黒鎧の救世主
第三十七話 現代
「起きなさい、さっさと起きろ」
智也は頬を叩かれ、目をゆっくりと開ける。
後頭部に心地よい柔らかさがあり、頬には冷たい手が何度もぶつけられる。
「う、な、なんだ?」
「やっと起きたわね」
智也が目を開けると、クリュの姿が映る。景色を見て、智也は戻ってきたのだと認識する。
「おっ、トモヤ生きかえったか! よかったっ」
戸惑いながらも体を起こす。現代に戻ったが、傷は治っていない。智也は痛みがある部分をさすりながら、立ち上がる。
「リートさん? えっと、どうなってるんですか?」
「そう、だな。助けに来た」
「えーと、ありがとうございます」
聞きたいことと少しずれている。
「それはじいから説明しましょう」
知らない声の発信源に目を向けると老人が顎に手を当てて笑っている。
白いヒゲと渋めの声が特徴的な人だ――誰だろうか。
「おっと、その前に自己紹介が必要ですね。私は、オジムーンと申します。これでも、天破騎士をやっていますよ」
また有名な人間が来たなと智也の表情は少し強張っている。
「ええ、っと俺は智也です。それで、その今なんで三人がいるんですか?」
「あなたのお仲間がギルドに駆け込んできたのですよ。偶然居合わせていた私とリートさんがここに向かったんです」
「あの、ありがとうございます」
「いえいえ、感謝はいりません。ダンジョン攻略後には魔力を浴びた強力な魔物の出現が予想されていましたので、すぐに動くこともできましたし」
オジムーンさんたちにとっては、智也についてはついでだ。
「それで巨大なサソリはどうなりましたか」
オジムーンさんは腰に手を回し、周囲を見回す。
「……わかりません。戦ってる間に気を失ってしまって」
過去のことを話すのはやめたほうがいいとすぐに判断する。現代と過去を行き来できるなどばれてしまえば、国に目をつけられる可能性がある。
「失礼ですが、その横に転がっている魔石がバイスコーピオンの物、ではないのですか?」
「魔石……これは、偶然見つけたものなので」
過去のことは話さないと決めたので、魔石については少し苦しい言い訳になる。
「そうですか……とりあえず、一度街に戻りましょう。みなさん、ワープの準備が終わりましたのでじいにくっついてください。あ、クリュさんは抱きついてもいいですよ?」
「死ね」
腕を組んだ状態でクリュはぶっきらぼうに言い放つ。
なんでこいつは、すぐに喧嘩腰になるんだよ。
智也は悲鳴をあげたい気持ちを必死に押さえつける。
「これは手厳しい」
オジムーンさんは冗談だったようで、小さく笑っている。
この人は冗談が通じる相手のようだと智也は考えながら、オジムーンさんの体に触れる。もちろん左手には魔石を抱えて。
そうして、戻ってきたのは現代のギルドの前だ。
オジムーンさんを先頭にギルド内に入ると、天破騎士の二人は何やらギルド員と会話をしている。
智也はそちらから視線を外すと、視界に小さい子が映り、飛びつかれる。
「アリス? ど、どうしたの?」
「本当に何してるんですか!」
智也の胸にタックルをかましたアリスは、涙目で睨みあげる。
確かに智也の行動には無理があった。だが、わざわざそれを伝える必要はない。
「俺は、その、仲間が減ると強くなるスキルを持ってるんだよ」
「目が泳いでますよ! バカ、バカ! 心配したんですからっ」
「……アリス、その」
「また、誰かが死ぬんじゃないかって、私のせいで」
「……その、悪かった」
言い訳をするだけ無駄だと思い、本当の気持ちを伝える。
「そういえば、触れられるようになったのか?」
「他の男性だと、ワープの際のような最低限だけ、ですけど。でも、トモヤさん相手だとちゃんと触れるようなったみたいです」
「いい兆候だね」と一言伝え、さすがに長い間女性に抱きつかれるのはなれていないので、智也はアリスを体から離す。
アリスは顔を顰めた後、視界に入ったクリュを見て手を打つ。
「それにクリュさんだって――」
「アリス」
クリュがアリスの口を後ろから覆い隠し、智也から遠ざけるようにしてクリュはアリスに何やら注意しているようだ。
会話の内容までは聞こえないが、
「なんだあいつら?」
知らない間に仲がよくなったのだろうか。
そんなことを思っていると、オジムーンさんに呼ばれる。
「トモヤさん、その魔石を調べさせてもらっていいですか?」
「魔石を、ですか? もしかして、魔物とか判別できるんですか?」
「やってみないとわかりません。もしかしたら、トモヤさんが無意識の内に巨大サソリを倒した可能性もありますから」
それはありえないだろう。
「はい……わかりました」
オジムーンさんの隣に控えているギルド員に渡す。
(グランドの名前とかは例えばれても大丈夫か?)
