黒鎧の救世主
第三十八話 本当の自分
「……そこまで気にしなくてもいいです。子どもじゃないんですから」
アリスは口をすぼめて、顔を横に向ける。
智也は言ってからしまったといった様子で頬をかく――心配しすぎるのも、子ども扱いされるみたいで嫌だよな。
気にかけすぎれば、逆に相手もためらってしまう。智也はうっかりしていたと自分の情けなさにため息をついた。
「迷宮で思い出したけど、男の人には少しはなれた?」
「そ、それはまだ結構微妙です。男の人はようやく智也さんだけだけど、触れられるようになったんです。バイスコーピオンと戦ったあとからっ!」
「バイスコーピオンと戦ったときも何度か触れたよね、そういえば」
抱きかかえたとき、ワープのとき。
思い出してみれば結構あったはずだ。
あの時はそんなことに意識をさけなかったのだろうと思っていたが、どうやら力押しのような形で治ったようだ。
「あんた、その程度で治るものなの?」
「その程度ってなんですか! あのときの私、死にそうだったんですからっ」
(いやアリスだけじゃないよ)
「あの程度で死ぬなんて、子どもみたいね」
(子どもはお前もだろうが)
アリスの背は低く、声も子どもっぽい。智也はアリスのことを子どもだと思っていた。
「誰が子どもですか! 今年、二十歳なんですからねっ!」
「マジで!?」
「どうして、そこで声をあげるのですか、トモヤさん!」
智也の発言に、ぶわっと本気で泣き出しそうにアリスが瞳を潤ませる。
「い、いや。えっと、そのすいません。俺よりも年下だと思ってました」
「え? トモヤくん何歳です?」
「十七です」
「……同い年か私よりも上だと思ってましたです」
アリスが呆然とこちらを見上げ、それからがっくりと肩を落とした。
「年齢疑惑」
「お前は、またぽつりと喋ったと思ったら火種をばらまきやがって」
「だって、あのチビが私よりも年上だと思う?」
「そういやクリュは何歳なんだ?」
「……十六~二十の間。正確な年齢は覚えてないわよ」
クリュは北の国でずっと過ごしてきた。
北の国では時間を大切にしない。大事なのは太陽が出てる時間とそれ以外だけだ。
今日が何月の何日だなんて理解していなくても生きていく上では意味がない。
そこまで考え、智也は首を振る無駄な考えをやめる。
クリュの複雑な事情をアリスにばれると面倒なことになるかもしれない。
「ど、どうしたの?」
アリスへ視線を向けるとジト目が返ってくる。
睨まれているのか、ただ見られているのか線引きが微妙だ。
「トモヤさんってクリュさんと話すときって口調が変わりますよね?」
「そう、だね」
「あたしも気になっていたのだけど、どっちが本当のあんたなのよ。もしもあたしに距離をとってたら殺す」
……そんなんで殺さないでくれ。智也はため息をつきながらも、クリュが冗談で言っているのは語調で分かる。
(どっちが、本当の俺なんだろうな)
地球にいた頃。智也は仲のいい人に対しては、クリュに接するように話していた。もっと冗談とか馬鹿げた話も混ぜて。
基本初対面の同じ年齢の相手なら、アリスのように接し、目上には簡単な敬語を使って話す。
だが、どれも別に苦ではない。敬語まで行くと少し苦労はするが、クリュ、アリスレベルの会話は全く問題ない。
「どれも……本当の自分かな。相手によって話し方を変えるけど、嫌なら統一するよ」
「私は、今のままでも構いません。トモヤさんが一番ラクなのでいいです」
「なら、あたしと話すように話なさいよ。なんか聞いててイラってくる」
「クリュはああいってるけど、アリスはいいのか?」
「私もそっちのほうが距離が縮まっていいかなって思いますね」
かつかつと道を歩いているアリスは、後ろで手を組んでいる。
アリスが相好を崩すと、途端にクリュの機嫌が悪くなった。
「やっぱ、今のなし」
「わがまま言うなよ。これからは、クリュとアリス同じように接します。理解したか?」
「……チッ」
「マジの舌打ちするなって。アリスはこれからすぐに塔迷宮に行けるか?」
「ばっちしです」
アリスがない胸を叩き、智也も水筒などの確認をする。
