魔法転生 転生したら魔法だった

木嶋隆太

第八話 順調



 女性を完全に信用したわけではなかった俺は、三日間大人しく過ごしていた。
 もしも魔法狩りの連中がやってきたらを想定して、いつでも迷宮外に逃げられるようにしていたのだが、そんなことはなかった。
 ……さすがに三日も余裕をみれば大丈夫だろう。


 野良魔法の扱いは結構厳しいものがあるため、部隊を編成してから討伐まで早いはずだ。
 三日も放置しておくはずはないので、俺は久しぶりの狩りへと向かう。
 一応人のいない時間帯には狩りをしていたが、隠れながらのためにほとんど成長していない。


 人の目から隠れるように、二階層でバードとウルフを狩っていく。
 一階層に比べてウルフも強くはなっているが、二発の魔法で沈む。バードは威力重視のアクアボールで一撃だ。狩りやすくて俺は大満足だ。
 半日ほど狩りをしたが、ランクアップすることはない。
 ……そこで少しの疑念がわく。


 魔法によって、ランクアップの限界は決まっているらしい。
 これは完全ランダムで、どんな天才にも見破ることが出来ない。
 ……俺、ランクアップ限界来てないよな? 経験値がたまっているのは分かるので、たぶん大丈夫だと思うが。
 不安を感じた俺は、トロール狩りを行うことにする。三日間休んでいたこともあり、体力は有り余っている。
 さっさとランクアップをしたいという思いが俺を急がせたからか、すぐに目的地へ到着する。昔の俺は冒険者についていくしかなかったが、今はちょちょいのちょいだ。
 戦闘まではこなせないが、逃げるだけならば問題ない。


 ボス部屋へと繋がる魔法陣で俺は冒険者を待つ。
 俺が一人で入った場合にどうなるのか分からない。……ボス部屋に一人で待機しているときにトロールが出現することがなかったので大丈夫だとは思うのだが、もしも戦うことになったらたぶん死ぬ。
 仮に逃げ続けられても、次に入ってきた冒険者が訝しむだろうしな。


 五分ほど待つと六人組みの冒険者がやってくる。全員学園の制服を着ている。共に中に入ると、すっかり見慣れたトロールが威嚇するように棍棒を振りかざす。
 なんだか懐かしい。旧友に出会えたかのような心境だ。前世でそんな体験は一度もないが、たぶんこんな感じなんだろうな。
 冒険者たちが前衛と後衛に分かれ、その様を見守る。
 この布陣ならば、トロールがどれだけ頑張っても勝つことはできないだろう。


 後衛の魔法を分析し、エネルギーショットの用意をする。火に相反するアクアボールでも出来ないわけではないが、難易度が跳ね上がる、らしい。
 聞いた話ではあったが、エネルギーショットの合体魔法でも倒せることは分かっているため、わざわざ難しい方を選択するつもりはない。


 トロールがよろめき、体力の限界が近づく。
 冒険者が放ったファイアーキャノンにあわせ、エネルギーショットを撃つ。
 ファイアボールを強化したようなファイアーキャノンに合体するのは大きな負荷だ。
 それでも初めてのときよりかは簡単だ。俺がくらいつくと、わりかし簡単に合体に成功する。
 一度成功すれば後は離されないようにするだけだ。
 トロールの上半身を弾き飛ばし、体に流れ込んでくる大きな力に満足する。
 ランクアップはしていないが、ウルフやバードを狩るよりも全然早い。


「あなた……いつのまにそんな威力の魔法を……」
「ち、違います! おかしいなぁ……」
「ほら、んなこといいだろ? さっさと素材回収してこようぜ」
「……そうね。行きましょうか」


 以前の合体魔法は目立つような強化はなかった。本当に添えるだけだったのだ。
 今は、二倍くらいに威力を強化してしまう。威力が高いのは本来なら嬉しいのだが、冒険者たちが違和感を覚えるほどになると、うかつに合体魔法も使えないぞ。
 しばらく休憩し、次にやってきた冒険者を狙う。また学園の冒険者たちか……。制服可愛いからいいけど。
 今回は合体魔法はやめ、俺だけの力でトドメをさしてみるか。