図書館の塔迷宮に関する資料でも、ボスがいたことしか書かれておらず、詳しいことはわからないはずだ。
しばらく待つと、ギルド員が戻ってくる。
「魔石を調べてみましたが、どうやらこれは半分のようですね。かけてしまっているので、巨大サソリのものかどうかはわかりません」
ギルド員の結果に智也はホッとしながら、残念そうな表情を作っておく。
「なんと、これよりも大きい魔石だったのですか」
オジムーンさんが戸惑った声をあげながら、こちらに顔を向ける。
「トモヤさんはこれを売るのでしょうか?」
「ええ、まあ」
「だそうです。金額はいくらですか?」
「ええと、二十四万リアムですね」
「二十四万!?」
智也は予想外の金額に腰を抜かしかける。
「まあ、妥当でしょうね。これだけの魔石ならば魔力も相当溜め込めますからな」
渡された札束を財布になんとか詰め込んでから、オジムーンさんと話す。
大金が入っているので、誰かに狙われないか心配だ。
「トモヤさん、ひとまず巨大なサソリについてはこちらでどうにかしますので、気にせずにお帰りください。ああ、でも、何かお聞きすることはあるかもしれないので、その時はおじさんに付き合ってくださいな」
「わかりました。すいません、何も覚えてなくて」
「いえいえ、後は騎士の仕事ですから。それと、お二人も女性をはべらせて、羨ましいですなぁ」
オジムーンさんがからかってきたが、智也は苦笑を返しておくだけにとどめておく。
恐らく冗談なのだろう――冗談だよな?
わりと本気で肩をつかまれている気がするが、智也は気づかなかったことにしてクリュたちに合流する。
「二人とも、無事だったよな?」
今さらながらに体を心配するが、二人は問題ないと首を縦に振る。
「アリスが戻ってから、俺を助けに来たのにどれくらい時間は経ってた?」
「えーとですね。三時間くらいでしょうか?」
……時間が大きく違う、智也の表情が険しくなる。
それを見たアリスが勘違いしたのか、不安そうに目を伏せた。
「トモヤさんとクリュさんは、あれだけ傷を負っていたんですから、今日はゆっくり休んでくださいね」
「……。うん、そうするよ」
智也はすでにばっちり傷を治し、二回戦とばかりに過去でボスを倒してきた。だが、少しでもアリスが落ち着けるならと素直に頷いた。
アリスと別れ、クリュと一緒に宿に戻る。いつも通りの変わらない光景に安堵して、金を支払ってから部屋に向かう。
夕食、風呂(クリュは一人でいれた)とすましてから部屋のベッドに座り色々と考える。
これだけお金に余裕があれば、家を借りたほうが月にかかる金も減る。
お金関連で、賞金首のことを思い出す。ちらとクリュに視線を投げる。
「そういえば、悪いな」
「なにがよ。あんたに謝られることなんてないわよ。理由もなしに謝られるなんて気持ち悪いったらないわよ」
「いや、今日は賞金首を探しに行けなくてさ」
クリュはぴくりと眉をあげて、それから体だけをこちらに向ける。
「そんなの別に――いや、ふん、根性なしね。本当につまらないわ。さっさと寝るから、変なことしたら殺すわよ」
智也は疲れていたのかなと思っておく。
クリュはさっさとベッドにもぐりこむ。智也もお金や回復丸などを計算してから、明日購入しなければならないものを考えてから眠った。
次の日の朝。
「今日は迷宮に行くつもりだが、お前はどうするんだ?」
先に食べ終えた智也頬杖を着く。
目の前には、これで何杯目かわからないご飯をばくばく食べるクリュがいる。
ご飯は逃げないのに、素早く食べていく。
「迷宮? あんた、賞金首はいつ探すのよ」
食事する手を止め、クリュの声は機嫌が悪いのか低い。
智也がからかい半分で魚に箸を伸ばす。すかさず、クリュの目が光り、腕を叩かれる。油断すれば折られるところだったと智也は叩かれた部分を撫でる。
「帰ってきてからでいいだろ。敵だって白昼堂々と悪さはしないだろ」
「迷宮行ってもつまらないから、街でも見て回るわ」
「お金はまだあるよな? 暗くなる前に戻って来いよ」
「あー、はいはい。わかったわよ」
席を立ち上がり、近くにいた店員に軽く会釈をしてから、宿の外に出る。