魔石に書き込んだ魔法が不安だったので、一度寄る。
いくつかアイテムを購入してから、塔迷宮に向かう。
Lv13 アリス MP99 特殊技 荷物運び
腕力25 体力26 魔力29 速さ29 才能6
スキル ワープLv1 ジャンプLv1 マッピングLv1 お宝探知Lv1 魔物探知Lv1 レアアイテム確率アップLv2 料理Lv2
儀式スキル なし
パーティを組むのなら、アリスの持つスキルを説明したほうがいい。
今までは、他のパーティーに入られるのを恐れていたが、今は一緒だ。利用できるなら、利用させてもらうと智也は話す決意を固める。
「アリス、今から少し話をしたいんだけどいいか?」
「なんでしょうか?」
小動物をほうふつさせるような可愛さを宿しながら、アリスは小首をかしげる。
前から人が来て、智也たちは相手に道を譲る。
「スキルについてなんだ。俺にしか見えないスキルをアリスはいくつも持ってる。だから、これから一つずつ話して行こうと思うけど、驚かないで聞いてくれ」
「わ、わかりました」
以前に話したことがあるからか、簡単に信じてくれる。
一通りアリスが持っているスキルを説明してから、アリスの知らないスキルについて詳しく話していく。
ワープ、ジャンプ、料理についてはアリスも知っている。
アリスに教えるために、智也は図書館でスキルを調べておいたのだ。
「マッピングは、MPを消費することで使用できて、視界の隅に地図が浮かぶらしい。お宝センサーMPを使用するとどこに宝があるのかわかるらしい。魔物センサーはお宝センサーとほとんど同じだな。レアアイテム入手確率アップは常に発動するスキルで、魔物がいいアイテムを落とすようになるらしい。わかったか?」
「は、はい……えっと、たぶん、大丈夫です」
アリスはふんふんと真剣に頷いていく。
説明を終えると、智也たちはちょうど塔迷宮にたどりついた。人の出入りがあり、智也たちも中へ向かっていく。
さっそくアリスにジャンプのスキルを使ってもらう。
「アリスが今までいったことのある階層はいくつ?」
「……七が最高です」
高くない数字が恥ずかしいのかアリスは頬を赤くして、顔をうつむかせる。
ジャンプは一度行ったことのある階層までしかいけない。
塔迷宮の入り口にはジャンプを使える人間がいて、お金を払えば連れて行ってもらえるが無理する必要もない。
アリスの実力がどこまで通じるのかわからない以上、一気に階層をあげるのはやめたほうがいい。
そこまでを考えて、アリスが通用したという階層に跳んでもらう。
「じゃあ、七階層に跳んで」
「わかりました」
迷宮に入る際。
アリスは一瞬ためらいを見せたが、決意するように顔をあげ一歩を踏み込んだ。
表情は硬いが、ここまで来たのだ。大丈夫だと信じる。
智也はアリスの表情や気配に意識を向けて、少しでも調子が悪くなっていれば戻ろうと考えていたが、今は大丈夫そうだ。
七階層について、アリスのスキルを頼りに敵を探し、倒していく。
マッピングを使い、七階層から順に上がっていく。
アリスは教えたスキルをあっさりと使いこなし、塔迷宮にある宝などを手に入れていく。何よりもマッピングのスキルが素晴らしく、アリスがいれば迷子には絶対にならないのだ。今までは智也が何とか記憶していたのだが、智也も負担が減り、戦いに専念できる。
以前クリュと二人きりのとき、智也が荷物持ちでも二十階層までは問題なかった。
結果だけを見れば、アリスが戦える限界は十五階層だ。
この辺りから、一人で戦闘を行うのは厳しくなっている。
そして、今は二十二階層。とうにアリスの限界は超えている。
この辺りから一度に戦う魔物も増え、まれに大きな魔物も現れるようになる。
初級冒険者と中級冒険者を分ける境目でもあるが、智也たちは問題ない。
二十二階層の地形も、草原のような地面だ。足場に問題はないが、木が多く視界がそこそこ悪い。
智也はとっくに戦えなくなっているアリスを守るために、注意を払うのは忘れない。
「アリス、俺から離れるなよ」
「だ、大丈夫です」
拳銃をいくつか作って、アリスに渡してから正面の魔物に向き合う。