 合体魔法がばれる危険性をはらんでしまったのだから、こちらを試してみるのも悪くないだろう。
 もともと、俺の魔法が弱すぎて合体魔法という方法をとっていたのだ。強化された今ならば、自力で倒せるかもしれない。


 冒険者たちが弱らせていくのを観察しながら、俺はトロールの背後に回る。
 ちらちらとトロールが俺を見ている気がしないでもない。冒険者たちがいないスペースに陣取り、俺はチャンスを窺う。
 トロールが消滅寸前になったところで、俺は魔法となる。
 アクアボールは目立つためにエネルギーショットだ。速度やサイズを少なめに抑え、威力だけを強化する。
 手の平にのるようなサイズのエネルギーショットとなり、トロールの背中にぶつかる。
 ゴリゴリと骨でも削るような音ともにトロールが逆くの字に体をよじり消滅する。


「……なにかしら今の?」
「さ、さぁ? さっきの攻撃で弱ってて死んだんじゃねぇの?」
「そうそう。ほら、学園の試験だって時間ないんだから、さっさと素材回収しようよ!」


 やけに制服の人間が多いのはそんな試験があったからか。
 ……そうなると、もしかしたら以前助けた女性がいるかもしれないよな。
 前回は命を助けるという勘違いによって見逃してもらえたが、次はどうなるやら……。
 まあ、冒険者を観察してから戦いを挑めば問題ないだろう。あの女性がいたら、木の中に隠れていればいいんだ。
 それよりもだ。


 ぐっと俺は喜びを噛み締めるかのように、体へ力が入る。
 ようやく横取りではあるが、自力の魔法でトロールを狩れた。
 ……これならば、第七階層のボスと戦えるかもしれない。
 そう思ったらすぐに行動だ。冒険者たちに合わせて、俺は第七階層へと向かっていく。


 五階層までは安全に移動できる。この迷宮は第五階層までバードとウルフしか出現しないため、移動だけなら余裕だ。
 地下六階層に入り、新しく発見したダブルゴリラに見つかる。


『ひぃぃっ!』


 一番あってはいけないのに出会ってしまった。慌てて逃げていく。
 ダブルゴリラは頭が二つついた魔物だ。一つが前を見て、もう一つが後ろを見ているという俺にとって相性が最悪の魔物なのだ。
 いつもの俺の戦法は敵の背後からの奇襲で一撃、敵が怯んでいる間に二撃目を加えるというものだ。ダブルゴリラが相手となると、この戦法がとれなくなる。
 ダブルゴリラは腕と足を器用に使い、どんどん加速して近づいてくる。
 俺はようやく見つけた冒険者のほうに逃げていく。


「ねぇ、ダブルゴリラが来たわよ!」
「なんですって!? すぐに戦闘準備をするわよ!」


 女性たちのパーティーはダブルゴリラがなぜこちらに向かってきているのか気づいていないようだ。ホッと俺は彼女らの後ろに隠れる。
 オンラインゲームとかでやったら嫌われる行為ではあるが、ばれなきゃいい。
 死なれても寝覚めが悪いので、俺はいつでも魔法を撃てるように待つ。
 六階層にいるのは散歩というわけではないようだ。冒険者たちは突然の戦闘になっても落ち着いてダブルゴリラを討伐した。


「ふぅ……なんとか勝てたわね」
「そうですね。それよりも、早く七階層に向かいましょう」
「そうね」


 おっ、こいつらも第七階層が目的地なのか。彼女らから離されないように移動していくと、偶然彼女たちも第七階層のボス部屋へと向かっていった。
 もちろん俺もボス部屋までついていく。
 トロールの場所と同じつくりのボス部屋。使いまわししてんじゃねぇと思いながら、出現した木の魔物を注視する。
 びりびりと魔力を感じたが、初めてトロールと対面したときほど実力差は感じない。
 これならば、合体魔法さえ成功すれば狩れるだろう。
 ……それにしても、やっぱり火魔法にするべきだったかもなぁ。いやいや、水魔法の夢だって捨てるわけにはいかない。


