黒鎧の救世主

木嶋隆太

第三十一話 亡霊騎士

 智也の今日の予定は、ギルドに向かうことだ。
 それをクリュに伝えると、


「あたしも行くわよ」


 手でナイフを遊びながら、クリュは椅子に深く腰掛けてニヤリと笑う。
 邪魔さえしなければ、ついてくることはどうでもいい。


 アリスがいれば、アリスと一緒に依頼を受けようと考えていた。クリュが来るのなら、塔迷宮に行くことが出来る。
 ギルドにつくと、アリスがいた。これで今日の予定は決まった。
 困った様子で背伸びしながら、依頼書とにらめっこしているアリスに近づく。


「どうしたのアリス?」


 声をかけるとびくっと身を竦ませてから、こちらを見てほっとした表情を浮かべる。


「トモヤさん。おはようございます。今、依頼書を見てたんですけど読めない字があったので……」
「ああ、そうなんだ。どれ?」
「トモヤさんは学校に通っていたんですか?」


 学校といっても日本のような義務教育はない。


 学校に通うのは騎士の家系が多く、冒険者の多くは通っていない。それでも簡単な読み書きは学校以外で教えているそうなので、依頼書に書いてある文字程度は読めるそうだ。
 この世界の学校についても、簡単に調べたので覚えている。学校に行っていたかどうかは、調べられてしまう可能性もあるので、首を振っておく。


「俺は家族に教えてもらったんだ。この街にはいないけどね」
「凄い人なんですね。あの、これ読んでもらっていいですか?」
「これは……討伐依頼だね。エアストから南東にある湿地帯にでる亡霊騎士が落とす石を集めるみたいだよ」


 魔石ではないようだ。武器などに使う鉱石ブレイバスという名前だ。聞いた途端、アリスの表情が暗くなる。


「そうなんですか……私には厳しそうですね」
「戦いは苦手なの?」
「はい。私は荷物持ちのスキルを活かして、荷物持ちとしてパーティーに入るんですけど、戦いはあんまり得意じゃないです」


 ならばこれはいい機会だ。まだ早いかもしれないが、智也は出来る限り穏やかな笑みを浮かべ、


「なら、俺たちのパーティーに入らない?」


 切り出せた。


「パーティー……ですか?」


 きょとんとアリスは目をぱちくり。アリスに集中していると、背中を引っ張られる。


「ちょっとあんたふざけるな。あたしは人と関わるのが嫌いなのよ」
「喋れないのか?」


 案外人見知りなところがあるのかもしれない。思い出せば、昨日も前も智也は自分以外と話しているクリュをあまり見ない。
 彼女が話すときは戦いに関係するときくらいだ。
 クリュが無愛想な態度をとったときの言い訳として使っていたが、実は本当なのかもしれない。
 智也がニヤニヤと笑っていると、クリュが腰に手をあて目に力を入れる。


「喋れるわよ」


 ならば、彼女の負けず嫌いを利用させてもらう。


「ならいいだろ」


 クリュはむっとしたが、それからは何も言わずに黙った。


「あの、いいんですか?」


 クリュに気づいたのか、アリスがおずおずとしているので智也は後押しする。


「うん、いいよ。俺たちは戦いは得意だけど、ちょうど……荷物持ちが欲しかったんだよ」


 荷物持ちというと、悪いイメージがあった。智也は言いづらそうに視線をそらす。


「そう、なんですか? だったら、あの一緒に行ってもいいですか?」
「もちろんいいよ」


 「なあ、クリュ?」と言おうとしてやめた。同意を求めれば絶対に否定の返事が返ってくる。彼女は空気を読めない。


(な、なんだこのプレッシャーは)


 クリュから体を潰されるような怒りをぶつけられる。智也は無視して依頼の紙をはがし、ギルド員に持っていく。


「あ、アリスさん調子はどうですか?」


 よく智也が話す人だ。


「はっ、はい! その色々してくれてありがとうございます!」


 ぺこりとアリスがお辞儀すると、ギルド員はいえいえ仕事ですからと微笑む。


「亡霊騎士が落とす鉱石の収集ですか……大丈夫ですか?」
「大丈夫とは?」


 そこら辺の魔物に負けるほど弱くはない。


「亡霊騎士自体はそれほど強くありませんが、まだ冒険者としては駆け出しですよね?」


 ギルド員は少々言いづらそうにしながらも、はっきりと言い切った。
 以前にレベル関連の話はした。智也はまだそこまで強くはないということになっている。


「ああ、大丈夫です。クリュがかなり強いんで」
「そういえば、そんな話をしていましたね」


 まだ不安そうにしているが、一応納得してくれたようだ。依頼を受けるために契約金を払ってから、正式に依頼を受ける。依頼書に印を入れてもらう。


「アリスさんに何かありましたら、後で覚えておいてくださいね」


 ニコリと表情は笑っているが、声はどこか威圧するようである。
 もちろん怪我させるつもりはない。


(この人、過保護だよな)