全身が岩で出来た丸く太った人型の魔物イワーマン。地面に生えている草を踏み潰しながら、迫ってくる。
「クリュ!」
「打撃、右腕」
弱点は水属性だが、智也たちは魔法を使えないので、報告はしないことにしている。智也は武器を棒に切り替える。
殴ってきた右腕を避け、体を棒で突く。木を利用して、智也は空中を移動して背後から攻撃して注意を引く。
怯んだイワーマンの背中を二度突き、アリスから放たれた銃弾がトドメをさす。
この辺りの敵は拳銃もそれなりに効くので、アリスは頼りになる。
アリスはセンスがあるようで、すっかり拳銃の扱いも慣れている。
「ドロップは鉱石グラドリバスか」
「鉱石ブレイバスの一つ上のランクですね」
以前の亡霊騎士が落とすドロップよりかは、いいアイテムだ。それなりの値段で売れるそれを、アリスの背中の鞄に入れる。
アリスの鞄に入れ、遠くで暴れているクリュの元へ向かう。
敵は岩石人間にもかかわらず、クリュは相変わらず格闘だ。
さすがに拳で戦うことはしないが、ここまでくると、クリュの手に何か装備品を買ってやったほうがいいと思える。
「クリュどうだ?」
「雑魚ね。まだまだ問題ないわ。手出したら殺すから」
クリュがいきいきと魔物を蹴り殺していき、一通り終わってからアリスがアイテムを集める。
「次の階層に向かおう」
アリスを頼りに、次の階層へと上る。
二十三、二十四、二十五。
特に問題もなく、むしろクリュにとって相性のいい敵ばかりとなり、ここら辺のほうが余裕げだ。
アリスは荷物持ちとしては疲労していないが、移動と戦闘によって確実に体力を減らしている。今も汗が額を流れ、水筒に口をつけている。
智也はアリスの様子を確かめながら、適当なタイミングで休憩を挟む。
クリュが相変わらず人の水筒から、飲もうとしたので、買っておいた水筒を渡すと軽く睨まれた。
――俺は間違ったことはしてないよな?
智也の手にある水筒を、クリュは掻っさらってごくごくと喉を鳴らす。
智也も自分の水筒に口をつけて喉を潤す。疲れているときに水を飲むと本当においしく感じる。
二十八に来たところで、アリスがとうとう悲鳴をあげた。敵の動きに全くついていけていないし、智也もそろそろ一対一がちょうどいいので、これ以上は守るのも厳しい。
「……あ、あの。二人とも強すぎですっ」
「あんたが弱いんじゃないの?」
「そ、そんなことないですっ」
クリュの意見ももっともだが、智也は同意はしない。
アリスがむぅぅとクリュを睨むと、クリュも面白いじゃないと腰に手を当てて睨み返す。
二人が喧嘩でも始めれば、間違いなくアリスの首が吹っ飛ぶので、智也は引き剥がすように割り込む。
「まだアリスはレベルが低いからな」
彼女はレベルが13だ。いくら、ステータスが絶対ではないのだとしても、さすがに適正レベルからはかけ離れている。
そういうならば、智也たちもレベルが低いわりに戦えているが、智也たちは才能が高いからどうにかなっている。
クリュは戦闘におけるセンスが高い。咄嗟に最善手を選び戦いぬける。
智也はスピードと新たに覚えた覚醒強化を使用すれば、この階層では敵などいなくなる。
ここ最近ではカウンターを中心に戦っているので、カウンターがうまい。敵の攻撃を捌き、隙をつくのが得意なのだ。
だが、技術の向上はあっても、やはり単純なステータスだけで魔物と渡り合うのは少しきつくなっている。
これ以上進むと、アリスが絶対に怪我をする。
「今日は三つ下の階層をメインにして戦おう」
「ここだとまだまだ余裕すぎてあくびが出るわよ」
「出してろ」
智也が突き放すように言うと、クリュは腰に手を当てて睨んだ。風が一つ吹いて、それから、クリュは片手で口を隠す。
「……はい、今出たわよ」
クリュはしたり顔を智也に向ける。
だからなんだよ……。場違いなクリュに嘆息し、智也は遠くで戦っている冒険者へ視線を向ける。
「わっ、ふわぁ……」
アリスがクリュのあくびにつられるようにあくびをした。
「お前ら……のほほんとしすぎだ」
智也がぽつりと漏らすと、魔物が襲ってくるが、すぐにぶっ倒した。
