げに細めた目を瑞希に向けた。初対面にいきなり、貧相とか。
瑞希はちらと見てから、すぐに俺に顔を戻して申し訳なさそうに瞳を下ろした。
「アキ兄……その、ごめんなさい。まさか、ログアウト不能になるなんて思っていなかったわ」
「無視するなぁっ!」
「別に気にするなよ。俺は、事情を知って来たんだから」
「は、話を進めないでよ! なんか、私置いてけぼりっ!」
「アキ兄……そ、それってまさか、私のことが好きで心配だったってことに受け取っていいのね!」
「どうやら、心配する必要は全くいらなかったな」
「きゃぁっ! やった、やった!」
小躍りを始めた瑞希はとりあえず放っておき、オレンジの子に頭を撫でられる形で泣きじゃくっている銀髪ツインテールの女に話しかける。
「で、何だ? 人が話してるときに混ざってくるなって習わなかったか?」
「私が先に話してたしっ! あんた、赤羽家の人間……空栄でしょ?」
「俺も有名になったものだな。あ、結婚とか考えてないから。小さい子は好きだが、うるさいヤツは嫌いだから」
ある程度どんなタイプの女も許容範囲だ。
それにしても、髪のボリュームが凄いな。ツインテールに結んで、なおかつ腰に届きそうなほどに髪が伸びている。
髪にエネルギーのすべてを奪われているんじゃないのか? だから、背が伸びないんだよ。
「チビって言うなぁ!」
チビとは言ってない。
「気にしてるんだな」
「う、うるさいっ! それに、結婚とかそんなんじゃないしっ。日本最強と謂われる赤羽家の日本最弱と呼ばれる男――空栄。私の学校でも絶対にを頼りたくない男ナンバーワンで輝いてるよ」
「さすがに最弱じゃないぞ。生まれたての赤ちゃんなら余裕っ」
「赤ちゃんいじめるのよくないっ」
だいたい、銀髪の子の相手の仕方が分かった。基本、無視の方向でいいようだ。
さてと、他の子に自己紹介しておくか。どうにも、オレンジの髪の子は俺に対して警戒しているようだ。
「あんた、名前なんて言うんだ?」
「私……? オレンジ」
そのままか。
「あんた、何か武術でも学んでいるのか? 俺から距離をとったときの動きが常人離れしてたぞ」
「はーなーしーをきけー! 私の存在がん無視よくないっ!」
「色々と。今は色々な武術が組み合わさって、何だか、よく分からない。けど、動きやすいし、自分に一番合ってる……」
「自分に合うように取り込んだってことか。我流ってかっこいいな」
「そう……?」
「むきゃーっ! 私の家よりもお金ない貧乏人なんだから、私の話聞きなさいよっ」
さて、と後は一人か。
金髪のロングの子のほうへニコッと安心ができる笑顔と共に振り向くと、返って来たのは鋭い視線。
そんなの知らない。腕や顔の一部に鱗のようなモノが入っている。たぶん、竜人か?
爬虫類のような気持ち悪さはなく、かなりかっこいい。竜人にしておけばよかったとちょっぴり後悔する。
「あたし、あんたみたいな人間嫌いだから」
「おいおい、俺どんだけ嫌われてるんだよ」
空に浮かぶ雲を見ながら、大きな声をあげる。
金髪の女はぷいと綺麗な横顔を俺に見せてしまい、これ以上の会話はできそうになかった。
「アキ兄。フレンド登録をしたいのだけど……ソラソラ?」
「ソラにしようと思った結果がこのザマだ。笑い飛ばしてくれたほうがスカッとするぜ。つーかどうやって見たんだ」
「あっはっはっ! 間抜けー!」
しっかりと笑い飛ばしてくれた銀髪の女のこめかみをぐりぐりとしてやった。
本気でバカにしたように俺へ指を向けていたから、つい。
「い、痛い! いや、痛みはないけど頭つぶすのやめてよー! なんかいやっ!」
「テメェに笑い飛ばされるのもなんか嫌」
「理不尽っ!」
俺が銀髪の女に攻撃していると、瑞希が少々不満そうに顔を歪める。
嫉妬か? 普段から金持ちと付き合ったりするつもりはないって言ってるんだから、気にするなよ。
両手を離してやると、銀髪からへろへろパンチをかまされたので食らっておいてやる。
全く痛くない。街でプレイヤーを倒すのは基本的に無理だからな。
調子にのって二撃目がきたので腕を捕まえ、背中側にひねりあげてやった。
ヒメは体を奇妙に動かしながら、痛い痛いと涙目で悲鳴をあげる。
やりすぎるのも悪いので手を離して、突き飛ばしてやる。痛くないんじゃなかったのか。
「人を攻撃するなんて、さいてーっ!」
「瑞希、話を進めてくれ」
「プレイヤーの頭上に表示されるのよ。……私たち、かなりお似合いね」
「ミズッ! あんた、いっつもあたしをバカにして……いいわよ、今蹴りをつけてあげるっ!」
「そういえば、お前もスイがダメだったんだよな」
「ええ、見てみるがいいわ」
「くらえっ!」
瑞希が体をずらして単調的な飛びつきを回避している。銀髪はべたんと地面へ顔から突っ込む。憎むように瑞希を見る瞳には涙がにじんでいる。
助けてやる義理もないので、無視。瑞希の頭上へ視線をやる。アホ毛がぴくぴく動いてるだけだった。
だが、二秒ほど見続けているとプレイヤー名が表示される。
『スイスイ』
「どこまでも泳いでいけそうだな」
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