 ギルド員の気遣いに感謝しながら、智也は戦いのために気を引き締めなおす。フィールドに行くのならとアリスは一度家に戻る。
 智也たちは装備を整える必要もないので、ギルドの前で待っている。


「あいつ、なんか小さいわね」
「ずっと見ての感想はそれだけか?」


 確かにアリスは小さいが、年齢がわからないので普通かもしれない。


「つーか、お前本当に喋らないな。やっぱり喋れないんじゃないか?」
「誰が。あたしは話せるわよ。あの子が話したくなさそうにしているから気を遣ってんのよ。そのくらい、分かりなさいよ」
(たぶん、アリスは俺よりも話したいと思ってるぞ)


 アリスはまだ男が苦手だ。女であるクリュと話すほうが、気分はラクだろう。


「トモヤさん? お久しぶりですね。今日も仲良くデートですか?」


 ギルドの前で人を眺めていると、騎士の護衛つきのリリムさんがやってきた。
 遠くから先に発見して、隠れてしまおうかと考えていた智也だが、リリムさんが嬉しそうに顔を緩めたので、逃げ出せなかった。


「からかわないでくださいよ、リリムさん」


 智也は腰に手を当ててはぁとため息をつく。リリムさんは嬉しそうに口元を手で隠す。


「これから、依頼か塔迷宮ってところですか?」
「依頼を受けに行きますね」
「そうなんですか、がんばってくださいね」


 リリムさんと話をしていると、アリスが戻ってきた。きょろきょろとこちらを窺っていて、リリムさんも気づいて頭を下げる。


「それでは、私も用がありますから、これで」


 智也も頭を下げてから、リリムさんの背中を見送る。すぐに視線をアリスに戻す。
 大きな鞄を背負い、腰の辺りにはクロスボウも見える。


「ま、待たせてすみませんでしたっ」
「別にいいよ。それより、鞄大丈夫なの?」
「はい、問題ありませんっ」


 元気よく走ってきたのだから、大丈夫なのだろうけどそのうち潰されるんじゃないかと不安が拭えない。
 智也はジーっと鞄を見る。あれだけでもそれなりに重いが、アリスは平気そうに持っている。不思議だ。


「トモヤさんとクリュさんは武器を持たないんですか?」
「あたしは持ってるわよ」


 クリュがスカートの裾をめくり、装備されているナイフを一本手に持つ。太陽の光を反射する健康的な太股に、智也は一瞬目を奪われるが、慌てて逸らす。


「俺も、一応な」


 手を後ろに隠してから、右手に黒い剣を出現させて前に戻す。


「そうでしたか、すみません」


 納得がいったようなので、目的地であるライグル湿地の場所へアリスに案内をしてもらう。 
 智也もクリュも場所を知らないので、アリスが頼りだ。
 転移魔法によって移動することも考えたが、歩いていける距離らしい。


「鞄、大きいな」
「あんた、しつこいわよ。あの子あれで大丈夫だって言ってるじゃない」


 クリュが苛立ったような声を出して、腰に手を当てる。クリュは納得しているようだが、地球人である智也は理解不能な現状にまだまだ驚きが消えない。


(あの小さい体のどこにあんな力があるんだよ……スキルって怖いな)


 アリスが小首をかしげながらこちらを見る。


「荷物持ちの人をパーティーに入れたのは初めてですか?」
「いや、俺が何回か荷物持ちをしたことあるよ」
「でも、トモヤさんはスキルを持っていないんですよね? 大変じゃないですか?」
「まあね」


 体力が限界に近づくと歩くのもしんどくなる。背中の荷物をすべて投げ捨ててやりたい衝動にもかられた。


「スキルを持ってると本当に楽なんです。心配は無用ですよ」


 アリスが心配してくれてありがとうございますと頭を下げる。智也はそれでも首を捻っていたが、今さらかと無理やり儀見に自分を納得させる。
 ライグル湿地に向かう途中薬草なども集める。


「トモヤさんは、調査のスキル持ってるんですよね? 凄く便利ですね」
「調査があるからあんまり詳しく勉強しようとは思わないんだけどね」
「手間が省けていいじゃないですか。いいなぁ、私も調査のスキル欲しかったです」
「いやいや荷物持ちでも十分だよ」
(他の人には見えないけど、もっとスキルもあるんだし)