肌に心地よい風と太陽の光を受けて、背筋を伸ばしていると、
「トモヤさん」
クリュと一緒に宿を出ると、待ち構えていたアリスに呼び止められた。
こんな時間から会うとは思ってもいなかったので、一瞬びびる。
「どうしたの? まだ、時間も朝早いけど、何かあった?」
「違います。その、私を、パーティーに入れてくれませんか?」
アリスの言葉に智也は眉間に皺を寄せる。
「……それは、本気なの?」
「本気とは?」
「俺たちはアリスに合わせて外で依頼を受けたりはしないってこと。特に今日は塔迷宮に潜るつもりだから。パーティーに入るのなら……アリスにも来てもらうことになるよ」
「……まだ、少し怖いです」
智也はだったらやめたほうがいいと口を開こうとしたが、アリスが力強く顔をあげる。
「でも、トモヤさんと。私はトモヤさんとなら一緒でも大丈夫な気がするんです」
「わかったよ。じゃあ、クリュ、ここで」
今日は街に行くといっていた、クリュだが動き出さないで腰に手を当てている。
智也の視線に気づくと、クリュは腕を組み目つきを鋭くする。
「ついて行くから」
「は? まあ、お前がいたほうが効率はいいし、心強いんだが……街を見て回るんじゃないのか?」
「気分よ。気分、それともあたしがいたら迷惑ってわけじゃないわよね」
クリュが鋭く目を細める。
相変わらずその眼差しには強い力が込められている。
「ということだよ、アリス。戦うのは主に俺たちで、アリスは荷物もちになってもらう形になるけど」
「それでいいです。むしろ私は自分の身さえ守るのがぎりぎりですから」
「それは気にしなくていいよ。アリスを魔物なんかに指一本触れさせないから」
もっと強くなる。
バイスコーピオンだろうが、なんだろうが勝てない敵がいつ出るか分からない。
生きて地球に戻る。死んで、クリュとアリスに迷惑をかけない。
すべて可能にするには強くなる必要がある。
智也は自分の近くにいる人だけは助けたいと考えている。
智也は頬を叩かれ、目をゆっくりと開ける。
後頭部に心地よい柔らかさがあり、頬には冷たい手が何度もぶつけられる。
「う、な、なんだ?」
「やっと起きたわね」
智也が目を開けると、クリュの姿が映る。景色を見て、智也は戻ってきたのだと認識する。
「おっ、トモヤ生きかえったか! よかったっ」
戸惑いながらも体を起こす。現代に戻ったが、傷は治っていない。智也は痛みがある部分をさすりながら、立ち上がる。
「リートさん? えっと、どうなってるんですか?」
「そう、だな。助けに来た」
「えーと、ありがとうございます」
聞きたいことと少しずれている。
「それはじいから説明しましょう」
知らない声の発信源に目を向けると老人が顎に手を当てて笑っている。
白いヒゲと渋めの声が特徴的な人だ――誰だろうか。
「おっと、その前に自己紹介が必要ですね。私は、オジムーンと申します。これでも、天破騎士をやっていますよ」
また有名な人間が来たなと智也の表情は少し強張っている。
「ええ、っと俺は智也です。それで、その今なんで三人がいるんですか?」
「あなたのお仲間がギルドに駆け込んできたのですよ。偶然居合わせていた私とリートさんがここに向かったんです」
「あの、ありがとうございます」
「いえいえ、感謝はいりません。ダンジョン攻略後には魔力を浴びた強力な魔物の出現が予想されていましたので、すぐに動くこともできましたし」
オジムーンさんたちにとっては、智也についてはついでだ。
「それで巨大なサソリはどうなりましたか」
オジムーンさんは腰に手を回し、周囲を見回す。
「……わかりません。戦ってる間に気を失ってしまって」
過去のことを話すのはやめたほうがいいとすぐに判断する。現代と過去を行き来できるなどばれてしまえば、国に目をつけられる可能性がある。
「失礼ですが、その横に転がっている魔石がバイスコーピオンの物、ではないのですか?」
「魔石……これは、偶然見つけたものなので」
過去のことは話さないと決めたので、魔石については少し苦しい言い訳になる。
