魔法転生 転生したら魔法だった

木嶋隆太

最終話



 来世はどうなるのかね……と俺はこれからを考え――


「待て! 待つのだ!」


 金属音が俺の耳に届く。なんだ?
 目を開けると、のけぞる鎧女がいた。さらに視線をずらすと、大きな胸が飛び込んでくる。


「よ、よかった間に合ったな!」


 言って俺に語りかけたのは……以前助けた女性だ。
 え、え?


「……あなた、何?」
「私はヨルだ!」
「違う。何をしにきたの?」
「こいつに会いに来たのだ!」
「なんで?」


 問われ、ヨルはむむむと首を捻る。
 戦いの決着を邪魔されてか、鎧女の不機嫌は高まっていく。
 そして周囲に目をやる。


「なんで誰も部外者を止めない」
「あなたの魔力にやられて誰も満足に行動できないんです……! ……おえ!」
「使えない」
「もうあんたの部下やめてやりますー!」


 鎧女は随分と自分勝手な奴だ。嘆息交じりにヨルを睨みつける。


「とにかく、邪魔。あなた、法を犯しているの分かっている?」
「むむ……?」
「野良魔法狩りの妨害は、罰金に当たる」
「むぅ……そういえばそんなものが……」


 ヨルは悩むようにこめかみに手を当てる。それから腕を組み、たわたに実った胸を見せつける。
 おお、下からだといい眺め。そういえば、スカートの中も見える。ピンクの可愛らしいものだ。


「……とにかく、邪魔!」


 強く鎧女が叫びを剣を振り上げるが、ヨルはばっと片手を向ける。


「そうだ! これは野良魔法ではない!」
「……なに?」
「こいつはだな……ええと、私の契約魔法だ! ふむいい考え!」


 最後をばっちし口にしなければな。
 俺が呆れていると、鎧女はその剣を下ろししばらく顎に手をあてて悩む。


「……この子。明らかに馬鹿……けど、あの魔法をこのまま殺すのも惜しい……また後で戦いたいし……」


 恐らくヨルと同格の馬鹿である鎧女がぶつぶつと呟く。


「隊長……あの私たち最近全然成果あげられてないし、ここで見逃すのは……」
「どうとでもなる」
「なりません! ぶっちゃけこの子絶対今思いついたって感じですよ!?」
「ぎ、ぎく……そんなことはないぞ! ずっと考えていたのだ!」
「考えていたって嘘だったら意味ないんです! というかもうこのまま無理やり処分してしまいましょうよ! 今月の書類本当に書くことありませんよ!?」


 こいつはこいつで危険だぞ!
 俺はようやく少し動くようになった体を起こすと、ヨルが庇うように俺の前に立ってくれる。
 頭の悪さが目立つ発言ばかりしていたが、その背中は非常に頼もしく見えた。
 と、顎に手を当てていた鎧女がポンと片手を叩く。


「待って。今の目撃者は三人しかいない。私、ヨル、あなた」
「……はいそうですね。誰かの魔法のせいでみんな気絶しちゃってますよ」
「つまり、野良魔法は処分した。こうやって上に報告しても目撃者は私たちだけなのだから問題ない」
「……嘘ついて、そして野良魔法はこのヨルって子に任せるんですか? 一応契約さえすれば大丈夫ですけど……この子信用していいんですか?」


 そりゃあそうだ。ぱっと出てきた女に野良魔法を任せるのは普通なら考えられない。
 ヨルはふふんと自慢げに腕を組み、ぐっと鎧女も親指を立てる。


「大丈夫。彼女は信用できる」
「根拠は?」
「私が楽しめそう」
「何の根拠にもなりませんよ!! ……ああもう! 責任の全部を隊長が背負うならいいです! 私は周囲に結界でも張ってますから後は勝手にやってください!」
「わかった。というわけで後はヨルに任せる」


 言って鎧女はその場で座り込んだ。
 ヨルは俺を腕に抱えて、そのまま二階層へと歩いていく。
 ……え、マジで終わりなの?
 俺の決意はどこにいったの? 死ぬんじゃないかって思ったんだよ?
 決死の覚悟で、全力で戦って……んで幕引きがこれか?