「ビッグウッドが出ました!」
「よし、いつも通りいくわよ!」


 リーダー格の女性が叫び、三人のパーティーが散らばっていく。前衛一人、後衛二人だ。魔法が強いこの世界ではよく見る配置だな。


「エンチャント・ファイア!」


 リーダー格の女性が前衛の武器に魔法をかける。前衛の女性が持っていた剣が燃え盛るように赤く輝く。
 炎の剣もかっこいいな。その剣でビッグウッドを斬ると、斬った部分に火の線が走る。
 おお、かっこいい。俺もあんな感じの魔法を使ってみたいと、火魔法へ揺れる心を自覚しながら戦闘を見守る。
 今回は調査に徹底するつもりだったが……チャンスがあればしかけてみるのもいいかもしれない。


 俺はエネルギーショットを用意して、後衛が放っているファイアーランスを分析していく。
 ビッグウッドが大きめによろめく。あれはトロールにも似たような挙動があったな。
 女性のほうへと近づき、俺は発射のタイミングを待つ。


「ファイアーランス!」


 女性が叫び、槍というかはファイアドリルと敬称したほうがいいような魔法を放つ。
 俺も似たようなものへ体を作り変え、ファイアーランスと並走する。


 あくまで俺はファイアーランスという魔法の強化のためだけに存在しているのだ。
 とにかく、ファイアーランスを特化することだけを意識して、いつも通りに合体する。
 最近では弾かれることも少なくなっている。俺だって、彼女らが使っている魔法にも比肩するようになったのだ。
 最弱だからって捨てんなよっ。横取りすれば強くなれるんだ!
 横取りしている時点で他の仲間からは嫌われるだろうけど……。


 ファイアーランスの周囲を白い粒子の俺が回る。回転力を強めた一撃によって、ビッグウッドの胸を貫く。
 ありゃま、まだ倒しきれてないか。まあ、初めてだし失敗は仕方ないだろう。
 と、次の冒険者でも待つかねと思っていると、


「はぁ……!」


 女性はさらに腕を振り、ファイアーランスをもう一度誘導する。
 俺の身体が引っ張られ、振り払われそうになる。慌てて吸い付き、ビッグウッドを背中から貫く。
 急だったため、合体魔法としての威力は下がってしまったが、ビッグウッドは消滅した。


 人によって魔法の使い方が本当に違うな……。操作精度を強めているファイアーランスは初めてだ。
 彼女らは可愛らしくハイタッチをしてから素材を回収していく。
 ……俺もハイタッチしたい気分だったので、近くの木に体をぶつけておく。


 だって、ランクアップの表示が出たのだ。喜んでも当然だと思う。
 あっさりと倒しすぎて、今までの苦労がなんだったのかと思うほどだ。
 まあ、それだけ強くなったのだろう。
 ランクアップはひとまず置いておき、女性たちとともに二階層まで戻る。
 七階層にいたままでは、たぶん俺死んじゃう。
 二階層につき、適当に木々の隙間に隠れる。


『ランクアップしますか?』


 表示された『はい』のボタンを選択する。
 移動の間もしつこいくらいに自己主張していたウィンドウはやっと構ってもらえてか、いきいきと新たな魔法を表示する。
 ファイアボール、アクアランス、アクアスラッシュ、アクアキャノン、アースボール、ウィンドボール、エネルギーボール……。


 あれ……? まだ別の属性の魔法も取得できるのか。
 これは以外だったな。てっきり一つの属性しか獲得できないのだと思っていた。
 アクア系魔法が増えていることから、たぶん魔法の取得はツリー状になっているのだろう。
 ここでアースボールを取得すれば、恐らく次のランクアップのときには、アース系の三つが追加されるのだろう。
 オンラインゲームのスキルツリーか……攻略サイトとかほしいなぁ。
 この先、もしかしたらいくつかの属性を取得していると、獲得できる特別な魔法があるかもしれない。
 そんなの、攻略サイトとかないと分からんぞ。
 さて……どれを覚えるかな。

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