「そうですか……とりあえず、一度街に戻りましょう。みなさん、ワープの準備が終わりましたのでじいにくっついてください。あ、クリュさんは抱きついてもいいですよ?」
「死ね」
腕を組んだ状態でクリュはぶっきらぼうに言い放つ。
なんでこいつは、すぐに喧嘩腰になるんだよ。
智也は悲鳴をあげたい気持ちを必死に押さえつける。
「これは手厳しい」
オジムーンさんは冗談だったようで、小さく笑っている。
この人は冗談が通じる相手のようだと智也は考えながら、オジムーンさんの体に触れる。もちろん左手には魔石を抱えて。
そうして、戻ってきたのは現代のギルドの前だ。
オジムーンさんを先頭にギルド内に入ると、天破騎士の二人は何やらギルド員と会話をしている。
智也はそちらから視線を外すと、視界に小さい子が映り、飛びつかれる。
「アリス? ど、どうしたの?」
「本当に何してるんですか!」
智也の胸にタックルをかましたアリスは、涙目で睨みあげる。
確かに智也の行動には無理があった。だが、わざわざそれを伝える必要はない。
「俺は、その、仲間が減ると強くなるスキルを持ってるんだよ」
「目が泳いでますよ! バカ、バカ! 心配したんですからっ」
「……アリス、その」
「また、誰かが死ぬんじゃないかって、私のせいで」
「……その、悪かった」
言い訳をするだけ無駄だと思い、本当の気持ちを伝える。
「そういえば、触れられるようになったのか?」
「他の男性だと、ワープの際のような最低限だけ、ですけど。でも、トモヤさん相手だとちゃんと触れるようなったみたいです」
「いい兆候だね」と一言伝え、さすがに長い間女性に抱きつかれるのはなれていないので、智也はアリスを体から離す。
アリスは顔を顰めた後、視界に入ったクリュを見て手を打つ。
「それにクリュさんだって――」
「アリス」
クリュがアリスの口を後ろから覆い隠し、智也から遠ざけるようにしてクリュはアリスに何やら注意しているようだ。
会話の内容までは聞こえないが、
「なんだあいつら?」
知らない間に仲がよくなったのだろうか。
そんなことを思っていると、オジムーンさんに呼ばれる。
「トモヤさん、その魔石を調べさせてもらっていいですか?」
「魔石を、ですか? もしかして、魔物とか判別できるんですか?」
「やってみないとわかりません。もしかしたら、トモヤさんが無意識の内に巨大サソリを倒した可能性もありますから」
それはありえないだろう。
「はい……わかりました」
オジムーンさんの隣に控えているギルド員に渡す。
(グランドの名前とかは例えばれても大丈夫か?)
図書館の塔迷宮に関する資料でも、ボスがいたことしか書かれておらず、詳しいことはわからないはずだ。
しばらく待つと、ギルド員が戻ってくる。
「魔石を調べてみましたが、どうやらこれは半分のようですね。かけてしまっているので、巨大サソリのものかどうかはわかりません」
ギルド員の結果に智也はホッとしながら、残念そうな表情を作っておく。
「なんと、これよりも大きい魔石だったのですか」
オジムーンさんが戸惑った声をあげながら、こちらに顔を向ける。
「トモヤさんはこれを売るのでしょうか?」
「ええ、まあ」
「だそうです。金額はいくらですか?」
「ええと、二十四万リアムですね」
「二十四万!?」
智也は予想外の金額に腰を抜かしかける。
「まあ、妥当でしょうね。これだけの魔石ならば魔力も相当溜め込めますからな」
渡された札束を財布になんとか詰め込んでから、オジムーンさんと話す。
大金が入っているので、誰かに狙われないか心配だ。
「トモヤさん、ひとまず巨大なサソリについてはこちらでどうにかしますので、気にせずにお帰りください。ああ、でも、何かお聞きすることはあるかもしれないので、その時はおじさんに付き合ってくださいな」
「わかりました。すいません、何も覚えてなくて」
「いえいえ、後は騎士の仕事ですから。それと、お二人も女性をはべらせて、羨ましいですなぁ」
オジムーンさんがからかってきたが、智也は苦笑を返しておくだけにとどめておく。
恐らく冗談なのだろう――冗談だよな?
