魔法転生 転生したら魔法だった
第四話 合体魔法
もう何組もの冒険者を見送っている。好みの女性も何人も見つけた。
トロールの断末魔と亡骸を見送った数も相当なわけで。
見ているとなんだか涙が出てきそうだよ。トロールくん、冒険者がきたら律儀に復活して殺されているのだから。
どの冒険者もしっかりとトロールの対策をしているため、トロールが冒険者を倒したときなど一度もない。
目の前で冒険者が殺される、というのはあまり見たくないのだが……さすがにトロールも可哀想だ。俺がもしもトロールの中の人だったら、精神崩壊するね。
とはいえ、俺も好みの女性に使役してもらうために、強くならなければならない。睡眠を必要とする体ではないが、集中ばかりしていると身体が疲れる。体調を整えるために寝ていた俺は新たな冒険者がやってきたため、起き上がる。
現れた三人組のパーティーに首を捻る。
見るからに弱そうなパーティーだ。今まで見送ってきた冒険者たちに比べ、武器、防具ともに貧相である。
ずっとここにいるため、トロールの行動パターンやトロールに必要な戦力など段々理解してきた。
少なくとも、今来たパーティーはトロールに勝てるようには見えなかった。
これはトロール初勝利のときが来るのではないか……。だが、せっかくの美少女が血まみれになってしまうのも残念である。
俺はじっくりとチャンスを窺う。
トロールの鈍足ながらも重たい攻撃を回避し続ける前衛の少女。動きは素早いが、スタミナはあまりなさそうだ。
後方の二人は、手をつなぎじっと目を瞑る。よく見ると随分と似たような姿をしている。双子のようだ。
「それじゃあ……」
「……行くよっ!」
二人で一つの文章をいい、目を開ける。あら、可愛い。
双子っていいよな、とあれやこれやと妄想にふけっていると、
『ファイアーボール!』
声が重なり魔法がとぶ。今さら俺の魔法は間に合わないだろう。
そもそも、一撃で倒せるはずがないな。俺はもうベテランのような心境でその行く末を見守る。
双子から放たれた火球は、それこそ双子のように仲良く平行に飛ぶ。
トロールとの距離が半分を過ぎたところで、俺は眉間に皺を作る。二つの火球はぶつかりあいの末、一つの大きなファイアーボールになる。
椅子に座っていたならば、倒す勢いの驚きが俺を襲う。
巨大な火の玉は、ただ二つの魔法が組み合わさっただけではない。濃密になった魔力に唾を飲み込む。
魔法はトロールをあっさりと飲み込み、これでもかと燃やし続ける。
火は治まったが、燃えていた部分の地面がこげたままだ。
トロールの姿がなくなったことを確認した双子が、
「やったね!」
「うん!」
ぱんと手をあわせる。頭をなでなでしたいという衝動に駆られながら、俺はまだ動けないでいた。
初めてみる合体魔法。その存在自体は知っていたが、今の今まで忘れていた。
素材を回収し終えた前衛の少女が、双子のほうへ向かう。
「相変わらず二人の魔法は凄いねぇ」
前衛だった少女が肩をまわす。褒められた双子は嬉しそうにお互いの頬を触りあう。
「いえ、リエが凄いんです」
「ううん、リユが凄いんだよ!」
「リエが魔法をあわせてくれるからです」
「リユの心が優しいからだよ!」
『えへへー』
二人はイチャイチャとしていて、少女は頬を引きつらせる。双子の間に入って挟まれたいと思いながら、会話を盗み聞きするために近づく。
「でも、やっぱり双子だからなんかねぇ。合体魔法って難しくないかなぁ?」
「そうなんですかね、リエ?」
「生まれたときからできたから……ちょっとわからないね、リユ」
少女は双子がべたべたしているのに苦笑する。
「だって、魔法って契約した状況とか人によって様々なのよぉ? その魔法を組み合わせるには、双子くらいなのかねぇ」
同じ魔法であっても人によって様々だ。
ファイアボールだって、本来は丸い火球だが、人によっては四角や三角など様々である。
「でも、昔聞きました、リエ」
「ね、リユ。合体魔法は訓練すれば誰にでも」
「出来ると聞きました」
こいつら心が通じ合っているんじゃないかといわんばかりの会話だ。
双子とかのレベルじゃない。超能力者だな。
「まあ、そうなのかもねぇ……それじゃあ戻ろうか」
三人組の冒険者は、ボス部屋からさった。
合体魔法、訓練すれば誰にでも、か……。それなら、俺にもできるかもしれないな!
俺は一度ボス部屋から離れ、合体魔法についての情報を集める。
一日ほどそれに時間を費やし、俺は再びボス部屋に戻ってくる。自宅に帰ってきたような気分だ。
合体魔法は、強力であるが習得は困難であるとされている。
魔法は成長していく。それによって構造も変わっていくのだ。
一度合体魔法が使えても、魔法は変化しているためになれるまで時間がかかる。
とにかく結構難しいらしいな。
ただ、一つだけ嬉しいのは、同じ魔法でなくても可能なのだ。二人の息さえあえば、合体魔法は使用できる。
とにかくこの二人の息を合わせるというのが難点だ。威力は確かに向上するが、リスクが多いことから、わざわざ訓練して使用する人も少ない。
難しいのは理解した。迷宮攻略に必須でないことも分かった。
だが、現状俺がトロールを倒す手段はこれぐらいしかないだろう。
俺はまず、自分の体を分析する。今までこんなことをしてこなかったが、案外スムーズに分析を終える。
俺の魔法はどのような構造をしていて、どのようなサイズで、どのような射出速度で、どのような威力で……。
それを何度も繰り返し、自分自身への理解を深めていく。
しばらく意識をそちらに割いていたが、冒険者の登場によって中断する。
理論は分かったのだから、とりあえず挑戦してみるか。
冒険者たちが魔法を構える。まず、そのパーティーで誰がトドメをさすためにいるのかを見る。
これは簡単だ。高威力の魔法を用意しているものを見ればいい。そいつを見つけ、彼女が使用しているファイアーランスの分析を開始する。
俺のエネルギーショットとの違いは多い。合体魔法を使ううえでは、恐らくこれらをあわせていくしかないだろう。
すべてを完璧にできるかはわからない。
俺は絵でもうつすかのような気分で、少しずつ自分の魔法を完成させていく。
よし……これならば、ファイアーランスに限りなく近づいたのではないだろうか。
俺がふうと満足していると、トロールの断末魔が耳に届いた。終わっちまったよ。
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