 アリスのスキルを、いつ本人に告げようか迷う。これだけの有力なスキルをアリスが知れば、他のパーティーに参加してしまうかもしれない。
 智也たちよりも、強くて経験を積んでいるパーティーはたくさんある。ただ、いつまでも黙っているわけにも行かないだろう。機会を作ろう。
 仲良くなるのが最適なので、クリュには頑張ってほしい。男である智也には限界がある。
 ちらとクリュに顔を向けると、肩で切りそろえられている髪を指に巻いて遊んでいる。こちらに気づくと、挑発するように唇を僅かにつり上げる。


「へらへら、鼻の下伸びてるわよ? 将来は犯罪者ね」


 クリュの発言に智也はむっとした表情になる。


(別に小さい子が好きってわけじゃねえよ)


 気持ち的には娘に褒められる父親な気分だ。智也はそう言ってやろうとしたが、クリュが理解できるとも思えない。
 話を逸らすように智也はアリスに顔を向ける。


「ライグル湿地ってどんな場所かわかる?」
「そうですね……歴史的に見ると、ライグル湿地はその昔廃人族とその他の種族の戦いによって歪んでしまった土地だったはずです。足場が酷い場所もあるので、気をつける必要があります。場所によっては足が沈んで、動きを邪魔します」
(廃人族、ねえ)


 特徴は体に魔石があること。
 昔は仲が悪かったのかもしれないが、今はそこそこ仲もよくなっている。
 まだ差別は残っているが、それは過去に何かしらがあった人たちだ。
 智也にとっては危険だった種族、程度の認識しかない。


「アリスは物知りなんだね」


 智也もこちらの世界に来てから、基礎的なことを勉強していたが、細かい歴史までは知らない。
 手放しで褒めると、えへんと胸を張った――ああ、純粋な子だよな。


「鼻の下」


 クリュの指摘に智也は頬をかいて誤魔化した。アリスが持ち直すために、ジャンプすると鞄が揺れる。
 やはり、大きさに不安が残る。


「本当に鞄重くない?」


 アリスの体とは不釣合いに大きいリュックサック。智也が買った物と似ているが、アリスが自分で買ったモノらしい。


「だいじょうぶです! 私にとってこのくらいは軽いくらいですからっ」


 その場でぴょんぴょん飛び跳ねるが、アリスはジャンプによる疲れ以外はなさそうだ。


「トモヤさんって心配性ですね」
「別に、そういうわけじゃないよ」


 しばらくエアストの街から南東に進んでいくと、景色が変わっていく。
 ここまで一度も魔物と遭遇しなかったのは珍しい。


(クリュの目つきに恐れて逃げたのか)


 魔物と戦いたそうに目をぎらぎらとしているのでそれも無理はないだろう。
 そして――、


「ここがライグル湿地です」


 あまり綺麗な景色ではなかった。
 どろどろとした土には水が含まれているようだ。あちこちに苔のようなものが生えていたり、葉が浮いている。


 廃人族と言われる理由は、彼らが通った道は廃れるからだ。確かにこの湿地を生み出した原因が廃人族ならその理由も少しはわかる。
 試しに土を踏んでみるが、そこまで足場は悪くない。


 ただ、明らかに悪そうな場所があり踏んで見ると一気に沈んだ。靴に汚れがついたが、それ以外は問題ない。


「これ結構危ないな」


 戦いの中では、この一瞬が危険だ。


「みんな、気をつけてくれ。戦いのときにうっかり踏まないようにな」
「わかってるわよ、あんたこそ」
「お前だって意外と抜けてる部分があるんだからな。ベッドのときとか」


 脳内にはベッドから転げ落ちたクリュがいる。
 クリュも思い出したのか、頬を染めて、


「あれは違うわよ。あのときは調子が悪かっただけよ」


 バツが悪そうに視線を逸らす。智也たちの会話を見ていた、アリスがくすりと口元に手を持って行き笑い声をあげる。


「仲いいですね、二人とも」 
「いや、そうでもないよ。アリスこそ気をつけてね」


 実際殺しあった仲だ。決していいとは言えない。智也も強さという利点がなければとっくにおさらばしている。


「私は一度だけ来たことがあるので大丈夫です」


 誇らしげではあるが、少し寂しそうに胸を張る。だが、ない。


「前も同じ依頼?」
「いえ、違います。この付近の魔物を倒す依頼だったのですが、ついでにここの魔物とも戦ってみたいと仲間が言って、その、結局勝てずに逃げましたけどね」
(少し、思い出させちゃったかな)