わりと本気で肩をつかまれている気がするが、智也は気づかなかったことにしてクリュたちに合流する。
「二人とも、無事だったよな?」
今さらながらに体を心配するが、二人は問題ないと首を縦に振る。
「アリスが戻ってから、俺を助けに来たのにどれくらい時間は経ってた?」
「えーとですね。三時間くらいでしょうか?」
……時間が大きく違う、智也の表情が険しくなる。
それを見たアリスが勘違いしたのか、不安そうに目を伏せた。
「トモヤさんとクリュさんは、あれだけ傷を負っていたんですから、今日はゆっくり休んでくださいね」
「……。うん、そうするよ」
智也はすでにばっちり傷を治し、二回戦とばかりに過去でボスを倒してきた。だが、少しでもアリスが落ち着けるならと素直に頷いた。
アリスと別れ、クリュと一緒に宿に戻る。いつも通りの変わらない光景に安堵して、金を支払ってから部屋に向かう。
夕食、風呂(クリュは一人でいれた)とすましてから部屋のベッドに座り色々と考える。
これだけお金に余裕があれば、家を借りたほうが月にかかる金も減る。
お金関連で、賞金首のことを思い出す。ちらとクリュに視線を投げる。
「そういえば、悪いな」
「なにがよ。あんたに謝られることなんてないわよ。理由もなしに謝られるなんて気持ち悪いったらないわよ」
「いや、今日は賞金首を探しに行けなくてさ」
クリュはぴくりと眉をあげて、それから体だけをこちらに向ける。
「そんなの別に――いや、ふん、根性なしね。本当につまらないわ。さっさと寝るから、変なことしたら殺すわよ」
智也は疲れていたのかなと思っておく。
クリュはさっさとベッドにもぐりこむ。智也もお金や回復丸などを計算してから、明日購入しなければならないものを考えてから眠った。
次の日の朝。
「今日は迷宮に行くつもりだが、お前はどうするんだ?」
先に食べ終えた智也頬杖を着く。
目の前には、これで何杯目かわからないご飯をばくばく食べるクリュがいる。
ご飯は逃げないのに、素早く食べていく。
「迷宮? あんた、賞金首はいつ探すのよ」
食事する手を止め、クリュの声は機嫌が悪いのか低い。
智也がからかい半分で魚に箸を伸ばす。すかさず、クリュの目が光り、腕を叩かれる。油断すれば折られるところだったと智也は叩かれた部分を撫でる。
「帰ってきてからでいいだろ。敵だって白昼堂々と悪さはしないだろ」
「迷宮行ってもつまらないから、街でも見て回るわ」
「お金はまだあるよな? 暗くなる前に戻って来いよ」
「あー、はいはい。わかったわよ」
席を立ち上がり、近くにいた店員に軽く会釈をしてから、宿の外に出る。
肌に心地よい風と太陽の光を受けて、背筋を伸ばしていると、
「トモヤさん」
クリュと一緒に宿を出ると、待ち構えていたアリスに呼び止められた。
こんな時間から会うとは思ってもいなかったので、一瞬びびる。
「どうしたの? まだ、時間も朝早いけど、何かあった?」
「違います。その、私を、パーティーに入れてくれませんか?」
アリスの言葉に智也は眉間に皺を寄せる。
「……それは、本気なの?」
「本気とは?」
「俺たちはアリスに合わせて外で依頼を受けたりはしないってこと。特に今日は塔迷宮に潜るつもりだから。パーティーに入るのなら……アリスにも来てもらうことになるよ」
「……まだ、少し怖いです」
智也はだったらやめたほうがいいと口を開こうとしたが、アリスが力強く顔をあげる。
「でも、トモヤさんと。私はトモヤさんとなら一緒でも大丈夫な気がするんです」
「わかったよ。じゃあ、クリュ、ここで」
今日は街に行くといっていた、クリュだが動き出さないで腰に手を当てている。
智也の視線に気づくと、クリュは腕を組み目つきを鋭くする。
「ついて行くから」
「は? まあ、お前がいたほうが効率はいいし、心強いんだが……街を見て回るんじゃないのか?」
「気分よ。気分、それともあたしがいたら迷惑ってわけじゃないわよね」
クリュが鋭く目を細める。
相変わらずその眼差しには強い力が込められている。
「ということだよ、アリス。戦うのは主に俺たちで、アリスは荷物もちになってもらう形になるけど」
「それでいいです。むしろ私は自分の身さえ守るのがぎりぎりですから」
「それは気にしなくていいよ。アリスを魔物なんかに指一本触れさせないから」
もっと強くなる。
バイスコーピオンだろうが、なんだろうが勝てない敵がいつ出るか分からない。
生きて地球に戻る。死んで、クリュとアリスに迷惑をかけない。
すべて可能にするには強くなる必要がある。
智也は自分の近くにいる人だけは助けたいと考えている。
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