そこからはアリスのレベル上げのために体が持つ限り戦い続けた。
アリスは口をすぼめて、顔を横に向ける。
智也は言ってからしまったといった様子で頬をかく――心配しすぎるのも、子ども扱いされるみたいで嫌だよな。
気にかけすぎれば、逆に相手もためらってしまう。智也はうっかりしていたと自分の情けなさにため息をついた。
「迷宮で思い出したけど、男の人には少しはなれた?」
「そ、それはまだ結構微妙です。男の人はようやく智也さんだけだけど、触れられるようになったんです。バイスコーピオンと戦ったあとからっ!」
「バイスコーピオンと戦ったときも何度か触れたよね、そういえば」
抱きかかえたとき、ワープのとき。
思い出してみれば結構あったはずだ。
あの時はそんなことに意識をさけなかったのだろうと思っていたが、どうやら力押しのような形で治ったようだ。
「あんた、その程度で治るものなの?」
「その程度ってなんですか! あのときの私、死にそうだったんですからっ」
(いやアリスだけじゃないよ)
「あの程度で死ぬなんて、子どもみたいね」
(子どもはお前もだろうが)
アリスの背は低く、声も子どもっぽい。智也はアリスのことを子どもだと思っていた。
「誰が子どもですか! 今年、二十歳なんですからねっ!」
「マジで!?」
「どうして、そこで声をあげるのですか、トモヤさん!」
智也の発言に、ぶわっと本気で泣き出しそうにアリスが瞳を潤ませる。
「い、いや。えっと、そのすいません。俺よりも年下だと思ってました」
「え? トモヤくん何歳です?」
「十七です」
「……同い年か私よりも上だと思ってましたです」
アリスが呆然とこちらを見上げ、それからがっくりと肩を落とした。
「年齢疑惑」
「お前は、またぽつりと喋ったと思ったら火種をばらまきやがって」
「だって、あのチビが私よりも年上だと思う?」
「そういやクリュは何歳なんだ?」
「……十六~二十の間。正確な年齢は覚えてないわよ」
クリュは北の国でずっと過ごしてきた。
北の国では時間を大切にしない。大事なのは太陽が出てる時間とそれ以外だけだ。
今日が何月の何日だなんて理解していなくても生きていく上では意味がない。
そこまで考え、智也は首を振る無駄な考えをやめる。
クリュの複雑な事情をアリスにばれると面倒なことになるかもしれない。
「ど、どうしたの?」
アリスへ視線を向けるとジト目が返ってくる。
睨まれているのか、ただ見られているのか線引きが微妙だ。
「トモヤさんってクリュさんと話すときって口調が変わりますよね?」
「そう、だね」
「あたしも気になっていたのだけど、どっちが本当のあんたなのよ。もしもあたしに距離をとってたら殺す」
……そんなんで殺さないでくれ。智也はため息をつきながらも、クリュが冗談で言っているのは語調で分かる。
(どっちが、本当の俺なんだろうな)
地球にいた頃。智也は仲のいい人に対しては、クリュに接するように話していた。もっと冗談とか馬鹿げた話も混ぜて。
基本初対面の同じ年齢の相手なら、アリスのように接し、目上には簡単な敬語を使って話す。
だが、どれも別に苦ではない。敬語まで行くと少し苦労はするが、クリュ、アリスレベルの会話は全く問題ない。
「どれも……本当の自分かな。相手によって話し方を変えるけど、嫌なら統一するよ」
「私は、今のままでも構いません。トモヤさんが一番ラクなのでいいです」
「なら、あたしと話すように話なさいよ。なんか聞いててイラってくる」
「クリュはああいってるけど、アリスはいいのか?」
「私もそっちのほうが距離が縮まっていいかなって思いますね」
かつかつと道を歩いているアリスは、後ろで手を組んでいる。
アリスが相好を崩すと、途端にクリュの機嫌が悪くなった。
「やっぱ、今のなし」
「わがまま言うなよ。これからは、クリュとアリス同じように接します。理解したか?」
「……チッ」
「マジの舌打ちするなって。アリスはこれからすぐに塔迷宮に行けるか?」
「ばっちしです」
アリスがない胸を叩き、智也も水筒などの確認をする。
魔石に書き込んだ魔法が不安だったので、一度寄る。