 表情にはっきり出ていないが、暗い感情を隠すように見えた。


「まあ、いいや。クリュ戦いになったら頼むぞ」


 クリュはふんと鼻を鳴らして歩き出してしまった。一歩目で転びそうになっているのを見るに、やはり不安だ。
 慎重に進むと、途中で地面が盛り上がる。そこから汚い鎧に身を包み、右手にあちこちが欠けた長剣を持ったモンスターが出現した。
 首から上はない。少し、かっこいい。


「亡霊騎士ですっ、依頼にあった魔物です」


 調査を使い確認する。亡霊騎士で間違いないようだ。
 智也は剣を生み出す。


「剣を作ってるんですか?」
「そういうスキルなんだ。珍しいからあんまり人には話さないでほしいかな」
「わかりました」


 アリスもクロスボウを構える。亡霊騎士はどこかゆったりとした様子で剣を構えてから、一気に駆けてくる。
 地面についていないのか、足跡がない。


「クリュ、一人で大丈夫か?」
「当たり前よ、弱点は打撃だから」


 亡霊騎士の剣とかち合い、智也は力の入れにくい足場に顔を顰める。智也のほうが力はあるが、足場が悪く全力を出せない。
 力を受け流すように長剣を弾くと、


「三秒後撃ちますっ」


 アリスは武器である赤い色をしたクロスボウを構える。智也は亡霊騎士から体をずらす。つられるように亡霊騎士が智也に体を向けたところに矢が発射される。


 亡霊騎士の鎧にあたり、弾かれる。クロスボウの貫通力でも突破できないようだ。ぼろそうなわりに頑丈だ。亡霊騎士は攻撃をくらい、アリスのほうに体を向けようとする。
 剣をハンマーに切り替える。切り替えにかかる時間もどんどん短くなり、今は一瞬で作れている。


 大きなハンマー。扱うのに力が必要で、攻撃に隙が生まれやすいので、いつもはこれだけのサイズの物は作らない。
 相手が隙だらけだったので、智也はお構いなしに叩きつけさせてもらった。


「よし、倒し――」


 と思ったら、今度は違う亡霊騎士が浮き出る。智也は慌てて剣に切り替え、長剣の一撃を受ける。
 そのまま離れようと動き、


「わっつ!?」


 足場が沈んでしまい智也は転びそうになる。転がりながらも、スピードを発動させて片手を地面につける。
 滑るようにして、剣の攻撃を回避して足場を確認する。
 目で見れば、なんとなく沈みそうな場所はわかる。だが、戦闘中まで気を配るのは中々難しい。


 さらに、アリスの武器であるクロスボウは接近戦は不得手だ。敵をアリスへ行かせないためにも、視野を広げて戦う。やることが多くて、大変だな。


「弱点を教えてくれっ」


 戦いを効率よく進めるためにもクリュの助けは必要だ。
 クリュはだるそうにだが、余裕そうに亡霊騎士と戦っている。


「打撃、右膝」


 すぐにクリュは目の前の敵に集中する。時々笑い声が聞こえるので、こんな足場でも楽しんで戦っているようだ。人型だとクリュの淡白な指示でもわかりやすい。
 亡霊騎士の振るった長剣をひきつけてからよけ、懐に飛び込む。


 剣を棒に切り替え、なぎ払うように膝を打つ。よろけたところで、くるり。
 智也は回り、威力の増した棒を叩きつける。亡霊騎士の体が崩れ落ちた。
 鎧などは地面に飲み込まれ、魔石だけが残る。これは目的の鉱石ではない。魔石のランクはE。中々の敵だ。
 魔石を拾ってアリスに渡すと、彼女は早速鞄にしまった。