『ざっけんなぁぁ!』
「む、どうした?」
『あのな! 俺はだな――』


 俺はそこで、ヨルの腕の傷に気づく。足や腕には見える範囲でもそれなりのかすり傷が目立った。


「どうしたのだ?」


 黙りこんだ俺にヨルが首を捻る。
 なんというか、思いのままをぶつける気持ちが薄れてしまった。


『なんで……怪我してるんだ?』
「これか? 途中何度かウルフやバードに襲われたのだ。私は逃げてきたのだが……何度か攻撃を受けてしまってな」
『魔法は……使わないのか?』


 ヨルは鼻頭を照れたようにかく。


「使えないのだ。以前落ちこぼれと言っただろう? 私は契約が出来ないから落ちこぼれなのだ」


 俺は黙り込んでしまった。
 こいつは……三階層にこれる人間じゃない。
 下手したら一階層も無理で……たぶん、冒険者失格の烙印を押されるほどの落ちこぼれなのだろう。
 ……もしかしたら死ぬかもしれない。
 そんな状況なのに、俺を助けにくるなんて……馬鹿かよっぽどのお人良しだ。


『どうして……助けにきたんだよ』
「ふむ、何かおかしいか?」
『だって死ぬかもしれないんだぞ?』
「おまえが死ぬかもしれなかっただろう?」
『……なんでそれで助けに来れるんだよ』
「一度命を助けてもらった。助ける理由が他にいるのか?」


 きょとんと、ヨルは平然と言ってのけた。
 ……一度助けた。
 俺にそんなつもりはなかったんだけどなぁ……。
 なんだかがくりと体から力が抜けてしまった。俺は彼女の肌の柔らかさに意識をさくことだけに集中した。


「……一つ、よいか?」
『なんだよ?』
「さっきの……契約魔法についてなのだが……わがままを言ってもいいだろうか?」
『わがまま?』
「……その、だな。私と契約をしてくれぬか?」


 ヨルは俺のほうを見下ろしてくる。
 美しい目だった。彼女の澄んだ目を向けられると、欲にまみれた俺は消滅してしまいそうだった。
 断る理由なんてない。だって、俺の目標であった美少女なのだから。


『……別にいいぞ』
「ほ、本当か!?」
『だけど……今の俺は最弱の魔法だ。さっきの戦いで全部の力を失っちまったんだ』
「それでも構わぬ! 魔法が使いたいのだ!」
『それなら構わないが……』


 そういってヨルは嬉しげに体を震わせ、それから犬のようにその場で走り出した。
 ……こいつ大丈夫か?
 契約の相手としては見直したほうがいいのかもしれないが、俺はそれでも彼女にしようと思った。


『契約はどうやってやるんだ?』
「そ、そうだったな! 今から行うからじっとしているのだ!」


 ヨルはうきうきとした様子で俺を離す。ようやく動かせるようになった体をぷかぷかしていると、ヨルが手を向けてくる。


「我の名はヨル。これより汝と契約をする者である。汝、契約してくれるか?」
『ああ。俺の名前は……』


 地球での名前か、それとも新しくでっち上げようか。
 いや、別に地球の名前でいいか。


『俺はマサキだ。もちろん、契約するぜ』


 俺が返事をするとヨルの右手が薄く光る。そこに魔力が集まっていき、やがて小さな紋章を作り出す。
 ヨルはそれを見て驚愕といった表情を作る。
 それからばっと両手を天井へあげる。


「……契約できた! できたぞマサキ!」
『やったな。……で何か変わるのか?』
「ふむ、よくわからん! だが、これで夢に近づける!」
『夢?』
「ああ、英雄になるのが私の夢なのだ!」


 心が晴れるような笑顔とともに、ヨルは手を腰にあてる。
 英雄か……また仰天するようなことを言うな。
 そんなこいつを支えるのなら――


『なら俺は……世界最強の魔法になるよ。それで、ヨルの夢の手助けをしたい』
「お、おおっ!? 本当かマサキ!」
『ああ』


 俺の言葉に、もうヨルは嬉しそうに抱きしめてくる。お、おっぱぁい。


「マサキっ! これからよろしくな!」


 ……色々なことがあったが、魔法の体も悪くはなさそうだな。


『ああ、よろしくなっ』

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