いくつかアイテムを購入してから、塔迷宮に向かう。
Lv13 アリス MP99 特殊技 荷物運び
腕力25 体力26 魔力29 速さ29 才能6
スキル ワープLv1 ジャンプLv1 マッピングLv1 お宝探知Lv1 魔物探知Lv1 レアアイテム確率アップLv2 料理Lv2
儀式スキル なし
パーティを組むのなら、アリスの持つスキルを説明したほうがいい。
今までは、他のパーティーに入られるのを恐れていたが、今は一緒だ。利用できるなら、利用させてもらうと智也は話す決意を固める。
「アリス、今から少し話をしたいんだけどいいか?」
「なんでしょうか?」
小動物をほうふつさせるような可愛さを宿しながら、アリスは小首をかしげる。
前から人が来て、智也たちは相手に道を譲る。
「スキルについてなんだ。俺にしか見えないスキルをアリスはいくつも持ってる。だから、これから一つずつ話して行こうと思うけど、驚かないで聞いてくれ」
「わ、わかりました」
以前に話したことがあるからか、簡単に信じてくれる。
一通りアリスが持っているスキルを説明してから、アリスの知らないスキルについて詳しく話していく。
ワープ、ジャンプ、料理についてはアリスも知っている。
アリスに教えるために、智也は図書館でスキルを調べておいたのだ。
「マッピングは、MPを消費することで使用できて、視界の隅に地図が浮かぶらしい。お宝センサーMPを使用するとどこに宝があるのかわかるらしい。魔物センサーはお宝センサーとほとんど同じだな。レアアイテム入手確率アップは常に発動するスキルで、魔物がいいアイテムを落とすようになるらしい。わかったか?」
「は、はい……えっと、たぶん、大丈夫です」
アリスはふんふんと真剣に頷いていく。
説明を終えると、智也たちはちょうど塔迷宮にたどりついた。人の出入りがあり、智也たちも中へ向かっていく。
さっそくアリスにジャンプのスキルを使ってもらう。
「アリスが今までいったことのある階層はいくつ?」
「……七が最高です」
高くない数字が恥ずかしいのかアリスは頬を赤くして、顔をうつむかせる。
ジャンプは一度行ったことのある階層までしかいけない。
塔迷宮の入り口にはジャンプを使える人間がいて、お金を払えば連れて行ってもらえるが無理する必要もない。
アリスの実力がどこまで通じるのかわからない以上、一気に階層をあげるのはやめたほうがいい。
そこまでを考えて、アリスが通用したという階層に跳んでもらう。
「じゃあ、七階層に跳んで」
「わかりました」
迷宮に入る際。
アリスは一瞬ためらいを見せたが、決意するように顔をあげ一歩を踏み込んだ。
表情は硬いが、ここまで来たのだ。大丈夫だと信じる。
智也はアリスの表情や気配に意識を向けて、少しでも調子が悪くなっていれば戻ろうと考えていたが、今は大丈夫そうだ。
七階層について、アリスのスキルを頼りに敵を探し、倒していく。
マッピングを使い、七階層から順に上がっていく。
アリスは教えたスキルをあっさりと使いこなし、塔迷宮にある宝などを手に入れていく。何よりもマッピングのスキルが素晴らしく、アリスがいれば迷子には絶対にならないのだ。今までは智也が何とか記憶していたのだが、智也も負担が減り、戦いに専念できる。
以前クリュと二人きりのとき、智也が荷物持ちでも二十階層までは問題なかった。
結果だけを見れば、アリスが戦える限界は十五階層だ。
この辺りから、一人で戦闘を行うのは厳しくなっている。
そして、今は二十二階層。とうにアリスの限界は超えている。
この辺りから一度に戦う魔物も増え、まれに大きな魔物も現れるようになる。
初級冒険者と中級冒険者を分ける境目でもあるが、智也たちは問題ない。
二十二階層の地形も、草原のような地面だ。足場に問題はないが、木が多く視界がそこそこ悪い。
智也はとっくに戦えなくなっているアリスを守るために、注意を払うのは忘れない。
「アリス、俺から離れるなよ」
「だ、大丈夫です」
拳銃をいくつか作って、アリスに渡してから正面の魔物に向き合う。