「ここの敵、弱いわね」


 クリュは魔石を複数持ってきてアリスの鞄に入れている。クリュはまだまだ余裕そうだ。


「アリスはまだ戦えそうか?」
「えと……私何もしてないです」
「いや敵を引きつけてくれたから、俺も戦いやすかったよ」


 一度休憩しようと智也はどこか落ち着ける場所を探そうとする。邪魔するように周りを亡霊騎士が囲んできた。


(ちょ、ちょっと出すぎだろっ!)
「ふぅん、あんまり強くないけど、これくらいでると楽しそうね」


 クリュが拳を構え、楽しそうに笑みを漏らす。


「アリス俺から離れるなよっ!」


 智也は両手に剣を生み出し、アリスに襲い掛かった亡霊騎士の剣を受ける。
 左で受け、右でがら空きの腕を狙う。


「クリュさんは!?」
「あっちではしゃいでるっ!」
「つ、強いんですね」


 アリスも隙をついてクロスボウを撃つが相性が悪い。時々鎧にささるが、ほとんどが弾かれてしまう。荷物を背負ってこれだけ動けるのだから十分だろう。


「クリュ弱点を教えてくれっ」


 クリュは目の前の亡霊騎士を踏み潰しながら、こちらをだるそうに見る。


「左から、左手、首のつけね、右肩、背中の真ん中あたり」
「ありがとなっ」


 剣から拳銃。
 四体の亡霊騎士のうち一番近い敵の左手を銃弾で打ちぬく。これだけ敵がいるとなると、全体攻撃魔法が欲しくなる。
 銃弾により亡霊騎士は鎧を崩して地面に埋まる。弱点を突くだけでかなりの威力を発揮する。
 右肩を打ち抜き、もう一体を倒す。


 それから首のつけねも撃つが、倒しきれず左手の剣で受けながら、拳銃を小さいハンマーに切り替えて殴りつけた。
 智也の右手にじんわりとした衝撃が襲うが、大したことはない。ハンマーから剣へ。
 横から切りかかってきた亡霊騎士を受ける。


「アリスッ、背中から撃て!」


 ちょうどアリスが動いていたので指示を出すとすぐに発射される。矢は刺さらなくても衝撃によるダメージが入っている。よろめいた亡霊騎士をすり抜け、背中に剣を突き刺す。
 両手の武器を合わせて棒を作り出し、回転と同時に叩きつけると亡霊騎士が死んだ。


「ひとまずはこれで終わりだな」


 クリュと合流するとアリスが興奮気味に声をあげる。


「二人とも、若いのに強いんですねっ」
(アリスだって、十分若いだろ)
「まあ、ね」


 可愛い子に褒められると少し照れくさい。


「別に、あのくらい普通よ」


 そういうクリュは顔をそっぽに向ける。少し、頬が赤い。アリスは気づいていないようだが、智也はクリュの様子にくすりとしてしまう。


「なによ」


 ちょっと苛立ったようにこちらを見るが、智也はなんでもないと片手をあげる。


「あ、一つ言い忘れてました」
「どうしたの?」
「亡霊騎士って、人間の生命みたいのに反応して生まれるんです。あと、仲間がやられると群がってきます」


 ぴんと指を立てて、アリスがえへんと胸を張る。つまりはこの一帯の亡霊騎士を全滅しないかぎり、ずっとやってくるということか。智也はふうと息を吐いてどうするか考えようとして――。
 アリスの背後に亡霊騎士が現れ長剣をアリスへと振り下ろそうとするのを見て、もう一度剣を構える。


「クリュっ!」


 智也ではわずかに間に合わない。アリスに近いクリュへ叫ぶ。


「チッ、どんくさい子ねっ!」


 クリュがアリスを突き飛ばしながら長剣を白刃取りする。
 マジかよと驚きながらも、智也は飛び込み剣を構える。


「右胸」
「人間らしいなっ」


 智也が鎧を砕いて剣を差し込む。亡霊騎士が崩れ落ちるが、またもや湧き出てくる。
 確かに、駆け出しの冒険者が入り込めばあっさりと殺される。智也は改めて気合を込めて、剣を構え、拳銃を一つ作る。


「アリス、拳銃の使い方はわかるか?」


 智也のは扱いやすい。引き金を引き続ければ銃弾があるだけ消費される。
 威力が高いわりに衝撃も少なく、誰でも慣れれば扱いやすい。


「えっと、拳銃ですか?」
「さっき俺が使った遠距離攻撃なんだけど」
「トモヤさんのを見て少しはわかりましたけど……」


 不安は残るかもしれないが、智也はアリスに拳銃を手渡す。


「さすがに狙いをつけるのは難しいと思うけど、俺たちが銃口の先にいなければ撃っていいから。ただし、六回しか撃てないから気をつけてね」


 詳しい説明をしてやりたいが、敵がわんさか出てくるこの状況では無理だ。
 智也は両手に剣を生み出し、左手は逆手に持つ。敵によって切り替えるが、攻撃を受け流すのだけを考えれば、逆手のほうがやりやすい。


 亡霊騎士の攻撃を左手で受け流して、右手の剣を突き刺す。
 左から襲い掛かってきた敵の剣を受ける。
 隙をついて切り刻み、クリュの指示を受けて弱点を狙っていく。敵を一掃してから、そそくさとアイテムを回収して、


「撤収、撤収! ちょっと一回休みたいっ」

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