全身が岩で出来た丸く太った人型の魔物イワーマン。地面に生えている草を踏み潰しながら、迫ってくる。
「クリュ!」
「打撃、右腕」
弱点は水属性だが、智也たちは魔法を使えないので、報告はしないことにしている。智也は武器を棒に切り替える。
殴ってきた右腕を避け、体を棒で突く。木を利用して、智也は空中を移動して背後から攻撃して注意を引く。
怯んだイワーマンの背中を二度突き、アリスから放たれた銃弾がトドメをさす。
この辺りの敵は拳銃もそれなりに効くので、アリスは頼りになる。
アリスはセンスがあるようで、すっかり拳銃の扱いも慣れている。
「ドロップは鉱石グラドリバスか」
「鉱石ブレイバスの一つ上のランクですね」
以前の亡霊騎士が落とすドロップよりかは、いいアイテムだ。それなりの値段で売れるそれを、アリスの背中の鞄に入れる。
アリスの鞄に入れ、遠くで暴れているクリュの元へ向かう。
敵は岩石人間にもかかわらず、クリュは相変わらず格闘だ。
さすがに拳で戦うことはしないが、ここまでくると、クリュの手に何か装備品を買ってやったほうがいいと思える。
「クリュどうだ?」
「雑魚ね。まだまだ問題ないわ。手出したら殺すから」
クリュがいきいきと魔物を蹴り殺していき、一通り終わってからアリスがアイテムを集める。
「次の階層に向かおう」
アリスを頼りに、次の階層へと上る。
二十三、二十四、二十五。
特に問題もなく、むしろクリュにとって相性のいい敵ばかりとなり、ここら辺のほうが余裕げだ。
アリスは荷物持ちとしては疲労していないが、移動と戦闘によって確実に体力を減らしている。今も汗が額を流れ、水筒に口をつけている。
智也はアリスの様子を確かめながら、適当なタイミングで休憩を挟む。
クリュが相変わらず人の水筒から、飲もうとしたので、買っておいた水筒を渡すと軽く睨まれた。
――俺は間違ったことはしてないよな?
智也の手にある水筒を、クリュは掻っさらってごくごくと喉を鳴らす。
智也も自分の水筒に口をつけて喉を潤す。疲れているときに水を飲むと本当においしく感じる。
二十八に来たところで、アリスがとうとう悲鳴をあげた。敵の動きに全くついていけていないし、智也もそろそろ一対一がちょうどいいので、これ以上は守るのも厳しい。
「……あ、あの。二人とも強すぎですっ」
「あんたが弱いんじゃないの?」
「そ、そんなことないですっ」
クリュの意見ももっともだが、智也は同意はしない。
アリスがむぅぅとクリュを睨むと、クリュも面白いじゃないと腰に手を当てて睨み返す。
二人が喧嘩でも始めれば、間違いなくアリスの首が吹っ飛ぶので、智也は引き剥がすように割り込む。
「まだアリスはレベルが低いからな」
彼女はレベルが13だ。いくら、ステータスが絶対ではないのだとしても、さすがに適正レベルからはかけ離れている。
そういうならば、智也たちもレベルが低いわりに戦えているが、智也たちは才能が高いからどうにかなっている。
クリュは戦闘におけるセンスが高い。咄嗟に最善手を選び戦いぬける。
智也はスピードと新たに覚えた覚醒強化を使用すれば、この階層では敵などいなくなる。
ここ最近ではカウンターを中心に戦っているので、カウンターがうまい。敵の攻撃を捌き、隙をつくのが得意なのだ。
だが、技術の向上はあっても、やはり単純なステータスだけで魔物と渡り合うのは少しきつくなっている。
これ以上進むと、アリスが絶対に怪我をする。
「今日は三つ下の階層をメインにして戦おう」
「ここだとまだまだ余裕すぎてあくびが出るわよ」
「出してろ」
智也が突き放すように言うと、クリュは腰に手を当てて睨んだ。風が一つ吹いて、それから、クリュは片手で口を隠す。
「……はい、今出たわよ」
クリュはしたり顔を智也に向ける。
だからなんだよ……。場違いなクリュに嘆息し、智也は遠くで戦っている冒険者へ視線を向ける。
「わっ、ふわぁ……」
アリスがクリュのあくびにつられるようにあくびをした。
「お前ら……のほほんとしすぎだ」
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